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新たな家族


 ……す。 へ……。 …リ…ス。


 遠くからなにか聞こえてくる気がする。思考は中断され意識が現実へと戻ってくる感覚がする。


 「ヘリオス、へリオス!どうしたんだ!」


 じいさまの声が聞こえてきた。思考が現実へと帰ってきたところで体の震えが止まってくる。代わりに安心したからなのか涙が出てくる。

すべてを伝えることはしないが、言葉が勝手に口から出てくる。


 「じいさま。悲しい、悲しいんだ。この世界の中で自分の知らないところで苦しんでいる人がいるかもしれないことが。」


 嗚咽混じりの弱音が漏れ出てくることを止めることができない。


 「今こうして毎日自分が楽しく過ごせている間も悲しんでいる人や苦しんでいる人、そして理不尽に命を落としている人がいるかもしれない事がどうしても頭から離れないんだ。」


 じいさまは困惑している様子だった。それはそうだろう。まだ2歳、本来なら自分の感知していないことを認識するにはまだ難しいだろう。それに自分は平和な世界しか知らないはずなのだから。


 しばらく経つとじいさまは今度は納得したような様子を見せて少し悩むような素振りでいる。

もうすでに涙も止まり、呼吸も平常に戻ったところを確認したじいさまは話し始めた。


 「ヘリオス、よく聞きなさい。お前が何故そのようなことを知っているかはわからん。しかし、儂はその悲しみを解決する手段を知っている。今はまだお前にとっては難しいだろうからわかるところだけ自分の中に落とし込みなさい。そしていつか全て理解できる日が来ればそれでいい。」


 「うん。わかった。」


 「解決する手段は2つ、悲しまない事か悲しむようなことを無くすということじゃ。

前者は比較的簡単じゃ。お前が守れる者は限定されている。精々、お前の手が届く位の場所だろう。それはお前が大きくなったとしても変わらん。多少伸びるだろうが、そこまでだ。あとは命に優先順位をつける。例えばお前の手の届く範囲だけは守り、それ以外は知ったことでは無いというふうにな。心の整理が今のお前には難しいだろうが、いつかは出来るじゃろう。妥協に妥協を重ねる結果になるじゃろうがな。」


 じいさまは自嘲するように最後の言葉を吐いた。


 「2つ目は茨の道じゃ。だが、考えとしては簡単なものじゃ。なんだと思う?」


 「うーん、誰かが全員を助ける?」


 「そうじゃ。誰かがすべての人に手を広げ、すべてを助ける。それしかお前が悲しまずに済む方法はない。な、簡単じゃろう?

 そしてそれに一番必要なものは力だ。心の力、腕っぷしの力。その2つが揃ってこそすべてを助けられる。

言うは易し行うは難しだ。並大抵の努力で到達できるものではない、不可能かもしれない。届いたとしても届くまでに苦しむ人もいるだろう。だが、悩んではいけない。その間に苦しむ人は増えるからだ。そして諦めなかったものにのみ結果はついてくる。

 諦めなかったもの全てが到達できるわけではない。だが、諦めたものは絶対に到達できない。

 そしてそれを目指すとしたら自分でやるしかないんだよ。人に任せて成功することではない。2つ目を選ぶならばお前がやるしかないんだ、ヘリオス。」


 いつの間にか口調まで変えてじいさまが話していた。


 「うん、わかった。僕は……後者を選ぶ。見てみぬふりの傍観者じゃなくて、すべてを守る賭けに出る。」


 「いいのか?ヘリオス。諦めないことは諦めることの何倍も苦しく辛い。勇気がいることだ。」


 「それでも、それでも僕は選ぶ。諦めない道を。」


 「いいだろう。お前が選んだことじゃ。記念にいいことを教えてやろう。諦めず、悩まずいけるコツは自分の中に正義を持つことじゃ。」


 「正義?」


 「そう、正義じゃ。最初は借り物でもいい。しかし、最終的には自らが定めた確固たる揺るぎない正義を持つことじゃ。偽善と言われようと他者にとっての悪と蔑まれようと自分の中に一本の芯として正義を持てば悩まず諦めずにいけるじゃろう。」


 「わかった。僕、正義を持つよ。自分なりの。」


 「いい返事じゃ。まあ、すぐにとは難しいだろうから寝るときはこれを使いなさい。」


 そう言うとじいさまは別の部屋に行き布に包まれた何かを持ってきた。

 

 「これは今日森にあった魔物の卵じゃ。」


そう言うとじいさまは布を取り子供の頭くらいのサイズの卵が顔をだす。


 「魔物の卵は魔力を流すことで孵化する。何年かかるかわからんが、とりあえずは目の前の命を感じなさい。

それに今の年だと卵に魔力を流せば魔力が尽きるじゃろう。そうなれば自然に眠れるはずじゃ。」 

 

 「魔力を流すってどうしたらいいの?」


 「直接触れば自然と魔力は吸われる。魔力の運用の練習にもなるじゃろう。ほれ。」


 そう言いながら差し出された卵を抱え、僕は横になった。しばらく経つと僕の心臓があるような位置から血管のように管を通り何かが卵に流れていくのを感じる。そのまま僕の目は自然と閉じていった。


 「おやすみ、ヘリオス。」




 

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