病弱な妹に「妹の婚約者に言い寄った姉」呼ばわりされ、妹いじめの根性悪姉として不義の罪で辺境に追放されました…そこで盗賊に襲われ、助けてくれた青年に復讐を提案されたのですが…
「妹の婚約者を寝取ろうとするなんて……」
「アレクシアの家の風上にも置けない振る舞いを……」
私は今家庭内裁判にかけられて、妹をいじめる根性悪姉として刑を言い渡されようとしています。
幼いころからず~っと病弱な妹をいじめている姉とされてきていますが。
い・じ・め・て・いません!
ずっと言い続けてきましたが、ダメでした。
私は裁判長である父に辺境送りの修道院送りとされることになりました。
両親は同じですわよ? でも生きて生まれないだろうといわれた妹が、なんとか15歳まで生きてこれたこの人生の中で、私は放っておかれた娘でした。
健康優良児であった私はいつも妹にやさしくしてやれ! と言われて生活してきて……。
優しくしているつもりだったのですが、お花を摘んで持っていけば、こんなお花を私は見ることはできないと泣かれ、自分の学校生活を語れば、お姉さまだけ羨ましいと泣かれ、妹のためにと本をプレゼントすれば、こんな冒険譚の本みたいなものを私に下さるなんて嫌味なの? と泣かれ、お姉さまの元気そうな顔を見ると、自分の儚い生命がとかよよと泣かれて、いつも両親に怒られました。
元気なお姉さまはいいですわよねといわれて、妹は体が弱いからと思ってきました。
しかし、妹が15になって婚約者が決まり、ええ、その婚約者が私に言い寄ってきたのを袖にしたら、あいつが俺に言い寄ってきたんだ! と妹に言いつけて、だから私は言い寄ってません!
妹が両親に泣きながら訴えて、とうとうこうなりました。
申し開きは求められず、修道院行きの馬車に乗っています。
「ああ、このまま……」
なんて思っていたら、盗賊に馬車が襲われ、すわこれはまずいと私は手持ちの魔法で応戦していると、下男たちはみな逃げて、一人残されていました。
「バースト・フレアー!」
私は攻撃魔法は得意なんです。ほかはからきしですが……。
しかし多勢に無勢、これはまずい、無理やり凌辱とか、奴隷化と思っていたら。
「フレア・ボム!」
私の魔法に合わせて火魔法を盗賊にぶちかま……失礼、してくださった人がいて、私は難を逃れました。
「お嬢様が一人でこんな辺境を通るなんて……」
「そういわれても、この先の修道院送りになったのだから仕方ないですわ!」
青年は冒険者で名前はリロイ、平民上がりといいましたが、口は悪いですが顔立ちも着ている服もかなりよい仕立てです。
リロイは黒髪を掻き揚げて、あの修道院は院長が最悪で、いつもシスターが逃げ出しているけどと言葉を濁したように言います。
「ああ……そうですか」
盗賊から私は金目のものはないかななんて探していると、本当にお嬢様? と聞かれました。
放っておかれた侯爵令嬢でありまして、どうしてもサバイバルに生きてきてます。
「お前、面白い女だな、よかったら俺と一緒に冒険者として生きるか?」
「はい、ぜひ喜んで!」
いやあ、助かりました。実は逃げ出そうかななんて思っていたところでして。
私はリロイについていきますというと、おもしれえ女と又言われました。
そして一番近い町で冒険者登録をしたんですが。
「ひでえ話だな、健康に生まれたならそれで親孝行な話じゃないか、あ、体が弱いのは親不孝っていうのではないが」
「……うーんでも体が弱い子ほど気になるというのはわかりますけど、でも! 私があのバカ婚約者に言い寄ったとかいう嘘をたやすく皆が信じたのは腹が立ちますわね」
「ふうん、復讐とかしてみる気があるなら、俺の主に頼んでみるけど」
もぐもぐと食堂で肉をほおばるリロイ、主って? と聞くと、ああ大きな声じゃ言えないけど、帝国の魔の王とか言われてる人といいます。
「へ、あの魔王の生まれ変わりとか!」
「声が大きい、あの人一応人間だよ。でも魔力が強すぎてもてあまされているうちに一人生き残った王家の王子ってやつで、俺はあの人の仕えていたんだけど、まあ……」
「スパイというやつで?」
「そうそう」
どうも私は放っておかれたせいで、庶民に紛れても違和感がないみたいです。使用人に囲まれていましたからねえ。
「そうですわねえ、できたらあの婚約者と両親にぎゃふんっと言わせたいですわ」
「妹は?」
「あの子は体が弱いせいでねじくれまがってしまいましたが、もともとは素直ないい子だったのですわ……」
「……ふうんまいいけど」
私は魔の王とやらと言われ帝国の王とやらには直接出会えませんでしたが、どうもリロイが口添えしてくれたらしく、盗賊に襲われて行方不明の私、レリアの仮の身分をきちんと作ってくれて、帝国の臣民として登録してくれたおかげで自由に動けることになりました。
「とりあえず、あんたの妹、ありゃ、もう健康だぜ」
「はあああああああ?」
「だってうちの侍医を送り込んで診察したら健康体だったぜ」
「……」
もう何とも言えません、まとめて復讐する呪い魔法の研究をはじめようかななんて思っている次第です。
帝国の王様に迷惑をかけるのもどうかななんて思ってましたし。
「呪いかあ、このエルバの書にはあるぜ、呪い返しもセットで……」
「どうしてそんなもの持ってますのよ!」
「いや呪ってやろうかなってやつが割と多くて」
リロイが主様からもらったという呪いの書を見て、私は自分でもできそうなものをピックアップしました。
帝国の魔の王は黒髪黒目、そして年頃は二十歳ほど、あら、私とそれほど変わりません。
リロイもそれくらいの年齢ですわね。
「……自分の死を延々と悪夢として見続けるという呪いは妹、お父様とお母様には死んだはずの私が生きていたという悪夢をフルコースとして……」
「お前、意外とやるな」
「ふふふ、私は悪夢という分野にはエキスパートですのよ!」
攻撃魔法以外に精神系魔法にも才能があるといわれてきましたが、精神系はうちの国では不吉されていまして、ようやくここで使えそうですわ!
私は帝国のリロイの館で延々と呪いの方法を調べていて少し疲れていました。
「精神的にきついですわねえ」
「呪いをかけるってお前が言い出したんだぞレリア」
「……そうでしたわ」
冒険者としての偵察結果とやらをリロイがまとめている間に、私は一式呪いの道具をそろえました。
「呪い返しをするなら、やはり城だな、あそこは結界も呪い返しも魔法として充実しているし」
リロイにそういわれて、私は彼にひっついて城にいきました。見たところ普通のお城ですけど。
「とりあえず、ここが呪いのかけるに最適な場所」
「ふうん」
通されたのはだれかの私室でした。男性のお部屋のようですが、私はとりあえずと本と呪い道具をおろして、ふうとため息をつきました。
「私、割と暗いですわねえ」
「暗くもなるだろ、あんな親と妹じゃ」
「そうですわね」
私は呪い道具を手に呪文をかけると、白い光があふれ出しました。
「……これで発動したな、確かこれから寝るたびに悪夢を見続けると、眠れないってのは地獄だぜ」
「よく知っているわね」
「俺、この悪夢の呪いをかけられたことあってさあ」
クスクスと笑うリロイ、いやかけられたってそれひどいですわねえというと、衰弱死をする一歩手前で解呪されてさ~とあっけらかんと言います。
衰弱死はさすがに…私はその前に解呪しますわよというと、そうかと少し寂しげにリロイは笑いました。
「陛下、どうして帰ってきて教えてくださらないのですか!」
部屋の扉がばんと開いて、そこから複数に騎士とみられる人が入ってきて……。あ、えっとと困ったようにこちらを見るリロイ。
「ロウェル様!」
「えっとあのな、レリア」
「……」
私がじと目で見ていると、えっとだますつもりじゃなかったんですけどと敬語になるリロイ。
私が説明してくださいなとにらみつけると、まあリロイはこの帝国の王で、隣国が戦をしかけてくるという噂を聞いたので、冒険者として侵入していてとか……。
ロウェルというのは、帝国の王に引き取られてからの名前で、庶民の女性に産ませた庶子であった彼が、王家の跡取りが全て絶えたので無理やり15の時に王家にひきとられたときつけられた名前だと聞きました。
「放っておかれて。捨て置かれたのに、いやあ、15でいきなり次の王太子だとかなんとかいわれて参った参った」
てへと舌を出すリロイ、帝国の跡取りたちの争いが熾烈で、生き残ったのはリロイだけだったそうです。
だから魔王とか、呪いに詳しいとか……ああ、なるほど。
呪い返しをしないと生き残れなかったというのも聞きました。
「あ、冒険者として生活もいいけど、俺の話し相手になってくれよ。ここ退屈でさ~」
「まあいいですわよ」
まあリロイと話がとても合いますし、ここにいてもいいかななんて思いました。
あ、まあことの顛末としては、衰弱死寸前となった両親と妹が死ぬ前に一応術は解除しましたわ。
婚約者には実は私が生きていたという幻覚を繰り返し見せて、ばあっと生きた私が何度か幽霊のふりをして脅かすという悪戯もしました。
……あの驚いた顔は笑えました。神経衰弱となった妹と両親、婚約者は侍医の見立てで、病院送りとなってしばらく出てこられないみたいです。
まあうん、死ぬところだった私と比べればまだまだ復讐としては甘いかな。
「……おーい、レリア、竜が辺境の端にでたらしいぞ退治に行こうぜ!」
「王妃様、陛下、やめてください!」
今日も今日とて皆に怒られながら、冒険の旅に行きたいなという私たちがいます。
いつも怒られてばかりですが、冒険者としての日々が懐かしいですわ。
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