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新卒、ハロワに行く

 どこかの探索会社に務めなければ迷宮で飯を食っていけないだろう。

 実際俺は死にかけた。生き残れたが次はないと思ったほうがいいしな。

 と、いうわけでまずはフリーランスをあきらめて就職しよう。

 就職。新卒採用次期を逃した今大企業は無理。

 よっぽど大きな手土産があれば別かもしれないが残念ながらそんなものはない。

 ないのでおとなしくここは探リクに向かう。

 探リクは探索者リクルート会社のことだ。


「すいません、探索者を求人している会社を探しているんですけど」

「探索者の方ですか? まずは免許の提示を御願いします」


 受付嬢はおれが出した免許を確認して、案内板を出した。


「1番窓口でエントリーシートの記入を御願いします」


 一番窓口にあったのは数台のパソコン。どうやらこれに書き込みをするようだ。

 エントリーシートに書くものを書いて提出。

 事務的に進められていく手続きの最後に探索者の業種の選択画面が現れた。


 探索者には幾つかの業種がある。

 

・スカベンジャー  scavenger

 素材回収者 迷宮素材を集めて売りさばく人

・エクスプローラ

 探検家 常に拡大を続ける迷宮の最前線を歩き、地図や怪物の生態、分布を記録し売る人

・ハーベスター harvester

 狩猟者 迷宮生物を狩り、その素材で生計をたてる人

・キャリアー  carrier

 運び屋 迷宮素材を運び出し、外の物資を運び入れる


 つまり迷宮でのメインの活動を決めなければならない。

 やりたい業種と自分にあっている業種は必ずしも一致しないが、やりたいものを決めていると紹介エージェントも企業側も声を掛けやすくなる。

 

 ハーベスターにしておくか。

 こういうのは後からいくらでも変えられるし。


 登録完了!

 手続きが終わると発券機から2番と書かれた番号札が吐き出された。

 受け取って待合室のベンチで静かに待つ。

 待とうとしたのだが椅子に座った瞬間に呼び出し音が鳴り響いた。

 反射的に見た電光掲示板には自分の番号が表示されていた。

 待ち時間は約5秒。短すぎてお得な気分になる。


「本日はどういったご用件で?」


 通された部屋、机を挟んだ向こう側にいるのは探索者協会のエージェント。

 所謂企業と労働者の橋渡しだ。

 四角い眼鏡をかけている彼は手元のキーボードを叩き、俺の書いた情報に目を通していた。

 彼の頬に掘り込まれた多数の刺青から彼自身優秀な探索者だったことが見て取れた。


「企業に勤めたい。条件は何でもいい。迷宮に入って俺も英雄たちのようになれるかと思ったがそんなことはなかった。命からがら帰ってきて、じぶんの無力さを噛み締めた。経験のある指導者の元で修行を積みたい」

「なるほど。では迷宮に最低一回は潜ったのですね? 証拠の品等はお持ちですか?」

「証拠になるか判らないが、脱出の時に手に入った缶がある」

「自販機を使った脱出ですか! なるほどではちょっと拝見させて……あぁ! 大丈夫です確かに迷宮の品に間違いありません」


 俺が鞄から取り出した空き缶の全貌を見る前に確認が取れたと言った彼は素早くキーボードを叩き情報を追加した。


 『生還経験有り。』


「基本的に迷宮で物を手に入れても持ち帰ってこれなければ意味がありません」


 キーボードを叩き終わったエージェントは俺の目を見つめながら言った。


「なので生きて帰ってくる。これを第一条件にしている企業は多いです」


「貴方は生きて帰ってきた。これだけで選択肢は多くなります。そして、貴方に提示できる企業の一覧がこちらです」


 画面に表示された会社の一覧には名前と従業員数、雇用条件が書かれていた。


 この中から自分にあったとこを選ぶか。


 ……悩ましいな。

 まずどこが経験を積むのに最適なのかがわからない。

 社長が優れた指導力を持っているのがわかるような文章があればいいんだが。


「何かお困りで?」


 悩んでいる俺に助け船を出してくれたのでありがたく乗せてもらう事にした。

 エージェント様々だな。


「どの会社が探索者としての経験をより積めるのかわからなくて、それで困っていました」

「なるほど。では新規探索者の育成に力をいれている会社を探しますね。……こちらになります。この中だとこの企業がおすすめです」


 画面に表示された会社名は『(株)東京ハクスラ』というシンプルさ。

 

「この会社の代表者の立花雷雪は白金大鷲勲章持ち名ので実績は十分。ここで経験を積んだ探索者はいずれも大成している。ちょうど募集をかけてるしここはどうでしょう?」

「じゃあ、そこで頼む。」



 


 就職先である㈱東京ハクスラの指定してきた面接場所まで行き、静かに面接官を待った。

 場所はコーヒーの全国チェーン店のオープン席。八月という季節の関係上日差しがとても強く感じ、汗が流れ出るが我慢だ。

 待つこと5分。

 目の前の席に大柄な男が座り、俺に声を掛けてきた。

 

「お前が新入社員か。ふんふん。なるほど。本当に新鮮ぴちぴちの大卒じゃないか。こりゃあいいな」


 男は猛禽類のような鋭い目で俺を品定めするように見ながら独り言を言った。

 ライオンのたてがみのように髭を生やした熊のように大柄な男は温度を感じさせない非常に冷徹な目を俺に合わせた。

 

 その瞬間気づいてしまう。


 人類種としてこの男は自分の遥か先を歩いている歴戦の猛者だということに。

 

 思わず逸らしてしまいたくなる目を根性でねじ伏せて、視線を合わせ続けた。

 男は太く笑い、口を開いた。

 

「根性もいい。そこそこ使えそうだなお前は合格だ。俺について来い」


 そう言って男は名刺と金をテーブルの上に置いて席を立った。

 金属板でできた名刺には『立花 雷雪』という名前が彫られていた。

 あれが、社長か。


 金を払って社長の後を追いかけ、追い付いた。

 社長は首を回して俺が着いてきているかを確認すると前を向いて、歩幅を増やした。

 大股で歩きながら彼は俺にいくつかの質問をした。


 それは年齢や利き腕、初めての迷宮探索の感想、恋人の有無、様々なことを聞かれた。


 そんな質疑応答をする事15分。

 四階建ての商業ビルの目の前で社長は足を止めた。


「ここが今日からお前が働く職場だ」


 建物の一階は駐車場で二階に続く階段の脇に会社名の書かれていた表札が下がっていた。


 飾り気のない外観、暗く冷気を感じる階段を上った先には貧乏臭い玄関扉。

 社長はその薄っぺらな扉を蹴破りながら怒鳴った。


「自己紹介の時間だ!! お前ら歓迎会の準備をしろ!! 取り敢えず肉だ! あと寿司!!」


 社長が唾を散らしながら事務所に残っていた社員たちに指示を出す。

 

「しゃちょー出前頼むのはいいけど金は誰持ちよ?」

「当然! 俺だ!!」

「その言葉を待っていた」


 答えを得た社員達は水を得た魚のように携帯端末を操作し始めた。

 

「食べたい中華があったんだよねぇ」

「俺も今ちょうどピザのこと考えてたんだ」

「うーん……ロブスター食うか」

 

 各々勝手に食べたいものを注文し始めた社員を見た社長はガハハと笑った。


「おう! 好きなもん食え! 俺たちは明日死ぬかもしれない生活をしているんだ。食べたいものは食べろ! 食い物はあの世に盛っていけねぇぞ! 持っていけるものは後悔だけだからな!」


 そう言って社長も携帯を取り出し出前を取った。  


「肉! 一番うまいやつ!! 数は沢山!」


 そうして歓迎会の準備が始まった。


「あと一人、新入社員が入る。そいつが来たら宴を始めよう」 


 コップにジュースを注ぎながら社長は俺に言った。

 既に足元には大量の瓶が転がっていた。


 飯食う前にお腹一杯にならねえか?

 まあ、いいか俺が気にすることでも、。


 待つこと15分。


 もう一人の新入社員がやってきた。

 

 カマキリのように細い体、オールバックの髪型にスクエア型の眼鏡をかけたインテリヤクザのような見た目のおっさんの後ろを就いてきたのはこれまた全身を機械化した神経質そうなほそっこいモノアイ男。


 こいつが同期か。

 なんか押したら折れそうだけど大丈夫なのか?

 いや、探索者は見た目で侮ってはいけないな。


「おお! 来たか! 座れ座れ」


 社長の声に入ってきた二人が従い着席すると騒いでいた社員たちがピタリと静かになった。


 社長が立ち上がり、腹に響く声で喋り始めた。


「新入社員が二人入った。お前らの後輩だ。初めての人もそうじゃない人もいるだろうが、こいつらにとってはお前らが初めての先輩だ。色々なことを教えてやれよ。さて、前回の迷宮氾濫から15年が経過しようとしている。時期的にそろそろのはずだ。既に兆候は現れているからわかるはずだ。それまでにこいつらを使い物になるように経験を積ませていくぞ。お前ら! これから忙しくなる。各自英気を養っていけよ!」


 社長の挨拶が終わり、食事会が始まった。


 大量に並んでいた出前が皆の腹に収まったところで社長は今月の予定の確認を始めた。


「デカイ仕事が入ったぞ! 四菱迷宮物質開発からの依頼だ! 天下の四菱様だ! お前ら気合いをいれていけ!」


 会社に入って初めての仕事が今、始まる。


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