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夏休みダンジョンウォーズ 12

 白い渦に吸い込まれるようにダンジョン内へと転送された零士たちは、予想外の光景を前に驚きを顕わにした。


 見渡す限りを埋め尽くすのは、未来的なデザインの街並み。

 ホログラムで立体表示された看板(文字は読めない)が空中に所狭しと表示されており、全面ガラス張りの曲線的なデザインのビルが道の左右に壁のようにそそり立っている。

 上を見上げればかなり高い所に薄いフィルムのような天井があって、その外は星の海がどこまでも広がっていた。


 どうやらここは宇宙空間に作られたコロニーを模したダンジョンのようだ。

 しかし見た目がどうであれ、ここがダンジョンである以上は、住人たちは当然、全員モンスターなわけで……。


「はっはぁ! いきなり大歓迎だなァこりゃ!」

「笑ってる場合じゃねぇだろ! どうすんだよこんな数!?」


 周囲の建物から姿を現して零士たちを取り囲むのは、体長30センチ程度の光る球体。その数、およそ五千、六千、七千……どんどん増え続けている。

 空間を埋め尽くすほどの光球の群れから一斉に敵意を向けられ、零士と華恋の頬を一筋の汗が伝う。

 しかし、この絶体絶命の状況の中にあっても、龍之介だけはただ一人、不敵な笑みを浮かべていた。


「いい機会だ。この際だからオメェたちにも気の使い方を教えといてやる。耳の穴かっぽじってよーく聞いて、後は実戦で身につけろ!」

「んな無茶な!?」「無茶言わないでください!?」

「そーら来たぞ来たぞッ!」

「くそっ‼ 煙遁『霧幻』ッ!」


 零士たちが四の五の言う間も無く、大量の光球がそれぞれ光の色を変えながら一斉に襲い掛かってくる。

 ギリギリのタイミングで零士が煙幕を張ったが、敵は視覚に頼らないタイプのようで、まるで効果が無かった。

 赤い光からは熱を感じ、青い光からは冷気を、黄色い光は放電しているので、どうやらこの光球たちはそれぞれの色に応じて属性を変化させるようだ。


「一ォつ! まずはテメェらの中に気が備わってることを自覚しろ! 魔力の裏側に意識を向けろ! そうすりゃ分かる!」

「魔力の裏側!?」「って言われても!」


 龍之介がライフルから衝撃波をぶっ放して正面の敵を一気に蹴散らして走り出す。

 零士も、その背中を追いかけながら、襲い来る光球たちを、両手に構えた風切と雷切で切り払い、魔操円月輪も使いながらどうにか対処する。

 その後ろに続く華恋も、詠唱破棄で発動させた水と風の混合魔法で周囲の敵を薙ぎ払う。


 二対の小刀が振るわれる度に光球が両断されて、真っ二つになったグロテスクな小型の昆虫人間が魔力の塵となって消える。

 目は完全に退化しており、頭部と思われる部分はパラボラアンテナのようなお椀型になっていた。

 妖精かと思えば、敵はどうやらエイリアンだったらしい。

 

 しかし、倒しても倒しても、敵は次から次から現れて一向に減る気配を見せない。


 零士たちはじりじりと体力と魔力を削られていく一方なのに対し、何故か龍之介だけは、高威力の大技を連発しているのに息切れする様子がまるで無い。

 恐らく、龍之介の言う『気』を使いこなせているか否か。それがこの差を生んでいると思われた。


(魔力の裏側……)


 零士は集中スキルを使い、襲ってくる敵を的確に捌きながら、同時に自分の内側にも意識を向ける。

 丁度、魔操円月輪を操作している最中なので、魔力が自分の中で流動しているのはすぐに感じ取れた。


 腹の中の『どこでもない場所』に、魔力は確かに存在する。

 そしてそれは目に見えない血管を通じて全身を血液のように巡っており、常に体内を流れ続けている。

 実際、魔力欠乏の感覚は貧血のそれに近く、その事からも魔力を『魂の血液』と呼ぶ学者も多い。

 魔力を使う時の感覚は、腹の底に魔力を集めて、それを燃焼させるというのが一般的な認識だ。(ただし感じ方はそれぞれなので別の表現を使う人もいる)


 ともあれ魔力とは目に見えない感覚的なものだ。

 故に、魔力の裏側と言われても、どこが裏側で、そもそも裏などあるのかと、零士にはどうにもピンとこない。

 それでもどうにかこうにか『裏』を探そうと、敵と戦いながら眉間にシワを寄せて自分の内側を探っていると……


「あっ」


 ここで華恋が何かに気付いたように声を上げた。


「おっ、嬢ちゃんはもう気付いたみてぇだな! さっすが、普段から魔法使ってるだけはある」

「凄い……。こんな力が自分の中に眠ってたなんて、今まで全然気づかなかった」

「えっ、ちょ、マジで!? 早すぎない!?」

「おうおうどうしたァ! 彼女に先越されちまったぞ零士ィ!」

「くっそ! んな事言ったってどうすりゃいいんだよ!?」


 零士の顔に焦りの色が浮かぶ。

 いつまでも出来ない自分が劣っているみたいで悔しいが、心は焦ってもスキルのお陰で集中力だけは途切れない。

 そして、焦りながら集中するという矛盾した精神状態は、戦闘中という極限の環境下において、限界を超えた集中力となって現れる。


 襲い来る敵を捌きながら、自分の内側にも意識を向けるという曲芸じみた事を続ける内、零士はようやく、自分の中に在る力の存在を()()()()()


 それは例えるなら空気のようなものだ。

 普段呼吸をする時、空気がそこにあると考えないのと同じ。そこにあって当たり前だからこそ、普段は意識する事すらない。

 たとえ知識としてそこにあると知っていても、実際に水の中に顔を沈めて苦しくなってみなければ、空気の存在を実感できないのと同じだ。


 魔力が精神に由来するエネルギーならば、それはまさしく、全ての命に宿る根源の力。―――――即ち、生命力。

 零士がそれに気付けたのは、つい最近死にかけて、生命力が失われていく感覚を知っていたからだ。

 精神と肉体の関係を表裏一体と考えるならば、成程。確かに言われてみれば『裏側』としか表現できない。


「見つけたッ!」

「よォし! そんじゃァ、ステップ2だ! オメェらが今感じてるその力を外へ向けてみろ! 大声出すとやりやすいぞ!」

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!」」


 二人は声を合わせて、たった今、そこにあると再認識した力を世界へ向けて解き放つ!

 刹那、二人は自分が何倍にも大きく広がったような感覚を得た。


 無数に群がってくる敵の一挙手一投足。どこに意識を向けていて、次にどう動こうとしているのかが、感覚的にわかる。

 空気、水、大地、そして自分。命に繋がる全てには気が宿り、世界はその循環の中で回っているのだと、二人はその瞬間悟った。


「喝―――――――ッ!」


 龍之介が気を込めて一喝すると、轟ッ! と彼を中心に爆風が吹き荒れて、群がってきていた小型エイリアンたちが一斉に吹き飛んだ。

 同時に、突然大量の情報が入力されて頭が真っ白になっていた二人が、はっと意識を取り戻す。

 そんな二人の気配を背中に感じながら、再び襲ってきたエイリアンたちを吹き飛ばしつつ龍之介が叫ぶ。


「今の感覚を忘れるな! 気ってのは、どこにでもあるもんだ! 足りなきゃ他所から借りて使え! そうすりゃ息切れしねぇ!」

「ああ!」「はいっ!」


 気付きは得た。後は実戦の中でそれを扱う技術を磨いていくだけだ。

 幸い、ここはダンジョンの中。

 ダンジョンは一見、なんの脈絡も無く現れる異空間のように見えるが、その本質はむしろ生物のそれに近い。

 ならば当然、ここにも気は循環している。


 敵の数は今や数えきれないほどにまで膨れ上がり、チカチカと輝く色とりどりの光が三人を照らし出す。

 不愉快な虫の羽音が幾重にも重なり、光と音のせいで頭がクラクラしてきた。

 三人は静かに目を閉じ、周囲の『気』に意識を集中させながら走り続ける。


「風遁『風魔手裏剣』」

「詠唱破棄『フレアスパロー』『ライトニングダンス』」


 技に自らの気を上乗せして、周囲を循環する気の流れを変える。

 流れの変わった気は、そのまま周囲の気を巻き込んで大きな流れとなり、それは目に見える結果として現れた。


 零士の風魔手裏剣は巨大な竜巻へと変化して轟々とうねり、周囲の虫型エイリアンたちを巻き込んでさらにその勢いを増していく。

 それに続き、華恋が同時詠唱で発動させた炎と雷の混合魔法は、紫電を纏う巨大な不死鳥となり、その羽ばたきに触れたものを焼き尽くしながら狭い空を駆け抜ける。


 そのまま不死鳥は竜巻と同化して、雷鳴轟く巨大な炎の渦へ変わると、周囲の建物を破壊しながらビルの間を直進して、群がるエイリアンたちを辺りから一掃した!


 通常では考えられないほどの威力を前に、二人は唖然とした表情でその光景を見つめる。

 すると、急に重たい疲労感が押し寄せ、力が抜けた二人はその場にガクッと膝をついた。


「ま、初めてにしちゃ上出来だな。コツは周囲の流れに逆らわねぇことだ。今みてぇに自分の力だけで流れを変えるとすぐに疲れちまって動けなくなるぞ」

「それを早く言えよ……」

「はっはっは! 習うより慣れろだ! 実戦に勝るもんはねぇからな」


 疲れて立てない二人に肩を貸して豪快に笑い飛ばした龍之介は、ひとまず休める場所を探すために窓の溶け落ちたビルの中へと足を向けた。



自分の気は添えるだけ


じいちゃんは探索者時代に謎の老格闘家から気の使い方を教わり、兄貴は生まれつき使えた(天才)


けど、別に悪のカリスマ吸血鬼とは何の因縁もありません。


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