まんじゅうと戦え
僕の膝の上にはあと九個、饅頭がある。
隣を見ると、君はすでに食べ終わって、ペットボトルのお茶を飲んでいる。
僕はそっとリュックのジッパーを引いた。
こっそりと饅頭をリュックに放り込もうとしたのだ。ジジジというジッパーの音が、いつもより大きく感じた。
君は饅頭屋の前にある蒸し器の湯気を眺めている。今だ。
僕はリュックに饅頭をひとつ、ふたつ、と放り込んだ。
しかし、三つ目を掴んだところで、ふと、罪悪感に襲われたのだった。
君の常識を、君の好意を踏みにじっているような気がしたのだ。好きな女の子が、僕のために買ってくれた饅頭なんだ。それなのに僕は。
僕はジッパーを閉め、饅頭のビニールを剥いだ。黒糖の香り。頬張りながら、またビニールを剥いだ。さらにビニールを剥いで、また剥いだ。
口の中がひたすらに甘い。饅頭が甘すぎることで、饅頭の甘さを感じない。感じないなら食べられる。僕はひたすらビニールを剥いで、饅頭を口に放り込んだ。
「おいしいね、これは何個でも食べられるね」
強がりを言った。言わないと挫けそうだった。
「ほんとだね、帰りにまた寄ってもいいね」
君は笑って言った。
「い、いや、それはすごくいい提案だけどさ、ほら、他にも色々お店があるしさ、色んなものを食べてみようよ、せっかくだし、ね」
「じゃあお土産買うね」
君はまた饅頭屋に入っていく。僕は足元に散らばったビニールを拾い集め、丸めてズボンのポケットに押し込んだ。真冬なのに、じっとりと汗をかいていた。