プロローグ&第1幕
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プロローグ
仮想世界「melt」。現実がそのまま溶け込んだかのような体験が出来る世界。甘すぎるその世界には、触れてはいけないものがあった。それはきっと...。
もしあなたが夢の世界に行けるとしたら、あなたはどんな自分になりますか?どんな世界で生きますか?あなた自身の理想の世界を作り出すことできっとあなたはもう溶けた世界の虜になる。...現実には戻れないほど。
【「melt」へようこそ。】
第1幕 甘すぎる世界と仮想世界
1
私はこの世界が嫌いだ。人を何かしらのジャンルに分類して「良い」「悪い」の烙印を押さなければ生きていけない。そんな評価なんて欲しくないのに。そんな評価よりももっと良い何かがあるはずなのに。私がこの法則で分類されるなら正直「良い」方なのだろうと思う。だけど、私が欲しいのは、かりそめの愛想を振りまいて私に近づく女の子じゃない。顔だけで人を判断して甘い言葉を吐く男子でもない。私が欲しいのは、私の中身までちゃんと愛してくれる友達だ。顔が可愛い人は幸せだなんて嘘だ。私は私だけの世界が欲しいのだ。私を愛してくれる人がいる場所。それを私は探している。でも、そんな場所がないことも分かっている。私は、周りに沢山友達がいる世界を孤独に過ごしている。きっとそれはこの先も変わらない。私が消えても。
私は、生まれたときから可愛いと周りにちやほやされて生きてきた。黒髪ロングのストレートヘアに二重の大きな瞳、整った顔立ちに細長い手足。勉強も運動もそつなくこなせるし、芸術でも才能が感じられる。周りはそんな私を幸せ者だと言う。愛されない子もいる中で羨ましいよね、なんて陰口を何度言われたかなんて数え切れない。でも、愛されないのと同じくらい、かりそめの愛で囲まれた世界も息苦しい。恩着せがましい善意も、行事のたびに撮る写真も、全部「勝ち組の子と仲が良い勝ち組だ」って証明する道具でしかない。私は生きる道具なのだ。人を憐れむことで自分が優位に立った気でいる人には分からない。この世界には「良い」ものの苦しみもあるのだ、ということが。私に向けられる優しさなんて全部甘い夢のように簡単に消えるものなのだ。
2
私は今日も教室のドアを開ける。友達が「おはよう」と声をかけてくる。私は笑い返す。おはよう、と言いかけると、所謂2軍女子がわざと私にぶつかる。こんなのは日常茶飯事だ。いちいち気にしていても埒が明かない。だから私は毎朝ギリギリに登校する。高校に入学してもう1年以上経つ。私はどこかできっと世界が一変するのを期待している。だから学校に来ることをやめられないのだろう。私は、ぶつかられた肩をさすりながら席についた。
私が席につくと必ず私の周りには女子が群がる。そして、私は群がる女子の話を聞き流して過ごしている。
「あ、ねぇねぇ、そういえばあれ知ってる?」
「なになに?」
「F組の田中さんがね、C組の...」
「え、嘘、やばーい!」
という感じの興味の無い会話を延々と聞かさせられる。そんな毎日、のはずだった。
「あ、話変わるんだけどさ、昨日のニュース見た?」
「あ、もしかしてバーチャルなんたらみたいな?」
「そうそう!仮想世界、みたいな?」
仮想...世界?バーチャル?
「それってどんなとこなの?」と聞いてみる。
「えっとね、なんか、自分のなりたい姿でアバターを作って、現実と同じようにネットの中で過ごす世界らしいよ!」
自分のなりたい姿で、ネットの中で、世界で...。私は久しぶりに心躍るなにかを感じた気がした。
「私もアバターなら栞梨ちゃんみたいに可愛くなれるのかなぁ〜、なんて!」
「確かに〜!栞梨になれるなら最高だよね!」
なんて話は耳に入っていなかった。私はもう未知の仮想世界のことで頭がいっぱいだった。もちろんその日の授業はひとつも聞いていない。
3
私は、帰宅してもなお仮想世界のことを考えていた。私はパソコンで仮想世界について調べる。
「...melt?」
もう私はその世界に足を踏み入れる以外の選択肢が考えられなかった。詳しい詳細を見ることなく、私は無意識にユーザー登録ボタンをクリックしていた。
【仮想世界 melt】
【ここでは、理想の自分を作ることができます。理想の自分「アバター」とあなたの付き人となる妖精と共に理想の世界で暮らしてみませんか?現実と錯覚するようなリアルな世界と素敵な生活を提供します。】
【ぜひこの世界に“melt”しましょう。】
私はユーザー登録画面に進む。
【ニックネームを入力してください。】
ニックネームか。渡辺栞梨。これが私の名前だ。栞梨…しおり…しおりん…?いや、もっと違う名前にしたい。栞梨じゃない私になりたいのだ。しおり……塩?…砂糖?……さとう?
【ニックネーム さとう】
【あなたのアバターを作成してください。】
アバターか。現実とは違う自分になりたい。見た目は可愛い系。髪の毛は…ブルーグレーのミディアム。少し巻いてる方が可愛いな。目は青と灰色が混ざってるみたいな…。肌は色白でスタイルは良い感じで…。服は…。これ可愛いな。これにしよう。私が…栞梨が一度も来たことのないような黒い地雷系ワンピ。靴も雰囲気を合わせて…。
【アバターの登録が完了しました。】
【それでは、お持ちのヘッドホンを接続してください。】
ヘッドホン?何に使うんだろうか。まあいいや。
【接続が確認されました。】
【meltにようこそ。】
私の部屋は白い光に包まれ、私は画面へと溶けるように部屋から消えていった。