おいでやす京都、モフモフ大パニック!
予定通り再開でごじゃる!
見渡す限り、どこまでも無限の蒼穹が続いている。
周囲には漆黒の逆ピラミッドがいくつも浮かび、三角形の頂点から黄金の砂を滝のように吐き出しながら、果てなき空を不規則な動きで揺蕩っていた。
そんな幻想的な空を、グレーの双発機と一人の少女が風を切り裂くように飛び、その後ろを無数のミサイルと、巨大な機械トンボが追いかける。
巨大トンボの名は『アパッチヤンマ』。
全長18メートルの巨体に高性能火器を搭載した昆虫型モンスターだ。
トンボならではの縦横無尽な飛行能力で敵をどこまでも追い詰め、尽きることのない多連装ホーミングミサイルとチェーンガンで敵を粉砕する、悪夢のようなモンスターである。
背後に迫る無数のミサイルと華恋が放った炎の燕が正面衝突して大爆発を起こす。
双発機の周囲に風の膜が渦巻き、爆風から機体を守る。
機体に追随するように飛ぶ禍々しいアンプから聞こえてくるゴキゲンな音楽が双発機の力を最大限まで高め、双発機の翼が風を捉えて速度を上げる。
アパッチヤンマの尻尾がぐるっと前方を向き、尾の先に付いたチェーンガンがズダダダダ! と、連続する発砲音を響かせ火を吹いた。
機体を斜めに傾けた双発機が滑り落ちるようにチェーンガンの弾幕を回避して、滝のように流れ落ちる黄金の砂の裏に隠れる。
次の瞬間、華恋の杖先から光の束が迸り、白熱したプラズマに翼を焼かれ姿勢を崩したアパッチヤンマが黄金の砂に巻き込まれて果てしない空の下へと押し流されていった。
「あそこだ!」
ピラミッドの浮島の中でも一際大きな黒い八面体。サイズ比でいうなら周囲のピラミッドの数百倍はあるだろう。
その外壁にある裂け目を指差して操縦席に座る零士が叫ぶ。
操縦席といっても、そこに操縦桿は無い。白夜(日向と朔夜が合体した姿)が化けたこの飛行機はオートパイロットなのだ。
ちなみに座席はフカフカの毛皮で、座るとほんのり温かい。
『しっかりつかまってて!』
白夜が機内放送で仲間たちに呼びかけ、さらに速度を上げる。
周囲のピラミッドの影からアパッチヤンマが続々と姿を現す。
大量のミサイルが一斉に発射され、機体を守るように炎の燕がミサイルに向かって飛び、大空に紅蓮の花が次々と咲き誇る。
爆炎の中を白夜が突っ切り、その後を追うアパッチヤンマたちを華恋のビームがまとめて薙ぎ払う。
落下していくドロップアイテムを念力で拾い上げてアイテムボックスへと仕舞うと、華恋も速度を上げて、双発機に寄り添うように八面体の裂け目へ飛び込んだ。
◇ ◇ ◇
十月中旬。
レベル5になった引き出しダンジョンの探索は難航していた。
主な理由は二つ。
一つは、超巨大な八面体の内部が複雑怪奇な迷路になっていること。
そしてもう一つは、その迷路に辿り着くまでに毎回命がけのフライトをしなければいけないこと。
後者は一応、美香のエメラルドソードを白夜が装備した状態で飛べば、機体に風の加護が付与されると判明したため、安全性は大きく上がったものの、それでも大量のミサイルに狙われながらのフライトが精神衛生上よろしくないのは確かだった。
八面体の裂け目に突入した双発機はそのまま空中で大きなもこもこクッションへ姿を変えると、機内にいた零士たちを包み込んでボヨンボヨンと着地する。
周囲に浮かぶ黒い正方形のブロックにぶつかり、ピンボールのように跳ねて転がった大毛玉は、迷路の入り口前でピタリと停止。
直後、大毛玉がボフンッ! と煙を吐いて、二匹の白黒ちび毛玉へ戻った。
「ふう。どうにか切り抜けられたでごじゃるな」
「みんな無事!? 怪我とかしてない!?」
ふわりと着地した華恋が仲間たちの身を案じてそれぞれの顔を見回す。
零士、マックス、美香、剛。トミーだけ激しいフライトで酔ったのか顔が少し青いが、怪我も無く元気そうだった。
仲間たちの無事を確認して華恋はようやくホッと胸をなでおろした。
「日向も朔夜もよく頑張ってくれたな。ありがとう」
「平気」
「ふふん! これくらいどうってことないでごじゃるよ!」
二匹を労うように零士が撫でてやると、日向と朔夜は九本に増えた尻尾をゆらゆら揺らして喜ぶ。
「それじゃ朔夜、頼む」
「うん」
朔夜の身体がぐぐぐっと大きくなり、もこもこ手乗り毛玉から、中型犬サイズの九尾の狐へと変わる。
朔夜の足元の影がざわざわと揺らめき、風呂敷を広げたように影が大きく広がると、そこから迷路内に散っていた零士の分身たちと、彼らが集めたアイテムが続々と出てくる。
彼らに与えられた役目は地図を埋めることと、迷路内に配置された宝箱の中身の回収。
分身は本体が持っている道具もそっくりそのままコピーして現れる(ただしその道具はそれを持って現れた分身しか使用できない)ため、今回はそれを活かして、大量の分身で一気に地図を埋めてしまおうという作戦だった。
先週、初めてここを訪れた際にこの作戦を思いつき、大量の分身をばら撒いておいたが、結果やいかに。
「よしよし。順調順調」
零士のスマホに分身たちが集めた地図データが集約されて、空白部分がどんどん埋まっていく。
だが、やはり偶発的なモンスターとの遭遇で消えてしまった分身も多く、地図は所々穴が開いており、完成にはまだまだ程遠い感じだ。
6561体の分身による一週間の大捜索で、踏破率はようやく一割半といったところだろうか。
まだまだ時間は掛かりそうだが、これなら来月の修学旅行までには攻略の目途はつきそうだ。
地図を埋めるついでに回収できたアイテムは全部で四つ。
内訳はスクロールが二枚と、やけに重たいリストバンドが一つ。そして、先端に大きな宝玉と放熱機構を備えた機械式の長杖。
スクロールは封蝋の色と刻印からそれぞれ、空間魔法レベル5『リターン』と、神聖魔法レベル5『サンクチュアリ』であると判明し、二つともその場で華恋が習得した。
空間魔法レベル5『リターン』
ダンジョン内から即座に外へ帰還できる魔法。
ダンジョンの外で使用すると、前回この魔法を使用したダンジョン内の地点まで移動することができる。
ただしボス部屋では使用できない。
神聖魔法『サンクチュアリ』
聖属性の領域を作り出す魔法。領域の広さは使用者のレベルに依存する。
領域内ではモンスターが湧かなくなり、また、モンスターはこの領域に侵入できない。
とうとうどこでもドアまで……と、本人も含めて全員が思ったが誰も口には出さなかった。
ともあれ、ダンジョン内限定でボス部屋以外ならどこからでも自由に帰還できて、前回のラスト地点まで一瞬で戻れるようになり、これからの探索がさらに捗るのは間違いない。
空間を飛び越え(ダンジョン内限定)、時間を遡り(制限アリ)、空を自由に飛び回る(本人のみ)。
アイテムボックスの中にはダンジョンアイテムがいっぱいで、お料理上手で、掃除も魔法で一瞬。ビームだって撃てるし、なんならつけようと思えばそれっぽい猫耳だってあるにはある。
もはや本家以上に高性能な、一家に一人欲しいスーパー魔法少女だった。
「それじゃ、今日は未探索の場所を進めるだけ進もうか」
零士の言葉に全員が頷き、この日の探索がはじまった。
◇ ◇ ◇
縦横5メートルほどの通路をしばらく進むと、やがて視界がひらけて広い空間へ出た。
500メートル四方の空間内にはそれぞれ奥へと通じる通路と、その前をふさぐギミックが用意されている。
ギミックの殆どは分身たちが事前にクリアしており、通路も解放されていたが、分身たちが別の場所で仕掛けを作動させて新たに出現した未開放の通路もいくつかあって、零士たちはその中の一つの前に立った。
通路の前には直径1メートルの正方形ブロックが1列10マスで5段、所々穴の開いた状態で積み上がっている。
その手前には床に固定された操作盤があり、その画面上には目の前のブロックと全く同じ形のブロックが表示されていた。
零士が操作盤に触れると、通路を塞ぐギミックが作動する。
画面の上から凸型のブロックがゆっくりと落ちてくる。
それに連動するように前方上方向からも画面と同じ速度で凸型の巨大ブロックが落ちてきた。
画面のブロックに触れるとブロックは回転させることができ、左右に自由に動かすことができ、現実の方でも画面と連動して同じようにブロックが動いた。
つまり、巨大なテト●スをクリアすれば先に進めるということのようだ。
零士が穴を埋めるようにブロックを落とすと横10マスがきっちり埋まった一番上の段が消滅して、余ったブロックが下に落ちた。
すると、消滅したはずのブロックが今度はモンスターへと変わり、零士たちに襲い掛かってきた!
「護衛は私たちに任せて! 零士くんはそっちに集中して!」
「頼んだ!」
タイガーホース(頭が虎の馬型モンスター。攻撃されると過去のトラウマを強制的に思い出させられる)の群れをマックスの銃弾がけん制して、タイガーホースたちが怯んだ隙に美香と剛が一気に踏み込んで一体ずつ確実に倒していく。
前に出て戦う二人を華恋とマックスの援護射撃が守り、トミーの奏でるBGMがタイガーホースの動きを鈍らせる。
そうこうしているうちにもブロックはどんどん消えて、敵もさらに増えていく。
増援のウマシカ(頭が馬の鹿型モンスター。蹴られると知能が著しく低下して馬鹿になってしまう)と狐狗狸さん(キツネのような狗っぽいタヌキ。人に様々な幻を見せて惑わせる)が現れてなにやら周囲が動物園のようになってきたが、頼もしい仲間たちのおかげで目の前の作業に集中できた零士はあっという間に全てのブロックを消し終えて通路を解放した。
ブロック消しから解放された零士も加わり、すべての害獣たちを駆除した一行は解放された新たな通路の奥へと足を進めた。
≪=卍(^ω^)卍=≫ ブーン!
BGMはそれっぽい曲を脳内再生してくださいませ。




