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貧乏伯爵の次男は婚約相手を探す  〜短杖だと思っていたらとても『立派な』剣でした〜

作者: みのき

一万字程度の短編を、と思い書き始めたら長くなりました。

 僕の名前はカッデ・レコ・ノエマオ。

 ノエマオ家の次男で王立貴族学院 魔法科所属の三回生、十五歳。


 ノエマオ家はソル王国古参の伯爵位を持つ貴族だ……一応。


 と言うのは昔は領地もあり、伯爵に相応しい権力を有していたが、数代前のバカ当主が他国との戦争で大失態をしたのだ。

 我が王国の勝利は確実という状況で功を焦ってノエマオ家の軍勢だけで敵国に突撃。

 その空いた穴から王の陣が狙われて全軍大混乱。

 あわや王が討ち取られる寸前までになったものの辛くも押し返し、辛勝となった。


 その論功行賞で王を危険に晒し、軍を混乱させ、余裕の勝利から多大な犠牲を払うギリギリの勝利になった責を負う形で我がノエマオ家は領地没収。

 建国以来の古参ということを考慮してお情けで役職無しの法衣貴族となった。


 反対に王を窮地を救い、全軍を立て直した一兵卒が王に気に入られ、ノエマオ家の領地を継いで新たに男爵となった。


 おかげで家は没落一歩手前、しかし古参の『伯爵』という家柄だけは需要があるようで裕福で優秀な下位貴族から婚姻の申し出が後を断たなかった。

 婚姻先からの援助でなんとか当代まで生きながらえてこられた一族なのだ。


 しかし今、僕カッデにはそろそろ適齢期だと言うのに婚姻の申し込みが無い。

 貴族社会では早ければ学院に入学する頃から許嫁が決まる事もある。


 まだまだ僕自身焦る年齢でない事はわかっている。

 わかっているのだが次期当主である二十一歳の兄ムマニミが半年後に子爵家の令嬢を娶り、式を挙げる。

 これは前々から決まっていたのでそれだけならまだ耐えられた。

 問題は十歳の弟ルマーノに同格の伯爵家から入婿の打診があった事だ。


 何故だ!

 何故、僕には何の打診も無いのだ!?

 兄と弟、その間に挟まれた僕の心情は今、とてつもなく重い。

 早く僕も婚約したい!!


 一縷の望みを抱いて僕にも婚姻の問い合わせがないか父に手紙で問い合わせたが返事は無い。

 何度か手紙を出してみるが一向に返事は返ってこなかった。


 もう何通送ったかな……。


 父似で美形の兄や弟と比べると僕は母似で容姿は平凡だ。


 それどころか、

 身長、平均

 学力、平均

 魔法の才能、平凡

 体力、平均

 コミュ力、平凡

 財力、平均以下

 生まれも次男で次期当主ではなく、これと言って信念もなければ、こだわりも無い。


 と、よくよく考えてみれば、他の人と比べて良いところがほとんど無いなぁ。


 しかし僕にはあまり多くの人には語っていない、一つだけ他人より優れている特徴があった。

 それは、


『魔力量』


 何故だか分からないが物心ついた時から他人よりも魔力量が多く、いくら魔法を使って魔力切れになることはなかった。

 いや、数年前に一度だけ一瞬底をついたような感覚になったこともあったけど、すぐに使えるようになったことを覚えている。


 魔力量の多さは『夜』の回数と回復力に関係性があるのではないかと言われているが実際には定かではない。


『英雄色を好む』とよく言われるがハーレムを作る英雄もいれば、孤独を愛する英雄も存在している。


 僕自身、性欲も人並みだと思っているのであまり誇ってはいないのだが……


「よーぅ、『絶倫』! 今日も元気か?」


 今、後ろから馴れ馴れしく肩を組んで挨拶してきたのは騎士科の同回生、ダンイナツ・セニナン・コデンナ。 

 コデンナ侯爵の次男で僕の幼馴染みの一人だ。


「なんだよ、ダンイナツか。暑苦しいから離れろって」

「まぁ、そう邪険にするなよ。今日は魔法の実技訓練だろ? カッデが好きそうな面白い場所を見つけたんだ。終わったら遊びに行こうぜ」


 ダンイナツは昔からみんなにこうだ。

 僕のようなこれと言って取り柄の無い奴のパーソナルスペースにもズカズカと無遠慮に入ってくる。

 親しい友人が限られている僕にとって助かるっちゃ助かるが出会うたびにベタベタするのだけは止めてもらいたいものだ。


「今日の実技は疲れるやつなんだ。毎回みんな終わったらヘロヘロになってるから今日は止めとくよ」

「人一倍魔力のあるカッデでも疲れるのか。そりゃキチーな……分かった。また今度行こうな。絶対だぜ?」


 このように幼馴染みですら僕の魔力量のことは教えていないし気付いていない。

 せいぜい『同年代と比べたら多い方かも?』程度の認識になるよういつも調整していたのだ。


 僕はこちらをチラチラと振り返りながら手を振る名残惜しそうなダンイナツと別れて授業へ向かった。





「来たわね、カッデ! 今日こそ私が勝たせてもらうわ!」


 また面倒なのが来た。


 実技の会場に到着するや否や、即絡まれた。

 目の前の僕を指差しながら鼻息が荒いのはラカダン・ナキスガト・コノタナア。

 魔法科の同回生でダンイナツと同じく幼馴染みだ。

 彼女はコノタナア公爵の三女。

 コノタナア家の中でも一番若く、歳が離れているので同じ年に生まれた僕やダンイナツが小さい頃から遊び相手としてあてがわれていた。


「『今日こそ勝たせてもらう』って毎回ラカダンが勝ってるじゃないか。これ以上どうしろってんだ?」

「嘘よ、私の目は誤魔化せないわよ! いつも私が魔力切れになりそうなところでカッデが突撃してきたり、凡ミスして負けてるじゃない。ち、小さい頃から、ずっとずっとカッデを、見てるんだから……ごにょごにょ」


 ラカダンにしては歯切れが悪いな。

 何か変なものでも食べたか?


「わざとじゃない。こっちはラカダンみたいに一回辺りの攻撃魔法の威力が出せないから手数で押すしかないだよ。で、いつも魔力が切れそうになって勝ちを急いで自滅したり、凡ミスしたりっていう結果。気を付けないととは思っているけど追い詰められるとどうしても慌てて、ね」

「そ、そんなの嘘よ! 前は結構余裕がありそ――」

「っしゃあっ! オマエら実技を始めるぞー!」


 実技を受け持つ教師が会場に到着し、授業が始まった。





「ああああぁぁぁぁぁ……僕の、僕の杖がぁぁあぁぁ……」

「どったの、アレ?」

「あ、ダンイナツ。いや実はね、今日の実技で私の攻撃魔法がカッデの杖に直撃しちゃってね? ご覧のとーり、ポッキリと」

「あー、なる」


 そう、今僕の手の上では入学祝いに買ってもらった大事な杖が真っ二つに折れていた。


 魔法使いにとって杖はとても大事なもので当人が発動させた魔法の効果に大きな違いが出る。


 ましてやこの折れた杖は今は亡き名工、ビッグマグナムの壮年期の作品だ。

 この杖のおかげで今の成績を辛うじて保っていられたのだと思う。


 ビッグマグナムは若かりし頃、杖の名工として知られたが壮年に達すると剣の名工としての名声か高くなり杖製の製作は控えざるを得なかったという変わった経歴の持ち主だ。


 そのため、晩年の作品に杖はあまり無く、製作本数は限りなく少ない上に世に出たのは数本しかない程度らしい。


 母方の祖父に頼んでやっと見つけてもらった杖から剣の製作に移行した過渡期の作品、超お気に入りの一本だったのに……。


 明日は魔物討伐の実技訓練があるというのに杖無しでどうやって魔物を倒せばいいんだよ。


「カッデ、ゴメンね。あなたのお気に入りの杖ことは知っていたけどワザとじゃないの。本当にごめんなさい」


 額を地面に着け、崩れ落ちている僕にラカダンが必死に謝ってくれる。

 いつも絡んできて鬱陶しい奴だけど、本当は真面目でいい娘なんだよな。


「わかってる。わかっているけどさすがにショックが大きくてね。ありがとう、なんとか気持ちを切り替えるよ」

「本当に本当にごめん! お詫びになんでも言う事を聞いてあげるから――」

「『なんでも』だって!?」


『なんでも』と言う事は、つまりあれか! 『なんでも』お願いを叶えてくれるってことか!? 本当に『なんでも』いいのか!?


「あ……エ、エッチなのは『だめ』だからね?」

「………………ですよね」



 ラカダンに何をしてもらうか、考えた。

 普段の勉強でもここまで真剣に頭を使った事はない。


 数分後――


 この機を利用して僕と婚約をしてもらうって考えも過ぎったが、さすがに杖を壊した対価程度で一生を縛るようなお願いは出来ない。


「街で新しいのを買うしかねーだろ?」


 ダンイナツが言い放った至極当たり前の意見を採用してラカダンには一緒に街へ行き、新しい杖を探してもらうことにした。


 それを伝えた時、何故だかよくわからないがラカダンがニマニマしていた。


 もっと無理難題や厳しいことでも言われると思っていたのかな?

 僕からのお願いが簡単すぎたからホッとして安堵して笑顔が出たのかもしれない。

 僕がラカダンの立場ならそうだな。

 うん、きっとそうに違いない。

 ちなみにダンイナツは用があるので行けないとのことだった。



 商業エリアの大通りには多数の人々が行き交っている。

 この都市は王都にこそ劣るものの学術都市としてその規模は大きい。

 学院はもちろん、学院に関わる生業をしている人達も多いので様々な需要があり、供給がある。


 今、僕とラカダンが歩いているのは主に武器防具が売られているエリア。

 とある杖専門店を後にする。


「はぁぁぁ、なかなかいい品ってないものねー」


 店のドアを閉めた途端、ラカダンが呟いた。


「お気に入りの杖だったらからね。あの杖を超える杖なんてそうそう見つからないのはわかっているんだけど、やっぱり割り切るのは難しいなぁ」

「うぅ、ごめん。カッデの大事な杖壊して本当にごめん! 魔法使いの杖探しがこんなに大変だなんて思わなかったよぉ……」


 そう、杖の専門店や品数を揃えている店を梯子して五軒目。

 なかなか気にいる杖が見つからなかった。

 最初のうちは楽しそうに杖を僕にあてがっていたラカダンも店を回るたびに品物のラインナップがそれほど変わらないことに気付いた。

 ちなみにダンイナツは他の友達と遊びに行った。


「もういいって。過ぎたことを気にしても仕方ないよ。今は前向きに考えることにしよう」

「杖ってお父様とか執事にお願いしておけば、簡単に高性能で良い杖が見つかるものだと思っていたけど、実際はこんなに種類がないものなのね」

「汎用の杖はそうだね。高性能で特徴的な杖は予算オーバーだし、この際そこらの汎用杖で間に合わせるしかないか」


 ラカダンからは一軒目の時点で壁に飾ってあった杖を指して『コノタナア家で支払う』と言ってもらっていたが断った。

 さすがに平民の年収の十倍くらいする杖を弁償としてもらうのは気が引ける。

 そんな物を受け取ってしまっては僕はもうラカダンに頭が上がらなくなってしまう。


 なのでラカダンには僕の予算を伝えた上で杖探しに付き合ってもらっている。


 とは言え、僕が知っている目ぼしい杖を売っている店は回ってしまった。

 あとは直接杖職人のとこへ行くか、掘り出し物を探しに市場へ行くか、違法品や紛い品も多いが裏通りの露店に行くくらいしか思いつかない。


 杖職人に特注するほどの時間も無ければ、予算も無い。

 掘り出し物を探しに市場にも行ってみたが専門店で見たかけた以上の杖は無かった。

 最後の望みとして裏通りの露店に行ってみることにした。

 これで無ければ、汎用品で我慢するしかない。


「私、裏通りなんて初めて来たけど思っていたより人通りあるんだね」


 僕もラカダンと同意見だ。


 裏通りってもっと閑散としていて怪しげな人達がまばらに徘徊しているものだと思っていたけど、来てみれば意外に冒険者っぽい人達が結構ウロウロしている。


「あんまり危なくなさそうだね。でも何があるか、わからないから注意だけはしておかないとね」

「そうね、気を抜いちゃ駄目よね」


 などと二人で意気込んでいると露店のおっちゃんから声がかかる。


「学院のお坊ちゃん達がこんな所でデートかい? 表通りの方が健全で雰囲気もあるから表に行きな」

「いえ、デートではなくて。杖を探しに来たんです。掘り出し物がないかな、って」

「デ、デート!? いや、他人から見れば確かに……。あ、カッデ、デートじゃないって否定しなくても……」


 ラカダンがなんかごにょごにょ小声で言ってたけど聞き取れなかったな。まあ、いいか。


「なぁーに言ってんだ? どっからどう見てもデートだろうがよ?」

「おじさま、ナッイスぅぅぅぅっ!」

「えっ? ラカダン、何ガッツポーズしてんの?」

「ななな、何でもないわよ! で、おじさま、お話の続きは?」


 おじさんが少し困ったような顔で話を続ける。


「嬢ちゃん、苦労するぞ? まあ、それも青春だな。で、そんなカップルにはこれ! 感度三千倍『媚薬』がオススメだ!!」

「ラカダン、『媚薬』ってなんだ?」

「えっ!? あの、その、それはあれよ! 王宮で極稀によくある事に使う、とっても大人な大人のための大人になる薬よ。カッデのにはまだ早いわ!」

「えー!? 何それ」


 と僕はラカダンに露店の反対の壁で待機するように命じられ、当のラカダンはおじさんとこちらに背を向けて内緒話を始めた。


 なんだか長くなりそうだったので僕は付近の露店を覗いてみる事にした。


 すると何店目だろうか。

 石畳の上に布を敷き、品物を並べている店でなんだかとても気になる一本の杖を見つけた。


「おじさん、この短杖を手に取ってみてもいいですか?」

「ん? あぁ、そいつか。構わんよ。ぶっ壊れの短杖さ。気に入ったら買っとくれ。安くしとくぜ?」


 僕はその短杖を手に取ってまじまじと眺める。


「これは!? なんだろう、何処となくビッグマグナムの作風に似ている……ような?」

 」

「おっ? いい所に気が付いたな。そいつはかの名工ビッグマグナムの最後の一品! 己の死期を悟った名工が持てる技術を全て注ぎ込んで製作したって言う至極の短杖だ!」

「な、なんだってぇ!?」

「なんでもそいつを真に扱うためには資格が入るとか何とか、ってなふれ込みらしいが完全なるバッタもんだな。俺もその話を信じて騙されたクチだ。ま、今にして思えば、銘は無いし偽物だろ、これ」


 と自分で自分の店の商品を扱き下ろし、一人で笑っている露店のおじさん。

 いやいや、売る気あるの? と言いたくなったが黙っておいた。


 しかし僕にはビッグマグナムの銘こそ見当たらないものの、これが名工ビッグマグナムの作品である事に疑念が無い。


 何故ならばさっき手に持った時、身体に電撃のようなものが走った。

 あの感覚はラカダンに壊された杖を初めて持手に持った時と一緒だったのだ。


 これはもう買うしかない。

 買うの一択。

 きっと運命だ。

 ……いや、ちょっと待て。

 暫し待たれよ、皆の衆。


 ここで『買います! これはビッグマグナムの作品に間違いないです。僕の直感がビンビン反応しているので是非、是非売ってください!』とグイグイ詰め寄れば、盛大に引かれるか、売り惜しまれるか、さもなくばボッタクられるだろう。

 ここは慎重に駆け引きを行わねばーー


「実は急に金が入り用になってしまってな。ここに並べてあるもん全部まとめて兄ちゃんが引き取ってくれるならその短杖も安くしとくぜ?」

「えっ?」

「そうだな……これくらいでどうだ?」


 提示された金額は僕の予算をほんの少しオーバーしていた。

 手持ちがこれだけしかないと正直に言うと苦渋の表情でその金額にまけてくれた。


 お金を渡すとおじさんはよほど急いでいたのか、並べてあるものを「今からこれらの『所有者』はお前だ」と言い残して早々に目の前から姿を消した。


 やっと気に入った杖が手に入ってほくほく顔で並べられていた品物をまとめているとラカダンが戻ってきた。


「カッデ、道端に座り込んで何やってんの? あなた、まさかそれ全部買ったんじゃないでしょうね?」

「え、買ったよ。実はこの杖がすごく気にいっちゃってさ。露店の商品全部まとめて買ってくれるなら安くしてくれるって言われたから、つい」

「『つい』、じゃないわよ! ちなみにいくらぐらいしたの?」

「それが予算オーバーしたんだけど、手持ちの金額でいいってまけてくれたんだ。いい人だよね」


 ラカダンが顔に手を当てて憮然としている。


「はぁ〜、あなたはそれ絶っ対騙されてるわよ。それがどれだけの杖か試してみることもせず、底に転がってるガラクタと合わせて予算に合わせてくれた? あの予算なら職人の特注や専門店の一番いいやつは無理でもそこそこの汎用品が買えるって言っていたのはあなたでしょ!? まったく、あなたって昔から一つのことに夢中になると他のことがまったく見えなくなる癖、なんとかしたほうがいいと思うわよ」


 ラカダンは自分の両眼の横に手を当てて視野が狭くなるようなジェスチャーを交えて注意してくる。


「この杖は壊れた杖と同じビッグマグナム製なんだよ!」

「銘はあるの?」

「無いけど……これは絶対に本物のビックマグナム製の杖なんだよ! 感じたんだ、俺にはわかる! だから大丈夫!」

「はぁ〜、だから何の根拠があってそんなこと言ってるのって。まぁいいわ、ここでいくら言い合ってもキリがない。さっさと学院に戻ってその杖試してみましょう」





 先ほど買った杖がビックマグナム製だと信じて疑わない僕に対して疑惑の塊と化したラカダンに引きずられるように学院の修練場まで連れてこられた。


 この修練場は騎士、魔法使いどちらでも対応している修練場で設定すれば攻撃対象となるターゲットが不規則配置で湧いてくる機能がある。


「じゃあ早速始めましょう。カッデは私と同じ後衛だけど一発の威力よりも手数を重視して戦うんだったわよね。まずはその杖の性能見せてもらいましょうか?」


 魔法使いの杖と言うのは基本的に持っているだけで所有者が使った魔法の能力を自動的にアップさせてくれる支援道具だ。


 なので無くても魔法は使えるが威力や効果は当人の能力がそのまま反映される。

 対して支援道具(杖)を持っていた場合、杖の性能によって差が出る。

 例えば攻撃魔法の威力が何割増しかになったり、一回辺りの弾数が増えたり、範囲が拡がったり、魔力の消費が抑えられたり、効果は様々だ。


 物理的な攻撃を是とする騎士は本人+武器の性能=攻撃力と足算だが、魔法使いは本人×支援道具=攻撃力と乗算だ。

 本人の地力が強いほど支援道具の効果も大きくなるというわけだ。


 しかしながら魔法は才能が無いと使えない。

 魔法使い、その数は騎士に比べると三割に満たない。付け加えるならそのうちの過半数は貴族ではなく、平民出身者になる。


 そして効果の高い支援道具は高価な上、使用する当人との方向性が合っていないと真の効果を発揮出来ない。


 なので特別な品を作ってもなかなか売れない。

 結果、よほどのこだわりを持っているか、金持ちでない限りは『とりあえず汎用品でいっか』で始まり、『お? これで十分な威力出るし、性能いいのはクッソ高いし十分じゃね?』と満足してしまうケースが非常に多い。


 ちなみにラカダンは家柄が家柄、公爵家なので複数の杖を所有している。


 僕の杖を壊した時、ラカダンが所有している杖を譲ってくれるという話もあった。

 さすが公爵家、太っ腹である。

 うちのような張子の伯爵家とは財力が違う。


 ラカダンが持っている杖の性能を聞けば、店に並んでいる品よりも一回りはいい性能のものばかり。

 しかし、だ。

 ここで問題が一つあったので譲ってもらうのはお断りした。


 それは杖のデザインやエフェクトが完全に女性向けなこと。


 振りまわすとハート型の魔力の残滓が軌跡として空中に描かれたり、魔法を放つたびに可愛い決めポーズを強制的にさせられたり、まるで花束のような杖もあった。


 どれもラカダンが好きな工匠 キュンキュンスウィートラブリーの作品だ。

 ラカダンが持てば、その同年代よりも幼気な容姿と相まって『専用の特注品か!?』と思われる程、映えるがこれと言った特徴のない地味な僕とは完全に水と油、そもそもの方向性が間違っている。


 まあ、世の中には性能重視で見た目がどんなにアンバランスでも愛用している人もいるみたいだけど……。


 それはともかく、今回手に入れた杖は前と違って短杖だが、見た目がより好みなのであまり気にならない。

 さすが工匠 ビッグマグナム。

 この五爪の龍を象った装飾が完全に僕の心を捉えた。

 特に龍が天に向かって宝玉を咥えているところの造形に一番力強さを感じる。

 他の細かいところにも製作者のこだわりを多数感じる素晴らしい逸品だ。


 と、杖について浸るのは後にしよう。

 早くしないとラカダンがブチギレそうでちょっと怖い。


「よし、じゃあ行くよ。【氷礫】!」


 氷の小さい塊がターゲットに向かって降り注ぎ、その表面にいくつもの細かい傷をつける。


「からの、【氷牙】!」


 地面に落ちた氷がまとまり、ターゲットに向かっていくつもの牙がそそり立ち、串刺しにする。


「相変わらず決まればエゲツない魔法よね、それ」

「実戦だと相手も動いて避けるし、遮蔽物もあるし、防御もされるからこんな結果にはそうそうならないよ」

「バカ、そうなるように努力しなさいよ! はあ、それはいいか。で、杖としてはどう? 前より使えそうなの?」


 手に持った短杖を握り締める。


「うーん、前に比べれば一つ辺りの威力が下がって、一回辺りの弾数が上がって、魔法から魔法への連続がやりやすくなった感じ、かな」

「それはつまり?」

「大当たりでも無いけど大外れでもない」

「なにそれ、結構な大金払ってそれって微妙じゃない?」

「僕的には一般的な汎用杖でなく、ビッグマグナムの杖が手に入っただけで大満足だよ。前の杖との差はそこまで極端じゃないから調整だけで済む。ただ……」

「ただ何よ?」

「魔法を放った時に杖から変な感覚があった気がしたんだ」

「変な感覚? どんな?」

「杖が震えるような? 掌がムズムズするような?」

「ちょっといい?」


 ラカダンは僕から強引な杖を奪うと持っていたハートの軌跡が描かれるハートフルな杖を手渡された。


「【炎の柱】って、きゃあッ!?」


 炎の柱がターゲットの足元を包み込むと同時にラカダンは杖を落としてしまった。


「ラカダン、大丈夫っ!?」

「え、えぇ。大丈夫よ」

「一応、手を見せて。……うん、何ともない。よかった」

「ふぁ!? あ、ああありがと」


 ラカダンが髪をイジリ、目線を明後日の方向に向けながらモジモジしている。


「こほんっ、んーなんか私が使うといまいちね? 私の杖は当然ながらさっきの店とかで見た汎用杖の方が効果が高そうなんだけど、なんでかな?」


 僕は杖を拾い、夕暮れ時で少し暗くなった室内を明るくするため。簡単な魔法を使ってみる。


「【光の目】。あれ? 普通に使える。今度はさっきの感じもなかった。なんで?」

「もしかしたら何か条件があるのかも」

「あ、そう言えば、露店のおじさんが『資格』がどうとか言ってた。んー、杖がモゾっても害は無いみたいだから僕なら使えそうだね。でもどのタイミングでそうなるのかだけでも掴んでおく必要はあるかな」


 時間も時間だし、ラカダンは帰ってもいいよ、と言おうとしたところ、


「な、なんなら私が模擬戦してあげてもいいわよ?」

「え? ホント? もう夕暮れだけどいいの?」

「ここまで来たんだから区切りが良いところまで手伝ってあげるわよ」

「うわぁ、ターゲット相手だといまいちかな、と思っていたんだ。ラカダンが手伝ってくれると助かるよ!」

「大事な、お、幼馴染みが困ってるんだからと、と、当然よ。カッデの気の済むまで、なんなら朝までだって私がずっと付き合ってあげるんだから」


 なんだかよくわからないがそれからのラカダンは深夜まで機嫌良く練習に付き合ってくれたのだった。




「ふぁ〜ぁ。結局昨日は魔力消費の大きい魔法を使うと杖がムズる、って事がわかった程度か」

「おはよう、カッデ」

「おはよう、ラカダン。昨日は遅くまで付き合ってくれてありがとね」

「う、うん。気にしないでーー」

「なんだなんだ、お二人さん? 深夜遅くまで『突き合って』とは何とも淫靡な会話じゃね?」


 唐突に後ろから僕とラカダンの肩にダンイナツが腕を回してきた。


「ちょっと、ダンイナツ! 朝から暑苦しいから止めなさい!」

「まぁっーたく、ラカダンはつれないねぇ。カッデ、ラカダンに虐められる可哀想な俺を慰めてくれ」

「お前のような筋肉ゴリラを誰が虐められるんだよ? 

 僕とラカダンは新しく手に入れた杖の使い勝手を試していたんだよ」


 ひっついてくるダンイナツを引き剥がして腰にぶら下げていた短杖を見せる。

 するとダンイナツの目が一瞬鋭くなる。


「んん? カッデ、これってもしかして工匠 ビッグマグナム?」

「え? ダンイナツ、この杖がビッグマグナム製だってわかるの?」

「なんとなく、な」


 ダンイナツはおもむろに背負っていたバスターソード取り出した。

 普段身につけているのとは違う見慣れない剣だ。


「俺は騎士だから剣にしか興味がないんだが、この剣の柄に似てると思わないか?」

「そういわれたら……」

「そうね、確かに似てるわね……」


 ダンイナツが見せてくる剣の柄を二人で顔を寄せ合いじっくりと眺める。


「この剣はうちの当時の当主がビッグマグナムに打たせた剣らしくてな。ビッグマグナムはこの剣を仕上げたのを最後に隠居しているんだ」


 ビッグマグナムの製作した杖については詳しいつもりでいたけど、剣については興味が無いから全く知らなかった。


「少し前、俺はこの剣のことを親父に聞かされてカッデに見せてやろう、と実家の倉庫から拝借してきたんだが…………カッデのその杖とあまりにデザインが似過ぎてないか? それに最後の作品という割には造形の端々の詰めが甘いような気がしていたんだ」


 そう言われて二つ並べてみれば、よく似ている。

 違うところといえば、僕の杖は龍が咥えているのが宝玉でダンイナツのは剣、僕の龍の手は五爪だけどダンイナツのは三爪、あとは造形の細かさが比べてみると雲泥の差だ。


「この杖、買う時に『死期を悟った工匠が己の技術を全て注ぎ込んだ』って聞いたけど、もしかして……」

「あぁ、なるほど。それが事実ならうちのが試作品でーー」

「カッデが買ったのが完成品ってこと!?」

「……かもしれない」


 死の間際、持てる技術をつぎ込んだビッグマグナム最後の作品。


 そう考えると高揚感に包まれた。


 ビッグマグナム自身はかなり前に亡くなっているし、晩年は杖の製作をしなかったと聞いてがっかりしていたけど、まさか最後に杖を製作していたなんて。

 しかもそれが僕のところにあるなんて。

 なんて幸運なんだ!


「ねぇねぇ、なんで杖なのかな? 晩年、剣をメインに作っていた工匠の最後の作品でしょ? 集大成として剣で終わるならわかるけど、杖っておかしくない? しかもこの杖『資格がいる』とか私じゃ全然使えないし」


 確かに。

 僕も否定したいわけじゃないけど、最後の作品にしてはなんだか微妙すぎる。


「もしかするとラカダンよりも使えた僕でさえまだ『資格が足りていない』のかもしれない。昔の杖と比べて少し強化された程度の作品を最後にわざわざ作るかな?」

「んー、外見だけ作って中身をしっかり作る前に力尽きた、とか?」

「まぁ考えたって答えは出ねぇな。カッデ、わりぃな。なんか逆に混乱させちまったみたいだ。とりあえず今はその杖が最後の作品だって信じてこの後の実技を頑張ってこいや」

「そうね、お互い頑張りましょ、カッデ」

「うん、ありがとうラカダン、ダンイナツ」


 そして気を取り直して実技に挑んだのだが……。



「ああああぁぁぁぁぁ……、ぁぁあぁぁ……」


 昼休み。

 人気の少ない離れの院舎の屋上で僕とラカダン、ダンイナツが集まっている。


「これまたどったの、アレ?」

「私、ギリで合格。エッヘン! あちら、ギリで不合格。残念!」

「あー、なる」


 くっそぅ〜、ラカダンのやつ。

 自分だけ合格したからって無い胸をここぞとばかりに張りやがってぇぇぇ。


「最後の手前で威力の調整ミスったぁぁぁ。前の杖の癖で余力を残して最後に備えようと思ったらターゲットの動きを止めきれなくて……あぁぁぁぁ追試だぁぁぁあああぁぁぁ!」

「哀れカッデ、安らかに眠れ」

「死んでないって! 勝手に殺すな! くぅ〜、もう少しこの杖に慣れていればあんな凡ミスしなかったのに。……失敗したなぁ」


 ガックリと肩を落としている僕にダンイナツが優しく肩を抱いてくる。


「大丈夫だって。俺は実技落としたことないけど、落としたやつは追試受かれば全然平気だって言っていたぞ?」

「そのための追試だもん、そりゃ平気でとーぜんよ」

「まあまあ、話は最後まで聞けって。カッデ、この間『面白い場所を見つけた』って言ったろ? 覚えてるか?」

「ん? あぁ、そう言えばそんな事を言っていたような気がする」

「結局のところ、修練場じゃあ経験が足りない。肌にひりつくような訓練をこなさないと短時間で使いこなすなんて無理だ」

「そうは言ってもこればっかりは時間をかけて慣れるしかーー」


 軽く舌打ちしながら人差し指を左右に振るダンイナツ。


「あるんだよなぁ、これが。あ、ほら耳貸せよ…………実はな、『未調査の迷宮』があるんだ」

「「『未調査の、迷宮』!?」」


 予想外の出来事に僕とラカダンの声が見事にハモる。


「バ、お前ら声が大きいって!」

「わ、ごめん」

「ん!」


 迷宮

 魔物が内部で徘徊しているとても危険な場所。

 何もせず放っておくと迷宮内で魔物が飽和状態になり、迷宮の外に出てくるので定期的に冒険者達が駆除を行なっているらしい。

 奥深くへ行けば行くほど貴重な素材が手に入るので一攫千金を狙う冒険者があとを絶たない。

 しかし大概は王国によってある程度管理されているので魔物が外へ出てきたり、本当に貴重な素材が手に入ることは稀らしい。


「未調査の迷宮って王国が管理してない迷宮ってこと!? えー危なくないの、それ?」

「昨日、試しに行ってみたがそんなに危なそうな魔物はいなかったぞ。ゴブリンやスケルトン、程度で強いて言うならスライムをチラッと見かけたな」

「ちょっと! スライムって言ったら服を溶かされたり、手足を拘束されて…ごにょごにょ…されたりするエッチィ魔物じゃない!」

「ラカダン……それ、どこ知識なの……?」


 はからずもラカダンは耳年増、という事がわかってしまったが今はそれよりも迷きゅ……いや待て、そっちの方を突っ込んだほうがいいのか? やっぱり後が怖いので止めとこう。


「つまりその迷宮で思う存分実戦訓練しよう、ってこと!?」

「さすがカッデ! 正解!」

「そんなの危険すぎるわ。まともな実戦訓練は大修練場で学生同士の模擬戦をやってから対冒険者で模擬戦して、それから対魔物での実戦訓練なはずよ!?」


 貴族学院は文字通り貴族の子供しかいない。

 そのため危険な事を行う場合は必ず準じた経験を積ませてから危険を伴う行為を行わせる。


「……でも、ダンイナツの言う通りかもしれない。修練場ってターゲットは出現こそランダムだけど、そのあとの動きが単調じゃない? 攻撃だってしてこないし」

「え? 待ってよ、カッデ。もしかして行くつもりなの?」

「追試は今週末、四日後。明日、明後日と迷宮で実戦訓練して明々後日は休養日にすれば追試も問題なくパス出来るはず!」

「そんなゆっくりでもいいから安全に練習すればいいじゃない! なんでそんなに急ぐの?」

「ラカダンとダンイナツと一緒に進級、そして卒業したいからだよ。今回の追試に失敗したら次は追試は有償、受けなきゃ留年もしくは退学。そうなるとうちは厳しいんだよね。ほら、うちって伯爵だけど張子だし。常に財政は火の車なんだよ」

「そんなの私がーー」

「それじゃ僕が、ひいてはノエマオ家の名声が完全に地に堕ちちゃうんだ。ま、今でも婚姻関係にある他家からの援助で成り立っているだけど、それは援助という意味で『有り』なんだ。けど婚姻もしていない他の貴族からの援助は後々必ず問題になる。……例えそれが幼馴染みでもね」

「カッデ……」

「だから僕は次の追試は絶対受からなきゃいけないんだ!」


 僕の覚悟が伝わったのか、ラカダンは渋々ながらも迷宮での実戦訓練に納得してくれたらしい。

 よし、明日は迷宮で死ぬ気でこの杖を使いこなせるようになるぞ!


「…………盛り上がっているところ悪いけど、『追試に受かるため』ってのが何となく締まらねぇよなぁ」


 ダンイナツが何か呟いていたが、僕は気にしないことにした。




 次の日。


 朝早くから僕、ラカダン、ダンイナツの三人で迷宮を目指していた。


「えーと、ダンイナツ?」

「なんだ、カッデ?」

「僕達は未調査の迷宮に行くんだよね?」

「そうだが?」

「だったら何で王都の外に出ないでこんな平民街の川沿いを歩いているのよ。これって貧民街スラム一直線じゃないのよ!」


 早くもラカダンがキレた。


 ラカダンは公爵家のいわばお嬢様だ。

 縁の無い貧民街のことを知っているだけでも驚きなのにそのおおよその位置まで把握しているとは。


 僕の場合、小さい頃から父に連れられて兄弟全員が定期的に連れて来られていたので知っている。

 父曰く、


「このようなところで生活したくないなら(特に金持ちの)婚姻相手が見つかるように努力しろ!」


 との事らしい。

 そのおかげもあってか、兄は子爵家、弟は伯爵家から御声がかかっている。

 未だどの家からも御声が無い僕は兄弟に養ってもらう気はさらさら無いが肩身が狭い事この上無い日々だ。


 閑話休題。


「お二人ともそう心配するなって。お目当ての迷宮はその貧民街にあるんだからよ」

「「??」」」


 ダンイナツは軽薄そうに見えて軽薄な男だが、嘘は言わない。


 それを二人ともわかっているのでそれ以上文句を言わずについて行くことにした。



 しばらく歩くと一軒の家の前で止まった。


 ボロボロの建て増しに次ぐ建て増しの木造の家々を縫うようなクネクネした一本道を歩いていたら突然、十字路が現れた。それを右に曲がった先の家だった。


「ここだ」


 そうダンイナツは言ったものの、その家は誰も住んでいないのが一目で分かるほどあちこちが風化しており尚且つ、


「玄関に石が積まれて封印されているんだけど?」

「本当にここが迷宮なの?」


 僕もラカダンも疑念でいっぱいだ。


「正確には迷宮の『入り口』だがな」


 ダンイナツは玄関に近づいて剣に手を掛けたところで何かを思いついたのか、僕の方を振り返った。


「そうだ、カッデ。カッデのその杖をこの石に触れさせてみろよ。どこでもいいから」

「は? 貧民街のこんな袋小路の崩れ掛けの家に連れてきておいて何言っーー」

「ラカダンどうどう、落ち着いて! せっかくここまで来たんだし、言う通りにしてみようよ」

「カッデ、私は馬じゃないわよ! もー!」 


 いつでも取り外せるようにしておいた腰の皮ベルトから杖を取り出すとその先端を石に軽く触れさせた。

 すると積み重なっていた一抱えほどの石が音もなく左右にスライドして人が一人余裕を持って通れる位の通路ができた。


「なにこれ」

「すっげぇぇぇ……」

「石が自動で動くなんて……ってなんでダンイナツも驚いているのよ!」

「いやいや、俺の時はこんくらいの四つん這いで何とか通れるくらいの穴しか開かなかったからな。ビックマグナムを愛用している魔法使いなら俺より開くかな、と思ったらここまでとはびっくりしたよ」

「そういうのは最初に言っときなさい、よ!」


 キレ気味のラカダンがダンイナツのケツを軽く蹴った。


「わりぃわりぃ。さ、中に入ろうぜ。この石も時間が経てば元に戻るんだ」


 ダンイナツに急かされるように僕とラカダンは家の中、迷宮へと入って行った。




 玄関を入ってすぐ石造りの下りの階段が続いた思ったら少し広めの部屋に出た。


「変だな」


 部屋に入るなりダンイナツが呟く。


「変ってなにが?」

「ここには数回来ているんだが、毎回この最初の部屋にはゴブリン一匹がいたんだ。なのに今回は何もいない」

「んー、迷宮って魔物が自然発生して迷宮内を徘徊するんでしょ? いない時もあるんじゃないの?」

「それはそうなんだがゴブリンの野郎、俺が来るのがわかっていたかのようにこの部屋で身構えていたんだぜ? それも毎回」

「それは……」

「さすがに変ね……」


 この迷宮は魔物が自由に徘徊するのではなく、部屋によって固定されるタイプなのかもしれない。

 昔読んだ本にそんなような事がチラッと書いてあったような無かったような、うーん?


「これまでがたまたまだったのかもしれないな。考えたところで答えは出ねぇんだから先に進むか。この迷宮は基本的に一本道だ。しばらくはゴブリンやスケルトンしか出ない。けど油断するなよ?」




 ダンイナツの言葉とは裏腹に一本道を少しずつ下りながら、行けども行けども魔物は現れない。

 ここは本当に迷宮なのだろうか? という疑問が頭をよぎるが、大した光源がないのに通路や部屋全体が見回せたり、微かに空気の流れを感じる辺りは本で読んだ迷宮の特徴と一致する。


 ダンイナツもしきりに頭を傾げているので明らかにこれまでと状況が違っているようだ。



 どれくらい歩いて何度目の部屋だろうか。

 そろそろ次の部屋辺りで小休止を取ろうかと話している時、異変があった。


「きゃっ!? 何この部屋? 血? 魔物の血なの?」

「これはゴブリン……? いや量や色からして多分数匹のオーク、もしくはオーガの血溜まりの跡か?」

「ダンイナツ、壁にも同じようなのがいくつもあるよ。これってーー」

「ああ、どうやら『先客』がいるみたいだな。どうりでこれまでの部屋に魔物が一切いないわけだ」

「部屋に血痕が残っているってことはそんなに離れていない?」

「だな。魔物の死骸は迷宮が処理する。それは他の迷宮と同じだ。完全に死骸を処理するまで三十分てところか」

「どうするの、まだ行くの? オークやオーガがいるかもしれないのよ? 危なくない?」


 何の魔物にも出会さなかったので知らず知らずのうちに結構深く入り込んでしまったようだ。

 まさかオークやオーガがいる迷宮だとは。


「どする行く? ダンイナツ?」

「へっ、あたぼうよ! ここまで来て手ぶらで帰れるかってんだ!」

「だよね! よし、行こう!」

「ちょ、ちょっとあんた達待ち、待ちなさいよぉ〜」


 ダンイナツがいれば、少々のオーガやオークは敵ではない。

 何せダンイナツは騎士科全体ランキング三位の猛者なのだ。


 と、意気込んで先へ進んでみたものの魔物もいなければ『先客』の姿も見えない。


 それでもいつ追いつくか分からないので僕達は慎重に進む。

 だんだんと部屋の中の魔物が迷宮に取り込まれる、取り込まれかけの死骸で見つかるようになってきた。


「この部屋の死骸はまだ新しいな。切り口からすると少し前に殺されたばかりだろう」

「ねぇ、二人ともこれを見てよ!」

「どうしたのラカダン? ん、これは!?」

「人の血溜まり、だな。結構大量だぞ。遺体がないから死んではいないようだが……」

「ねえ、待って。何か聞こえない?」

「……ホントだ。遠くの方で戦闘音みたいなのが聞こえるよ」

「この先からだな。行こうぜ!」


 三人とも静かにかつ迅速で慎重に先へ進む。

 通路には血痕が点々と続いていた。


 そして長い通路を過ぎてひらけた次の部屋には驚くべき光景が広がっていた。


 これまでと違って部屋は大部屋で天井も高い。

 部屋の奥には複数のオーガに巨大なスライム。

 手前には冒険者風の装備を纏った男女が五人。


 ぱっと見で分かるほどに装備はボロボロ、全員あちこち負傷している。

 特に他の四人に守られるような形で膝をついている女性は血塗れでとても危険な状態だ。

 さっきの部屋の血溜まりはこの人なのかもしれない。


「ダンイナツ! ラカダン!」

「おうさ!」

「ええ!」


 大部屋の状況を見て瞬時に判断。

 二人に声をかけると細かい打ち合わせもせずに三人とも弾けるように通路から飛び出した。


 二体のオークが雄叫びをあげながらボロボロの冒険者達へと襲いかかる。

 冒険者の一人が今にも砕けそうな盾を構えることしか出来ない。


「ぉっしゃっああぁぁぁっ!!」


 ダンイナツが一体のオークへと斬りかかり、武器を持っていた手を剣で切断する。

 そして振り下ろした勢いを強引に力で捻じ伏せ、剣が地面に接する直前で変則的な切り上げの斬撃へと変化させる。

 斬撃はオークの股下から脇腹へと抜ける。

 片足を切り取られたオークはその自重を支える事が出来ず、バランスを崩し残った片足で後方へたたらを踏んだ。

 そのスキをダンイナツは見逃さない。


「うぉぉぉぉぉおおぉぉぉ!」


 脇腹から抜けた剣の勢いそのままで一回転し、オークの首を跳ね飛ばす。

 そして新手のスケルトンの大群へ向かって一人突っ込んでいった。


「ぃぃぃぃぃぃぃぃぃやっはぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」


 ダンイナツが雄叫びを挙げながらスケルトンに飛びかかった時、僕はダンイナツの出現に驚きとどまっていたもう一体のオークの相手をする。


「【氷の槍】!」


 オークの顔を目がけて僕の最大出力、二本のつららを飛ばす。


 一本はオークの顔をかすめて後方の地面に突き刺さり、一本は持っていた巨大な棍棒へ命中し、それを叩き落とした。


 冒険者達へ向かっていたオークの意識をずらすことには成功したがまだ倒すまでには至らない。

 手傷は負わせたが倒すなら追撃が必要だ。


『倒すなら』、ね。


「【氷の槍】! 【氷の槍】! もひとつ【氷の槍】! ラカダン!」


 僕はオークを牽制しながら背負っていた背嚢をラカダンに投げ渡す。


「任せて!」


 ラカダンは冒険者達の輪の中へ飛び込み、背嚢の中身をその場にぶち撒ける。


「な!? お前達ーー」

「王立貴族学院生よ! 回復液でも何でも自由に使って! 早く! ってうわっ!? この人、やばっ! まいったわね、支援回復系魔法ってあんまり得意じゃないんだけど……」

「すまない、恩に着る!」


 冒険者達は落ちている回復薬を次々に使用する。

 ラカダンはいくつかの回復液を手に取り、膝をついている血塗れの冒険者へと全てぶっかけた。


「【相乗の癒し】!」


 通常の【癒し】は対象となる人の身体の内側、つまり自己治癒力を強化して回復させる。

 対して今かけた回復薬は応急的ではあるが薬の力で外傷を治癒することができる。

【癒し】と回復薬。

 どちらも単体で効果はあるがラカダンが使った【相乗の癒し】を使えば内側の力と外側の力が共鳴し、より回復効果が期待出来るのだ。


「あの人達も戦線に復帰して欲しいとこだけど、期待できそうにないほどやられている。特にあの血塗れの人。相当ヤバい……けどギリギリで間に合ったみたい」


 オークは僕の魔法を警戒して先程から踏み込んで来れないようだ。


 そう、僕の狙いはオークの『時間稼ぎ』だ。

 初手で最大の攻撃を行い、敵を萎縮させたらあとは牽制の魔法をちょいちょいすれば踏み込んで来なくなるって寸法だ。

 一発の威力はないけど手数の多さ。それが僕の持ち味なのだ。


 そこへーー


「ぶっっっっ飛べやあぁぁぁぁぁっっっ!!」


 スケルトンの大群で一暴れしたダンイナツがいつの間にか僕の方のオークの懐に潜り込み、すくい上げるようにバスターソードをフルスイング。オークの上半身と下半身は永久にサヨナラすることとなった。


 上半身がずれ落ちて、自身の意思とは関係のない視界の動きに困惑しているオークの頭に容赦なくとどめの【氷の槍】を叩き込み、オトリ、特攻、防衛なんでもござれの通称『頼れる猛獣』のダンイナツと合流する。


「敵さんの様子は?」

「オーガが十体、オークはその倍程度、ゴブリンとスケルトンはバカらしくて数えてねぇ。それよりもヤバいのは奥に見えるデカいスライムだな。核付近に人影が見えた。冒険者の奴ら、誰か飲まれてやがる。こっりゃ、急がねえとヤベェぞ?」

「ちょ、ちょっと待ってよ! 急ぐってまさかその飲み込まれた人助ける気? あんなオーガの身長よりも大きいスライムだよ? 取り込まれてどれくらいかわからないけど、普通なら飲み込まれた瞬間から消化が始まるから、もう溶かされながら窒息死してるはずだよ?」

「カッデ……俺やラカダンがスライムに飲み込まれたら、どうするんだ?」


 あぁ、まーたダンイナツのいつものが出たよ。


 ダンイナツだけで解決できない困ったことが起きるといっつも自分たちに置き換えて問いかけてくる。

 そして僕がそれを拒否しないことを知っているんだよな。


 目の前にいる助けられそうな人がいたら全員助けたい。そう言う困った奴なんだな、ダンイナツって。


「……助けるよ。二人がそんなことになったらどんな手を使っても絶対に必ず助けてみせる」

「だろ? わりぃ、カッデ。今回も俺のわがままって事はわかってる。だけど、頼むぜ」

「はぁ、もう十年くらいの腐れ縁だからね。そういうと思ったよ」

「今度アイス奢るぜ」

「また? 僕達の命はいつもアイス並のお値段かぁ。まったく……準備はいい?」

「いつでもいいぜ!」

「じゃ、氷の槍を破壊しながら暴れ回って、合図で離だーー!」

「おうさっ!!」


『離脱して』と言い終わる前にダンイナツが飛び出していった。



 ダンイナツが魔物の群れの中を縦横無尽に駆け回り、僕の背丈ほどのバスターソードを豪快に振り回す。


 その動きは獣じみていて全く予測がつかない、とよく学院では言われる。

 しかし幼馴染みでずっと昔から見ている僕にはダンイナツが次にどういう動きをするかなんとなく予測がつく。


 そろそろかな。


 僕はダンイナツに向かって威力を抑えて数を増やした【氷の槍】を放つ。


 迫り来る氷の槍を振り返ることもせず、ダンイナツはそれをヌラリと躱し、僕が意図的に作った氷の槍の薄い方向へと転進し、それを躱しながら立ち塞がる魔物を倒していく。


 僕がダンイナツの動きがなんとなく分かる様にダンイナツも僕の行動がなんとなく分かるらしい。

 特別打ち合わせや細かい指示を出さなくても通じ合うってのはこういう時便利だよね。


 あ、こっちもそろそろかな。


「ダンイナツ! ……【砕けろ】!」


 ダンイナツは僕の一声を聞いて振り回しているバスターソードの勢いを利用し、魔物の前から一足飛びに僕の方へと戻って来た。


 別にダンイナツに攻撃魔法を放ったわけではない。

 さっきから僕が放っている魔法【氷の槍】に爆散する指令を出したのだ。

 それは何故かーー。


「【氷絶の牙】!!」


 ラカダンが氷系の範囲魔法を放つ。


 魔物達の足元から円錐状の氷が一瞬で伸びて魔物達に襲いかかる。

 今部屋にいるのは動きが遅い、オーガやオーク、ゴブリンにスケルトンだ。

 極太の逆さつららが身動ぎすら許さず骨を砕き肉を貫いた。


「なっ!? おい、嘘だろ! 【氷絶の牙】ってあんなだったか? 違うだろっ! そもそも氷を上方に出現させてつららの落下で攻撃する、使いづらい魔法のはずだろ!?」


 冒険者達の中で魔法使いらしき杖を持った男から驚愕の声が挙がる。


 男の言っていることは間違っていない。

【氷絶の牙】は敵の真上付近に設置して氷の自重を利用して攻撃する魔法だ。

 無音で設置出来るが大概の相手はつららが落ちてくる前に気付いて回避してしまう。

 なので威力はそこそこ、魔力消費が少ないが使いづらい魔法と世間一般では認知されている。


 しかし、氷系魔法自体は『形として残る』ので相手を凍らせて拘束したり、動きを阻害したりと土系魔法と並んで使い勝手がいい。

 しかも氷系の場合、氷漬けにすることができれば魔物の素材が傷まない。その上、氷が不要になれば溶かせばいい。

 便利なことこの上ないのだ。


 ところでラカダンの魔法がどうしてあんなことになっているのか。


 それは僕が『【氷の槍】』を使っていたから。


 氷の槍を魔物達に撒き散らし、それをダンイナツが暴れて砕く。

 すると魔物達の足元に氷の欠片が多数転がる。


 ラカダンはそれを見て、


 ・【氷の槍】の欠片が触媒に使える事

 ・触媒があるのだから氷系魔法が有利


 という判断を行い、本来敵の頭上につららを出現させる【氷絶の牙】を応用し、出現を地面からにする事で発生と攻撃を同時に行ったのだ。

 そうすることで先にばら撒いておいた僕の【氷の槍】の欠片が触媒となって【氷絶の牙】の発生を促進、魔物に直接襲い掛かる文字通り『牙』となったのだ。


 ラカダンとも幼馴染みなのでダンイナツ同様、お互いの行動が今のように何となく分かる。


 ダンイナツ⇆僕⇄ラカダンな構図なんだけど、何故かダンイナツ⇄ラカダンはいまいちだったりする。

 僕を二人の間に仲介させることで初めて上手く連携が取れるのだ。

 ダンイナツとラカダン、普通に仲いいのになんでだろ?


 それはさておき、ラカダンの魔法でオーガを始めとした魔物は氷のつららに串刺しにされるか、その牙に取り込まれて氷漬けにされた。

 残すは奥で蠢く巨大スライムのみ!


「ふぅ、どう、カッデ? 私の魔法の威力は?」

「さすが『一発屋』のラカダンだよ。申し分ない威力だね!」

「ちょ、ちょっと、その呼び方は止めてっていつも言ってるでしょ!?」

「学院での成績も『威力』は満点だが『弾数』や『継続力』で落第点なんだから的を得た二つ名だと俺は思ってるぞ?」

「『獣』は黙ってて!」

「へーへー承知しましたよ、お嬢様」

「はいはい、そこまでだよ二人とも。まだあそこに文字通り大物が残っているんだから気を抜かないように」


 巨大スライムは目の前で仲間?が倒されたのに何の反応もない。相変わらずその場で不気味に蠢いている。


 さて、どうやってあの巨大スライムを攻略するかを思案していると後ろから声がかかった。


「少年、助かった。私はきーーンンッ、冒険者のライオットだ。君達に聞きたい事はたくさんあるがまずはあのスライムを倒してひーー仲間を救出する。手伝ってもらうぞ」


 あ? なんだ、こいつ?

『手伝ってもらうぞ』、だって?

 さっきラカダンが『貴族学院生』と名乗ったのを聞いてなかったのか?


 貴族の中には貴族最優先の『貴族至上主義』を公言する人も少なくない。

 僕やラカダン、ダンイナツは昔からお金がない僕に合わせて一緒に下町をうろついていたから『貴族至上主義』どころか、下町や平民に対してそこまでの忌避感は無い。

 なので僕らは貴族だから平民や冒険者は貴族にへりくだって接しろ、と言うつもりはない。

 別に対等に接してもらっても全然構わない、と思っている。


 しかしだ、全滅しかけたところを助けられたのになんでそんなに上から目線なんだ?

 ダンイナツの頼みだから仕方なくスライムの中に取り込まれた人を助けようとしているんだぞ?

 なんでお前に命令されなきゃいけない?


「行くぞ、少年! 援護しろ!」


 冒険者は所属しているギルド、冒険者ギルドの中で実力や功績によって決まる階級というものがある。

 階級が高い冒険者は貴族並みの待遇をされたり、実績によっては貴族位を与えられたりすると聞いたことがある。

 つまりあの冒険者達はそれ程の階級なのか?

 高いから『貴族学院生』に対して平気な顔で命令しているのか?


 モヤモヤしているとライオットと名乗った奴を含めて軽傷だった四人の冒険者がスライムに突撃していった。


 ちょうどいい。

 大層なセリフを吐く奴のお手並を拝見しつつ、巨大スライムの動向を観察、対策を練ろう。

 あんな見たことないスライム特別な種類に違いない。


「カッデ、私達もいかなくていいの?」

「んー、ラカダンはあのスライムの種類、知ってる?」

「え? 知ってるも何も、スライムはスライムでしょ? あんなのただ大きいだけじゃない」


 キョトンとした顔で当たり前のように言い放つ、ラカダン。

 それにダンイナツが続いた。


「え? スライムに種類があるのか?」


 どうやらダンイナツも知らないらしい。

 二人とも良くも悪くも学院の勉強は得意な方だ。しかしそれはあくまで『教科書に載っている範囲』に限った。

 教科書に載っていない事柄については今のように全く知らない事が多い。

 対して僕はと言うと、二人に構ってもらえない時は下町で噂を聞いたり、学院の図書館で広く浅くではあるが知識を仕入れていた。


 今のスライムを問わず、魔物には派生種が存在する。

 毒を持つアッシドスライムや麻痺を持つパラライズスライム、金属を好むメタルスラムなど多数存在している。


 一応学院があるこの都市周辺に出現したことのある魔物は調べておいたけど、あんな巨大で核の色が見る角度によって変化するようなスライムはどこにも載っていなかった。


 初見の魔物ほど怖いものはない。

 せっかく助けた冒険者達だけど、彼らには人柱になってもらおう。


「うおぉぉぉりゃぁぁっ! っ!? なんだ、このスライム、攻撃が効かないぞ!?」

「くっそ! 斬っても突いてもすぐに元通りになりやがる」

「矢が刺さってもすぐに穴が塞がり、核まで届かないよ!」

「ラ、ライオット!? 今、助けーーきゃ!? と、取り込まれる!」

「メアリー!? 不味い、ベルガ、アモット早くメアリーに絡みついている触手を断ち切るんだ!」


 冒険者達が剣で槍で弓で拳でスライムに攻撃するがまったく通じていないようだ。しまいにはすでに取り込まれている一人同様、拳で攻撃していた女性の冒険者が取り込まれかけている。


 慌てて手足に絡みついている触手のような粘体を取り除こうとするが先ほどの攻撃同様、効果は無い。


「不味い! これではメアリーも姫のようにーー」

「ライオットさん、退いて!」


 入り口の方から声がした。

 見れば血塗れだった残りの冒険者がよろめきながらもスライムに向かって手を翳していた。


「【炎の矢】!」


 虚空に現れた数本の炎で出来た矢は取り込まれかけた冒険者に降り注ぐ。

 あわやと言うところで他の三人の冒険者達の回避が間に合った。


「ぐっ!」


 スライムに取り込まれかけた女性の冒険者から苦痛の声が漏れる。


 ヤケクソになって仲間もろともスライムを攻撃したのかと思いきや、【炎の矢】が命中した部分のスライムが溶けて除去されていた。


「あとは、おねが、い、しま……す」


【炎の矢】を放った冒険者はそう言って倒れ伏した。


 あの重傷だ。回復しきれてないのに無理するから……。

 でもおかげで突破口が見えた。


「ダンイナツ、あの人よろしく。あと僕の背嚢から火の魔石を探して!」

「おうさっ!」

「ラカダンは末端に威力を抑えた風と水を試して。僕は他を試す」

「おっけー!」


 僕とラカダンはスライムの端っこに最大まで威力を弱めた各属性の魔法をこっそり試射する。


 するとどの属性でも当たった箇所のスライムの粘体を除去することが出来た。


 これはもしかすると物理攻撃が効かず攻撃魔法のみ有効なスライムなのかもしれない。


 そんなスライムの存在なんて聞いた事無いんだけど、こうして目の前にいる以上そう認識する他ないな。


「カッデ、魔石だ!」


 倒れた冒険者の安否を確認し、スライムから最も離れた位置に移動させたダンイナツがその手に魔石を握った状態で声がかかる。


「魔力を込めてスライムに全力投球!」

「おっしゃ、任せろ。どっりゃぁぁぁぁーー!」


 ダンイナツは大きく振りかぶりスライムに向かって魔石を投げる。


 真っ赤に染まった火の魔石はダンイナツの手を離れると一条の真っ赤な矢のように空中を進み、スライムのその巨体に触れると『ジュッ』と音を立て、さしたる抵抗もなく一直線の穴を空けていく。

 そして魔石はスライムの核をかすめて反対側へ突き抜け、壁にめり込んだ。


「さすが、猛獣。馬鹿力ね」

「攻撃魔法だけじゃなく、魔力が込められていれば武器による攻撃が通るかもしれなーーってうわっ!?」


 さっきまでこっちにあまり関心がなかったスライムが急にその触手伸ばして手当たり次第、周囲を無差別に攻撃し始めた。


「ちょ、ちょっといきなり何よ!? 突然暴れ出したわよ!」

「もしかしたらさっきダンイナツが投げた魔石が核にかすった事で敵対認識されたのかも。こりゃ、参ったね」

「ダンイナツの馬鹿ー! あんた、何してくれてんのよ!」

「うわぁ!」

「おおぉぉぉぉぉ!」

「きゃぁぁぁ」


 一番離れた場所に避難させているさっきの女性を除いて僕らも冒険者も必死にスライムの攻撃を躱す。


「おい、カッデ! 早くなんとかしてくれ!」

「なんとかって言ってもこいつは攻撃魔法や魔力を込めた攻撃弱いんだと思う。でも僕の攻撃魔法じゃ出力不足で効かないし、威力は申し分ないラカダンの魔法は溜めがいるから撃てないんだよ!」

「なんだよ、それ!? あ、ならカッデ、殴ればいいんじゃね?」

「殴る? だからあのスライムに物理攻撃は効かないんだって!」

「いやいや、俺は魔法が使えないけど支援魔法が十八番のカッデなら付与魔法やら身体強化魔法が使えるだろ? そいつらを杖を持っている右手に集中させたらさっきの火の魔石みたいにできねぇか?」


「なるほど自分に支援魔法をかけるといった発想はなかったよ。確かにそれならいけるかもしれない」


 付与魔法。

 武器や防具に各種属性や耐性を一時的に付与する魔法。

 武器や防具に魔法の効果を永続的に封入させた魔道具の代替方法、いわゆる劣化版の魔法だ。

 一般的な上、効果の程は微々たるものなので使用する機会は少ないと思っていた。

 そして身体強化魔法。

 これは身体の任意の箇所を強化する魔法。

 例えば腕力だったり脚力だったり。

 魔力の消耗が激しい魔法で身体全体を強化する人はほとんどいない。部分的にしかも短時間で使用するケースがほとんどだ。


 あのスライムは流動体、水属性っぽいし、さっきの火の魔石に倣ってーー


「【炎絡み】! 【強力の雫】!」


 手にしている短杖とそれを持っている手に魔法をかける。


「お、おい。あの小僧、今無茶苦茶燃費の悪い魔法を同時使ったぞ? 『持つ』のか、あれ?」

「後ろで倒れているうちのジーナのやつもあまりの燃費の悪さに使うのを毎回渋るやつだよな」

「普通は一つの支援魔法に対して一人の魔法使いってのがセオリーのはず。それを一人でなんて……」


 僕の持っている龍を模した短杖が火の属性を持ってうっすらと魔力の残滓を放……たない?

 僕の手が魔法の効果によって羽のような軽さと溢れんばかりの膂力に満ち……ない?


 え? あれ? どゆこと?

 ダンイナツにかけた時はすぐに武器から魔力の残滓が光の尾のように伸びたはず……?

 魔法だから失敗なんてことはないはずなのに……??


「おい、カッデその杖……赤くならない代わりになんか『変』、じゃないか?」

「『変』? どこがーーって、え? なんか光が伸びてる!?」

「ちょ、カッデ、何それ!? 大丈夫なの!?」


 これは!?


「魔力の剣?」

「まるで火で出来た剣みたいね」

「騎士団長が持っている炎の魔道具のようだな。……ふぅ、なんと美しいんだ」

「おいっ! お前らは余裕があるのかもしれないがこっちはもうギリギリなんだ早く何とかしてくれ!」


 おっと、そうだったそうだった。

 今はあの巨大スライムと戦っているんだった。

 僕らはあんな大振りで単調な攻撃を躱すのはわけないが、冒険者達は見るからに満身創痍。避けれていたのがだんだんと服の裾を引っ掛けるようになってきた。

 本当に余裕がなさそうだ。


「そんなこと言ったって、こっちだってこんなの想定外なんだよ! ま、とりあえず試してみるしかない、よねっ!」


 僕に向かって襲いかかってきたスライムの触手を魔力の剣で無造作に打ち払う。


 学院では魔法科も一年の最初に剣術を一応習う。

 習うと言っても『そういう時間が取ってある』だけで魔法科の学生で真剣に剣術を学ぶものはいない。


 魔法使いなのにまさか剣を振るう日が来ようとは思わなかった、などと思いつつ振るった剣は何の抵抗もなくスライムの触手を切り飛ばした。


「効いてるわね」

「効いてるな」

「効いてるね」


 切った断面からは再生されたり、新手の触手が生えたりすることはなかった。

 切り落とした触手が動くことはなく、程なくして迷宮に取り込まれていった。


 僕はダンイナツとラカダンの周囲の触手を刈り取る。


「おぉい、こっちの触手も頼む!」

「お願い、早く何とかしてぇ!」

「剣術の基礎がなっとらん! あとでシゴいてやるから早く助けろ!」

「限界、限界。早く助けてー!」


 ……。

 冒険者達の方をチラッと見た後、僕はスライムの核へと走って向かった。


 あんだけ元気なら取り込まれてもしばらくは大丈夫だろ。

 それよりさっきから取り込まれているあの核の側の人を先に助けないと!


 核に近づく程、向かってくる触手の数が増えてくる。

 ちょ、っとそろそろ、僕のにわか仕込みの剣術じゃ捌ききれ、なくなってきた、ぞ。


 そろそろかな。


「【氷葛の絶投花】!」


 上下左右から迫る触手から僕を守るように後方より氷の葛が何本も伸びる。

 触手が葛に触れると葛はまるで花が咲くようにその部分が爆発して触手を道連れにしていった。


「おおおぉぉぉっ!」


 そうして自分でも切り開きつつ出来た核までの道をひた走り、核へと辿り着いた僕は躊躇なく魔力の剣を核へと突き立てた。


 金属が砕けるような手応えを感じた直後、剣の半分程度の長さが核に押し込まれると妖しく光を放っていた核から光が消え、先ほどまで暴れ回っていた触手がその活動を停止し、スライム全体がその身を崩し始めた。


【炎絡み】と【強力の雫】を解除すると魔力の剣も消える。

 程なくしてスライムの粘体部分は迷宮に取り込まれて消え、核と囚われていた人だけが残された。


「この人、まだ生きてるかな……えっ!?」


 今までよく見てなかったけど、この人……女の人か?

 全身黒いローブでも着ているのかと思っていたら身長程もある黒い髪の毛で身体が隠されていたのか。

 あれ? もしかしてこの女性ーー。


「! 駄目っ! カッデとダンイナツは向こう行ってて! 早く!」


 後から来たラカダンに唐突にそう言われて振り向くと冒険者達のうち、慌てた様子の女性二人とすれ違った。


「いったいラカダンのやつ、どういうことなんだよ。追い出すにしてもせめて説明してからにして欲しいよ。ダンイナツもそう思わない?」

「は? カッデ、気が付いてなかったのか? 女性の上、裸。これだけでもラカダンが俺達を追い出した理由が分かるだろ? さらに言うならあれはーーっと!」


 ダンイナツが続きを口にしようとしたところで冒険者達の残り、ライオットと名乗っていたリーダー格の男性が鋭い目つきで喉元に剣を突き付けて来た。


「助力したことは褒めてやる。しかしそれ以上口にすることはこの私が許さん」

「へーへー、知らぬが仏。俺達は何も知らない。ここであったことは口外しない。これでいいか?」


 両手を肩の高さに上げて肩をすくめたダンイナツに対して、コクリと頷いた後無言で剣を下ろすライオット。


「とりあえず、あのスライムの核は倒した俺達の物でいいだろ?」

「あぁ、好きにしろ」


 そう言い残してラカダン達の方へと歩いて行く。

 どうやら裸だった女性に適当な服を着せ終わったらしい。

 ラカダンがライオットと入れ違いにこっちに来た。


「取り込まれていた人は無事だった?」

「気を失っていたけど、傷一つなかったわ」

「そりゃ、よかった。首の皮一枚で繋がったって感じだな」

「まったくね」

「??」


 二人は何を言っているのだろう?

 危険な魔物を倒したことに違いは無いがそこまでギリギリだったかな?


「さてカッデ、この後どうする? あの冒険者達はとうやらここで手仕舞い、引き上げるようだぞ」

「そうだなぁ。元々この杖の試し打ちが目的でそれはほぼ果たせたから無理に進む必要もないかな」


 巨大スライムが鎮座していた奥に通路らしきものが見える。

 あれだけの戦闘をしたとは言え僕たちに余力はまだある。

 もう少し進んでみるのも悪くないとは思うけどーー。


「さて、どうしようかな」




 次の日、学院の教室。


 目の前の机の上にラカダンが脚を組みながら腰掛ける。

 手を伸ばせば届く距離にある短いスカートの裾から覗く、白い生足がまぶしい。

 あぁ、これは目の毒だ。

 実にけしからん。


「まったく、昨日は疲れたわね。帰り道にも魔物が湧いてたらどうしようかと思ったわ」

「だよね。でも思ったより入り口付近の魔物だけだったのは正直助かったよね」


 あの後、僕たちも結局引き返すことにした。

 噂に聞くような迷宮なら大型の魔物がいた次の部屋には何かしらのお宝が用意されていることが多い……らしい。


 一応、通路の先も確認してみたが同じこれまでと同じような長い通路があるだけで部屋なんてなかったから一旦仕切り直そうとなったのだ。


 付け加えるならば、ラカダンとダンイナツが取り込まれていた女性のことをしきりに目で追っていたので頼まれてはいないが護衛がてら一緒に帰った方がいいと判断した。

 実際、二人に引き返そうと告げたところ反対意見は出なかった。


「しっかし、なんとも怪しい冒険者達だったよね。迷宮の外に出るなりさっさと別の方向へと走り去って行くし。何か一言くらい無いもんかね?」

「あー、それね? 多分近いうちに別な形で再会する事になると思うわよ?」

「は? どゆこと?」

「えっと、なんだ。うん、きっとそのうちわかるわよ、あはははは」


 明後日の方向へと視線を外しながら乾いた笑みを浮かべるラカダン。


 何か知っているみたいだけど、いつもズケズケと言ってくるのにここまでいい淀むとはよっぽど言いにくいことに違いないと思い、僕はあえてそれ以上突っ込まないことにした。



 学院での一日が終わった。

 今日はあの迷宮で手に入れたスライムの核を三人で売りに行く予定だ。


 公爵家であるラカダンか侯爵家のダンイナツのお抱えの商人を呼び付けて引き取らせるという案もあったが両親にはあまり知られたくないという二人の意思を尊重することにした。


 そうなるとこの核にどれくらいの価値があるのか分からない。

 見たことのないスライムだったし、普通のスライムの核の十数倍大きい。成人の頭くらいの大きさだ。

 きっと高値で売れることだろう。

 と言うことでまずは核自体の価値を知るために僕達は冒険者ギルドに向かった。


 冒険者はいわば何でも屋だ。

 依頼料さえ払えば、大抵のことはやってもらえる。

 上手く付き合えば、とても便利な存在だ。

 裏を返せば、金に汚い連中ならどんな悪事だろうと簡単に手を染める。

 なので一見で信用するのは難しい。

 一応、冒険者ギルドの方で登録してある冒険者を管理しており、依頼の履歴やギルドへの貢献度、実力でランク付けを行なっている。


 一応、僕達三人も最低ランクで登録だけは済ませている。

『学院の生徒』で活動するよりも『冒険者』である方が色々と動き易いことが多いのだ。


 昨日の冒険者達もランクの程は分からないが迷宮に残されていた戦闘の後を見る限りではそこそこなのだろう。


 そんなことを考えていると受付の列が進み、僕達の番がやって来た。


「『これ』の査定をお願いします」


 ダンイナツが背負っていた袋から『核』を取り出して受付のカウンターに置いた。


「えっ。 こ、これは……! しょ、少々お待ち下さい!」


 そう言い残して受付の女性職員は足早に奥のドアを開けて行ってしまった。


「どゆこと?」

「さあ?」

「わからん」


 三人とも頭に?を浮かべる。

 どうすることも出来ないのでとりあえず『核』を袋に戻し、しばし待つ。


 すると奥のドアから先ほどの女性職員が現れ、戻ってきた。


「お待たせしました。皆様、こちらへどうぞ」


 そう言って受付は他の職員と交代して別室へと案内される。


「申し訳ありませんがこちらの部屋で小一時間程お待ち下さい」

「え、あの、ちょっと、説明とかーー!」


 女性職員はそそくさと出て行ってしまった。


 部屋の中を見渡せば、高級そうなソファーにイス、テーブル。

 テーブルの上にはこれまた高級そうな茶菓子が用意されていた。


「この部屋、貴族用の応接室じゃね?」

「多分ね。しかもかなり身分の高い貴族用の部屋ね。このソファーやイス、私の屋敷の応接室と同じメーカーだもん」

「え……、そう、なの?」

「茶菓子とかティーセットはうちでもよく見るやつだぜ」

「えぇぇぇぇ……」


 公爵とか侯爵の屋敷にある物と同等ってなんでこうなった?

 最低ランクの冒険者相手に普通ここまでの対応なんてしないだろ?

 となると持ち込んだ『核』が原因?

 こんなの貧乏伯爵のうちからしたら恐れ多くて触れないよ。


 などと僕が一人で考え込んでいるとラカダンとダンイナツの二人して優雅に腰掛け、お茶や茶菓子を楽しんでいた。


「ちょ、ちょっと二人とも! 何、優雅にこの状況を楽しんでんのさ!?」

「そうは言うけどさ、せっかく出してくれてるんだ。もったいないだろ、美味いぜ?」

「そーそー、今は言われた通り待つしかないでしょ。ん! このお茶、なかなかいい茶葉使っているじゃないの」


 なんか変だ。

 二人とも何か知っているに違いない。

 これまで知らない事や対処がわからないことがあるとほぼ間違いなく僕に聞いていたのにこの落ち着き払った態度。

 うーん、でも逆に知っているのに相談してこないってことは本当に待つしかない状況ってことか。


 仕方がないので恐る恐るイスに座り、恐る恐るお茶を飲んだ。


 ーー小一時間後。


 唐突にこの部屋にノックの音が響く。


「ーーはい、どうぞ」


 とりあえず僕が返事をすると女性職員にドアを開けてもらって立派な身なりをした一人の男性が入ってきた。


「失礼する。『巨大な核』を持ってきた冒険者と言うのは君達で間違いないかな? 私は王城よりの使者でルイドと申す」

「王、城……からの使者!?」

「その通り。さ、外に馬車を待たせてありますので乗って下さい。王がお待ちです」


 め、目眩がする。

 うちのような貧乏貴族が直接王様に会うなんて機会はない。王宮の片隅で働いている父でさえあっても年に一度、新年の挨拶程度だろう。

 王様の使者を名乗り、王様が待っている場所まで案内しようと言うのだ。


 これが嘘であればかなり重たい罪になるだろうがここまでする冒険者ギルドの対応から嘘ではないことが窺い知れる。


 うわっ、考えている間にラカダンとダンイナツ、着いて行ってるし。

 なんで何も聞かずに行くの?

 知らないおじさんに着いて行ったらダメって言われなかった?

 ……あー、もうわけわからん。

 行くしかない!



 馬車に揺られて王城へとやって来た。


 道中、使者同席の車内では重たい沈黙の空気が流れ、何かを聞けるような雰囲気ではなかった。



 結局、僕一人だけ悶々としながら、こうして謁見の間の前に三人並んで立っている。


 心の準備が出来ていないまま、目の前の豪奢な扉は容赦なく開いていく。


 開かれた先の空間には一本の赤い豪奢な絨毯が伸び、行き着いた先の数段上がった所に玉座があった。

 階段下には数人の騎士が両脇に並ぶ。


 扉が開ききるとまたしてもラカダンとダンイナツがまるで示し合わせていたように進み始めたので僕も慌ててその後を追う。


 騎士の先頭と合わせるような位置で止まり、その場で三人とも跪く。


 五分程だろうか?

 そのままの姿勢で階段上の脇にあった扉が勢いよく開き、誰かが歩いてくる気配がした。


 その人物は玉座に座った。


「面をあげよ」


 言われた通りに顔を上げるとそこには無精髭を生やし、やや不機嫌そうな顔で肘掛に頬杖、浅く腰掛けて足を組んで座っている人物、このソル王国の王、その人だ。

 そしてその隣にドレス姿の黒髪の女性がにこやかに微笑んで立っていた。


 陛下の隣にいるのは姫様かな?

 陛下には女性のお子様が二人いたと思うけど貧乏伯爵の我が家には社交界など縁のない話なので詳しくはよく知らない。


「この者達がロエロエスライムの核を持ってきた冒険者か。間違いないな?」

「はっ! 間違いございません」


 陛下が僕達の顔を確認した後、騎士へと問いかけた。


「『核』を見せるがよい」

「はっ! これにございます」


 ダンイナツが背嚢から核を取り出し、側にいた騎士に手渡す。

 騎士は階段を登り、王様の前で跪き『核』を陛下の前に捧げる。


「ふむ、見事だな。報告には聞いていたがここまでとは思っていなかった。よかろう。これは市井に回すより国で買い取った方が益になろう。代金は帰りに受け取るがいい」

「ありがたき幸せにございます」


 ダンイナツが代表して答える。


「さて、次は褒美をやらねばな」

「お待ち下さい、陛下」

「なんだ?」

「この者達は冒険者。ならば『核』の王国での買取の名誉に加えて陛下への拝謁が叶った事こそ、至上の褒美。これ以上は過分かと思われます」


 この騎士が言っていることも分からなくはない。

 一般的に冒険者が集めて来た『核』などの魔物の素材を王国が直接買い取る事はほとんどない。ほぼ信頼のおける冒険者ギルドなり商人を仲介させる。あったとしてもそれは王国が直接冒険者に依頼を出した場合に限る。


 王国が直接素材を購入すると言う事はその素材の価値を認めた、認められるほどの素材を手に入れて来た冒険者となり、一目置かれるようになる。

 また一介の冒険者が一国の王に拝謁できるなんて事も一生に一度あるかないかくらいの出来事だろう。


「そうだな。『核』の入手だけならば、それで十分であろうな」

「そうでございます。よし、お主ら下がってーー」


 陛下と話していた騎士が僕達へ振り返った時、


「だが、今回は違う。ライオットよ、聞いておるぞ? ……我が愛娘に加えてお主ら五人の命をも救ってもらったらしいな?」

「あ、いえ、そ、それは……」

「これは一介の冒険者であっても相応の褒美が必要な事案であろう。更に言えば、コノタナア公爵家の三女、コデンナ侯爵家の次男、ノエマオ伯爵家の次男。この者達に何の褒美も出さないとなれば、貴族達から余の狭量が疑われ、ひいては貴族からの信頼も地に落ちるわ!」

「げぇ!? こいつらーーいえ、この方々がコノタナア家など所縁の貴族ぅ!?」


 ライオットと呼ばれた騎士の顔が見る見る青ざめていき、何やらプルプルと震え出した。


 それもそのはず。

 コノタナア公爵家は先代の宰相を務めた名家。

 コデンナ公爵は現在の騎士団長を務めている。

 そんな貴族の子息なのだ。

 この二つの名家と知って怯まないのは王族か同格の貴族くらいだ。

 あ、ノエマオ家は法衣貴族、しかも閑職なので影響力は無い。

 むしろ陛下から家名が出た事にびっくりしているくらいだ。


「余の愛娘を守れなかったばかりか、その恩人を蔑ろにして余に恥をかかせようとするとは言語道断!! ライオットよ、本来であれば余に対する不敬罪で処罰する所だが、これまでの功績により不問と致す。だが二度は無いぞ、肝に銘じよ!!」

「はっ!」


 陛下のあまりの剣幕に膝から崩れ落ちるかと思ったが何とか踏み止まり、平伏するライオット。


 むしろ隣で聞かされている僕の膝の方が驚いて笑っているよ。


「見苦しい所を見せたな。許せ」


 先程と打って変わって僕らには柔らかな雰囲気を醸し出す陛下。


「では改めて我が娘を救ってくれたこと、礼を言う。王である前に一人の親として本当に感謝している」


 陛下は玉座から座ったままではあったが軽く頭を下げた。


「其方達には褒美を取らせる。確か学院に通っているのであったな。であれば、ラカダン嬢には国一番の杖職人が製作した杖を。ダンイナツには同じく国一番の剣職人が制作した剣を下賜しようではないか」

「「有り難き幸せに存じます」」


 あ、この流れだときっと僕も杖が下賜されるんだろうな。

 まいったな、僕にはもうビックマグナム最後の作品があるんだよなぁ。

 陛下から下賜された杖を使わないとか下手したら僕も不敬罪になるんじゃ?


「……そ、して、……カッデ、貴様には、ぐ、ぅぅうぎぎぎ、ク、クラストを、くれ、くれて、や……ろう」

「有り難き幸せに存じます」


 ん? ククラスト? ってなんだそれ。剣? 杖? どっちだろう? こんな名称の武器も工匠も聞いた事ないんだけど。

 陛下も随分苦しげにいうなぁ。

 そんなに惜しい武器って事は愛用していた、とか?


 ふと、ラカダンの方を見ると両目を見開いた驚愕の顔をしていた。

 反対のダンイナツの方も見るとアホみたいに口を閉め忘れたかのような間抜けな顔をしている。

 さらに言えば、騎士の面々も信じられないと言った顔で固まっていた。


 あれ?

 貰える武器ってそんなに凄いやつなの? 

 期待していいの?

 もしかして伝説の武器、とか?


 などと内心ニマニマしているとそれまで陛下の隣でにこやかに微笑んでいた黒髪の女性が僕達のいる階下まで降りて来ていた。


「さ、カッデ様、行きましょうか」

「はい? 行きましょうか、ってどこへ?」


 女性に差し出された手を深く考えず握る。


「ぐぬぬぬぬぬぬ、カッデぇぇぇ。クラストを幸せにしなければ国を挙げて貴様を始末するからなぁぁぁ! 肝に銘じておけよぉぉぉぉ」

「え? クラスト? 幸せ?」

「わたくしが『クラスト』です。カッデ様、貴方様の婚約相手のクラスト・クルス・リーズレット・ソルと申します。末長くよろしくお願い申し上げます」


「………………『クラスト』って、えぇ? はぁぁぁぁっ!?!?」


『クラスト』と名乗った女性と陛下の顔を交互に見る。


 僕の口はパクパクとするだけで次の言葉が出ない。


 確かに言われてみれば迷宮でスライムに取り込まれていた人によく似ているような……。

 つか、スライムを倒す事に集中していたからあんまり見てなかったんだよね。


 クラスト王女は先程以上にニコニコとしており、陛下は今にも血涙を流しそうな憎悪の視線をこちらに送り、「ギギギィ」と歯軋りをしていた。


「陛下、お話は以上で宜しかったでしょうか?」

「ぐぬぬぬぬ……」

「『ぐぬぬ』、いただきました。無いようなのでこれにて終了、と言うことで。失礼致します、陛下。カッデ様、ラカダン様、ダンイナツ様、行きましょう」


 僕達はクラスト王女に連れられて謁見の間を後にするとそのまま食事に誘われた。  



 案内された離れの屋敷の部屋には大人数、少なくとも10人以上がかけられる長テーブルがあり、そこにクラスト王女、僕、ラカダン、ダンイナツの四人が席についた。


「あの……クラスト様? なぜこんな座席位置なんでしょうか?」

「こんな、とは?」

「私とダンイナツが下座で座席一つ分、間が空いているのはわかります。……ですが何故、カッデが上座にいてクラスト様がその隣でそんなに密着しているんですか!!」

「わたくしはもうカッデ様の物ですので……ぽっ」

「頬を染めてないでちゃんと説明してくださいっ! なんでカッデなんですか!?」

「感じたのでのです。助けられた際に直感というか、運命を感じました。私は己の直感を信じます」

「ぐぬぬぬぬ」


 恍惚の表情で王族に「運命」と言われてしまってラカダンは陛下と同じく「ぐぬぬ」と唸るしかなかった。


 あんなに欲しかった婚約相手が降って湧いたように決まってしまったわけだが、何というか相手が王女様と言うのが自分でも信じられない。


 身分的に『無い事は無い』のだが、どうしてこうなった感が強い。

 ラカダンが何であんなに不機嫌そうにしているかわからないけど、今はクラスト様に婚約破棄されないように慎重に行動しよう。


 そうこうしていると食事が運ばれて来たので問答は一時中断して食事を始める。


 食事もメインディッシュが終わってデザートが出て来た頃、僕は少し眠くなってしまった。


「ふぁぁぁ、なんだろう。今日はなんだかいつもより眠たいな」

「陛下との謁見で緊張されて普段よりお疲れになったのでは?」

「そうかも。ふぁ〜、クラスト様申し訳ありません。せっかくのお食事でこんな失礼をするなんて」

「気になさらないで。お疲れのご様子なので今日は王城でお泊まりください。お部屋までご案内致しますわ」


 僕の返事も待たずに手を掴まれると半ば強引に席を起たされ、部屋から連れ出された。


「あ、ちょーー」

「ラカダン様とダンイナツ様はごゆっくりお食事をお楽しみ下さい」


 寝ぼけ眼の状態でクラスト様に手を引かれ、よくわからないうちに部屋に入る。ドアに鍵が掛けられたような音がしたが確認するのももどかしくらい眠い。


「カッデ様はベッドはこちらでございます」

「ん〜」


 手を引かれた先にベッドがあったのでいきなり倒れ込んでは失礼だろう。

 なけなしの気力を振り絞ってベッドの端に座った。


「まあまあ、もうお休みになられて結構ですのに。あ、そうですわ。お休み前にはお水を一杯飲んだ方がいいと聞いております。今お持ちしますわね」

「ありがとう、ござい、ますぅ」


「ささ、グイッとどうぞ」


 クラスト様から手渡された水を飲む。


 なんかいつも飲む水と違って喉越しが熱い。

 でもとても美味しい水だ。


「まぁ、イケる口ですのね」


 水を飲むのにイケるも何も無いと……あぁもう、ダメ。本当に眠、い、や。


 僕は唐突にベッドへ押し倒された。


「カッデ様、あとの事はわたくしがしっかりしっぽりヤっておきますのでゆっくり、ゆっ〜〜〜くり、おやすみ、な・さ・い・ま・せ」


 ドアの外、遠くの方でラカダンと、ダンイナツの騒が、しい声が聞こ、えて……く、る……よう……な。


 押し寄せる眠気に耐えきれず、僕は眠りに落ちた。


 ☆☆☆


「ハァ、ハァ……うふふ。やぁぁっと眠りましたわね。かなり強力な睡眠薬でしたのにカッデ様は耐性でもあるのかしら? ハァハァ、でもいいわ。じゅるり、これで優秀な種……ゲットですわ」


 そう言ってクラストはカッデのズボンの膨らみを数度艶かしく撫でた後、ゆっくりとそのベルトに手を掛けた……。


「それではそれでは、ご対面〜」



 カッデが連れ込まれた少し後。

 ラカダンとダンイナツは屋敷の中を走り回っていた。


「ダンイナツいた?」

「いや、二階は全部見たが見事に誰も居なかった」

「来賓の宿泊用の屋敷だからね。この時期は誰もいないでしょ。そうなると三階か」


 ラカダンとダンイナツは階段を駆け上がった。

 三階には三部屋しかなく、一階二階と比べると明らかに調度品の質が変わっていた。


「王族クラスのフロアだな、これ」

「今はそんなのどうでもいいの!」


 ラカダンが素早く右手の部屋のドアを開けるも室内は暗い。人気も感じられない。


「チッ!」


 苛立ったラカダンは左手の部屋へ駆け出し、勢いそのまま、ドアを蹴破る。


「チィィィィィッ!」


 残すは最奥の部屋のみ。

 一足先にダンイナツがと最奥の部屋のドアを開けようとするも鍵が掛けられて開かない。

 部屋の中からも僅かではあるが人の気配がある。


「この、このっ! 開けなさい! 開けなさいよ!! この発情したメス猫がっ!!」

「お、おい、ラカダン? 王女相手にヤバいこと口にするなって。気持ちは分かるが」

「うっさい、バカダン! カッデの貞操の危機なのよ! もう一刻の猶予も無いんだから! こうなったら……」

「ちょーー!! ここ、王族! 屋敷! 室内! 魔法! ダメ! 待てぇぇぇーー」

「【木っ端微塵】!」

「あぁぁぁぁぁぁーー!!」


 ☆☆☆


「決めたっ! 私……陛下に直訴する!」

「はぁ? 直訴?」


 翌朝。

 どうやら僕は昨日の夕食の後、何故だかよくわからない睡魔に襲われてそのままクラスト様の屋敷に泊めてもらったらしい。

 ラカダンとダンイナツもその流れで泊まったとの事。


 今はみんなで朝食を食べているんだが、ラカダンがパンを片手に突然立ち上がって話し始めた。


「そう! 昨日、下賜された杖の褒美を辞退して代わりのお願いを聞いてもらうことにする」

「おいおい、それって大丈夫なのかよ?」

「何言ってんの。『大丈夫にする』のよ。お父様、お母様、お爺様から口添えして貰えばイケるでしょ。よし、そうとなれば『善は急げ』よ。じゃ、私これから陛下に拝謁の予約を取って色々してくるから!」

「……おー、よくわからんが頑張れ」

「それではクラスト様、お世話になりました。……私、負けませんから」


 朝食も早々にラカダンはパンを片手に屋敷から走り去っていった。


 公爵家の令嬢が王女に対してあの態度。

 俺と過ごしたことで貴族令嬢としての礼儀やマナーがすっかり二の次になってしまった。やればできる子なんだがなぁ。

 クラスト様、機嫌を悪くしていないといいんだけど。


 隣を見れば、昨晩の夕食時と同じく、いやその時以上に身体を密着させているクラスト様。


「ハァ……まさか短杖だと思っていたらとても『立派な』剣でした……ハァ、今から楽しみすぎますぅ」


 あ、まだダメだこれ。

 朝、顔を合わせてからずっとこれなんだよな。

 短杖とか剣とかなんの事だろ?



「あー、今日は君達に仲間が増える。仲良くするように。あと色々と察するように」


 それだけ言うと学院での担任は教室を出て行った。

 ざわつく教室内。

 開く扉。

 現れたのはーー。


「カッデ様ぁー!」

「い!? クラスト様?」


 昨年学年を卒業したはずのクラスト様がなんでここに!?


 クラスト様が満面の笑みでこちらに向かって小走りで駆けてくる。

 そしてそのまま隣の席に座って速攻で密着して来た。


 あ、あれっ?

 僕の隣って他の学生が居たはずなのに周りにはラカダンしか居なくなってる!?

 みんな、察し良すぎない!?


「来ちゃった、てへっ」

「『てへっ』、じゃなくてクラスト様って確か去年卒業されましたよね? 王国の魔術師団に入りませんでしたっけ!?」

「あ、それ? もちろん、辞めてきたよ」

「……えぇぇぇ」



 昼休み。


「そうそう、ラカダン様」

「ん、何でしょう?」


 クラスト様とラカダンと三人で中庭で昼食を取っている。

 普段なら多数の学生で賑わって居るんだけど、在校当時から近寄り難かったクラスト様が『何故か』また学院にいると言う事で皆、不思議がって遠巻きに僕らを観察している。

 つまり中庭は現在貸し切り状態だった。


「今朝、陛下から伝言を預かっておりました。『よし、承認した! 大いにやれ! 絶対に勝て!!』だそうです」

「……ふ、ふふふ。ありがとうございます。伝言承知しました」


 しれっとクラスト様が伝えた内容に下を向いていたラカダンの瞳が妖しく光った様な気がした。


「だ、大丈夫か? どうかしたのか、ラカダーー」

「カッデっ!!」


 鬼気迫る表情でラカダンが僕の名前を呼んだ。


「私、ラカダン・ナキスガト・コノタナアは貴方に婚約を申し込みます!!」

「!?!?!??」


 僕は口に含んでいた飲み物を吹き出してしまった。


「ゲホッゲホ、一体何言ってんだよ! ラカダンには婚約者がもういるだろ!? 僕と婚約出来るわけがないだろ」

「あれは破棄したわ」

「貴族同士の婚約だよ? そんな簡単に破棄出来るわけーー」

「陛下公認よ」


 うそーーん。

 ラカダンの相手、王位継承権こそ低いものの王族じゃなかったか?


「ちょ、ちょっと待ってよ。そもそも何でいきなり僕と婚約なんて話になるの? 正直、突飛過ぎてーー」

「……好きなの」

「は、い?」

「……私は初めて会った時から『あなたのことが好きなんだから』!!」

「え、な!? そ、そんなの初耳なん、だけど!?!?」

「…………ばか」


 俯きながら顔を真っ赤にしながら呟いたラカダンを見て、僕も耳まで真っ赤になったのを感じる。


「あー、カッデは鈍感だからなぁ。側から見ていれば、結構わかるぜ?」

「ダンイナツ! いいところに来た! この状況、何とかーー」

「俺も取ってきたぜ」

「え? 何を?」

「陛下の承認。婚約解消の」

「は? 何言ってんの? バカなの? 死ぬの?」


 ダンイナツも婚約相手がいる。ラカダンとは違う公爵家の令嬢のはずだ。


「…………好きなんだ」

「なんて?」


「俺もカッデが好きなんだよっ!!! カッデが好き過ぎたから今までずっと、ずっと一緒にいたんだよ!!」

「…………え?」

「だから全てを捨てて午前中、陛下に訴えて来た。陛下も快く承認してくれたよ」


 いや、そんな憑物が落ちたようなスッキリした顔で言われても、ね?


「だからカッデ、俺と、婚約、してくれっーーー!!!」


「「「……」」」


 ラカダンの時はニコニコ顔でことの成り行きを見守っていたクラスト様も顔を赤らめていたラカダンも僕もこの告白には硬直するしかなかった。


 一体どうしてこうなったのか。

 二人ともどうやったら陛下に公認なんてしてもらえるんだろう?

 ……利害が一致したか。

 他国では一夫多妻制もあるみたいだけどこのソル王国は基本的に一夫一妻制。

 ラカダンもしくはダンイナツ(いや、絶対無いけど)が僕と正式に婚約すればクラスト様が帰ってくると思ったのか。

 陛下、強権発動過ぎない?


 僕の目の前では三人がニコニコとお互いを牽制しているように見える。

 いったいこの場をどう収めたらいいんだ。

 誰か助けてー。


 そんな時、緊迫の場面を崩すようにクラスト様が口を開いた。


「わたくしに引く気はございませんよ? でもお二人もそれは同じなのでしょう?」

「もちろんよ」

「そりゃな」

「全てが丸く収まる方法が無いでも無いです」


 何っーー!?

 クラスト様、それはいったいどんな方法なんですか!?


「一夫多妻制、です」

「このソル王国は一夫一妻制よ? あ、もしかして」

「他国に全員で亡命、か」

「それも選択肢の一つですがどちらかと言うと最終手段ですわね」

「と、言うと?」


 ラカダンがクラスト様に先を促す。


「皆さん、お忘れですか? 『英雄、色を好む』。ソル王国の初代国王が決めた英雄特別制度」

「「あ」」


 ナニソレー。

 そんなの初耳なんですけどー。

 なんかとてつもなく嫌な予感がするんですけどー。


「著しく国に貢献した者や」

「著しい功績を成し遂げた者は」

「「「一夫多妻制を認める!」」」


 ナニソレーー。


 三人の僕を見る目つきが明らかに変わった。

 さっきまで互いを牽制しながら見ていたのに一夫多妻制の可能性を認識してからは歴戦を渡り歩いて来た戦友を見る目になってるし、三人で手を重ねて団結してるし、頷きあってるし……なんかヤバイ。


 この隙に乗じて逃げないとーー


「カッデ様?」

「どこへ行くの」

「さ、四人で偉業を成し遂げに行こうか!」

「いや、僕は別にーー」

「まずはどうしましょう?」

「動きやすいように冒険者として活動するか」

「そうね。クラスト、冒険者ギルドの登録は?」

「昨日まで魔術師団にいましたので……

 」

「ならまずはクラストの登録だな。行こうぜ!」

「ねえ、僕の意見は? 僕の意見は? ねえ!?」


 その後、ソル王国に初代国王以来、初めて一夫多妻制を認められるほどの偉業を成し遂げた者が現れたがいつ見かけてもその顔色は優れなかった……らしい。


 終わり

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[良い点] 馬鹿馬鹿しいけど面白い ラカダン頑張れ、と思ったけど見事全員娶ったのか それはそれでめでたい
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