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ダイエットからはじまるダンジョン英雄譚【完結】  作者: 梅松竹彦


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不完全感覚ロックンロール 5

 フロアの中央で待ち構えていたのは案山子だった。

 破れた三度笠を被り、着流しを着たその案山子は侍を模しているのか、腰に刀まで差している。

 だが、その数が尋常ではなかった。両方の腰に差された刀の数は合わせて六本。

 そして、それを扱うための腕もまた六本生えていた。


 名を、『阿修羅案山子(あしゅらかかし)』。

 六本の腕を自在に動かし、巧みな連続攻撃を繰り出す人形系モンスターである。

 三度笠の奥から覗く間抜けな『へのへのもへじ』が一行をじっ……と見つめ、シュランと六本の刀が一斉に抜かれた。


 ダンッ‼ 刀を構えた案山子が跳ぶ。

 そのまま案山子は空中で身体を独楽(こま)のように回転させ、零士たちの下へ六本の刀を閃かせながら飛び掛かってきた。

 咄嗟の判断で全員がそれぞれ別々の方向へと散り、大振りな攻撃を躱す。

 案山子が次に狙いを定めたのはマックスだった。


 無限ミニガンが唸りを上げて鉛の嵐を吐き出す。

 しかし案山子は身体を高速回転させて、自身を狙う銃弾を全て切り裂いてしまう。

 ミニガンが効かないと見るや否や、マックスは重たいミニガンを投げ捨てて、腰のホルスターからエクスキューショナーガンを引き抜き、スライドを素早く三回前後させた。


 彼の身体から魔力がごっそりと持っていかれ、思わず膝を付きたくなるほどの精神的疲労が押し寄せる。

 それを『コマンドー』としての鋼の精神力で押さえつけた彼は、回転しながら真っすぐ突進してくる案山子目掛けて引き金を引いた。


激龍砲(ドラゴン・ファイア)ッ!」


 ドッ――――――――‼ 銃口から膨大な熱量が噴き出し、前方を埋め尽くす巨大な火炎が案山子を丸ごと飲み込んだ。

 龍の息吹を思わせる炎の奔流が通り過ぎた後には塵一つ残っていなかった。


 戦闘終了。と、同時にマックスがガクッと膝を付いた。


「ちょっと大丈夫マックス!?」


 美香が慌てて彼の下に駆け寄り、その身体を支え起こす。


「ああ、うん。ちょっと魔力使い過ぎたみたい……」

「ほらマックス、これ飲んで」


 華恋がアイテムボックスから作り置きの魔力ポーションを取り出してマックスに渡す。

 栄養ドリンクの空き瓶に入れられたそれを彼が一気に呷ると、失われた魔力が満ちていく。


「ふぅ……。ありがとう。よく効くねコレ」

「飲んでもラリったりしないから安心しろよ」

「アレはもう勘弁だってば」


 苦笑交じりに彼が立ち上がると、壁から上へと続く階段がせり出してきて、エレベーターのロックも解除された。

 さらに部屋の中央にフロアボスを討伐したからか、宝箱が一つパッと出現する。


 深爪の呪い罠(一ヵ月間全ての指が深爪状態になる)を零士が解除して蓋を開けると……


「メトロノーム?」


 中に入っていたのは何やら不気味なデザインのメトロノームだった。

 全体的に黒っぽく、針の先に付いた重りは目玉を模したデザインになっている。なんとなく悪魔的な雰囲気のあるアイテムだ。


「ね、ねぇ、それヤバいアイテムなんじゃ……」


 不気味なデザインに不信感を抱く美香。


「まあ確かに見た目はちょっとキモいけど、調べてみなきゃわかんないしさ。一応持って帰ろう」


 というわけで、悪魔っぽいメトロノームはいつも通り華恋のアイテムボックスの中へ仕舞われる事に。

 それから零士たちは安全地帯のエレベーターの中で昼休憩を取って、午後の探索を再開する。


 再び階段を上り始めてしばらくすると、一行の前に立ち塞がるように魔力が集まり、一体の巨大な影が形作られていく。

 人間と恐竜を混ぜたような異形の兵士『ダイナソルジャー』だ。


 体長は2・3メートルほど。強靭なアゴには鋭い牙が生え揃い、丸太のように太い腕の先には鋭い鉤爪が鈍く光る。

 名前の通り、恐竜並みの膂力と、よく訓練された兵士の技術を併せ持つタフな敵だ。


「――――――っ!? まずいッ‼」


 超直感のスキルで1秒先の未来を見た剛が、用心深くこちらの様子を伺っていたダイナソルジャーに飛び掛かる。

 剛の蹴りがダイナソルジャーを左側の吹き抜けへ突き落すのと、長い尻尾が不自然に飛び出た壁のブロックを叩いたのはほぼ同じタイミングだった。

 ガコン! と何かが起動したような音がして、階段が下へ向かってエスカレーターのように動き出す。


「くそっ! 止められなかったかッ!」

「こんな長いエスカレーター逆走させるなんて悪意しかないね!」

「って、おいおいおい後ろ後ろ!?」


 零士が指差す方を振り返ると、背後で壁が横からゴゴゴとせり出してくるのが見えた。

 壁には岩盤掘削用のドリルみたく回転する刃が付いており、それがギュイイイン! と高速回転しながら徐々にこちらに迫ってくる!


「走れ走れ走れ!」

「「「「うわぁぁぁぁぁ!?」」」」


 殺意全開の罠を背に、全員が全速力でエスカレーターとなった階段を逆走する。

 しかし、ダンジョンの悪意はこんなものでは終わらない。

 彼らの行く手を阻むように、モンスターたちが次々と前方に出現して、一斉に襲い掛かってきた。


「詠唱破棄『プラズマバースト』!」


 先頭を走る零士の横に並んだ華恋の杖先から膨大な熱量が迸る。

 周囲の気を巻き込んで成長した極太のビームが階段の前方を焼き払い、モンスターの群れは何もできないまま蒸発した。

 どうにか角の踊り場までたどり着く。そこから先へと続く階段もやはり下りのエスカレーターとなっており、しかも心なしか今まで上ってきた階段よりも速度が速くなっている。


 全員の顔に絶望の色が浮かぶが、それでも死にたくないから走るしかない。

 意を決して下りエスカレーターを逆走する一行。

 沈む足場に体力が奪われ、パーティー内で一番体力の無い華恋の息が上がり始める。

 しかし、そんな華恋を応援するように彼女の胸元がピカッと光ると、次の瞬間、仲間たち全員の疲労がすっと軽くなり、奪われた体力が戻ってきた。


『にゅふふ! 拙者、回復は得意でごじゃる!』

「助かった! 偉いぞ日向! 六段先に罠! 全員跳べっ!」


 ピカピカ光る華恋の胸の中心から日向の声だけが聞こえてくる。

 大活躍の日向を褒めつつ、零士が罠のスイッチになっている階段を飛び越える。

 続いて仲間たちも同じく階段を飛び越えて罠を回避した。

 その後も日向の支援を受けつつ、敵を蹴散らしながら、どんどん早くなるエスカレーターを逆走して、一行はどうにか15階のエレベーターホールに辿り着いた。


 しかし、ホッとするのも束の間、すぐさまフロアボスが襲い掛かってくる。

 今度のフロアボスは浮遊する半透明の西洋甲冑。一切の物理攻撃を無効化するゴースト系モンスター『亡霊騎士』だ。


 『亡霊騎士』の剣は肉体にダメージを与えない代わりに魔力を減らす。

 通常、魔力は使い過ぎても死に至る事は滅多にない。そうなる前に気絶という形でブレーカーが下りるからだ。

 しかし気絶した後でも魔力が減れば精神的な疲労は溜まり続け、やがては死に至る。

 数多の物理攻撃主体のパーティーを全滅させてきた危険な相手だった。


 実体を持たない騎士がゆらりと宙を舞い、巨大なツーハンドソードを構えて零士たちの方へ飛んでくる。

 それぞれがバラバラの方角へと散って霊体の剣を躱す。


「雷遁『雷切』ッ!」


 すれ違いざま、零士が雷遁を纏わせた雷切で亡霊騎士を切りつけるが、僅かに霊体が揺らいだだけで、まるで効果があるようには見えなかった。


「セイクリッドセイバーッ!」


 美香のミスリルの剣が光り輝き、白い軌跡を何本も残しながら距離を無視して亡霊剣士に迫る。

 だが、亡霊剣士は舞い落ちる枯れ葉のような動きで、飛んできた光の斬撃をひらりひらりと躱す。


「詠唱破棄『ホーリーバスター』!」


 亡霊剣士の頭上から光の柱が落ちてくる。

 しかし亡霊騎士が頭上に手を翳すと、虚空から巨大な半透明の盾が現れて光の柱による攻撃を防ぎきってしまった。


 何か奴を倒せる有効な手段は無いかと零士が五感を開き、思考を巡らせる。

 すると極限の集中の中で、彼は何か違和感のようなものを感じた。


(なんだ……? 何が引っ掛る……)


 開いた五感から不要な情報を削ぎ落し、ヒントを絞り込んでいく。

 世界から音が遠ざかり、色が消え、周囲の全てがゆっくりと動き出す。揺らぐ亡霊騎士の足元。ヒントはそこにあった。


「華恋さん! アイツを照らしてくれ!」

『それなら拙者にお任せでごじゃる! そーれ、浄化の光~!』

「きゃぁっ!?」


 華恋の大きな双子山の頂点がピカッと輝き、聖なる光が亡霊騎士を照らし出す。

 TIKUBI(ちくび)フラッシュを浴びて怯んだ亡霊騎士の足元に、黒い影が浮かび上がった。


「ぶふぉっ!? ええい! これで終わりだッ!」


 腰の鞘から影斬を引き抜いた零士が一気に飛び出して、亡霊騎士の影に黒い刃を思い切り突き立てる。

 思わず噴き出してしまったが、それでも刃がブレなかったのだけは流石である。

 影斬の刃は影の中に沈み込むように深々と突き刺さり、亡霊騎士の霊体が激しく揺らぎ、魔力の霧となってふわりと消えた。


 フロアボスを倒して上に続く階段が壁からせり出てきて、エレベーターのロックが解除され、部屋の中央に宝箱が出現する。


「……日向?」


 日向との融合状態を強制的に解除した華恋が、もこもこ白毛玉をむんずと掴んでつぶらな瞳を見つめる。声のトーンが明らかに怒っている。


「……てへっ!」

「てへっ! じゃありません! 戦ってる時にふざけちゃ危ないでしょ! もう二度とやっちゃダメよ? わかった?」

「はぁい……。ごめんなさい」


 耳をぺたんと伏せて拗ねた風に謝る日向。一番笑ってほしかった人に怒られてしまい不満なようだ。


「え、えっと……どんまい? あ、それよりさ、さっきの何だったの? その刀、地面にブスって刺したら消えちゃったけど」


 空気を読んだ美香が、流れを変えようと零士に種明かしを求める。


「お、おう。これか? 影斬って言うんだけど、影を斬りつけると本体にもダメージを与えられる武器なんだよ。そんで、幽霊のくせにうっすら影があったから、それを濃くできないかなって」

「なーる。そんで『照らしてくれ』だったわけね。でもなんで気付けたの? アタシ、全然分かんなかったよ」

「だっておかしいだろ? 霊体のくせに光を遮れるなんてさ。だったら、アイツにも影があるんじゃないかなって」

「あ、そっか」


 美香が納得したように頷いた。


「殴って倒せない相手は苦手だ……ッ」

「僕も、ゾンビは平気なんだけどね。ゴーストは銃が効かないから大っ嫌いだよ」


 全く見せ場の無かった剛とマックスが苦い顔をする。

 どうやら二人は幽霊が苦手のようだ。


「まあ、今回は相性が悪かったから仕方ないさ。それより宝箱開けようぜ!」


 罠の無い宝箱を開けると、そこにはトゲトゲした凶悪なデザインの小型スピーカーが4つ入っていた。

 これらも結局調べてみなければ分からないという事で、アイテムボックスの中に仕舞われる。


 結局この日の探索は、エスカレーターを逆走した疲れもあって、ここで切り上げる事になった。

 解放されたエスカレーターに乗り1階のエントランスまで戻ってくると、そのまま白い渦からダンジョンの外へ。

 それから全員私服に着替え直して、花沢家のリビングでお茶とお菓子を摘まみながらの鑑定タイムが始まる。


 そうして判明したアイテムの詳細は次の通り。



 アイテム×2


『悪魔のメトロノーム』

 このメトロノームの刻むリズムには絶対に逆らえない。


『ファンネルアンプ(邪)』

 魔法の楽器と魔力接続して使う。※これ単体では使用不可。

 使用者の意志に従い空中を自在に動き回る小型アンプ。

 このアンプを通した音は破壊的な重低音となり、音楽による特殊な状態変化(バフ/デバフ)の効果が強化される。

 また、音量を調節することで指向性の破壊音波を発射可能。



「なんつーか、完全にトミー専用装備だな、コレ」


 さてどうしたものかと頭を悩ませる零士。

 別に売ってお金に変えてもいいのだろうが、折角身近に使いこなせそうな人物がいるのだから、彼に譲る代わりにダンジョン攻略に協力してもらうというのもアリだ。


 正直、夏休みの間に色々とあって強くなりすぎてしまい、零士と華恋に至っては今の引き出しダンジョンの適性レベルをすでに越えてしまっている。

 なので、できることならさっさとボスを倒して、ダンジョンのレベルを上げてしまいたい所ではあった。


「なら、プレゼントしちゃえば? 別にアタシたち、お金目的でダンジョン潜ってるわけじゃないんだしさ」


 皆はどう思う? と、美香が仲間たちに意見を聞くと、マックスと華恋はこれに賛成。トミーを知らない剛は「リーダーの判断に委ねる」と答えた。


「……そうだな。じゃあ、プレゼントする代わりに、攻略に協力してもらえないか頼んでみるか」


ちくびは光るもの。当たり前だね。

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