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俺と彼女のダンジョンダイエット 4

 結論から言うと、左のルートはハズレだった。


 だが何も収穫が無かったかというとそんなことも無く、初戦闘に続いてコボルトの群れにまた遭遇し、それを撃退したことで花沢さんのレベルがまた1つ上がっている。


 誘因コーンを設置できそうな渦巻き状の長い通路も見つけたので、春休みになったらまた設置して効率的にレベルアップしていきたいところだ。



 今日は土曜日という事もあり朝から始めたダンジョン探索だったが、時間もそろそろ良い頃合いなのでここで一旦お昼休憩を挟むことにした。

 なんでも花沢さんがお弁当を作ってくれていたようで、一度ダンジョンから出た俺たちは彼女の家のリビングでお弁当を食べることに。


 リビングのテーブルの上には3段重ねの重箱が用意してあって、すでに皿と箸も出されており後は食べるだけの状態だった。


「それでは、御開帳です!」


 花沢さんが重箱の蓋を開ける。


「こ、これは!」


 まず目を惹いたのは、重箱の半分以上を占める大量の唐揚げ。

 その脇を肉巻きアスパラと綺麗な卵焼きが固め、隙間を埋めるようにポテトサラダがぎっしりと詰まっている。


「ふふふ、まだあるよ。ほらっ!」


「な、なんと!?」


 さらに続く二段目には美味しそうな肉じゃががたっぷりと詰まっているではないか!

 おかずが全体的に茶色いものばかりだ。でも美味しそう。


「おにぎりもあるからね。具はシャケにおかかに明太子にツナマヨでーす」


「おいおい最高かよ」


 くっ、なんてことだ。俺の好みにジャストミートしてきやがる。

 元デブの好みは元デブが一番良く分かってるという事か。ふっ、やるじゃないか花沢さん。


「いただきます!」


「はい、召し上がれ」


 まずはやっぱり唐揚げから。

 おっほぅ、めっちゃジューシー! しかもスパイシーな衣は冷めても揚げたてのカリカリ感を損なっていない。さては貴様、二度揚げされたな!? 

 マヨネーズたっぷりのポテトサラダを付けて食べると、これまた絶品だ。


 ふんわり握られたシャケおにぎりを頬張りながら、お次は卵焼きへ。


「う、美味すぎる……!」


「えへへ、自信作です」


「いやこれ、寿司屋で出てくるレベルですやん」


 焦げ目一つない綺麗な黄色の卵焼きは、口の中に入れると濃厚な出汁がじゅわっと染み出てくる。

 そうか、卵焼きって飲み物だったんだね。知らなかった。


 続いて肉巻きアスパラへ箸を伸ばすと、これまた甘辛な醤油ベースのタレが染みた豚肉とアスパラの組み合わせが絶妙に美味い。これだけでご飯3杯はいける。

 肉じゃがも、芋はホクホクなのに味がしっかり染みていて、食べていてホッとする味だった。


 あまりの美味さについつい箸が進んでしまい、重箱一杯に詰まっていたおかずは2人で食べたらあっという間に空っぽになってしまった。明らかに食いすぎである。


「ごちそうさまでした。美味かった!」


「お粗末様でした。喜んでもらえて何よりだよ」


「いやほんと、店開けるよこれは。将来は料理人目指したら?」


「うーん、それもアリかなぁ」


 そんな会話を挟みつつ、食後はまったりと過ごして、お腹が落ち着いてきた所で再びダンジョンへ。

 いっぱい食べた分、バリバリ探索してカロリー消費しようぜと気合も新たに、今度は正面の通路の先を調べる事になった。



 ◇ ◇ ◇



 また2回ほどコボルトの群れと遭遇し、全て鎧袖一触で倒して進むと、通路の先にあった小部屋の中に宝箱を発見した。

 罠を警戒しつつ慎重に箱を開けると、中に入っていたのは……。


「ね、ねえ、これって……」


「どこからどう見てもビキニアーマーだな」


「ですよねー」


 明らかに装備しない方が防御力高いだろと言いたくなるほど装甲の面積が小さい、きわどいデザインのビキニアーマーが一着入っていた。


「……着る?」


「着ません!」


「そんな! 魔法の装備かもしれないのに!?」


「いくら性能が良くても流石にこれは無理!」


 ちぇっ、残念。


「……まあ、一応持って帰るけど」


「よしっ!」


「絶対着ないからね!?」


「ちぇっ、絶対似合うのに」


「うぅ、もう! バカっ!」


 きわどいビキニアーマーをリュックに仕舞い、俺たちは再び探索を再開する。

 だが、結局、正面の通路もハズレで、次の階へ通じる階段は右の通路の一番奥にあった。


 ところで、1階にはコボルトとスライムしか出て来ないらしい。

 どちらも経験値的にはあまりおいしい相手ではないので、効率的にレベルを上げるためには、もっと下の階層に行かないといけない


 全ての通路のマッピングを終える頃には、時刻はすでに17時を過ぎており、俺たちはその日の探索はそこで切り上げることにした。



 ◇ ◇ ◇



 明けて日曜日。

 今日は大きいサイズのお弁当を持って、引き返すことなくダンジョン内を探索する。

 可能なら今日中に地下1階のマッピングも済ませてしまいたいが、敵が強そうなら一度引き返して、コボルト相手に地道にレベルを上げて行くつもりだ。



 と、そんなわけで地下1階までやってきた。

 階段の先は10畳くらいの小部屋で、正面に奥へと続く通路が続いている。

 通路の壁には所々柱のような凹凸があるため死角も多い。


 ここからは1階よりも強い敵が出てくるので、気を引き締めなければ。


 通路をしばらく進むと道が二手に分かれており、何となく右へ。

 すると通路の先に小柄な人影を発見した。ゴブリンだ。


 俺は後ろを歩く花沢さんにジェスチャーで「止まれ」と指示して、壁の陰に隠れてゴブリンの様子をよく観察する。


 数は3……いや、4匹か。彼我の距離は約20メートル。

 武器は剣が1、弓が1、ナイフが2。飛び道具が厄介だな。



 ゴブリンは緑色の表皮を持つ小鬼型のモンスターだ。

 体長は100センチ~130センチ。

 手先が器用で様々な道具を使いこなすことができる。

 群れで行動する習性があり、おつむは単純だが極めて残忍。

 しかし臆病でもあるため、仲間が数匹倒されると逃げ出すから囲まれる前に1匹ずつ処理するのがベスト。



「ゴブリンがいるけど、倒せそう?」


「……多分」


「弓持ちがいるから、無理そうなら迂回するけど、本当に大丈夫?」


「……うん、やる。ここで躓いてたら、この先、何が相手でも多分無理だと思うから」


「そっか。じゃあ、弓持ち優先で倒そう。5カウントで俺が飛び出して敵の注意を引くから、援護お願い」


「了解」



 5カウントの後、俺は通路の角から一気に飛び出す。

 俺を発見したゴブリンたちは、奇声を上げながら武器を構えてこちらへ向かって駆け寄ってきて、弓持ちのゴブリンはすぐに弓に矢を番えた。


 走り寄ってきた剣持ちの大振りな一撃を半身で躱して、がら空きの延髄にナイフを叩き込む。まず1匹。


 続けざまに飛んできた矢をスキルで強化された視力で見切って躱し、左右から同時に飛び掛かってきたナイフ持ち2匹の攻撃を前転で躱す。

 そうしてナイフ持ち2匹が空中でぶつかって縺れた所へ、後ろから炎の魔球が飛んできて、ナイフ持ち2匹を纏めて焼き殺した。これで3匹。


 仲間がやられて怖気づいた弓持ちが逃げようとするが、そこへ追撃の火の玉が飛んでいって、弓持ちも消し炭になった。


 戦闘終了。



 ドロップアイテムはゴブリンメダルが2枚。それとゴブリンの剣1本。


 ゴブリンメダルはゴブリンキングの横顔が彫られた、500円サイズのコインだ。

 ダンジョンでしか取れない希少なレアメタルが混ざっているため、意外と高く売れる。

 が、俺たちは国が発行する探索者資格を持っていないため、宝の持ち腐れだ。


 ゴブリンの剣は刃渡り1メートルほどの両刃の剣だ。

 手入れがされていないため刃の部分はボロボロだが、先端が細く尖っているので突き刺すには何とか使えそうである。



「やったね、花沢さん! タイミングばっちりだったよ」


「う、うん」


 互いの無事と健闘を称えて、俺たちはハイタッチした。

 このハイタッチも、早くも戦闘後の習慣になりつつある。


 人間は成功しただけでは成長しない。

 成功して、それを誰かに認められた時、初めて人間は成長するのだ。なんて、以前どこかで読んだ本に書いてあった。

 だから俺は戦闘が終った後は必ず、花沢さんの活躍を褒めるようにしている。


 彼女の活躍を認めてあげることでやる気を引き出し、ついでに人型モンスターを倒す事への忌避感を薄れさせてやるのだ。

 

 実際、効果は目に見えて出始めている。

 昨日の初戦ではモンスターへの攻撃に若干の躊躇いを見せていた花沢さんだが、今日の戦闘では的確なタイミングで援護射撃が飛んできていた。

 このままいけば俺が援護に回り、彼女のレベリングに集中できる日もそう遠からずやってくるだろう。


「よしよし、次もこの調子で頑張ろう!」


「うん!」


 ドロップ品を回収して、俺たちは探索を再開した。



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