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南の島のバーニングラブ! 4

まちゅみタッチダウン!

「なんやなんや!? なんの騒ぎや!?」


「ぎーちゃん! 久しぶり~!」


 騒ぎを聞きつけて藤堂さんとメアリーさんが血相を変えて駆け付けてくる。

 夜の闇を彼の美貌が照らし出して、星たちは輝きを失った。暗い所でみるとやっぱり本当に光ってるんだなぁと改めて実感する。

 すると、暗いからこそはっきりと目立つ美貌を見つけたまちゅみが、キャーキャー言いながら藤堂さんに抱きついた。


「うおっ!? なんや眞澄(ますみ)か。まーたお前は突飛な現れ方しよってからに!」


 抱きついてきたまちゅみの頭を撫でまわしながら藤堂さんは嬉しそうに笑う。


「やぁねぇ、今はお猿のまちゅみよ。メアリーも元気そうじゃなぁい」


()()()()ね。また会えて嬉しいわ」


 笑顔でハグを交わす美女とチンパンジー。ディス●バリーチャンネルで見た事あるぞこの光景。

 というか、藤堂さんとまちゅみ、知り合いだったの!?


「ふふ~ん! 二丁目のチンパンジーは空だって飛ぶし、顔も広いのよん」


 呆然と事の成り行きを見つめる俺たちの心を読んだかのように、まちゅみが振り返ってバチーンとウインクを飛ばしてきた。顔が引き攣って面白い事になってる。


 ま、まあ赤い豚だって飛ぶんだから猿が飛んできても何もおかしくは……いや、絶対おかしい。

 大体あのポッドはなんだ!? お前サ●ヤ人じゃなくてただの猿だろ! 喋る猿は普通の猿ではないけども!


「藤堂さーん! 何か落ちてきたようですけど大丈夫ですかッ!?」


 と今度は剛と涼さんが様子を見に来た。

 涼さんが道着を着ているので、恐らくこの近くで稽古していたのだろう。


「おお、剛くんたちか。大丈夫、ワイの友達が到着しただけや」


「あらぁ! ちょっとしゃくれているけどイイ男み~っけ!」


「なッ!? ち、チンパンジーが喋った!?」


 剛がお喋りチンパンジーに絡まれて驚き戸惑っている。

 その隙に彼の身体をスルスルと登ったまちゅみは、毛量の多い彼の頭の毛づくろいを始めてしまう。もう自由過ぎて何がなんだか。

 やっぱりコイツ、ただのチンパンジーなのでは……?


「ははは、すっかり猿になってもうとるがな」


「あらやだワタシったら! やぁねぇ、もう。油断してるとすぐ猿が出てきちゃうわん」


「えっ、この猿、もしかして元人間とかそういう……?」


「ふふふ……知りたぁい? でも教えてあーげない!」


 頭の上に猿を指差して剛が尋ねるが、オネェチンパンが回答を拒否したため、藤堂さんも肩を竦めて苦笑いするだけだ。なんやねん。


「か、かわいい……」


 と、ここで涼さんが意外な反応を見せた。か、可愛いか? こいつ……。

 まちゅみの頭を片手でがっしり掴んで剛の身体から強引に引きはがした涼さんは、そのまままちゅみの身体を抱き寄せ思う存分撫でまわす。強い(確信)


「ウキャァッ!? ちょ、ちょっとぎーちゃん!? この子何者!? レベルと戦闘力が全然釣り合ってないわよ!?」


 野生の勘か、それともいつか持っていると言っていた鑑定スキルのお陰かは知らないが、食物連鎖の頂点の気配に恐れ慄くオネェチンパン。


「その子な、御剣の娘や」


「ウキャーッ! あの筋肉ダルマの娘!? 嘘でしょ!?」


「なんだお前、うちの親父と知り合いか? 私は御剣涼だ。それにしても、ちょっと獣臭いが毛並みは案外ふさふさしてて気持ちいいな……。よしお前ウチのペットになれ!」


「お断りよぅ!」


 まちゅみが全力で脱出しようと試みるが、地上最強の生物のもふもふホールドから逃れられるわけもなく、結局最後は抵抗を諦めてされるがままになった。


「長旅で疲れたでしょう? まちゅみ用に美味しいフルーツを沢山用意してあるのよ」


「あらぁ、気が利くじゃなぁい。それじゃ遠慮なくご馳走になっちゃおうかしらん」


「よければ君たちも一緒にどうや?」


 思う存分モフって満足した涼さんから解放されたまちゅみが、メアリーさんと藤堂さんに手を引かれて屋敷の方へと連れられて行く。

 この光景、どこかで……ああ、連れさられた宇宙人の写真か。

 稽古で小腹が空いたという剛と涼さんもその後に続く。


 なんだか星を眺めるという気分でなくなってしまった俺たちも、仕方なく屋敷に戻ることにしたのだった。



 ◇ ◇ ◇



 翌日は朝から大騒ぎだった。

 というのも、新婦の兄にして合衆国大統領のマイク・ウィルソン氏が突然、厳ついパワードスーツで()()別荘の中庭にすっ飛んできたからだ。


 ジェット噴射の轟音が朝の静寂を破り、突然メタリックなパワードスーツが飛来したかと思えば、中から大統領が豪快なスマイルを浮かべてひょっこり顔を出せば、招待客たちがパニックになるのも無理はないだろう。


「HAHAHA! やあやあ皆さん! 合衆国大統領のご到着だゾ☆」


 招待客たちがそれぞれの部屋のテラスまで出て何事かと顔を出す中、大統領が顔を出した全員に向かって大きな手を振った。

 すると騒ぎを聞きつけた新郎新婦が中庭に駆け付けて、パワードスーツの中からよっこらせと出てきた世界最強の大統領を笑顔で出迎える。


「ようやく来たわね兄さん!」


「オーウ、遅れてすまないメアリー。遅刻しそうだったからコイツですっ飛んできたZE☆」


「マイク! 忙しい中よく来てくれた!」


「HAHAHA! 当然だろう。なんたって大事な妹と旧友の結婚式なんだからな! 今日やるはずだった予定は昨日の内に全て片付けてきたさ」


 3人は英語で話しているので全ては聞き取れなかったが、どうやら大統領は仕事を全て片付けてからそのままここへ駆け付けたらしい。

 このフットワークの軽さも、全ては彼が世界最強の政治家(物理)だからこそ実現できることだ。

 経費削減だと言って1人でテロリストの拠点に殴り込みに行く破天荒大統領の名は伊達ではない。


 そういえば、今この島には世界のトップ戦力が集結していることになるのか。

 これほどの戦力が揃っていても、それでも何度もやり直してるんだよな……。


「……ッ! うしっ!」


 頬を両手で叩いて喝を入れ直す。

 世界が俺たちを殺しに来るっていうなら、迎え撃って踏み越えてやる!




 ◇ ◇ ◇




「夫、ギーシュは、妻メアリーを健やかなるときも病めるときも、常にその隣に寄り添い愛することを誓いますか?」


「誓います」


「妻、メアリーは?」


「誓います」


「では誓いのキスを。ご来席の皆様、日食グラスをおかけください」


 神父の前で二人は誓いあい、チャペルの中にいる全員が事前に配られていた日食グラスで目をガードする。

 来席者たちは全員、それぞれの現役時代の装備に身を包んでいる。


 ()()事情を知らない招待客たちには、探索者同士の結婚式なのだから、それにふさわしい恰好でやりたいと藤堂さんは説明していた。

 彼らにも然るべき時に全てを打ち明けるらしい。

 今更ながら、手紙に装備を持って来いと書いてあったのは、今日の事を見越しての事だったのだ。


 新郎新婦の唇が重なり、今、地上に二つ目の太陽が生まれた。

 真っ白に染まったチャペルの中で100回目になる誓いのキスをする二人は、一体何を思っているのだろうか。


 重なっていた唇が離れると、拍手が巻き起こった。

 ……と、その時である。



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!



 突然、島全体が激しく揺れた。

 チャペルが軋みを上げて天井から白い粉がボロボロと降り注ぐ。

 すると、チャペルのドアや窓の隙間から霧が入り込んできて、あっという間に自分の身体すら見えないほどの濃霧に包まれてしまう。


 慌てて隣に座っていた花沢さんの手を握ろうとしたが、すでにそこに彼女はおらず、それどころか騒然となっていた来席者たちの声もいつの間にか聞こえなくなっていた。


 不気味なほどの静寂に包まれる中、俺は腰に差していた風切と雷切を構える。

 俺たちの装備は邪魔にならないようにと、花沢さんが全部アイテムボックスに入れて持ってきてくれていた。

 剛だけ装備が無いまま来てしまったが、彼は装備など無くても十分に強いので大丈夫だと信じたい。


 一寸先も見えない濃霧の中、集中スキルを使いながら音だけで周囲の様子を伺う。遠くから波の音が聞こえる。

 それと、いつの間にか足の裏から感じる感触がチャペルの床から土へと変わっていた。

 どうやらチャペルにいた人間は全員、この霧のせいで島のあちこちに転移させられてしまったらしい。




 ヒタ ヒタ ヒタ……




 何かの足音が聞こえた。ぬたぬたと湿った、不快な足音だ。



 ヒタ、ヒタ、ヒタ……



 近づいてくる。だが、音が反響してどこから来るのかはっきりしない。

 湿った空気の中に生臭いものが混ざり始める。生魚みたいな、嫌な臭いだ。


 ヒタヒタヒタ……


 近い。スキルを総動員して集中すると、背後で微かに空気が動くのを感じた。

 そこか────!


 振り向きざまに雷切と風切を交互に一閃。

 何か硬いものを切り裂く感触が手に伝わり、ゴボゴボと泡を吹くような音が聞こえて、それからドサッと何かが倒れた。

 何かを倒したお陰か霧が少しだけ晴れて視界が僅かに広がり、今倒したものの姿が霧の中に浮かび上がる。


「な、なんだよこれ……!?」


おや……? 霧が出てきたようだ。

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