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南の島のバーニングラブ! 10

 戦艦の中に飛び込むと急に景色が変わり、目の前に見上げるほど巨大な(ふすま)が現れた。

 龍と虎の描かれた襖に手を触れると、襖がひとりでに開き、その奥にあった襖が次々とスパパパパン! と連鎖するように開く。


 畳張りの大広間の奥には御簾に隔たれた高座があり、そのさらに奥に不気味な影が鎮座している。

 その影が放つただならぬ気配に、私は直感的にそいつがここのボスであると悟った。


 いきなりボス部屋の前に飛ばされるとは、なんて()()()()()だろうか。くそったれめ。

 だが、コイツをぶちのめしてコアを破壊すれば、この騒動も終わりだ。

 よくも私に変態どもを(けしか)けてくれたな。もう許さん、ぶっ殺してやる!


 近くを偶然通りかかった変態が私を見つけ、警鐘が鳴り響いた。

 だが、私が構わず部屋の中に一歩足を踏み入れると、背後で襖がスパン! と閉まり、ボスの正体を隠していた御簾がするすると上に巻き上げられていく。


 ついに姿を現したボスは、この世のものとは思えないほど醜い化け物だった。


『ブルルルルルルルルルルッ!』


 ソイツを一言で表すなら、(たこ)人間だろうか。

 体長は3メートル前後。頭が(たこ)で、身体はまるで、ぶよぶよに太った中年男のようだ。

 しかし、その体表はぬるぬるとした七色の粘液に包まれて輝いており、指先は全て蛸の触手になっている。

 身体中の至る所にギョロギョロと目玉が蠢いており、見ているだけで背筋が寒くなってくる。


 タコ野郎が、目玉と触手が蠢く腕を私の方へと向ける。

 掌にはギザギザの歯が内向きに並んだ円形の口が付いていて、その口の中からピンク色のぬめった触手がずるりと顔を出した。


 ピンク色の触手が矢のように閃き、一直線に私に迫る。

 触手の先端が大きく開いてグロテスクな捕食器官が姿を現すが、私はむしろ自分から捕食器官の中心へと飛び込み、内側から力任せに触手を引きちぎった。


『ブロロロロロロォォ!?』


 触手を引きちぎられてタコ野郎が悍ましい悲鳴を上げる。

 まだまだいっぱいあるんだから、一本くらい無くなったくらいでガタガタぬかすな気色悪いッ!

 すると今度は、でっぷりと太った腹の中央にある一番大きな目玉から、黒いビームが発射された。


「遅いッ!」


 が、しかし、レベルが上がって強くなってしまった今の私からすれば、欠伸が出るほど遅かったので、そのまま一足で距離を詰めると、がら空きの横腹に全力の拳を振り抜いた。

 ぶよっとした嫌な感触が手に伝わり、タコ野郎がゴムボールのようにボヨンボヨンと跳ねながら吹き飛ぶ。


 襖を何枚もぶち抜いてようやく止まったタコ野郎は、しかし何事も無かったかのように立ち上がり、指の触手を伸ばして鞭のように攻撃してきた。

 やはりあの身体が衝撃を逃がしてしまうようで、打撃攻撃はあまり効果がないようだ。


 迫りくる鞭の如き触手の乱舞を躱し、掴み、そして引きちぎりながら、私は徐々にタコ野郎との距離を詰めていく。

 打撃が駄目なら斬撃で仕留めるまでだッ!


「邪ァッ!」


 力いっぱい振り下ろした私の手刀がタコ野郎の腹を深々と切り裂いた。

 切り裂かれた腹からどす黒い体液がドバドバと零れて、私の身体をベトベトに濡らす。ええい、生臭いッ!


 私が切り裂いた腹の傷はあっという間に塞がってしまい、ちぎったはずの触手もいつの間にか元通りに再生していた。

 どうやら生半可な攻撃ではすぐに再生してしまうらしい。


 だったら再生できないくらい徹底的に破壊してやるッ!


 私の身体を絡めとろうと迫る触手を手刀で切り払い、爪で腹を切り裂き、渾身の蹴りでさらにその傷をこじ開け、吹き飛ばす。


 再びゴムボールのように跳ね飛んでいったタコ野郎を追いかけて、起き上りかけたその首を、蹴り上げと踵落としを同時に放ち、挟み込んで一気に捩じ切った!


 全身をズタボロに引き裂かれ、その上首を捩じ切られては流石のタコ野郎も限界を超えたのか、その身体が薄紫の粒子となって霧散する。

 ついでに私の身体に飛び散っていた奴の体液も光となって消えた。


 ……終わった。


 だが、また一気に強くなってしまった。

 こんなに強くなってしまっては、きっと誰も私との初夜に耐えられない。

 早く事態を解決させたい一心でここまで突っ走ってしまったが、私は何ということをしてしまったのだろう。

 こんな滅茶苦茶な女など、一体、誰が愛してくれるというのか……。


 ボスを倒したことで目の前に大きな玉手箱が出現した。

 もしや、これを開けたら皺くちゃのババアになったりするのだろうか。


 半ばどうにでもなれという気持ちで蓋を開けると、煙が噴き出してきてよぼよぼの老婆に……なんて事にはならず、星型のブレスレットが一つ入っているだけだった。

 キラキラと輝いていて、とても綺麗だ。

 その魅力に抗えず、私がブレスレットを腕に填めると……


【現在レベル28。全てのレベルを『星』にチャージしますか?】


 突然、腕輪から機械的な声が聞こえてきた。

 


 ◇ ◇ ◇



 魚人たちに見つかってしまった私は、やむを得ず魚人たちを魔法で蹴散らし強引に道を切り開いて進んでいた。


 エルザたちの話では魚人に捕まっても殺されることは無いという話だったはずだが、どうにも先程から魚人たちは私を本気で殺しにきているような気がする。


 もしかして、サンバの衣装じゃないから、侵入してきた敵と勘違いされているのかもしれない。

 だけど、今更着替えている余裕なんて無いし、よくよく考えたらモンスターが襲ってくるのはいつもの事だ。

 むしろ今まで襲われなかった方が変だったのだ。


「詠唱破棄『ライトニングダンス』!」


 威力を半分にする代わりに、普通なら30秒近くかかるチャージ時間をゼロにして発動した雷の中級魔法(レベル5)が周囲を駆け抜け、踊る雷撃に当たった魚人たちを纏めて黒焦げにする。


 身体が湿っているからなのか、雷の魔法がよく効くのはいいけど、兎に角数が多くて大変だ。

 魔力にはまだ余裕があるけど、これだけ数が多いと出口までたどり着けないかもしれない。


 ……いや、諦めちゃ駄目だ! 私が諦めたら、私に全てを託してくれた人たちの思いはどうなる。

 こんな異常な環境に慣れてしまったら、それこそ人としてお終いだ。

 労働環境がホワイトだからこそ、ここにいたら考える力が奪われてしまう。そんなの、まるで家畜だ。


「詠唱破棄『プラズマバースト』!」


 杖の先から発射されたビームで前方の敵を纏めて焼き払い、開いた道を全力で走る。

 うぅっ、やっぱりスポブラでもちょっと揺れるなぁ。


 けど、ダンジョン装備は重ね着できないから、この装備を着てる間はアマゾネスブラは使えないし、それに折角夏に向けて大きく育てた胸をまた小さくしちゃうのも勿体ない気がするし……。

 今回のためにちょっと大胆な水着だって買ったんだから、あれなら加苅くんだってきっと……。


 いけない。ダンジョンの中なのに、あんまりにも平和だったから緊張感が薄れてる。

 しっかりしろ、私!




 てけり、り……  てけり、り……  てけり、り……




 いつの間にか、周囲から魚人たちが一匹残らず消えていた。

 背後から嫌な気配を感じる。けど、振り向いても何もいない。

 ……なんだろう。嫌だな。早く逃げよう。



 てけり、り…… てけり、り…… てけり、り……



 近づいてきてる。

 走っても走っても、一向に距離が開く気配が無い。

 

『フェアリーシューズ』


 移動速度を上げる風の下級魔法(レベル3)で速度を更に上げて、走る、走る、走る。


 てけり、り……てけり、り……てけり、り……


 だけど、嫌な気配は加速しても尚、私の背中を追いかけ、迫ってくる。

 とうとう我慢できなくなった私は、思わず後ろを振り返ってしまう。



 ……そう、振り返ってしまったのだ。



 てけり、り。てけり、り。てけり、り。てけり、り。てけり、り。てけり、り。てけり、り。てけり、り。てけり、り。てけり、り。てけり、り。てけり、り。てけり、り。てけり、り。てけり、り。てけり、り。



 ドロドロに崩れた顔があった。

 妙に甘ったるい臭いがするタール状の()()は、常にうぞうぞと蠢きながら、私の心を見透かすように、私の大事な人たちの顔を真似て形を変える。

 その顔は私に怒りや失望の表情向け、そして最後は恨めしそうに私を睨んで消えていく……。


 私は、自分の理解を越えた悍ましい何かを前にして、頭が真っ白になってしまった。



「危ないッ!」



 突然誰かに突き飛ばされ、その衝撃でようやく我を取り戻す。

 慌てて飛び起きるとそこに立っていたのは……


「……ぐぅッ!? 雷……遁……ッ『雷切』!」


 彼の手から電流が迸り、手に持った小刀が雷鳴を轟かせながら光り輝く。

 まさしく稲妻のような速度で、振り向きざまに振るわれた小刀は、(うごめ)く何かを切り裂き、激しい電流に晒された()()は、悍ましい叫び声を上げながら稲妻に焼かれて完全に消滅した。


「へ、へへ……。ギリギリ……セーフ……がはっ! ゲホッゲホッ!」


「か、加苅くん!」


 血を吐いてその場に倒れそうになった彼を抱きとめる。

 見れば、その背中には深々と切り裂かれた大きな傷があり、そこから血が止めどなく溢れていた。

 いけない! すぐに止血しないと!


「『ヒーラル』! そ、そんな! どうして!? 血が、血が止まらない!?」


 けど、唱えた魔法は、何かに阻害されるように霧散してしまい、効果を発揮しなかった。


「たい、ない、に……少し、入っちまったか……ゴホッ! 電撃、で、焼き殺すん、だ……。そうすれば魔法を、阻害されなく、なる……ゲホッゴホッ!」


「で、電撃なんて! そんなことしたら加苅くんが耐えられないよ!」


「いいから……やってくれ……ッ。ここに、上級ポーションが……ある。ゴホッ! 電撃で、焼いたら、これを使って……早く……ッ」


 迷っている暇は無い。早くしないと、彼が死ぬ。

 そんなのは、絶対に嫌だ!


「……分かった。私が絶対助けるから! だから死なないって約束して!」


「ああ……約束、する。君の腕を信じる……」


「……ッ! 詠唱破棄『スタンショック』!」


 雷の初級魔法(レベル1)を詠唱破棄でさらに威力を落として発動させる。

 彼の身体に電流が走り、死にかけの身体がビクンと大きく震え、それからピクリとも動かなくなってしまう。

 私はすぐに彼がくれた上級ポーションの蓋を開けて、彼の口に含ませようとするが、彼の口は固く閉ざされており、薬が体内へ入っていかない。


「そんな!? ねえ、加苅くん! 加苅くん! しっかりして! 飲んで! 飲んでよ!」


 揺すっても、頬を軽く叩いても、彼はピクリとも動かない。

 こうなったら……やるしかない!


「……っ、ごめん!」


 私は上級ポーションを自分の口いっぱいに含んでから、彼の唇を舌で強引にこじ開けて、口移しでそれを飲ませた。

 血の味と薬の味が混ざって、思わずえずいてしまいそうになったけど、それをグッと我慢して少しずつ薬を彼の中へと流し込んでいく。


 彼の喉をポーションが下りてゆき、体内へ入る。すると血が止まらなかった傷口はあっという間に塞がって、そこに傷なんて無かったかのように綺麗に塞がった。


 けど、彼の呼吸は止まったままだ。胸に耳を当てても、心臓の音が聞こえてこない。

 諦めるもんか! 諦めちゃ駄目だ! こんな所で彼は絶対に死なせない!


 私はいつか学校の授業で習った事を思い出して、胸部圧迫と人工呼吸を彼に施す。

 何度も何度も、彼が生き返ると信じて繰り返す。

 お願いっ、目を覚まして……っ!


初めてのキスは……(これがやりたかっただけ)



本編の舞台裏 ※ここから先は読み飛ばしてもおk


混沌神「はぁー、前回は藤堂くんに幽霊船ダンジョンそっこーで消されちゃったし、今回はボスめっちゃ強くして難易度ゲロくそ上げてやろwww魔法無効は基本として、物理耐性もくっそ高くしてぇ、ついでに超再生能力もつけちゃえ!」


混沌神「さあ、ワシ渾身のモンスターにヌルヌルぐっちょり●されちゃえ! おや? なんか変なの入ってきたな。まあいいや。スタート地点決めよ(サイコロころりんちょ)」


混沌神「あ、やっべ、クリッた。いきなりボス部屋前スタートかよぉ。ま、いっか、どうせ倒せないしねwww」


姉弟子「虎〇完了ッッッ‼」


混沌神「      」


ちなみに、レベル20の時点で姉弟子の身体能力は藤堂さんのそれを軽く凌駕していた模様。

強い(確信)

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