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南の島のバーニングラブ! 3

「…………は? え……め、滅亡するって、本当に……?」


「マジもマジ。大マジや。今年の12月31日、地球は超巨大なダンジョンと化してまう。世界は超級モンスターに蹂躙され、文明は悉く破壊される。……終わりや」


 悪い冗談……では、ないんだよな。

 彼に冗談を言っているような気配は無いし、そもそもそんな冗談を言うために俺たちを呼び寄せる意味が分からない。


「そ、そんな……! で、でも、どうしてそんな事が分かるんですか!?」


 花沢さんもこれが冗談の類では無いと察したのか、顔を青くして彼に尋ね返す。


「……見てきたからよ。実際に」


 するとメアリーさんがポツポツと、苦い記憶を絞り出すように全てを語り始めた。




 全てを語るには、まずメアリーさんの正体について触れなければならない。


 彼女は『今年の2月に藤堂儀十郎が死んだ世界線』からタイムリープしてきた時の旅人だった。

 その世界線でも『12月31日』に地球のダンジョン化が起きて、彼女はその時偶然、宝箱の中から『時間逆行』のスキルを手に入れたらしい。


 『時間逆行』は、今の自分の精神を過去の自分に送ることができるスキルで、過去に送れるものは『今』の記憶と『時間逆行』のスキルのみ。


 それ以外のスキルやレベル、習得していた魔法などは、遡った時点の状態までリセットされる。

 遡れる時間は消費した魔力の量によって決まり、元々の世界線ではただの一般人だったメアリーさんは、何度も時間逆行を繰り返して15歳の時点まで時を遡り、世界の破滅に抗うための力を付けるべく探索者となった。


 そして有名になる前の藤堂さんと出会い、一緒に冒険を重ねるうちに互いに信頼を築いてゆき、やがて信頼は愛へと変わる。

 しかし、藤堂さんは元々の世界線では今年の2月には死亡が確定しており、世界を救うためには彼の力が必要だと考えたメアリーさんは、その運命を覆すため何度も時間を遡った。


 その結果、彼の運命を変える鍵となったのが────



「レイジ君。そして、カレンさん。あなたたちよ」


「いや、でも待ってくださいよ! 俺たちが蛙になった藤堂さんを見つけたのなんて、本当にただの偶然なんですよ!?」


「そうね。でも、それは偶然という名の必然。あなたたちはこの世界の特異点なのよ」


「特異点……?」



 聞くと、どうやら俺たちはそれまでの世界線では、その存在すら確認できなかったらしい。

 メアリーさんが時間を何度も遡り、過去を大きく改変した事でバタフライエフェクトが発生し、その影響で俺たちが生まれた事で、藤堂さんの死の運命は覆される事になった。


 だが藤堂さんの死の運命が回避されても、まだ世界の滅亡を回避できた訳ではなかった。



「当然、最初は彼と一緒に滅亡を回避するため手を尽くした。……でも、私たちだけじゃ駄目だったのよ」


「世界滅亡の原因は南極ダンジョンの奥に封印されとる『混沌神』や。そいつが今年の12月31日に復活すると、混沌神の力でこの星はダンジョンになってまう。最近世界中でダンジョンが増えまくっとるのも、そいつが目覚める前兆や」


「混沌神……」


 そんなものがダンジョンの奥に……。


「……そいつは藤堂さんでも倒せないんですか?」


「死の運命を回避してからワイもようやく『時間逆行』のスキルを手に入れてな。ほんで何度か挑んでみたけど、アカンかった。完全復活した混沌神にはあらゆる攻撃が効かんようになってまうねん」


「勿論、ダンジョンごと消してしまおうとも思ったわ。でも、ダンジョンを消しても、混沌神の本体は他のダンジョンへ移るだけで、世界の滅亡を防ぐことはできなかった」


「せやから、奴の復活を阻止するためには、完全復活する前に倒してしまうしかあらへん」


「そして、その封印を解くための鍵の1つを、あなた達は持っている」


「……鍵? って、もしかしてコレの事ですか?」


 そう言って花沢さんは首から紐で吊り下げていた天秤型の鍵を取り出す。

 ゴブリンキングの宝箱から出てきて以来、ずっと使わないままだったからすっかり忘れていた。


「そう! それや!」


「これでようやく9つ。残る鍵は3つね」


「俺たちも忘れかけてた事を知ってたって事は……」


「信じてくれたか? ワイらの話」


 信じたくは、ない。

 けど、すでに証拠は示されてしまった。

 くそっ。世界滅亡とかそんなの、どうすりゃいいんだ。


「で、でも、どうしてこのタイミングで私たちにそんな話を聞かせたんですか? 鍵が必要なのは分かりますけど……」


「言ったでしょう? 私たちだけでは駄目だったって」


「ワイらで鍵を集めようとしてもな、どーしても、最後の4本が出て来ォへんねん」

 

 なんでも、残りの鍵はこれから俺たちが挑む事になるダンジョンの宝箱から出てくるらしいのだが、藤堂さんたちが代わりにそのダンジョンを攻略しても鍵は出て来なかったらしい。

 そのあたりにも俺たちが『特異点』である事が絡んでいると彼らは睨んでいるようだ。


「最後の鍵が見つかるタイミングは毎回違っとったみたいやから、確かな事は言えへん。せやけど、この事を君たちに話しておかんと、Xデーの前にワイらの下へ鍵が揃わんのは確かや」


「だから今日のタイミングで打ち明けたのよ。いえ、むしろ今日以外に打ち明けるタイミングは無かったと言った方が正しいかしらね。私たちの口からあなた達に直接伝える事に意味があるの」


 ……と、言われても、『今』しか生きられない俺には、いまいちピンとこないのだが。


「……一つ、聞いてもいいですか?」


「ええで。何でも聞いてくれ」


「この結婚式。何度目ですか?」


 藤堂さんの顔から、表情が消えた。

 しかし彼はすぐに、とても言いづらそうにして、ため息交じりに答える。


「…………丁度今回で100回目。この島で式挙げるのは3回目や」


「そ、そんなに……」


 花沢さんの顔がさらに青ざめる。恐らく、彼女も俺と同じことを考えているに違いない。

 もしかしたら、俺たちはその99回の中で、何度も死んでいるのではないか。そんな恐ろしい想像が頭を過る。



 花沢さんが死ぬなんて、今まで全然、考えたことも無かった。

 彼女のいない日常。そんなの、想像するのも嫌だ。

 ……花沢さんがいなくなるなんて、そんなの絶対に、嫌だ。



「……明日、何が起きるんですか」


()()()が来る」


「ヤマト……って、あの『大和(やまと)』ですか?」


 彼の口から出た意外な言葉に俺は思わず聞き返す。

 大戦中に沈んだ船が来るって一体どういう……。


「せや。まあ、正確には内部がダンジョン化した超特殊移動型ダンジョンやけどな」


「えっ、でも確か、ダンジョン化した建物って空間に固定されちゃうんじゃ……」


「せやから『超特殊』やねん。どういう理屈で動いとんのかは知らんけど、『奴』は海の底を常に移動しとる。ほんで、気まぐれなタイミングで陸に近づいて、特殊な霧と一緒にモンスターを撒き散らすんや」


 なんでも、その霧には触れた者を霧の中の別の場所にランダム転移させる力があるらしい。

 霧はモンスターを倒すごとに自分の周囲から少しずつ晴れていくらしいが、しばらくすると戦艦がまた霧を吐き出すので完全に晴れる事はないのだとか。


「何度やり直して探しても、出現する場所とタイミングがランダムなせいで、前もって処理もできひん。しかも通常のダンジョンと同じで外からの破壊も不可能や。ホンマ、迷惑なやっちゃで……」


「それでも、ここで結婚式を挙げれば奴は必ず、あなたたちに引き寄せられて現れる。囮にしているようで悪いけど、深海に潜られては流石に探しようが無いし、ここで潰しておかないと後々不味い事になってしまうから、放置もできないのよ……」


 メアリーさんが僅かに眉をひそめて、どこか遠くを見るように言う。

 恐らく、その『不味い事』を思い出しているのだろう。


「そんな訳やから、明日が正念場や。明日さえ無事に乗り切れば、運命の歯車はまた一つ切り替わる。せやから明日は絶対に生き残ってくれ」


「……大丈夫。今度こそ、絶対に上手くいくわ。絶対に……」


 メアリーさんが俺たち二人を抱き寄せて、自分に言い聞かせるように呟く。

 一体、この人はどれほどの時間をやり直してきたのだろう……。『今』しか生きられない俺には、彼女の苦悩を知る術は無い。

 だが、俺にもできる事はある。『今回』で全てに決着をつけてやることだ。そのためにも、明日は絶対に生き残らなければいけない。


「話はこれで終わりや。すまんなぁ、急にこんな重たい話聞かせてもうて」


「……いえ。それにまだ失敗すると決まったわけじゃないですしね。むしろ明日は全員で生き残って、最高の結婚式にしてやりましょうよ」


「……そうね。明日こそ、素敵な結婚式にしてみせるわ」


 話も終わりのようなので、俺たちは二人に挨拶してから部屋を出る。

 だが、このまま部屋に戻って長い夜を過ごすには、あまりにも話の内容が重すぎた。


「……少し、歩かない?」


「う、うん……」


 俺は花沢さんを連れて、屋敷を出る。

 屋敷の裏はビーチになっていて、上を見上げると満天の空が広がっていた。


「わぁ……!」


 日本では中々お目にかかれない夜空に、花沢さんが感嘆の声を漏らす。

 星明りにうっすらと浮かび上がる彼女の無邪気な横顔に、思わず胸が高鳴る。


 しばらく無言で砂浜を歩くと、丁度いい感じの流木を見つけたので、二人でそこに腰かける。

 二人ともそれっきり黙ったまま、ただじっと空を見上げた。

 波の音が心地よい。言葉は無くても、確かに彼女の存在を感じられる。



『明日が正念場や。明日さえ乗り切れば運命の歯車はまた一つ切り替わる』



 先程の藤堂さんの言葉が頭の中で何度も繰り返し再生される。

 あの世界最強の探索者でさえ、何度もやり直さなければいけないような運命に、俺たちの力が果たしてどこまで通用するというのか。



 もし、乗り越えられなかったら……?



 考えないようにしようとすればするほど、最悪の想像で頭の中が埋め尽くされそうになる。

 思い出すのは、林間学校の時の彼女の涙。俺は、もう二度とこの子にあんな顔をさせたくない……。


 俺たちのどちらが欠けても駄目なのだ。二人が揃っていなければ、俺たちの約束は果たされない。

 世界の破滅とか、ぶっちゃけ、そんなのどうだっていいんだ。



 俺は、



「あ、あのさ……っ」「あ、あの……っ」


 自分でもよく分からないまま思わず口を開くと、全く同じタイミングで彼女も何か言いかける。

 何となくお互い気まずくなってしまい、ふと空を見上げると、


「あっ! 流れ星!」


「ホントだ! ……って、なんかこっちに向かってきてない!?」


 夜空を一筋の光が駆け抜けたかと思えば、その光が徐々にこちらに近づいてくるではないか。って、おいおいおい!?

 慌てて花沢さんを砂浜に押し倒すのと、流星が近くの砂浜に落ちたのはほぼ同時だった。


 墜落の衝撃で砂が一気に舞い上がり、俺の背中に降り注ぐ。……が、思ったほどの衝撃が無い。

 恐る恐る顔を上げて、落ちてきた流星(?)の方を確認する。

 落ちてきたのは隕石では無く、直径1・5メートルくらいの球形のポッドだった。

 ポットのハッチが開き、中から姿を現したのは────


「はぁ~どっこいせっと。あ~っ、疲れた……。やっぱポッドは窮屈で駄目ね。……って、あらあらあら!? アンタたち、ま~た意外な所で会ったわねん!」


 


 ハイビスカス柄のアロハシャツと、星型のサングラスをかけた喋るオネェチンパン。まちゅみ☆キャンタマーニュだった。




まだだ……! まだ言わせない……! ここぞって時までとっておくんだ……ッ‼


メアリーさんの裏プロフィール。

世界の破滅に抗うため何万回もタイムリープを繰り返し、シュタ●ンズゲートの先を目指す時の旅人。

まさに時をかける……少女って歳でもねぇな。


元々の時間軸ではごく普通の一般女性だったが、滅亡後の悪夢のような世界を体験して、絶対に未来を変えてみせると決意し、過去に戻って、破滅に抗うための力を得るために探索者の道を目指した。

女優になったのも破滅に抗うための人脈を作るため。

全ては愛した人と共に世界の先を目指すために……。


藤堂さんの死因は主に超級ダンジョン探索中の事故。

探索中に死ぬなら行かせなけりゃいいじゃんと引き留めたら、今度は世界中の超級ダンジョンが同時多発的にハザードを起こすのでどっちにしろ大惨事。


何度も何度も失敗しては繰り返し、その結果辿り着いた最善のルートが『今』です。

招待する人(招待客についてきた人も含む)、場所、式を挙げる時期などなど、全ては確定した破滅に抗うための布石。

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[一言] あっ…殺意湧いたよ…作者さん…
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