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不完全感覚ロックンロール 8

 後で調べて判明した事だが、宝箱から出てきたあの謎のアイテムは、触れた者の性別を変えてしまう『TS棒』という非常に希少なアイテムだった。

 ただし、ここで注意しなければならないのは、TS棒の()()()()()()()性別が変わってしまうという点である。

 さらに元の性別に戻る場合は2時間ほど間を開けなければ、棒に触れても元には戻れない。


「……えー、つーわけで、気を取り直して戦利品の分配をしますっ!」


 花沢家のリビング。TS棒の説明文から目を外した零士あらためレイちゃんが強引に話を進めようとする。

 だが、仲間たちは突然女の子になってしまったレイちゃんの事が気になって仕方ない様子だ。


 ちなみにおばあちゃんは老人会の仲間たちと日帰り旅行中である。

 孫娘の彼氏が()()になってしまったなどと知ったら卒倒確実なので、まさに神回避だった。


「……本当に女の子になっちゃったんだね」


 困惑と興味と悲しみが入り混じったような、何とも言えない顔で華恋が言った。

 当然零士も服の上から自分の身体を触ってみたが、付いていた()()はすっかり消え失せ、逆に前まで無かった膨らみも小振りながらもちゃんと確認できた。恐らく、Cくらいだろう。

 悲しいような、でもちょっと嬉しいような。複雑な気持ちだった。


「……はっ! ひらめいた」


 何やら神妙な顔で考え込んでいたトミーが唐突に顔を上げる。


「うちのクラスの出し物、これ使ってTSメイド執事喫茶にしようぜ!」

「あ、それ結構面白そうかも」

「確かに、カフェは他のクラスもやるみたいだし、個性は出るかもね」

「お前らマジか……」


 トミーの禄でもないアイデアに興味を示す美香とマックス。

 零士自身も少し面白そうだと思ってしまったのが悔しいところである。

 彼ら2年3組の出し物は、メイドと執事に扮して接客するカフェをやることになっていた。

 衣装も零士たちが藤堂に頼んで、本物のメイド服や執事服を用意しており、提供するクッキーやシフォンケーキなどは料理部の華恋と相沢が制作を担当するため、中々本格的なカフェになると予想される。


「ほら、ちょっと『おかえりなさいませご主人たま』って言ってみ」

「誰が言うか馬鹿っ!」


 調子に乗りだしたトミーのおでこに零士のデコピンが炸裂する。

 女になってもレベルはそのままなのでかなり痛いはずなのだが、「これはこれで」と何故か満足げなトミー。この男はもう駄目だ。


「父……母上?」

「朔夜、お願いだから母上はやめてくれ……」

「大丈夫! 拙者たちはパパがママになってもパパの味方でごじゃるよ! ……あれ? でも、パパは今ママだから、パパじゃない……? んん~?」


 ママになったパパ(!?)に混乱する日向と朔夜。生まれて数週間の毛玉にはこの問題は難しすぎた。


「……いや、それを文化祭で使うのはやめておいた方がいいと思うぞ? もしそれで性別が変わった後の姿にクラスの誰かが本気で惚れでもしたら、収拾がつかなくなるんじゃないのか?」

『あっ……』


 この中で唯一学生ではない剛からの冷静な意見で、学生たちがようやく正気に戻る。

 性転換した後の自分に惚れられても、相手の思いには絶対に応えられない。

 例え一時の冗談のつもりでも、惚れた腫れたの問題を甘く見ていると痛い目に遭うのは世の常だ。


「……売ろうか」


 零士の言葉に全員が賛成する。

 少し名残惜しい気もするが、このアイテムは本当に必要とする誰かの下へ渡るべきだろう。二丁目の猿とか。

 ともあれ、気を取り直した零士たちはアイテムの分配へ移った。



 アイテム×1


 『死神の外套』

 闇よりも黒い外套。

 効果1:闇属性のダメージを吸収して傷や体力を癒す。

 効果2:影の中に潜れるようになる。※影の中を移動中は呼吸が出来ず、常に闇属性ダメージを受ける。

 効果3:触れた相手を影の中に引き摺り込むことができる。



 死神の外套は影を操る朔夜との相性が良いという理由から、零士が装備することになった。

 和風な忍者装備と洋装の外套では見た目がちぐはぐになるかとも思ったが、どちらも同じく黒だったので意外にも統一感が出て案外似合っていた。


「よぉ、†黒の死神†」

「おっと、中学時代のネトゲのキャラネームいじりはそこまでにしてもらおうか」


 見たままの感想を述べたトミーの言葉に、零士の中の黒い記憶が蘇る。

 誰しもがとまでは言わないが、大半の人間は通る道だ。人は恥を重ねた分だけ強くなり、大人になっていくのである。



 スキルキューブ×7


 『俊敏』

 反射速度、反応速度が上がる。また、このスキルの効果はレベルが上がるほど高くなる。


 『反射盾』

 盾で魔法攻撃を受けると魔法を反射できるようになる。


 『増毛』

 髪の毛の量が増える。また、頭が絶対に禿げなくなる


 『10連ガチャ』

 一日一回、様々な道具を10個召喚できる。


 『高速詠唱』

 魔法の発動速度が上がる。また、このスキルの効果はレベルが上がるほど高くなる。


 『育成』

 様々なものを上手に育てられる。また、取得できる経験値が1・3倍になる。


 『守護霊』

 特殊な能力を持った守護霊が憑く。どんな守護霊が憑くかは個人ごとに異なり、スキルを習得してみるまで分からない。



 『反射盾』と『高速詠唱』はそれぞれ美香と華恋に習得させて戦力強化を図るということで全員の意見が一致する。

 『増毛』スキルは、この夏の一件でハゲの悲しみを思い知ったマックスが猛烈に欲しがったため彼のものとなった。

 まだふさふさの零士たちは「気にし過ぎだ」と笑っていたが、ハゲの悲しみは一度失った者にしか分からないのである。


 残りのスキルは欲しい者同士でじゃんけんして決めることになり、その結果こうなった。


 『俊敏』→剛


 『10連ガチャ』→零士


 『育成』→華恋


 『守護霊』→トミー 


 早速『守護霊』スキルを習得したトミーの背後に、奇妙な威圧感が生まれる。

 見えないのに、確かにそこに何かがいると全員が感じた。


「すげぇ……。見えない力が背中からゾワゾワ伝わってくる! でも、嫌な感じじゃなくて、なんつーか、守られてるんだってのがわかる」

「とうとう見た目だけじゃなくて本当にスタ●ド使いになっちまったんだな……。で? 能力は?」


 零士が訊くと、トミーは目を閉じ、意識を深く集中させて力の使い方を探る。

 精神力が高まり、彼の守護霊(ゴースト)が力の使い方を主に囁く。すると彼はカッ! と目を見開き能力を発動させた。


「音を」  『音を』   【音を】

「三つまで」  『三つまで』    【三つまで】

「録音できる」    『録音できる』    【録音できる】


 トミーの言葉に続いて、高音から低音まで、老若男女様々な声が重なるように再生される。


「音の再生は見えてる場所ならどこでも可能! 再生タイミング、音質、音量、音階、すべて俺の自由ッ‼ ただし、一度でも視界から外れると音は勝手に再生されるみたいだな」

「瞬き厳禁ってわけか。で、ス●ンド名は?」

「いや、スタン●じゃなくて守護霊だから。でも、あえて命名するなら……そうだな、ドラゴンフォースとかどうだ?」

「なんか急に異臭が……」

「はっはっは、褒め言葉褒め言葉」


 元々ゲームミュージックが好きだったこともあり、トミーの影響を受けてここ数週間の間に零士はすっかり海外メタルにハマりつつあった。

 異臭漂うコアな話題に、普段そういう音楽を聴かない仲間たちは何の事やらと首を傾げるしかない。



 スクロール×3


 重力魔法レベル4『フライト』

 空を飛べる魔法。速度は込めた魔力に比例する。


 時空魔法レベル4『キャスリング』

 視界内にあるモノの位置を入れ替える魔法。消費する魔力は入れ替えるモノの大きさの比率に比例する。


 生活魔法レベル4『クリーニング』

 一瞬で部屋の埃や汚れを消し去れる魔法。カーペットのダニや空気中のハウスダスト、花粉なども除去できる。

 


 スクロールはいつも通り華恋が総取りして、空飛ぶお掃除魔法少女となった所で戦利品の分配は終了した。


「ところでさ、先輩の誕生日のプレゼント、もう用意できたの?」


 と、思い出したように話題を振ったのは美香である。

 明日は奈々の誕生日なので、せっかくだからサプライズパーティーを開いてバンドの結束を深めてはどうかと、いつも練習に使っている音楽スタジオのオーナー(血縁上では奈々の叔父にあたる人物)から提案があったのが2週間ほど前の事。


 プレゼントにはライブラリに掲載されたアイテムの中から、奈々に相応しいアイテムを見繕い、まちゅみに入手を依頼していた。


「ああ、それなら昨日手に入ったって連絡来たよ。だからこれからアイテム売るついでに買いに行こうかと思ってるんだけど、皆も来るか?」

「行く行く! まちゅみの店一度行ってみたかったんだよね~」

「喋るオネェチンパン……だっけか? オネェチンパンってワードだけでもすげぇパワーなんだが」


 半分以上冗談だと思っているトミーが笑うが、残念ながら冗談でもなんでもない。

 彼はこの後、二丁目に隠された神秘を目撃し、常識をぶち壊されることになる。


「行くのはいいんだけどさ、君、そのまま行くつもりかい?」

「あっ……」


 マックスに指摘されて自分が女になっている事を思い出す。

 見て見ぬふりをしようとも、悲しい現実は変わらない。


「な~んだ、そのまま行くのかと思ったのに」


 美香が残念そうにいった。


「行くか! 大体着て行く服が無いだろ!」

「レンちゃんから装備借りればいいじゃん。ブラウスとスカートだけ貸してもらえば普通に可愛いと思うけどなぁ」

「た、確かに……!」

「華恋さん!? 納得しないで!?」

「ほらほら、レイちゃ~ん。可愛くお着換えとメイクしてみよっか~」

「誰がレイちゃんだ!? く、くそっ! こっち来るなぁ!」


 レイちゃんが零士に戻るまで残り1時間。

 彼女と、自分をオモチャにしようと迫る美香の、男の尊厳を賭けた鬼ごっこが、今始まる―――――!



拙作をいつも読んでくれてありがとうございます。


皆さまの応援が原動力になります。

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