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レニィ・フーウィールドは悩んでいた。


「もう辞めるべきかな...」


レニィの目の前には、侍女服がある。

しかしそれはずたずたに引き裂かれている。もし誰かが着たら、前衛的ファッションという新たなジャンルを確立できそうな状態だ。

その侍女服はレニィのものであり、王城から支給されたものだ。





レニィが王城で侍女を始めたのには、理由がある。

他の令嬢のように、王城で働いて婚約者を探すなんて理由ではない。


レニィは、掃除が好きなのだ。心を込めて掃除をしていると、なんだかすっきりした気持ちになる。王城なら宝石など様々な宝飾品が見られるし、掃除していて飽きない。


レニィの掃除好きが知れ渡ったのか、前よりも掃除しがいのありそうな場所が割り当てられるようになってきた。何となく嫌がらせの一環な気もするが、レニィとしては楽しいので特に気にしていない。


レニィは侍女であり、メイドより高い位置にいる。そのため、一般のメイドより優遇されているところがある。

それが気に食わないのだろうか、よくこういったいたずらをされているのだ。しかし、レニィ以外にも侍女は何人も存在している。なぜレニィだけなのかが分からない。


貴族がこんなに幼稚な嫌がらせをしてくるわけないし、本当に誰の仕業なんだろう?

思考の海に沈んでいったレニィの意識は、目覚まし時計の音ですぐに浮上した。けたたましい音が鳴っている目覚まし時計は、仕事が始まる1時間前を指している。


「とりあえず支度だけしておこう!仕方ないし今日はこれでいいかな?」


存在を忘れられている侍女用のパンツを引っ張り出す。エプロンを付けてしまえばスカートにしか見えないし、何よりも動きやすい。はいている人は今まで見たことがないが、レニィは結構愛用している。

全身をチェックしようと鏡を見たレニィは、鏡を覗き込んだ瞬間固まった。


「……うん、今日辞めよう。辞めなきゃお母様に殺される」


レニィの赤い目が、一晩で緑色に変わっていた。

顔を洗ったときになぜ気づかなかったのか、不思議になってくるほどの変化だ。



緑色の目は、様々な国で信仰されているカリメラ教の神子だけが持つ色だ。

神子の力が本格的に覚醒、つまり顕現した時に、神子の目は緑に変わるといわれている。


「平和を望み世界を癒す」というのがカリメラ教の掲げる理想であり、神子はその平和な世界を神々に見てもらう役割を持っている。


普段から前髪と眼鏡で顔を隠しているため、ばれることはそうそうないだろう。けれど、長く侍女をすることは難しいだろう。

今すぐ家に帰って、一身上の都合で辞めると辞表を送ろう。とりあえず家には連絡しておかないと。


急いで手紙を書き、魔道伝書鳩を起動させる。


「くるるっぽ~!」


今までずっと置物になっていた伝書鳩が、ご機嫌な様子でバサバサと翼を上下させる。やっと出番が着て喜んでいるようだ。


「この手紙を実家まで届けてね」


「ぽっぽ~!」


手紙を渡すと、伝書鳩はものすごい勢いで窓から飛んで行った。よく見ると旋回までしている。

魔道伝書鳩ってあんなのだっけ…?と思いながら、レニィは外に出る支度を終えた。




部屋を出て、侍女頭の部屋に向かう。

既に仕事を始めていた侍女頭に手短に用を告げ、簡易的に荷造りし、レニィは今足早に歩いていた。

ちょうど画廊を抜けるころ、前の方から人の声がした。思わずレニィは足を止める。


「王宮の侍女は見目麗しいものばかりですね、特にライネ嬢はとても美しい」


そこには、王子であるスレイガーとその取り巻きがいた。あまり会いたくない相手だ。

レニィの母・ミラディアは過去、王子の婚約者候補の中でも1,2を争うほど優秀だった。しかし、王子に全く興味のなかった母はすぐに辞退して幼馴染の貴族令息と結婚した。


その時に現王妃・レラシーナにライバル認定されていたらしく、それがスレイガーとレニィまで及んでいるのだ。

しかもスレイガーは何故かレニィが自分を好きだと勘違いしており、正直面倒でしかない。レニィは物陰に隠れてやり過ごすことにした。


「ライネ嬢ですか、私は婚約者しか興味ないんですよね」


「ああ、ミリアル嬢は可憐でかわいいですよね」


「人の婚約者を勝手に見ないでもらえます??」


「一旦落ち着け、レイダン」


というか、なぜ朝から侍女の評論をしているんだろう?隠れずに他のルートで行けばよかった…

そう後悔していたレニィの耳に、聞き捨てならない言葉が聞こえた。


「それを言うとレニィ嬢は、何というか…地味ですね」


「王宮侍女にしては見目が悪いと自覚してるんじゃないか?」


そんな会話を聞いて、レニィが我慢できる筈もなく。

物陰からでて、素知らぬ顔で王子たちの脇を通り抜ける。レニィを見た王子たちは、驚いていた。


レニィが前髪を上げていたからだ。自分で言うのもあれだが、レニィは自分が「顔がいい」部類に入ると知っている。ただ、目立ちたくないので顔を隠していたのだ。


「誰だあれ………」と固まっている王子たちをを横目で見たレニィ。やってやったぞ、なんて思いながら馬車に乗り込んだ。


レニィを乗せた馬車は、フーウィールド領に向かっていった。

読んでくださりありがとうございます!

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