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久重路さんと  作者: 才野 泣人
1/3

「あれ?」


 朝、教室に入ると既に久重路さんが座っていた。

 ........俺の席に。


 右手には文庫本、左手には缶コーヒーと小洒落ている。


「あ!ごめん!」


 俺に気づいたらしく慌てて立ち上がろうとする。


「いいよいいよ」


 そう言うと俺は久重路さんの一個前の席に座った。


「おはよう。今日は早いんだね」


 久重路雛子くじゅうろひなこ。真っ黒なボブに白い肌。その人柄の良さから狙う男子は数多い。


「雨だからね。電車も混むし一本早いのに乗ったんだ」

「なるほど」


 カバンを置くと後ろを向く。


「この席いいよね。窓際で、外がよく見えて、日当たりが良くて」


 彼女も本とコーヒーを一旦置いてお話モードに切り替えてくる。


「まぁ生憎今日は雨だけどね」

「それがまたいいんだよ」


 なかなか不思議なことをおっしゃる。


「雨の日の朝にさ、誰もいない教室の窓際で雨音を窓越しに聴きながら、コーヒー片手に本を読む。憧れない?」

「それで俺の席にいたのね...」


 なんだ、ちょっとドキッとした自分が馬鹿みたいだ。

 確かに久重路さんの席は真ん中後方でこのシチュエーションには向かない場所だ。


「それにしてもコーヒー飲めたんだね」

「このために練習したの」

「それ努力の方向間違ってない?」


 久重路さんは時々天然な言動をする。そこが人気のあるポイントの1つでもあるんだけど。


「いいの。本にコーヒーは付き物でしょ?」

「分からなくはないね」


 確かにさっきの絵は様になっていた。


「ねぇ、高梨くんは年上と年下どっちが好き?」

「.....すごい唐突だね」


 一瞬返事に迷った。


「さっき読んでた本がね、年上のセンパイに翻弄されるっていうラブコメだったから。何となく気になっちゃってね」

「なるほど」


 というか久重路さんもライトノベル系読むんだな。ちょっと意外だ。


「そうだなぁ...。どっちかというと年上かな?」

「へぇー」


 後ろに(棒)って付きそうな伸ばし音。


「何その反応」

「なんか予想通りすぎて」


 2択なのに想定外を求める方が無理あるだろう。


「年上のお姉さんでさ、世を捨てたような目をしながら細いタバコ吸ってる人がいいな」


 流石に欲望出しすぎた感あるな。これは引かれるか。


「すっごい分かる!」


 そんなことはなかった。


「曇天のベランダだったらさらにいいシチュエーションだね」


 むしろ乗ってきた。


「逆に久重路さんはどっちなのさ」

「私は...同い年かな」

「あっ、ずるい」


 隠しコマンド的な要素。まぁ3択だったとしても俺の答えは変わらないけどね。



 突如ガラガラッ、と前のドアが開く。


「おはよー!」

「あ、おはよう花梨ちゃん」


 幸崎花梨ゆきざきかりん。2年間同じクラスだけど正直あんまり喋ったことない。


「また後でね。高梨くん」


 そう言って彼女は自分の席へと戻っていった。


 そう言えば久重路さんっていつ来ても既に教室にいたよな。

 今日みたいに早く来ればまた話せるのかな。


 そんなことばっかり考えていてその日の授業はあんまり身に入らなかった。


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