モジュールな女の子 ~ハイリンダの青春録~
市場の片隅で木箱に座る女の子。ボロを纏い髪はゴワゴワだったが、その手にしていたリンゴがやたらと新鮮だったのが彼女の目に留まった。
「あなたもコッチ側の人間なんでしょ? 肌で分かるわよ」
目を鋭く光らせながらジロジロとハイリンダを眺める女の子。見た目はハイリンダより一回り小さく、脚をプラプラとさせながらリンゴを一口でガブリと口へと放り込み、その大きな口にハイリンダは不思議な嫌悪感を感じた。
「……名前は?」
「この前はサリーだった。その前はリンダ。その前は……忘れたわ」
「今は?」
「無いわ。引取先の気に食わない奴を血祭りにしてたら、誰も私に近付かなくなってしまったから。かれこれ三ヶ月は一人」
「そ、これで美味しい物を食べなさい」
ハイリンダは金貨を一つ手渡しその場を立ち去ろうとしたが、足が縺れ転んでしまった。
「待ってよお姉ちゃん。私に名前を付けてよ……」
「嫌よ。面倒事は私だけで十分。貴女も一人で生きなさい」
「……ふぅん」
女の子が手を突き出し捻ると、ハイリンダの足首があらぬ方向へとねじ曲がり始めた。お直接触ってはいないものの、何やら神懸かり的な力で折れたことだけハイリンダは直感的に分かった。
「!?」
「コッチ側の人間をやるのは久々……だから手加減しない」
──ボギッッッ!!
「……アガッ!!!!」
ハイリンダの足の骨が折れる音が辺りに響いた。
「次は肋骨を折って肺に刺す。その前に私に名前を付けて可愛がってよね、お姉ちゃん?」
「だっ、だれがアンタのお姉ちゃんなんかに……!!」
ハイリンダは折れた足首を左手で押さえながら、右手でバッグから黒い表紙の本を取り出し開いた。そして指でなぞりながら極めて攻撃的な詠唱を始めた。
「おっと、それ没収~」
──ボギンッ!!
「あぁ……!!」
女の子の右手の動きに合わせるように、ハイリンダの右腕があらぬ方向へとねじ曲がり、腕の骨が激しく折れる。本はポロリとハイリンダの手から滑り落ち、女の子はそれを拾い上げた。
「……何これ、ちっとも読めないじゃない……」
女の子は本を放り投げ、両手を突き出した。
「もう良いわ。さよなら」
そして両手を握り締めハイリンダの肋骨を思い切りへし折った!!
──ボギボキボギィィィィ……!!
「ぐっ……ふ……!」
肺から溢れ出した血を口から大量に吹き出し、ハイリンダはその場に倒れてしまった……。
「……異能は私だけでいいの。頂点は一人だけ……」
女の子は放り投げた本を再び拾い上げ、歩きながらペラペラとめくった。
「うげ、何これ。訳分かんない絵と文字しか無いじゃん。これ売れるかなぁ?」
更にペラペラと捲ると黒いボロを纏った骸骨の挿絵に目が留まった。
「死神かな?」
「そうよ。私とは一番縁の無い奴……」
「!?」
驚いた女の子が振り向くと、そこには血溜まりにフラフラと立つハイリンダが居た。
「な、何で生きてるの!?」
「生憎、死ねない体なんでね」
「ウソ……ウソよ!!」
──ゾワッ
「ヒッ!」
冷たい感触が女の子の頬を撫でた。
女の子が震えながらゆっくりと振り向くと、指は白骨で体は黒いボロを纏っており、頭は骸骨の死神がニヤリと立っていた……。
「あ、あ……あ……!」
「連れてって良いわよ。その為に面倒臭い詠唱までしてアンタを読んだんだから」
「やだ……止めて……お、お願い!!」
「カカカカ……」
黒い死神は顎を鳴らし女の子をガッシリと掴むと、闇の中へと消えていった…………。
「ふん、生意気なガキめ……」
ハイリンダは本を拾い上げ、ヨロヨロと歩き出した。
「いててて……これ三日は無理だわ……宿代が……くそっ!」
ぶつくさと文句を垂れながら、ハイリンダは去って行った。




