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月と海

作者: 倉下 漂

2月の満月の日。

半年前から取っておいた有給休暇を満喫するために私は小舟で海にでた。


辺りは暗く、月明かりが暗い海を照らす。

月から伸びる光の道を小舟を漕いで進んでいく。


振り返ると遠くに民家の明かりが陸にある星のように見える。

舟を漕ぎつかれた私は月夜を眺めながら休憩する。

空に浮かぶ満月と月明かりでも霞まない星。小舟を揺らす波の音。

世間から離れ、孤独に似た感覚が心地よい。


狭い小舟の中、月明かりを頼りに道具を準備する。

豆を挽き、お湯を注ぎ、抽出する。

カップの中に小さな夜の海が出来上がる。

小さな夜の海にも満月は綺麗に輝いている。


満月の夜、海の上で一人で淹れた珈琲を飲みながら人生を振り返る。

夜の黒い波が小舟を揺らす。

小舟が揺れるたび、これまで関わった人たちを思い出す。


家族、親戚。親孝行なんて出来なかったな。心配ばかりかけてごめんなさい。

友達。自分のような面倒な人間の相手をしてくれてありがとう。

付き合っていた人。いい人を見つけて幸せになってもらいたいな。

同級生。今どこで何をしているのか、気になったりするけど関係ないか。

会社の同僚、先輩、後輩。今日も仕事で疲れているんだろうな。

好きだった人。顔も思い出せないけど元気だといいな。


夜の海はそんな思い出を全部受け止めてくれる。いや、押し付けているだけなんだけど。


遠くに見えていた陸の星は消え、月は頭上で小さな小舟を照らす。


珈琲を飲みほした私は背中から夜の海に身を預ける。

月明かりが揺れる水面を眺めながら暗い海に沈んでいく。

作者の理想の終わり方

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