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君はホログラム、そうに決まってる

3回目の今、僕の鼓動はこれまでにないくらい早くなっている。胸がザワザワする。僕は草原。君は春一番。


「ね、いいでしょ」


君が言う。




僕は震える手でスマートフォンを取り出して、グーグルカレンダーを開いた。


大学に来る以外の予定はないことを知っていたけれど、あんまり予定がない男だと思われるのもよくないかなって思ったんだ。


僕は少し思案するふりをしてから答えた。


「いいよ。2月2日の土曜なら」


思い切って君の誕生日当日を言ってみた。




だってこれも夢に違いないし。


僕は頭も悪いし、バスケットボールも下手くそだし、君みたいな素敵な女の子だって、現実にはいる訳ない。きっと幻だ。ホログラムの君が、ホログラムの服を着てるんだ。


例え現実に君が存在するとしても、僕と旅行になんて行かない。


君はきっと、ごめんなさ〜いその日は駄目なの〜って言うだろう。いかにも冴えない男をからかって、楽しんでるんだから。


誕生日にはホテルで彼氏と過ごすに決まってるし、ベッドの中で、アイツ本気にしちゃってたよ〜なんて言って、僕のことゲラゲラ笑うつもりなんだ。


徹底的に道化になってやるのが、僕がプライドを守る唯一の方法のような気がした。




「あ、その日がちょうど、誕生日なの。お祝いしてくれる?」




えっ。いたずらっ子のような顔で僕を見る君は、天使というより悪魔に見えた。


ピンクの花柄の黒いワンピースに、かかとの低い赤い靴。頭には赤いリボンのカチューシャ。まるで子供のファッションだ。


それについて影であだ名をつけられて、笑い物になっているのも知ってるけれど、君はてんで気にしていないみたいだね。


君って、そういう所がすごく良いんだ。




頭にリボンの君が、大人の女みたいに僕を誘惑する。何がどうなっているんだろう?僕には全てがわからない。


僕はいつの間にか怪訝な顔をしていたのだろうか、どうしたの?と僕の顔を覗き込む君。


初めて見た君の瞳は、不安げな光をたたえながら静かに動いている。それがあまりに美しいから、僕は正直になってしまった。




「何でもないよ。ただ、君は本当にこれでいいのかなって、思って……」




僕は君が行きたがっているペンションのページをもう一度見た。


おとぎ話のペンション。ここの食事が素敵だって、君は言った。


「もちろん」


君はホッとしたような表情を浮かべた後で、ニッコリと笑う。


「ねえ、わたしもそれって、好きよ」


君は、机の上に置いていた僕の鞄のキーホルダーを、ツンとつつく。




じゃあ、予約お願いね、と言い残して去って行く君の歩き方は、まるでフランス映画の女優のように気取っていた。鞄にぶら下がったスヌーピーが揺れている。僕の頭も。

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