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おいでやす京都、モフモフ大パニック 5

 それはまるで刃と機銃の花束のようだった。


『シェルバリア!』


 華恋が成長する長杖『ブレイブハート』を構えて、無属性下級魔法(レベル3)『シェルバリア』の守りを仲間全員に行き渡らせるのと、少女の両腕の武器の花束が火を吹いたのはほぼ同じタイミングだった。


 仲間たちの身体を卵の殻のような半透明のバリアが包み込み、少女の腕からばら撒かれた凶弾からその身を守る。

 銃が効かないと見るや否や、少女はすぐさま両腕を巨大なチェーンソーへと変化させた。

 そのまま背中からジェットブースターをガシャガシャと生やすと、近くにいた零士へと背面のジェットを噴射させて一気に肉薄する。


 零士はそれを自分の影の中に潜って回避すると、朔夜が操る大量の影の手がアンドロイド少女の身体を雁字搦(がんじがら)めにして動きを封じ、零士が足首を掴んで影の中へと引きずり込む。


 影の中に腰まで引きずり込まれたアンドロイド少女は、影の中にいることによる闇属性の継続ダメージで身体の各所からプスプスと煙を吹きだしはじめた。

 と、次の瞬間――――――


『UGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』


 少女が力の限り吼えると、その身体が淡く光りはじめて、影の拘束をブチブチと強引に引きちぎるとブースターを噴かせて影の中から脱出した。

 魔力を体の周囲に纏わせ、その魔力光で自らが光源となって影の力を弱めたのだ。


()ァッッ!」


 影から少女が脱出するタイミングに合わせて、燃え盛る巨大な掌が少女に迫る。剛の魔力拳で打ち出した聖なる炎を帯びた掌底圧だ。

 白熱する聖なる炎が轟! と燃え盛り、空に逃げようとした少女を巻き込んで押し出し、壁にめり込ませる。


『サンダーブレイク!』


 そこへさらに畳み掛けるように華恋の雷魔法が炸裂した。

 だが、壁に激突して雷を受けたにも関わらず、少女は殆どダメージを負っていなかった。身体の周囲に纏っていた魔力がバリアとなってその身を守ったからだ。

 剛の攻撃だけはバリアを貫通して機体の内部にダメージを与えていたが、それも自動修復機能ですぐに癒えてしまった。


 背中のブースターが再点火して、貫通攻撃を使う剛を最大の脅威であると認定した少女が、両腕のチェーンソーを唸らせながら一気に肉薄する。

 踊るようなチェーンソーの乱舞を紙一重で躱して、振り抜いた少女の右腕を掴むと、そのまま相手の突進の勢いを利用して、ぐるんと一本背負いのようにしてアンドロイド少女を床に叩きつけた。


「離れてっ! 『ディスペル!』『サンダーブレイク!』」


 華恋の呼びかけで剛が飛び退くと、少女の身体を覆っていたバリアが霧散して、そこに雷が突き刺さった!

 しかし、着ている服の魔法抵抗力が高いのか、然程ダメージを受けたようには見えない。


 アンドロイド少女は再び両腕を変形させると、今度は華恋を標的に定めて大量のミサイルを発射してきた。

 マックスがミニガンで弾幕を張ってミサイルを何発か撃ち落とし、残ったミサイルを剛の魔力拳がまとめて一掃する。


 ミサイルの爆発に隠れて少女へと迫った美香が、ミスリルの剣とエメラルドソードをギラリと閃かせ、少女の服だけを切り裂いてその身体を文字通り丸裸にした。


「今だよレンちゃん!」

『サンダーブレイク!』


 三度目の正直は今度こそ少女へと突き刺さった。

 10憶ボルトの高電圧をモロに受けたアンドロイド少女は、『ガガガガ』と変な音を出して小刻みに震えると、やがて口からボシュゥ! と煙を吐いて完全に停止した。


「こ、壊れちゃったかな……?」

「いや、多分大丈夫じゃないか?」


 零士たちが見つめる中、アンドロイド少女の身体の傷がみるみる癒えて元通りの綺麗な姿に戻っていく。

 ついでに破けてしまった服も元通りになり、1分と経たないうちに少女は元通りに復元される。

 機械とはいえ、少女の姿をしたものに攻撃するのはやはり抵抗があったが、壊れたわけではないらしいとわかり、華恋はようやくホッと表情をやわらげた。


『自動修復完了。AIを初期化。再構成開始……不明なアクセスを確認。人格データをダウンロード……完了。再起動します―――――――』


 ブゥン、と耳元のパーツが発光して、少女がぱちっと目を開ける。

 完全に目を覚ましたアンドロイド少女は、零士たちの顔を一人ずつじっくりと眺めると、


『おっぱい!』

「きゃっ!?」


 華恋の胸に飛び込むと、そのまま胸の谷間に顔を埋めていやらしい手つきで大きな胸をこねくり回す。


『ぐふふ! たまらんのぅたまらんのぅ』

「ちょ、やだ、この子手つきが……やっ、そこはダメ! ひゃうっ!?」

「あっ、ずるいぞ……じゃない! やめんか!」

『ぐえっ!?』


 零士が本音を漏らしながら少女の頭にチョップを振り下ろして、首根っこを掴んで華恋から引きはがす。


『HA☆NA☆SE! 野郎の胸板なんぞに用はないわい!』

「させるか馬鹿たれ! 俺だってまだ触った事ないんだぞ……じゃない! 嫌がってんだからやめろっての!」

「べ、別に零士くんなら嫌じゃ……じゃなくて! ちょっとびっくりしちゃっただけだから、あんまり乱暴にしないであげて?」


 突然もにょもにょとイチャつきだしたバカップル二人。

 夏休み以降、ダンジョン攻略や文化祭のバンド練習で忙しく、カップルらしい事を何もしてこなかった反動が今になって急に出たらしい。


「けっ、爆発しろ……って、いつもしてるか。分身が」


 よくよく考えれば零士がいつも爆発していることに気付いて乾いた笑みを浮かべるトミー。


『ええい、放せ! 放さんか! 全く、突然イチャイチャしおってからに……』


 零士が渋々手を放すと、少女は乱れた襟元を直して不機嫌そうにフンッと鼻から息を吐いた。


「で、なんなんだよお前」零士が訊く。

『何、と言われてもな。名無しの多機能ヒューマノイドとしか答えようがないのぅ』

「多機能、というと、じゃあ例えばどんなことができるんだ?」


 と、今度は腕を組んだ剛がいまいちピンときていないような顔で訊いた。


『やろうと思えばなんでもできるぞい。ムラムラしたときの性処理から家事仕事全般、育児にペットのお世話、おつかい、要人警護、戦闘、通訳、アイテム鑑定、家電製品の配線工事にパソコンまわりのトラブルシューティングにムラムラしたときの性処理まで。なんでもばっちこいじゃ!』

「なぜ性処理二回言ったし」


 呆れたようにトミーがつっこむ。

 どうやらこのアンドロイド、機能は優秀だがそれを制御する人格(AI)はポンコツのようだ。


『んなもん重要なことだからに決まっとろうが! ちなみにワシ、かなーり頑丈じゃから、どんなハードプレイでも対応できるぞい?』

「いや、そこまで聞いてねぇし!」

『またまたぁ、そんなこと言って実は興味深々なくせにぃ~。興味のないふりをして実はワシのロリ穴を狙っておるんじゃろ? エロ同人みたいに! エロ同人みたいにっっ‼ ちなみに専用のアタッチメントを付ければ女の子の相手もできるぞいぐへへへへ!』

「穴とか言うな!」


 下品なジェスチャーで自分の性能をアピールするポンコツアンドロイド。

 突然ロリコン疑惑をなすりつけられたトミーからすればたまったものではない。

 なお、彼の名誉のために明言しておくが、彼は年上の綺麗なお姉さんが好きなのでロリコンでは決してない。


「と、ところでさ! 名無しってことは、まだ名前無いんだよね?」


 聞くに堪えない下品な会話を断ち切るように咳払いしつつ、少し顔の赤い美香が強引に話題を変える。

 見た目的に一番『そういう事』に慣れていそうだと思っていた美香がみせた予想外の反応に、少女が一瞬ニヤリと口元を歪め、それからすぐに子供らしい無邪気な笑みを浮かべて、


「そうなんじゃ。誰かワシにいい名前を付けてくれんかのぅ?」


 とおねだりするように言った。


「どうする?」零士が全員の顔を見て訊く。

「あ、じゃあエリザベスなんてどうかな」

『そんなバタ臭い名前嫌じゃ!』


 珍しくまとも(?)だったマックスの案は本人が嫌がったため却下された。


「では花子というのはどうだ?」

『えー、なんか便所臭いからやじゃ』


 剛の案も却下された。ロボットのくせに贅沢なやつだ。


「じゃあリリカなんてどう?」


 と、次に手を上げたのは美香だった。


「それってもしかして10年前にやってた日曜朝の?」

「そうそう、魔法少女マジカル☆リリカ! アタシあれ好きだったんだよねー。なんか見た目もそれっぽいじゃん? ってかトミー知ってんだ」

「まあいわゆる人生ブレイカーってやつだな」


 魔法少女マジカル☆リリカ。国の探索者イメージアップ戦略の一環として制作された()()()()のアニメだ。

 ある日偶然出会った不思議な猫(?)のようなマスコットに導かれ、魔法のステッキを手にして魔法少女となった9歳の少女リリカと、異世界から地球を侵略しにきたダンジョン魔王軍との戦いを描く、愛と勇気の王道ストーリーとなっている。


 だが、潤沢な製作費を使った日曜朝のアニメとは思えないほどの作画クオリティや、ヒロインの可愛さなどで多くの男性ファンを取り込み、『大きなお友達』とその予備軍を量産した伝説のアニメでもあった。

 

『……ふむ、悪くない。ではワシは今からリリカじゃ! ところで、そういうお主の名前はなんというんかいの?』

「アタシ? 美香だよ。三上美香」

『ユーザー登録完了。三上美香をマスターユーザーとして登録します』

「……は?」


 突然、今までのセクハラジジイみたいな口調から機械的な口調に戻ったリリカに全員がぽかんと口を開ける。


『ふひひ! これでお姉ちゃんが世界のどこにいようとも居場所を把握できるようになったよぉ。これからはお風呂のときも、寝るときも、ついでにトイレのときもずーっと一緒じゃよぉうひひひ! むしろワシがトイレじゃぁ! 美香お姉ちゃぁんぐへへへ……』


 ニヤニヤとスケベな顔で両手をわきわきさせながら美香ににじり寄るリリカ。その顔はどこからどうみても性犯罪者のそれだった。

 だが……


「お、お姉ちゃん……。アタシが、お姉ちゃん……!」

『あれ、なんか思ってた反応と違う』

「……もっかい言って」

『へ?』

「もっかいお姉ちゃんって言って!」

『お、お姉ちゃん?』

「~~~~~っ! ああ、なんていい響き! ちょっと……いや、かなり変態だけど、そこはアタシがしっかりさせれば問題ないよね。うん、責任重大だ」

『あ、あの~? もしも~し?』


 なにやら一人で納得してうんうんと頷く美香と、戸惑うリリカ。

 お姉ちゃんという言葉は、一人っ子の彼女にとって特別な意味を持っていた。

 たしかに今の父親はとてもいい人だが、それでも母親の再婚相手に「きょうだいが欲しい」などと言えるはずもなく、彼女の弟や妹に対する憧れはずっと心の奥底に封印されていたのである。


 彼女の両親も今はまだ子供は設けるタイミングではないと考えており、二人は高レベル探索者ということもあって、まだまだ身体も若く、焦りも薄いため猶更だった。


 そこにきて見た目()()は抜群に可愛いアンドロイドの少女から「お姉ちゃん」などと言われれば、ずっと秘めていた思いが爆発しても仕方のないことであった。


『くそぅっ、失敗した! まさか妹認定されるとは! これじゃあセクハラしてもただのスキンシップじゃないか! ちくしょう恥じらいの無いおにゃのこにセクハラしても全然楽しくない!』

「ふふふ、さあリリカちゃーん、お姉ちゃんと一緒におうち帰ろうねー♪ 帰ったらまずはうーんとオシャレしてみよっか! パパとママにも家族が増えるって紹介しないとね!」

『はーいお姉ちゃん! ……くそっ、マスター権限に逆らえない!? こんなことなら安易にマスター登録なんてするんじゃなかった!』


 リリカの手を引いてボス部屋から出ていこうとするお姉ちゃんと、マスターユーザーからの『命令』に逆らえないアンドロイドの妹。


「……いいのかなぁ、ほんとにこれで」

「いいんじゃないか? 本人が喜んでるんだから」


 いきなりセクハラされた華恋が微妙な顔をするが、零士の言う通り、美香は喜んでいるのでそれ以上なにも言えなかった。

 好きな人のそばにあんな変態ロボットを置いていいのかと華恋がマックスに視線を向けるが、


「ミカが喜んでるならそれでいいさ。それに、マスター権限があるなら、本当に嫌ならやめろって命令すればいいだけなんだしさ」


 と、案外冷静な答えが返ってきて、それもそうかと華恋もようやく納得した。



 ともあれ、こうしてこの日、三上家に新たに愉快な家族が加わったのだった。



ブクマと評価をいただけると、とても励みになります。





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