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君を泣かせた僕

「バス停だ!」


しかし、すでにバスが停まっている。僕は全力で走った。

「すみません!そのバス乗ります!」

さらに大声で叫んでもみた。ぴょんぴょん飛び跳ね、運転手へのアピールもした。しかし、何かの書面に目を落としている運転手は、僕に気がつかない。


やっと顔を上げたと思うと、彼はまっすぐ前を見て、バスの扉を閉めた。

待って!僕はまた叫んだが、届かない。駅に向けて走り出すバスの横腹を見たら、全身の力が抜けていった。

へなへなとしゃがみ込む僕の上に、容赦なく雪が降りつける。襟元に入り込んだ雪が冷たくて腹が立った。


ここから駅までは歩けない距離ではないが、終電には間にあわない。

ゲームオーバーだ。


しばらくすると、千歳さんがトコトコと坂を下ってくるのが見えた。

相変わらず、歩くようなスピードで、腕の振り方だけが小走りのそれだった。


「バス行っちゃった」

「えっ」

「もう少しで間に合ったんだ。もう少しだったのに」

「……」

「もう少し早く走ってくれたら間に合ったんだ。もう少し一生懸命に」

「わたしのせいってこと……?」

「わたしのせいっていうかさ、全部千歳さんのためだろう。そもそもここに来たいって言ったのは千歳さんだし、パパに隠してたのも千歳さんじゃないか。もう少し自分で何とかしようって頑張ってくれたっていいじゃない。不貞腐れたり、泣いたり、黙ったりしていないでさ!」

「……」

「あ、あ、ご、ごめん、泣かないで」


千歳さんはヒクヒクとしゃくりあげながら泣いていた。今度はパパじゃない。僕が泣かしたんだ。好きな女の子を泣かせるなんて。僕はどうかしちゃったのか。


「千歳さん、ごめん。僕もちょっと疲れてた。千歳さんは悪くない。でもさ、とにかくもう諦めるしかないんだ。電車はなくなっちゃった。でもこの吹雪の中こうして道端に立っている訳にもいかないだろう?周りには何もないし。ペンションに戻らなくちゃ」


僕は千歳さんに、そして自分に言い聞かせた。なるべく優しく、穏やかに……。


千歳さんの背中にそっと手のひらを置く。コート越しでもすごく温かい。氷のように冷え切っていた僕の指先が、その強いぬくもりを堪能していた。

スマートフォンを操作するために外していた手袋を、再びつける。千歳さんからもらった熱をこうして閉じ込めるのだ。


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