表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/120

夏休みダンジョンウォーズ 3

 華恋の長野行きが決まった翌日。

 再び海外へと戻っていった華恋の両親を空港まで見送りに行き、花沢家まで戻ってきた二人は、電話で剛を誘って、引き出しダンジョンのボスを攻略してしまう事にした。


 今回の南の島での騒動で、零士と剛はレベル35に、華恋は34、マックスと美香は33まで成長している。

 元々、夏休みが始まる直前には、引き出しダンジョンの適正レベルは越えていたので、長野に行く前にボスを攻略しておいて、再編成でダンジョンが使えなくなる期間を有効に使おうというわけだ。

 

 マックスと美香にもこのことはメールで連絡済みで、二人から了解の返事も得ている。

 ボス部屋の扉の仕掛けは、例のコアラを抹殺した時点ですでに解除されているので、後はボスを倒すだけだ。

 予言された世界滅亡まで残り五ヵ月あまり。いつどこで鍵が出てくるか分からない以上、少しも時間を無駄にはできない。


 ……と、そんなこんなでボス部屋の前までやってきた三人は、ボス戦前の最後の打ち合わせを始めた。


「今回のボスはかなりの大型モンスターだ。だから攻撃の要は華恋さんの魔法になる。俺と剛は臨機応変に動き回って、敵の気を引き付けながら時間を稼ぐ。……何か質問は?」


 零士が二人の顔を交互に見ると、剛が手を挙げた。


「適正レベルを越えているとはいえ、たった三人で本当に大丈夫なのか? マックス君と三上さんの帰国を待ってからの方がよかったんじゃ……」

「そこは問題ない。俺に策がある」

「策って?」


 華恋が首を傾げると、零士はニヤリと笑い、その策を二人に打ち明ける。

 それを聞いた二人は驚いたように目を見開いて、それから納得したように頷いた。


「他に質問は?」

「無しッ!」「無いよ」

「OK、そんじゃ行こうか!」


 三人は拳を合わせ、リーダーの零士が機械仕掛けの扉に手を触れる。

 すると、ダンジョン内の仕掛けを解いた事でようやく噛み合ったギアがギリギリと回転して、巨大な扉がゴゴゴゴと開いていく。

 扉の奥に佇む鋼鉄の魔竜の真紅の瞳が彼らを捉え、ギラリと輝きを増した。


「行くぞっ!」

「応ッ!」「うんっ!」


 リーダーの合図で全員が一斉にボス部屋へと突入する。

 ボス部屋は直径100メートルほどの半円形のドームになっており、床や壁は全て溶接された鉄板で覆われている。

 自らの領域に侵入してきた不届き者に、機械仕掛けの巨竜が、背中の排気筒から蒸気を噴き上げ、怒りの咆哮を上げた。



 かの巨竜の名はスチームギアドラゴン。

 総金属製のボディを持つ、全長15メートルのマシン系モンスターだ。

 ワニのように突き出た四本の脚の先にはホイールが付いており、その巨体に見合わぬスピードで縦横無尽に暴れ回る強敵である。


 背中から棘のように突き出た排気筒を見て分かる通り、蒸気機関で駆動しているため、マシン系モンスターながら電気系の攻撃は殆ど効果が無い。

 しかも全身に使われているヒヒイロカネは熱や冷気を通さず、非常に粘り強く固いため、生半可な物理攻撃では傷一つ付けられない。


 だが、関節部や身体中のギアに異物が挟まると動けなくなってしまうため、その隙を付いて腹の下にあるコアを破壊するのがベストの対処法とされている。



 ともあれ――――――戦闘開始だ。


「影分身の術!」


 突入と同時、零士は素早く印を結び、策を打ち出す。

 すると彼の影がズルリと起き上がって、零士そっくりの分身がずらりと九体現れた。

 彼がレベル35になった事で新たに習得した忍術『影分身の術』は、自分の魔力を分割して自分そっくりの分身を生み出す術だ。


 生み出せる分身の数は最大九体までで、分身の性能は生み出した数に比例してパーセンテージで下がっていく。

 例えば、分身を一体だけ出した場合は、本体と比較して90%の力を持った分身が一体出現し、九体同時に出せば10%の力しか持たない分身が九体現れる、といった具合だ。


 今回は生み出せる最大数の分身を作り出し、その『彼ら』を囮役に回し、本人は遊撃に回る事で、人数の不足を補おうという作戦である。


「詠唱破棄『フェアリーシューズ』」


 華恋が移動速度をアップさせる魔法を連続で発動させ、剛と零士本体に魔法が掛かった所で機械竜が動き出す。

 背中の排気筒が蒸気を噴き出し、ギャリギャリとホイールを高速回転させた機械竜が猛スピードで四人をひき殺そうと突進してくる。


 剛と分身たちはそれぞれ左右に分かれて突進を回避し、零士は華恋を背中に背負い、そのまま大きくジャンプすることでそれを躱した。

 彼女を背中に背負った事で、たわわに実った果実がむにゅんと当たり、思わず意識がそちらに向きそうになるが、『集中』スキルで意識を強引に戦闘へと引き戻す。

 コラそこっ! 戦闘中にイチャつくんじゃないよ!


「華恋さんはそのまま魔法の準備! 二人は奴の気を引き付けろ!」

「「「了解!」」」


 攻撃を躱された機械竜は、壁に激突する寸前で手足を動かし、ドリフトするように向きを変えると、機械竜の頭が左右に割れて、そこから細いアームが何本も生えてくる。


 すると、アームの先端に付いた回転刃がギャリギャリと火花を散らして高速回転を始め、アームをワシャワシャと動かし、前方を出鱈目に切り裂きながら、剛の方へ突進していく。


 しかし剛は刃の軌道を正確に読み取り、隙間を縫うように最小限の動きで回転刃の乱舞を切り抜けると、そのまま仰け反るようにして突進してきた本体の股下に潜り込んだ。


「セイヤッッッ!!」


 気合の掛け声と共に放たれた剛の両足蹴りが、真上を通り過ぎようとしていた機械竜の腹を強かに捉えた。

 ドゴォン! と、凄まじい爆音と共にぐわっと持ち上がった機械竜の身体が勢いそのまま吹き飛んで、ドームの壁に激突する。


 その衝撃で背中の排気筒がメキメキとへし折れ、いくつかのギアが歪んで火花を散らす。

 しかし、未だ重要な機関部は無傷なようで、全身からスチームを噴き出しながらガシャガシャと起き上がり、赤い瞳を輝かせて大きく吼える機械竜。

 すると今度は背中のハッチが次々と開いて、そこから大量のミサイルが一斉に発射され、全員に向かって飛んでくる


「煙遁『霧幻(むげん)』」


 零士の分身の一人が印を結び忍術を発動させる。

 魔力を使い果たした分身がボフンッ! と爆発し、煙幕が部屋全体に広がり、標的を見失ったミサイルたちは明後日の方へと飛んで行って爆発四散。

 しかもこの技、奪うのは敵の視界のみで、味方にはその効果を及ぼさないという、中々卑怯な技だった。流石忍者、汚い。


 視界を煙幕で潰された機械竜が、尻尾の先端をプロペラのように回転させて煙幕を散らすと、そこへようやく完成した華恋の魔法が炸裂した。


『ファラオコフィン』


 機械竜の周囲を囲むように砂がドッと巻き上がる。

 砂はみるみるうちにその量を増やしてゆき、あっという間に巨大な砂の棺となって機械竜を捕らえると、その大質量で機械竜の身体を押しつぶしにかかる。

 砂の棺の中に対象を閉じ込め圧殺する土属性の中級魔法(レベル6)『ファラオコフィン』だ。


 しかし、彼女がこの魔法をチョイスしたのは、機械竜を大量の砂で押しつぶすためではなかった。


『ブルーゲルプリズン』


 華恋は続けざまに、水属性の下級魔法(レベル3)を発動させる。

 魔法によって生み出された粘度の高い液体の檻が、砂の棺を包み込んで砂をドロドロの状態へ変えてしまう。

 すると、ドロドロの砂がギアを詰まらせてしまい、砂の中で暴れていた機械竜は完全にその動きを封じられてしまった。


 彼女が大量の砂を生み出す『ファラオコフィン』をチョイスしたのは、細かい砂をギアの奥まで潜り込ませるためだったのだ。

 詠唱破棄を使わなかったのは、巨大な敵を封じるためにはどうしても大量の砂が必要だったからである。


『テレキネシス』


 彼女はさらにそれを念動魔法で押し固めると、機械竜の身体をゆっくりと持ち上げてひっくり返し、コアの隠された胸部装甲の部分だけを露出させた。


『プラズマバースト!』


 如何に熱に強いヒヒイロカネと言えど、超高温のプラズマを同じ個所に何秒も浴び続ければ流石に溶ける。

 やがて赤熱してドロドロに溶け始めた胸部装甲を貫いたプラズマの奔流は、コアを丸ごと蒸発させた。


 コアを失った機械竜はガクンと力を失い、赤々と輝いていた目のライトも壊れた蛍光灯のように消え、やがてその身体はサラサラと魔力の光に変わり、空気へ溶けていった。


 ――――――戦闘終了。


 機械竜が消え去った場所にスチームパンクな意匠の宝箱が現れる。

 それを見て三人はようやくホッと一息ついて、勝利の喜びをハイタッチで分かち合う。

 勝利の余韻もそこそこに、三人は早速宝箱を開けることにした。


 宝箱に罠は仕掛けられておらず、零士が蓋に付いていた赤いスイッチを押すと、ギアが回転して蓋が自動で開く。

 中に入っていたのはスキルキューブが五つと、スクロールが二本、そして用途不明のビンが一つ。


「キューブとスクロールは分かるが……これはなんだ?」

「さぁ……?」

「なんだろうね?」


 ビンは大体500mlペットボトルと同じくらいの大きさで、六角形の薄い青色をしている。

 ビンの口には桃のような形の水晶の蓋が付いており、開けてみると中身は空っぽだった。


「ま、とりあえず全部持って帰って調べてみようぜ」

「そうだな」

「うん」


 ひとまず調べてみなければ分からないという事で、出てきたお宝は一度全て持ち帰ることになった。


リア充(の分身が)爆発した



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ