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夏休みダンジョンウォーズ

この章より三人称視点となります


 襖を取り払い60畳ほどの大広間となった和室に、加苅家の親戚たちが一堂に会していた。


 上は御年100歳の加苅万平(かがり まんぺい)から、その弟で98歳の龍之介、続いて94歳の妹ハツヱ。

 以下それぞれの子供に、孫に、ひ孫に、玄孫(やしゃご)。さらにそこにそれぞれの嫁や婿を加えた総勢32名。


 彼らは全員、万平爺さんの100歳の誕生日を祝うために、今日、ここ長野県は上田市にある加苅本家へと集まっていた。


 当然、そこには加苅和人・零士兄弟と、その父の姿もある。

 そして広い本家の台所では、32人分の食事を用意すべく、親戚の女性陣たちが忙しなく動き回っており、その中には零士の母と、何故か華恋の姿もあった。


 何故彼女が、彼氏の祖父の兄という縁もゆかりもない他人の誕生会に出席しているのか。

 その謎を紐解くには、時間を今より五日ほど巻き戻さねばなるまい……。



 ◇ ◇ ◇



 祖母が倒れたという突然の知らせを受けた零士は、祖父の龍之介と共にその一時間後には飛行機に乗り、帰国予定を一日前倒しにして、南の島から急遽日本へ引き返すことになった。

 マックスと美香は予定通り翌日の朝に二人でアメリカに渡り、剛と涼と華恋の三人も、それに合わせて日本へと帰国することになる。


 約十七時間かけてカリブ海の島から日本へと戻った二人は、その足でひとまず零士の家を目指した。


 突然の龍之介の登場に幽霊でも見たような騒ぎになった加苅家だったが、落ち着いて話を聞いてみれば、祖母が倒れたという話は、どうやら小石に躓いて軽く転んだだけの事だったと判明。

 幸い、祖母は膝を少し擦りむいた程度の軽症で、話だけが伝言ゲームの要領で大げさに伝わってしまっただけだった。


 わざわざ一日かけて南の島からすっ飛んできた二人は、ホッとするのも束の間、すぐさま馬鹿な早とちりで折角の南国気分を台無しにしてくれた母の美月を責め立てた。


「全くお前って奴ぁ! どうして昔っからこうそそっかしいんだ! そういう事はもっとちゃんと確認取ってから連絡しろってんだ!」


「ホントだよ! ばあちゃんが倒れたなんて言うから、無理言ってすぐに飛行機飛ばしてもらったんだぞ!? それが小石に躓いただけって……。俺の夏休みを返せ!」


「わ、悪かったってば! でも、私だって真知子から聞いた事をそのまま電話しただけなんだから、文句言うなら真知子に言ってよ!」


 怒り心頭に発する二人がギャーギャーと騒ぐと、美月は申し訳なさそうに眉を顰めつつも自分は悪くないと反論する。

 ちなみに真知子とは美月の妹で、零士の叔母に当たる人物だ。


「……ったく。姉妹揃ってそそっかしいったらありゃしねぇ」


「はぁ~あ、アホらし。……ったく、こんな事なら予定通り帰ってくりゃよかった」


 今ここにいない人物の名前を出されては、流石に二人も怒りをひとまず収めるしかなく、二人ともそっくりな仕草でボリボリと頭を掻いて、どっかとリビングのソファに腰を下ろした。


「おふくろッ! ばあちゃんが倒れたって本当か!?」


「あ、兄貴」


「おお!? お前、和人か!? 大きくなったなァ!」


「うぉわぁぁ!? じ、じいちゃん!?」


 と、ここで南米はアマゾンから文字通りその身一つで飛んで帰ってきた和人が、加苅家のリビングに姿を現す。

 そしているはずの無い人物の顔を見て、幽霊でも見たかのように真っ青になって口をあんぐりと開けた。


 そんな兄の姿に一周回って冷静になった零士が、驚き戸惑う兄を宥めるように声を掛ける。


「兄貴、落ち着けって。ばあちゃんは無事だ。小石に躓いて膝擦りむいただけの話が大げさに伝わっただけだってよ」


「え? そうなのか? ……んだよ、びっくりさせやがって。あー、よかった」


「で、見ての通りじいちゃんは生きてた。竜宮城みてぇなダンジョンの中で、本人の感覚じゃ2ヵ月ちょっと、無理やりサンバ踊らされてたんだとよ」


「お、おう……? 急に話が意味不明になったな。……なんでサンバ?」


「知らん。ダンジョンに聞いてくれ」


 まあ、そのダンジョンはもう木端微塵に吹き飛んじまったけどな! と大笑いする龍之介。


「なんだよ、生きてたならもっと早く出て来いよ……」


 そんな祖父の懐かしい姿に、思わず目尻に光るものを浮かべる和人。

 かつてはとても可愛がってくれた祖父との17年ぶりの再会だ。無理もない。


「すまんな。まさか外でこんなに時間が経っちまってるなんて、知らなかったんだよ。知ってりゃ無理にでも出てきたんだがなァ……」


「嘘つけ。人魚の胸見て鼻の下伸ばしてたくせによ」


「零士お前ェ! 今それ言うか普通!?」


 なにやらいい感じに誤魔化そうとしているスケベジジイを見て、零士がすかさず横から真実を告げる。


「ああ、このスケベで無茶苦茶な感じ。やっぱ本物のじいちゃんだ……」


「それで本物って認識されるって、お父さんも大概よね」


「うるせぇ! オメェ俺がキ〇タマからひり出さなきゃ今頃この世にいねぇんだからな!? 文句言うな!」


「いや、言い方ァ!?」


 事実とは言え、あまりにも酷すぎる言い方に零士が思わずツッコミを入れる。


 だが、そんな龍之介の態度が懐かしかったのか、母と兄は思わずといった感じで吹き出し、それにつられて父も苦笑する。

 龍之介も態度こそぶっきらぼうだが、その表情はどこか嬉しそうであり、最後には照れくさそうにボリボリと頭を掻いた。


「あ、そうそう。それでなんだけどね?」


 と、思い出したように母の美月が口を開く。

 なんでも、五日後に龍之介の兄の万平爺さんが、100歳の誕生日を迎えるとの事らしく、県から表彰もされるとの事なので、この機に一族皆で集まらないかという話があったらしい。


 お騒がせさせてしまった分のお詫びとは別に、取れたての野菜などお土産も沢山用意しておくから是非にと、本家の方から連絡があったとの事だった。


「そっか、万平爺ちゃんもう100歳になんのか。長生きだなぁ。皆で集まるのって何年振りだっけ」


「四年くらい前じゃなかったか? 成人祝いだっつって、めっちゃ酒飲まされたからな」


「叔父さんたちが酒飲む口実だよな、アレ」


 零士と和人が呆れ気味に笑う。


「まあまあ、今回はお義父さんも帰ってきたんだから、皆で顔見せに行こうよ」


 俺も部長に有休消化しろって言われて、丁度連休取ってたからな。と、父が気楽に笑うが……


「……俺ァ行かねぇぞ」


 龍之介が渋い顔でそれを拒否した。


「はぁ!? 行かないってお父さん、お母さんに顔見せに行かないの!?」


「今更行けるか! 知らねぇ間に17年も経っちまってて、どの面下げて会いに行けってんだ!?」


 そうでなくても家出同然で出てきたんだぞ、今更帰れるかよ、と腕を組んで意地を張る龍之介。

 だが、そんな祖父の態度が気に食わない零士が咄嗟に口を挟んだ。


「……逃げんのかよ」


「あぁ!? んだとォ!?」


「ばあちゃん倒れたって連絡あってから、ずっとやきもきしてたくせして、いざとなったら逃げんのかよ!」


 今回、南の島で偶然再会し、自分が仕舞いこんでいた本当の気持ちに気付くきっかけをくれた祖父に、零士は深く感謝していた。

 どんな新しい事でも素直に吸収するその頭の柔らかさは凄いと思っているし、多少……いや、かなりスケベでも、いつまでも溌溂として元気いっぱいな祖父の事が零士は案外好きになっていた。


 だからこそ、ここまで来てヘタレる祖父の姿など見たくなかったし、田舎で龍之介の帰りを信じて待ち続ける祖母の気持ちを裏切るような彼の態度がどうしても許せない。


「ばあちゃん、ずっとじいちゃんの事心配してたんだぞ!? 絶対生きてるって、葬式も挙げずにずっと待ってるんだぞ!? そこまで思われてて逃げるのかよこのヘタレジジイ!」


「ぐぅっ!? こんの、言わせておけば……っ!」


 怒りに龍之介が顔を真っ赤にして、拳を握りしめて立ち上がる。

 負けじと零士も立ち上がり、万が一に備えて和人が両親を背に庇い身構えた。


 祖父と孫、二人の視線がぶつかり合い、まさに一触即発の空気になりかけた、その時。

 ふと、龍之介が何かを閃いたような顔になり、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。


「だったら条件がある」


「ああ? なんだよ?」


「オメェの彼女も本家に連れて行け。そしたら俺も長野に帰ってやる」


 予想外の一言に意表を突かれた零士は、一瞬ぽかんとして、それから驚愕に目を見開いた。


「は、はぁ!? なんでそこで華恋さんが出てくるんだよ!? 関係ない人間巻き込んでんじゃねぇよ!」


「関係ねぇ事あるかバカ! オメェの未来の嫁だろうが! だったら早い内に本家の人間にも挨拶済ませとくのが筋ってもんだろうがよ。万平兄貴も老い先短けぇんだ。ぽっくり逝く前に挨拶させとけ!」


「んな無茶苦茶な!?」


 龍之介の目論見が、祖母と親戚たちの注目を、自分から零士たちに移そうとしているのは明らかだった。

 しかし、万平爺さんがいつお迎えが来てもおかしくない歳なのは本当の事だし、この機を逃せば次は無いかもしれないのも事実だ。


 万平爺さんは零士にとって、幼い頃から大いに可愛がってもらった祖父のような存在でもあるため、彼の名前を出されると何も言えなくなってしまう。


「えっ!? なになに!? 零士アンタ、彼女出来たの!? あ、もしかして例のあの子!? やぁだもぉ~! アンタも隅に置けないわね! いつから!? いつからなの!? もしかして南の島でロマンスしちゃったのね!?」


 突然放り込まれた息子の恋バナに母が色めき立つ。


「なんだよ零士、お前らまだ付き合ってなかったのかよ。俺ぁてっきりもうくっついてるもんだとばっかり……」


「俺がヘタレてずっと答えを先延ばしにしてたのを、じいちゃんが気付かせてくれた……みたいな」


 弟の意外な一面に和人は「お前もまだまだだな」と苦笑して弟の肩に手を置き、父は「零士ももうそんな年頃か……」などと、息子の成長に目頭を熱くする。


「ところで、あの約束はどうするんだ? まさか付き合ったからそれで終わりなんてことは無いんだろ?」


 と、和人が聞けば、


「当然! 言った以上は最後までやり通すさ。ただ、これからは二人で支え合って進んで行くことにしたってだけだよ。……って、話題がすり替わってるぞ!?」


 すっきりとした顔の零士がそう答え、いつの間にか話題がすり替わっていることに気付いて、龍之介が「チッ、バレたか」と露骨に舌打ちする。


「まあ、兎に角よ。アンタの彼女を連れて行くかどうかは別として、ちゃんと相手のご両親にはご挨拶しときなさいね。明日帰って来るんでしょ?」


「ああ、だから本当はそれに合わせて帰国する予定だったんだけどな!」


 零士がジトッとした視線で、言外に母の早とちりを責める。


「……悪かったってば。あ、それと、一度ちゃんとウチにも連れてくる事! お騒がせさせちゃった事、ちゃんと謝らないといけないし、どんな子なのかも気になるしね。さてと、それじゃお母さん、明日アンタが持ってく菓子折り買ってくるから」


 と、母が強引に話を終わらせたため、その場は一旦お開きとなり、零士はそのまま、祖母の件は母の早とちりだったと仲間たちに一報を入れ、和人と龍之介は積もる話に花を咲かせ始めるのだった。


混沌神「どうだった? ワシの語りは」


藤堂「いや、お前の視点やったんかい!」


混沌神「神様はいつでも皆を見守ってるからね(ゲス顔)」


作者「よければ感想聞かせてね。ただし、元に戻せって言われても、すでに書いちゃった分はどうしようもないから、そこだけは勘弁してくだしあ」



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