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南の島のバーニングラブ! 5

 そいつは人間と魚を適当につなぎ合わせたような醜い化け物だった。

 すね毛ボーボーのオッサンの下半身に、秋刀魚(さんま)の上半身が上向きにそのままくっついている。文字で例えるならアルファベットのAみたいな感じだ。

 たった今事切れたばかりの、まさしく死んだ魚の目が酷く不気味だった。


 だが、やはりこいつもダンジョンのモンスターらしく、すぐに魔力の光になって消えていった。

 あんまりにもショッキングな見た目だったから驚いてしまった。

 それにしたって酷いデザインである。

 くそっ、汚ぇもん見せやがって。なんでよりにもよってフルちんなんだよ。


 思いのほかご立派だった秋刀魚男のイチモツを記憶の奥底に封印した俺は、濃霧の中を慎重に進んで行く。

 早く花沢さんたちと合流しないと。あんな変態モンスターがうろついている中に女子を放置しておいたら大変なことになってしまう。

 一応懐に仕舞っておいたスマホを確認してみるが、やはり圏外になっていた。

 期待はしていなかったが、やはり自分の足で探すしかないようだ。


 周囲の気配を探りながら慎重に進んで行くと、足元の感触が土から砂へと変わった。波の音も大きくなってきている。

 昨日飛行機の窓からみた限りでは、砂浜は屋敷の北側から西にかけて広がっていたので、今俺がいるのはそのあたりだろう。


「嫌ぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 と、ここで霧の向こうからミカ子の悲鳴が聞こえた。くそっ! 手遅れだったか!?

 急いで悲鳴の聞こえた方へ走ると、霧の中でミカ子がミスリルの剣を砂浜にこすりつけて、半べそ掻きながら発狂していた。


 視線を近くの砂浜の上に移すと、そこにはナニを切り飛ばされてビチビチと悶絶している秋刀魚男の姿が。Oh……。

 相手はモンスターだが、そのあまりにも哀れな姿に同じ男として同情の念を禁じ得ない。


「せめて安らかに……南無三ッ!」


 風切で脳天を一突きにして止めを刺すと、秋刀魚男は一筋の涙を流して魔力へと還った。

 敵を倒したからか、また少し視界が広がった。


「やだっ、やだっ! 変なモノ斬っちゃった!? 嫌ぁぁぁぁぁっ!」


「落ち着けミカ子! もう何もいないから!」


「か、かがりん……。うわぁぁん!」


 敵が消えてもなお狂ったように剣の先を砂にこすりつけるミカ子を後ろから羽交い締めにして止めると、彼女は剣を手放してとうとう泣き始めてしまった。

 くそっ、酷い精神攻撃もあったもんだ。


「忘れろ。それが一番だ」


「……ぐすっ……うん」


 泣きじゃくるミカ子の背中を擦ってやりながら、俺たちは島の中央にある屋敷を目指して移動を開始した。

 この島の中で避難できそうな場所といったら、屋敷、チャペル、飛行場のどれかしかない。


 花沢さん……どうか無事でいてくれ。



 ◇ ◇ ◇



「邪ァッ!」


 私が反射的に放ってしまった蹴りが秋刀魚の変態を肉片へと変える。

 身体が真っ二つになったことで秋刀魚と変態が分離して、どちらもすぐに魔力へと還った。

 ああ、くそっ。またやってしまった……。


 倒してしまった秋刀魚の変態はこれで5匹目。当然、モンスターを倒せばそれだけ私のレベルも上がる。

 折角、剛が頑張って私に追いつこうとしているのに、私がさらに差を開いてしまってどうするのだ。


「ああ、嫌だ。これ以上強くなりたくない……」


 レベルが上がる度に婚期が遠ざかる気がして、必死に自分を抑えようとするのだが、女としての本能があの変態モンスターの接近を許さない。

 この霧の中どこへ逃げても周りは秋刀魚だらけで、逃げ場など無かった。

 もう嫌だ。誰か助けてくれ。


 嫌でも強くなってしまうこの状況にうんざりしていると、遠くから銃声が聞こえた。誰かが戦っているのだ。

 その銃声に一筋の希望を見た私は、霧の向こうで戦っている誰かに()()()()()()()()()霧の中を全速力で駆けた。


 途中、飛び出してきた秋刀魚を轢き殺してしまう事故があったが、幸いにもレベルは上がらなかったので問題ない。


 音を頼りにアスファルトで舗装されたまっ平らな地面を走り抜けると、霧の向こうに大柄な人影を発見する。

 向こうも私の接近に気が付いたのか、こちらを向いて銃を構え……って、モンスターと勘違いされてないか!?


「待てーッ! 撃つなーッ!」


「うわぁぁぁぁぁぁぁッ!?」


 私なら撃たれても多分平気だろうが、それでも痛いモノは痛い。

 私は大きくジャンプして、銃を構える大柄な影を上から押さえつけるように組み伏せた。


「むッ? なんだ、マックス君だったのか」


「び、びっくりした……。なんか猛獣みたいな影がこっちに猛スピードで向かってくるから、てっきり新種のモンスターかと」


「失礼な奴だな。こんな素敵なお姉さんがモンスターの筈がないだろう」


「自分で言っちゃうあたり最高にクールですね」


「こう見えて私、意外とモテるんだぞ?」


 なにせ私を娶ろうと道場にやってくる男が後を絶たないくらいだからなッ!

 まあ、その殆どが全く歯ごたえの無い腰抜けどもな訳だが……。

 だからこそ、剛には大いに期待している。アイツが強くなればなるほど、私の夢の実現も早まるというものだ。


「あ、あの……そろそろどいてもらえませんか」


「ん? ああ、すまない。ところで、ここにいるのは君だけか?」


「は、はい。霧が出てきたと思ったらここにいたので、多分皆バラバラに飛ばされたんだと思います」


「やはりそうか……」


 急に足元の感触がアスファルトになったから変だと思ってはいたが、やはりここは島の滑走路で間違いないらしい。

 ともあれ、頼もしい護衛も見つかった事だし、これで安心して移動できる。


「では、とりあえず飛行場の建物を目指そう。そこなら有線の電話もあるだろうし、屋敷とも連絡が取れるはずだ。護衛は任せたぞ」


「涼さんは……?」


「これ以上私が強くなってどうするのだ。それとも何か? 君は私に死ぬまで独身のままでいろと……ッ?」


「と、とんでもございませんッ! よろこんで護衛させていただきます!」


「よろしい」


 私が()()()とマックス君は姿勢を正して敬礼し、周囲の警戒を始めた。

 中々どうしてその動きは様になっている。まるで熟練の兵士のようだ。

 二人で周囲の気配を探りながら、私たちは移動を開始した。



 ◇ ◇ ◇



 突然島が揺れたと思えば、辺りは深い霧に包まれ、気付けばオレは島の西側の岩場にいた。

 昨夜の稽古で壊れた大岩の残骸が足元に散らばっていたので、自分がどこに飛ばされたのかはすぐに分かった。

 だが、こうも次々と敵が現れては息を整える暇もない。


 不安定な足場にも関わらず、秋刀魚男たちは平然と岩場を走破してオレに近づき、刀のように鋭い上半身で出鱈目に斬りつけてくる。

 表情の読めない目で黙々と攻撃してくる様子には、一種の狂気すら感じるほどだ。


 しかし、下半身だけとはいえ人間であるならば、関節の可動域や筋肉の動きもまた同じなので、敵の攻撃を見切るのは容易だった。

 お辞儀するように上半身を振り回す秋刀魚の攻撃を身を屈めて躱し、がら空きの脇腹に踏み込みと同時に肘をねじ込む。


 秋刀魚の身体がくの字に曲がり、近くの岩に激突して魔力の光になって爆散する。

 続けて左右の岩の影から同時に襲ってきた秋刀魚を回し蹴りで纏めて吹き飛ばし、岩の上から飛び掛かってきた秋刀魚の振り下ろしを半身で躱して、その背中に踵を叩き込むッ!


 周囲には秋刀魚男がドロップした新鮮な秋刀魚(普通の秋刀魚だ)が散乱している。

 どれも丸々と太っていて美味そうだ。後で焼いて食おう。


 秋刀魚男の襲撃が止まり、ふと周囲を見渡すと、俺は辺り一帯の霧が晴れている事に気が付く。

 海の方に視線を向けると、俺は霧の向こうに何かの巨大な影を見た。

 

「な、なんだアレはッ!?」


 巨大な影の正体は、ボロボロに朽ち果てた戦艦だった。

 船体にはびっしりとフジツボが付着しており、所々に開いた穴から常に霧を吐き出し続けている。

 折れて錆びた大砲には海草が巻き付いて絡まっており、まさしく海の底から這い出てきた幽霊船といった雰囲気だった。


 謎の幽霊船を前にして唖然としていると、海の上を何かが走っていくのが見えた。


「えっ!? な、なんだ!? ほんと何なんだアレッ!?」


 全裸のマッチョ軍団が亀の形をした神輿を担いで海の上を走っていく……。


 しかも神輿を担ぐマッチョマンの首から上は、マグロのお頭が上向きに乗っている!? なにあれキモイッ!?

 生物として許されざるデザインのマッチョマンたちに恐怖を感じていると、俺は神輿の上に乗せられたものに気付いてさらに驚いた。


「なッ!? 花沢さんじゃないか!?」


 透明な球形のカプセルに閉じ込められた花沢さんが、酷く怯えた様子で膝を抱えて震えている。

 すると、向こうも俺に気付いたらしく、カプセルを叩いて「助けて!」と叫んでいるようだった。


「待ってろ! 今助けに行くぞッ!」


 しかし、海に飛び込んで助けに行こうとしたその時────幽霊船が吼えた。


 幽霊船の折れていない大砲から霧がズドンッ! と吹き出し、俺の近くに霧の砲弾が着弾して辺り一帯が再び深い霧の中へと沈む。

 すると、波の音がフッと消えて、濃い緑のニオイが俺を包んだ。どうやらまたどこかへ飛ばされたらしい。


 大砲が発射される寸前、オレは船体の横に開いた()()()()()()に神輿が飛び込んだのを確かに目撃した。

 くそっ! 早く皆に知らせなければッ!


 焦る気持ちを抑えて周囲の気配を伺う。

 すると、近くの木の上で何かが動く物音が聞こえた。


「そこかッ!」

「キャ────ッ! ホーッホッホッホッ!?」


 気配を感じた木を蹴り飛ばすと、上から驚いた猿が落ちてきた。

 こいつは確か……。


「もぉ~ッ! 何よ何よ、何なのよぉ! お猿は大事に扱いなさいよ全くもぉっ! って、あらあらあらぁん? よくよく見れば昨夜のイイ男じゃなぁい」


 まちゅみだ。



シリアスは死んだ! もういない!


ちなみに僕は秋刀魚大好きです。

脂の乗った旬の秋刀魚を大根おろしと一緒にパクっとね。そんで日本酒をキュッと。


くぅ~! たまらん!


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