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南の島のバーニングラブ! 8




 巨大な九頭竜が唸りをあげる度に、大量の海水が水の刃となって空中を飛び回る私たちに襲い掛かる。

 ギーシュがその隙間を縫って九頭竜の首を次々と斬り落としていくけど、斬った部分から新しい首がどんどん生えてきて、攻撃するほどに首が増えて行くからきりがない。


 明らかにモンスターが前回よりも強くなっている。

 恐らく、自身が復活する()()へと世界を修正するために、混沌神がダンジョンコアを通じてこの世界に干渉してきているのだろう。

 でも、裏を返せばこれは私たちが()()のルートを引き当てたという証拠でもある。


 それに、この程度のモンスターで私たちを消せると思っているなら、随分と甘く見られたものね!


「ギーシュ! 兄さん! ()()いくわよ!」


「よしきたっ!」


「OK! 熱々のローストドラゴンにしてやるZE☆」


 私とギーシュが兄さんを挟み込むように移動して、それぞれが戦闘中に少しずつ溜めていた多重詠唱の魔法を同時に発動させる。



 多重詠唱(クアドラブル)『レーヴァテイン』!


 多重詠唱(クアドラブル)『ヴァジュラ』!



 巨大な炎の剣と神の雷、破壊を司る二大属性の超級魔法が、兄さんのパワードスーツの両腕に吸収されていく。

 外部から取り入れたエネルギーによってスーツの機構が展開し、光り輝く巨大なエネルギーの刀身が天を貫いた。



「アーイ、アームァッ、プレジデ────ンツ☆ ヒィ────ハァ────ッ!」



 お決まりのご機嫌な掛け声と共に振るわれた光の剣は、首が増殖しすぎて最早九頭竜ではなくなった化け物の巨体を丸ごと飲み込み、その身体に宿した魔法への耐性すらもぶち破って光の中へと消し去った!

 振り抜かれた光の剣は海を割り、超高温のエネルギーで一気に蒸発した海水が水蒸気爆発を起こす。


 水蒸気が晴れると、そこに化け物の姿は無く、海底に刻まれた深い谷へと海水が流れ込んで海に滝が出来ていた。

 大規模な環境破壊になってしまったけど、魔法で直せるところは後でちゃんと直すから勘弁してほしい。


「イェア! 久しぶりにレベル上がっちゃったZE☆」


「ギーシュ! 行って! 分かってると思うけど」


「タイミング、やろ? まかしとき! ……いや、ちょい待ち」


 ギーシュが幽霊船へ向けて飛び立とうとしたその時、彼がハッとして動きを止めた。


「リープしてきたのね!?」


「いやコレ、ワイが行かんでも上手くいくわ。むしろワイは邪魔にしかならん」


「……どういう事?」


「ま、要するにや」


 彼はそこで言葉を切って、


「主役はあくまで加苅くんやっちゅう事や。前回はロマンスが始まる前にワイがぜーんぶ片してもうて失敗してもうたし、ワイらは今回、見守るだけでえぇ」


 少し寂しそうに笑った。


「で、でも、もしそれで前々回みたいな事になれば……」


「大丈夫。兎に角、今回は手出し無用。それで全部上手くいく」


「……分かった。あなたがそこまで言うなら信じるわ」


 彼がここまで言い切るなら、きっと大丈夫。

 後はあなたたち次第よ、レイジ君、カレンさん。




 ◇ ◇ ◇




「じいちゃんだぁ? バカ言うなぃ、俺にはお前みてぇなデケェ孫はいねぇぞ。一番上の和人がようやく尋常に上がったばっかりだっての」


 思わず漏らした俺の言葉を拾ったじいちゃんが、訝し気な顔で俺を睨んだ。


「……んん? ああ、今はもう尋常なんて言わねぇんだったか……? いけねぇなぁ、酒が回ってボケてやがるぜ。へっへ。まあ、いいから、そんなとこにぶら下がってねぇでこっち来いって。おーい! 人魚のねぇちゃんよーぅ! コイツの分のコレ、用意してくれぃ!」


 酔いが回っているのか、すぐに顔をふにゃりと崩して舞台の上でコントを披露していた人魚に俺の分の酒を持ってくるようにジェスチャーを交えて伝えた。

 人魚はちらりとこちらを見て、はっと驚いたような顔をしてから、笑顔でじいちゃんの言葉に頷いてどこかへと飛んで行ってしまう。


 この場に残ったもう一匹の方の人魚は、俺を見ても襲ってくるでもなしに、ただニコニコと微笑んで空中をフラフラと泳いでいるだけだ。

 モンスターとはいえ上半身は人間の女の子だし、こうまで敵意が無いとどうにもやり辛い。


 どうしたものかと悩んでいると、先程出て行った人魚がお盆に徳利(とっくり)とお猪口(ちょこ)を乗せて戻って来て、ちょいちょいとこちらに手招きしてくる。

 

 ……逃げて騒がれても面倒だし、ここは付き合っておくのが身のためか。

 適当に言いくるめてさっさと花沢さんを探しに行こうと決め、俺は天井から翻るように畳の上に着地した。

 テーブルを挟んで向かい側に座る。


「……俺、未成年だから酒は飲めないぞ?」


「なんでぃ! 俺の酒が飲めねぇってのか!」


「うわっ、アルハラじじい……」


「あぁん? ある……なんだって? 横文字は敵性語だぞコノヤロー!」


 敵性語て。いつの時代の人間だよ。

 ああ、そういえばじいちゃん、もう今年で98になるのか。ぱっと見40代くらいだからすっかり忘れてた。


「アルハラってのはそうやって嫌がる人間に強引に酒を進めてくる事だよこの酔っ払いめ!」


「なんでぃ、嫌なら最初からそう言えっつーんだよ……。すまねぇな、ねぇちゃんよぅ。コレは俺が飲むから代わりにジュースでも持ってきてくんねぇか?」


 人魚は嫌な顔一つせずにこっと微笑んでまたどこかへと飛んで行く。なんて健気な……。


「……ジュースは横文字だけどいいのか?」


「はっはっは! こまけぇ事気にすんなぃ! 言葉なんてなぁ、伝わりゃそれでいいんだよ! まあいいから座れ座れ! 年寄りの孫自慢に付き合えや」


 言ってることが滅茶苦茶だ。さてはこの人、相当酔ってるな?


「俺、急いでるんだけど……」


「あぁん? なんでぃ、てめぇの女でも攫われたか? だったら安心しろ。酷い事はされねぇよ。ただちょっとスケベな恰好で無理やり踊らされるだけだ。えーっと? あの踊り、なんつーんだったかな……確かサン……サンマ?」


「もしかしてサンバか?」


「そう! それだ! サンバサンバ! う~っ、サンバ! つってな!」


 妙に腰の入った動きでオーレィッ! とポーズを取ってガハハと笑うじいちゃん。

 オーレィだとタンゴで、別の国のダンスになるのだが、それはともかくとして。


 それにしても、なんでサンバ……?

 もしかしてじいちゃんも、17年間ずっとここで踊らされていたのだろうか。


「じいちゃんも、ずっとここでサンバ踊ってたのか? っていうか、何でサンバ?」


「んあ? なんか知らねぇけど、踊ってると魔力吸い取られんだよ。それに、ずっとって程でもねぇ。ここに来たのはほんの2ヵ月くらい前だ。二人目の孫が生まれてよぉ。その顔見たら、なんかもう今まで抑えてたもんがドバッと溢れてきちまって。そんで書置き残して世界を回ろうとしたは良いが、捕まっちまってこのザマよ」


 徳利から青く光る謎の酒をお猪口に注いで、それを一気にぐいと呷ってから、


「……ま、案外ここの暮らしも悪くねぇけどな! 休みもあるし、酒も出る。頼めば綺麗な人魚のねーちゃんたちがお酌もしてくれるしなぁ! へっへっへ」


 と、じいちゃんはスケベ丸出しな顔でだらしなくヘラヘラ笑った。

 まさかこの船の動力って、捕まえてきた人たちから吸い取った魔力だったりするのだろうか。


 なんでサンバなのかは、まるで分からないけど。

 それにしても、ほんの2ヵ月とはどういう事だろう。まさか本当に竜宮城みたく、外の世界と時間の流れが違うのか?


「ちっと魚臭ぇが、あの胸は中々見ごたえが……」


「聞いてねぇよ、んな事! 大体アンタ既婚者だろ! 奥さんはどうした!」


 奥さん、というか、俺のばあちゃんの事なのだが。

 今でもあの人、長野の山の中で畑しながらアンタの帰りを待ってんだぞ。

 俺が睨むと、じいちゃんは少し気まずそうな顔でボリボリと頭を掻いて、誤魔化すように徳利から直接酒を呷った。


「……今更戻れるかってんだ。書置きだけ残して家出同然で出てきたんだぞ。どうせ反対されんのは分かってたからな」


「そりゃそうだろ。二人目の孫が生まれたばっかなのに、突然いなくなっちまったって、ばあちゃん凄く寂しそうだったぞ」


「さっきから聞いてりゃオメェ、まるで俺の孫みてぇな言い草だな? え?」


 テーブルに肘を付いて俺を睨むじいちゃん。目が完全に座っている。飲み過ぎだ。


「……そうだよ。俺は加苅零士。アンタの二人目の孫で、外じゃもう17年も経ってんだよ」


「あぁ!? んな訳あるかい! 浦島太郎じゃねぇんだぞ」


「だから今まさにアンタが浦島太郎なんだよ! なんなら証拠もあるぞ。ホレ」


 俺は懐からスマホを取り出して、中学の卒業式の時に撮った写真をじいちゃんに見せた。

 撮影者は父さんで、校門を背景に俺と母さんのツーショットだ。


「あぁ? なんだこの板切れは……って、おいおいおい!? こりゃお前、美月じゃねぇか!? するってぇとこの横に立ってんのはお前か……?」


「そうだよ。今の顔になるまでの過程もあるぞ、ほら」


 気まぐれに撮ってあった写真を時系列順にスライドさせていくと、それと一緒にじいちゃんの口もあんぐりと開いていく。


「……なんてこった。これじゃ本当に俺ァ、浦島太郎じゃねぇか」


「だからさっきからそう言ってんだろ……。外から連れて来られた人に聞かなかったのか?」


「言葉が通じねぇ相手と、どうやって喋んだよ。身振り手振りでなんとなく意思疎通はできるけどよォ、詳しい事までは俺ァ分からん。日本語しか喋れねぇしな」


 ああ、そうか。この幽霊船世界中に出没するから攫われてくる人間も多国籍なのか。

 しかしまあ、日本語しか喋れないくせに旅に出ようなんて、無茶な事するなぁ……。


 じいちゃんの話を信じるなら攫われてきた人たちは一応人並みの生活が保障されているようだ。

 それにじいちゃんがこうして飲んだくれてるって事は、大人しく踊っていればモンスターに襲われたりもしないのだろう。


 ともあれ、花沢さんは無事なようだ。さっさと探し出して連れて帰ろう。


「そんじゃ、俺、もう行くから」


「待て待て待て! ここまで話しといてそのままにしてく奴があるか! もっと色々聞かせろ! ホレ、お前も飲め飲め! ジュースだけどな! ガハハハ!」


 立ち上がりかけた俺の腕をじいちゃんが掴んで引き留める。

 そのまま凄まじい力で強引に座らされると、蓋を開けたコーラのビンが目の前にドンッ! と置かれた。

 今の俺じゃ逆立ちしてもこの人からは逃げられそうにもない。

 ここは大人しく付き合うしかないか。くそっ、厄介なのに捉まっちまったなぁ。


海のゆかいな仲間たち


その2 人魚さん

普通に美人で可愛い人魚さん。いつもニコニコ微笑んでいてとっても楽しそうだぞ! 

人間を見ても一切攻撃してこないし、むしろ健気にお世話しちゃう。戦闘力は皆無だ! 

倒すと莫大な経験値が手に入るけど、全身が猛烈に痒くなる呪いにかかってしまうぞ!


なお、この呪いはどんな手段でも解呪できない! 可愛い人魚さんをいぢめる悪者は自分で全身を掻きむしって死ぬのだ! コワイ!


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