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南の島のバーニングラブ! 6

 ……100回目の誓いのキス。

 やっぱり彼上手ね。何度やってもドキドキさせられちゃうもの。

 1回目は当然、二人の永遠の愛を誓って。

 それ以降は、今回こそ運命を変えてみせるという決意を込めて。


 ここに辿り着くまで、本当に、本当に長かった……。


 同じ時代を何度も何度もやり直し、ようやく運命という名の神のパズルの全体像が、おぼろげながらも見えてきた。

 あらゆる事象は見えない所で密接に絡み合い、ほんの些細な違いが未来では大きな変化を齎す。


 うまくいったと思っても、タイミングや場所が違えば、当然結果も大きく変わる。

 正直、前回はかなり惜しかった。

 封印の鍵も最後の1本を残して殆ど揃っていたのに、それでもあと一歩足りなかった。


 まさか()()()()の関係が進展してないだけで、あんな事になってしまうなんて完全に誤算だった。

 ……もう、二度とあんな悲劇は繰り返させない。


 唇が離れる。

 名残惜しいけど、生きていればキスはいつだってできる。だから今はこれでおしまい。

 私たちの唇が離れてすぐに島全体が激しく揺れて、締め切っていた筈のチャペルの中にも霧が立ち込めた。

 ここまでは前回とほぼ同じ。大変なのはここから。


 霧の中に浮かび上がる巨大なシルエット。

 魔法の風で周囲の霧を一気に吹き飛ばすと、その全貌が姿を現した。

 空を覆いつくすように這いずり回る九本の首が、私を一斉に睨む。


「やっぱりここにおったか」


 霧が晴れると同時に島のどこかへと飛ばされていたギーシュが、飛行魔法で飛んでくる。


「ええ。まずは前哨戦よ」


 彼の言葉に私が頷くと、ジェット噴射の轟音を響かせながら、鋼鉄の塊が一直線に九頭竜の胴体へと突き刺さった。


「OKレッツパーリィ────ッ!」


 巨大なドリルで胴体に風穴を開けられた九頭竜が世界を震わせるほどの大音量で悲鳴を上げる。

 さあ、ここが正念場。女優の本気、見せてあげるわ。



 ◇ ◇ ◇



 秋刀魚男や新顔のマッチョマグロマン(やっぱり全裸だった)を倒しつつどうにか屋敷までたどり着くと、先に到着していた招待客たちの中に師範代がいた。


「おおッ、君たちか。無事だったのだな!」


 師範代もモンスターを倒してレベルアップしたのか、肌の艶がよくなって少し若返っていた。

 ぱっと見、実年齢よりも5歳くらいは若く見える。


「師範代もご無事でしたか。あの、花沢さんたち見てませんか!?」


「すまぬ……。ここに来る途中で見たのは、巨大な九頭竜と戦う藤堂たちの姿を遠目で確認したくらいだ」


 藤堂さん、メアリーさん、ウィルソン大統領の三人は現在、島の東側の海の上を飛びながら、九頭竜の攻撃が島に行かないようにけん制しつつ戦っているらしい。

 世界最高クラスの戦力が三人同時にかかってもまだ倒せていないという事は、恐らくは超級クラスの徘徊型ボスだろう。


 放出されたモンスターの強さに開きがあるのは、幽霊船が特殊なダンジョンだからか……?

 それとも、倒せないのではなく、あえて倒さない事で何かを待っているのかもしれない。


 ともあれ、今重要なのは最高戦力の三人が一か所に釘付けにされて動けないでいるという事だ。


「ああ、それと、涼とマックス君は一緒に飛行場にいると先程有線電話で連絡があったぞ」


「そうですか。よかった……」


 二人の無事を聞いてミカ子がほっと胸をなでおろす。

 と、ここで背中にまちゅみを背負った剛が慌てた様子で屋敷の玄関へと飛び込んできた。


「剛! 無事だったか!」


「ああ、零士君! 大変だ! 花沢さんがマッチョなマグロたちに亀の神輿に担がれて幽霊船の中に攫われてしまった!」


「え? ちょ、な、何!? なんだって!?」


「……やっぱ何度聞いても意味不明よねぇ、これ」


「事実なのだから仕方ないだろうッ!? オレは見たままを話しているだけだッ!」


 剛の背中でまちゅみが呆れている。

 まちゅみの言う事も尤もだし、実際意味不明だが、今はそんな事言っている場合じゃない。すぐに助けに行かないと!

 剛から幽霊船の場所を聞き出して、俺が急いで助けに行こうとすると、


「待ちなさい」


 まちゅみから待ったの声が掛かった。


「これ、持って行きなさい。絶対役に立つはずよ」


「これは……?」


 まちゅみが肩から下げていた蛙の形のポーチから取り出したのは、口元を隠すタイプの黒いお面と、小瓶に入った赤色の液体。

 そして、一本の赤い毛糸だった。


「上級回復ポーションと隠形の面よ。このお面付けてれば、気配が薄くなって敵に見つかりにくくなるわ。アンタ、忍者なんでしょ? これ使ってとっととお姫様助け出してきなさい」


「じょ、上級ポーション!? こんな高いモノ貰えませんって!?」


「貸すだけよ? この『運命の赤い糸』がアンタをあの子の下へ導いてくれるわ。だから絶対、二人で帰ってきなさい。いいわね?」


 まちゅみがずらしたサングラスの下からウインクしてくる。やっぱり顔が引きつっていた。

 これ一本で5000万……。絶対使わずに返そう。


「……わかりました。絶対返します」


 俺がまちゅみに頭を下げて、隠形の面を顔に付けた……その時だ。



 ズドォォォンッ!



 砲弾が炸裂するような音がして、ドアの隙間から侵入してきた霧が屋敷の中を真っ白に染め上げる。


「ヒッ!? ま、また出た!? もう嫌ぁ!」


 ミカ子の声を最後に周囲の喧騒がピタリと止まった。どうやらまたどこかへ飛ばされてしまったようだ。

 霧の向こうから新種の魚人が次々現れて襲い掛かってくる。

 くそっ、安全な場所なんてどこにも無いのか!?


 頭と両腕、そして股間がサメの頭になっている小太りの汚っさんたちの奇襲をひらりと躱しながら、俺は逃げるようにその場から移動した。

 今は1秒でも時間が惜しい。

 戦闘は極力避けて、花沢さんを救出する事だけを考えるんだ。


 道中、何匹か秋刀魚男やマッチョマグロマンを暗殺しながら視界を確保しつつ、どうにか島の西側の岩場まで駆け抜けると、霧の向こうに幽霊船が視えた。

 ちょっと前ならここで行き止まりだったが、今の俺なら……行ける!


 水遁『水蜘蛛』


 『忍術』スキルによって体に染み付いた印を結ぶと、足の裏に魔力が行き渡る。

 半ば確信をもって水の上に一歩足を踏み出すと……浮いた。


 固めのゼリーの上に立っているような感覚だ。二回ほどジャンプして沈まないことを確認した俺は、そのまま全速力で船体の横に開いた穴からダンジョンの中へと飛び込んだ!



 ◇ ◇ ◇



 霧の中で突然、背後からマッチョなマグロに襲われた私は、わけも分からないうちに変なカプセルの中に入れられて、変な神輿に担がれてダンジョンの中へ運び込まれてしまった。


 ダンジョンの中は朱色に塗られた柱が連なる大宮殿だった。

 柱の向こう側は水中になっていて、気持ち悪い魚人たちが無表情でスイスイ泳ぎ回っている。

 なんだか、浦島太郎の物語に出てくる竜宮城みたいだ。……魚たちのデザインが心底気持ち悪い事を除けば。


 大体、なんで皆全裸なの!? そりゃ魚が服着てるのは変だけど、せめて人間部分だけは隠そうよ!?

 おかげで見たくなくても、あっちにブラブラ、こっちにプラプラ、どうしたって見えてしまう。……もうお嫁に行けない。


 色々と最低な竜宮城の中を、最低すぎるお神輿に担がれて進む事しばし。

 私は「どうりょくしつ」とバカっぽくひらがなで書かれた部屋の前まで連れて来られると、そのままお神輿からポイっと部屋の中に放り出された。

 部屋の中に入ると私を閉じ込めていたカプセルがパンッ! と弾けて消える。


 勢い余って床に顔をぶつけてしまい、思わず涙が滲む。

 どうして私がこんな目に……。私、何か悪い事したかなぁ……。


 思わず挫けそうになった心をどうにか奮い立たせて立ち上がる。

 そして、私は目の前の光景に言葉を失った。

 


 ピッピッピーピッピッピピー♪ ピッピッピーピッピッピピー♪


「う~~~~~~~~ッ、サンバッ!」

「サンバッ!」「サンバッ!」「サンバッ!」「サンマッ!」



 踊り狂っていた。兎に角、踊り狂っていた。

 (たい)も、(ひらめ)も、人間も、全員サンバの衣装を着て、軽快なリズムで踊り狂っていた。


 1匹サンバじゃなくてサンマだけど、気にしたら負けな気がする。

 鯛や鮃にはやっぱり人間の手足が生えていて、でも、ここの奴らはちゃんと服を着ている。その事にちょっと感動してしまった自分が嫌だ。


 人間たちの方はと言えば年齢も性別も人種もバラバラで、上は50歳くらいのおじさんから、下は私と同じくらいの女の子まで。

 こちらもやっぱり性別に関係なく全員女性用のサンバの衣装だった。


 踊り狂う彼らの姿を呆然と眺めていると、貝殻のブラを付けた人魚たちが空中をすいーっと泳いできて、私の両脇をがっしり掴んでどこかへと運んでいく。


 突然出てきた()()()()()に戸惑いを感じつつも、『こういしつ』と書かれた部屋まで連れていかれた私はそこで人魚たちに服をひん剥かれて、あっという間にサンバ衣装に着替えさせられてしまう。


 あ、脱がした服は畳んでくれるんだね……。こんなことで泣きそうになるなんて、私、もう駄目かもしれない。



 ピッピッピーピッピッピピー♪ ピッピッピーピッピッピピー♪



「あ、あれ!? か、身体が勝手に……っ!?」


 部屋の外から聞こえてくるサンバのリズムに合わせて、身体が勝手に動き出す。

 自分の意志ではどうすることもできず私の身体は踊りながら「どうりょくしつ」まで勝手に移動して、踊り狂う人々に混じって……う~っ、サンバ!


 リズムが途切れた瞬間、ごっそりと身体の中から魔力が抜き取られたような感覚があった。

 もしかしてこの船の動力って、ここで踊ってる人たちの魔力……う~っ、サンバ!


 ふえぇ……。誰か助けてぇ~! う~っ、サンバ!


イエーイ! サンバサンバ!



アイテム紹介


『運命の赤い糸』

持っていると、その人が探している人や物の場所を「なんとなくこっちいそう(ありそう)」という直感で教えてくれる便利な糸。

ただし、探している人の顔と名前をはっきりと認識していないと使えない。物の場合は形と名前を把握している必要がある。


『上級回復ポーション』

身体の欠損や脳の損傷すら治す、すげーポーション。

先天的な遺伝子疾患にも効果がある。……が、その分お値段は滅茶苦茶高い。


『隠形の面』

付けると気配が薄くなり(実際に半透明になる)、激しく動いても物音が立たなくなる。

ただしニオイは消せないので、目や鼻が良いモンスター相手だとあまり効果は期待できない。


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