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9杯目の麻婆丼

僕は立ち上がり、長テーブルの上の丼を掴むと、炊飯器から白飯を山ほどよそった。そして、黒い麻婆豆腐をこれでもかとその上にかけ、さらに唐揚げを2つ乗せると、千歳さんの前に置く。

びくりと顔を上げた千歳さんの顔は、化粧が落ちて目元が真っ黒だった。


「食べて。それ食べたら、麓まで歩く」


千歳さんと、ペンションの女性が同時にえっと声をあげた。


「お客様、この吹雪の中を歩くのはかなり危険です。地元の者も、吹雪の夜は出歩きません。悪いことは言いませんから、今日はお泊りになって下さい」


「ありがとうございます。でも僕たち、帰らなくちゃいけないんです。」


僕の頭の中には、カタブツ数学教師の顔が浮かんでいた。

僕は千歳さんと結婚する。もう決めている。今千歳さんを家に帰さなければ、数学教師に嫌われたままになり、結婚を阻止される可能性がある。必ず千歳さんを送り届けて、数学教師に誠心誠意謝る。結婚を許してもらうためなら、土下座でも床舐めでもなんでもするさ。僕たちは結ばれなければならない。吹雪の夜でも、きっと運命が味方する。

その時、僕の中には何か確信に近いものがあった。


「道もわからないでしょう」

女性はほとんど怒っているような調子になっていた。

「地図アプリがあります」

「でもねえ」

「いいんです。行かせて下さい」

僕は女性の言葉を遮った。女性は諦めたのか、呆れた様子で暖簾の中に戻って行った。


「ほら、千歳さん、冷めちゃうよ」

声をかけると、呆けた顔で僕を見ていた千歳さんが、我に返った。

「ほんとに、帰れるの」

「大丈夫。地図を見ながらなら迷わないし、この吹雪じゃ車も通らないから逆に安心だよ。来たとき通った道をずっと下っていくだけさ。アプリによると45分で麓に着く。ギリギリ最終バスにも間に合う」

「ありがとう……」

「千歳さん、元気がなくなっちゃっただろう。だから、それを食べて元気を取り戻してから出発しよう」

「うん!」


千歳さんは僕が盛り付けた麻婆丼をすごい勢いで完食した。


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