LONG☆LONG☆AGO エピローグ
絶えず流れゆく激流の如く、はたまた、打てば返す相槌の如く。
2人の戦いは30分以上も途切れることなく続いた。
目を、顎を、鳩尾を、腹を、股間を、互いの急所を狙いあう必殺の一撃は、しかしそのすべてが円の動きで逸らされる。
相手の腕を掴んでへし折ろうとすれば、身体ごと回転してその拘束から逃れ、服を掴んで寝技に持ち込めば、超人的な膂力で相手の身体ごと持ち上げて強引に振りほどく。
「……これほど長くあの子が戦っていた事が、未だかつてあっただろうか」
ふと、俺の隣に立ち2人の決闘を見守る師範代が呟いた。
「あの……涼さんって本当にレベル1なんですか? いくら武術の達人って言っても、レベル30の、しかも純粋に強さだけを求めてレベルを上げてきた剛と互角に渡り合うなんて……」
「違うのだ。……あの子は武術を修めたから強いのではない。あの子が強いのは生まれつきのものだ」
聞けば、涼さんは生まれつき筋力が異常に発達していたらしい。
医者の話によると、それらを支える骨の強度も常人の数十倍はあるとの事で、幼いころから彼女はその有り余るパワーの制御に苦心していたようだ。
師範代はあえて娘に武術を学ばせることで、己の力を制御させる術を彼女に身につけさせ、同時に人を傷つけないための技も学ばせたのだと言う。
つまり彼女にとって武術とは己の有り余るパワーを制御するための枷であり、人をいたずらに傷つけないための最大限の手加減なのだ。
それを聞いて、俺はようやく得心がいった。
彼女が己の伴侶に強さを求めていたのは、そういう理由だったのだ。
生まれながらにして最強の宿命を背負った彼女を、空を這う龍に例えるなら、地を這い努力を以て空を征く龍に追いすがろうとする剛は、まさしく虎だろう。
永遠に終わらないかとも思われた龍虎相まみえる激闘は、しかし唐突に終わりを迎えた。
一瞬、互いの呼吸が乱れこの勝負の中でお互いに最大の隙が生まれる。
そこを逃すまいとほぼ同時に繰り出される掌底。先に届いたのは────。
「………………参りました」
コンマ数ミリ。涼さんの方が早かった。
顎先にピタリと寸止めされた彼女の掌に、剛の額からぶわっと汗が噴き出る。
彼女の勝ちだ。
「そこまでッ! この勝負、涼の勝ちとするッ!」
師範代の言葉に構えを解いた2人は元の位置まで下がって、手を合わせて頭を深く下げる。
同時に、それまで張り詰めていた空気が緩まったのを肌で感じた。
「……強くなったな、剛」
先程までとは別人のように穏やかな顔つきになった涼さんが、剛に手を差し伸べる。
「今なら勝てると思ったんですけどね……まだまだでした」
その手を取って苦笑する剛は、やはりどこか悔しそうで、
「だが、これほどまでに私を楽しませてくれた男は、未だかつてお前だけだ。……ふふっ、そうかそうか。あの『しゃくれ小僧』がここまで強くなったか」
だけど、そんな彼の成長が心の底から嬉しくてたまらないらしい涼さんは、思わずといった風で笑みを零した。
「小僧って……涼さん、オレと4つしか歳違わないでしょうが」
「何を言うか。お前がこの道場を初めて訪れた時なんて、まだこーんなに小さくて、まるで小学生みたいだったじゃないか。物陰に隠れて私の稽古姿をこっそり見つめるお前は中々可愛かったぞ?」
「なっ……! し、知ってたんですか……」
「当然だ。私を誰だと思っている。全く、少し見ない間に随分といい男になりおって」
「い、いやぁ。ははは……」
剛が照れくさそうに頭を掻いた。
「確かに今回は私の勝ちだった。……しかし、いつまでもそうとは限らん。だから、もっと強くなれッ! そして次こそは私を娶ってみせろッ!」
「……ッ!?」
「ふふっ、お前なら私がババアになる前に嫁にしてくれそうだ。期待してるぞ?」
「……ッ、ハイッ!」
威勢よく返事する彼の瞳に微かに光るものが浮かぶ。
師範代などは「ワシの目に狂いは無かった」などと言いながらすでに号泣しており、門下生たちも皆、嬉しそうに道着の袖で涙を拭っている。
ミカ子も場の空気にあてられたのか感涙に咽ていた。
やっぱり涙もろいな、アイツ。
今回の戦いは剛の負けに終わったが、どうやら2人の関係は一歩前進したようだ。きっとこれからも、彼は更なる強さを求めてダンジョンへ挑み続けるだろう。
こうして、俺たちの道場ダンジョン攻略は無事大団円を迎えたのだった。
◇ ◇ ◇
「はい、つーわけで、皆お待ちかねの戦利品の分配をしようと思います!」
翌日、花沢さんの家に集まった俺たち5人は、昨日のダンジョン攻略で得た大量の戦利品の分配をすることにした。
まずは一番数が多いスキルキューブの分配からすることになり、丁度人数分で割り切れるという事で、それぞれ3つずつスキルを習得する事になった。
それぞれが選んだスキルとその効果は次の通りだ。
【俺】
『集中』
その時の精神状態に関わらずいつでも深く集中できるようになる。
『忍術』
魔力を消費して様々な忍術を使えるようになる。
使える忍術の数はスキル所有者のレベルが5の倍数に達するごとに増えていく。
『俊足』
停止状態からトップスピードを出すことが出来るようになる。また、走る速度が2倍になる。
【花沢さん】
『消費魔力軽減』
魔法や一部の魔力を使用するスキルを使う際、消費する魔力が2分の1に減る。
『催眠無効』
催眠攻撃を無効化する。また、洗脳されなくなる。
『詠唱破棄』
威力が2分の1になる代わりに魔法を使う際の魔力のチャージ時間をゼロにすることができる。
発動ワードの頭に『詠唱破棄』と付け加えて唱える事でこのスキルの効果は発揮される。
【ミカ子】
『盾術』
達人級の盾技能を習得できる。
『魔剣』
魔力を消費して様々な魔剣技が使えるようになる。
使える魔剣の数はスキル所有者のレベルが5の倍数に達するごとに増えていく。
『石化無効』
石化の状態異常に対する完全な耐性を得る。
【剛】
『頑強』
身体が頑丈になる。また、このスキルの効果はレベルが上がるほど高くなる。
『剛力』
筋力が上がる。また、このスキルの効果はレベルが上がるほど高くなる。
『盲目無効』
盲目の状態異常にならなくなる。また、真っ暗闇でも目が視えるようになる。
【マックス】
『スタミナ消費軽減』
とても疲れにくくなる。
『超回復』
傷の治りが早くなり、疲労の回復に掛かる時間が大幅に減る。
『火炎無効』
炎属性の魔法攻撃、及び物理的な高温に対する完全な耐性を得る。
ねんがんの、ニンジツを、てにいれたぞ!
うーむ、更なるニンジャアトモスフィアの増大を感じる。これでますます俺もニンジャらしくなったと言えよう。
スキルの分配も終わり、全員が新スキルを習得した所でいよいよ本命に移る。
今回、宝箱から出てきた2つのフルセット装備、それぞれの効果は次の通り。
コマンドーシリーズ ※男性専用特殊装備
※が付いている装備効果および統一効果は装備者のレベルを消費した時にのみ発動。
1レベル消費ごとに1秒間効果が発揮される。
レア度☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【武器】
無限ミニガン:弾数無限(ただし撃ちすぎるとオーバーヒートしてしばらく使用不能になる) ※ホーミング弾
【防具】
フェイスペイントシール:精神攻撃耐性(大) ※身体能力上昇(極大)
コマンドーベスト:物理耐性(大) ※状態異常無効
マッチョマンリストバンド:筋力上昇(大) ※射撃攻撃威力3倍
ミリタリーパンツ:移動速度上昇(大) ※魔法無効
コマンドーブーツ:地形ダメージ無効 ※疲労回復速度上昇(極大)
コマンドーシリーズ統一効果その1:特殊スキル『コマンドー』習得。
特殊スキル『コマンドー』
グリーンベレーの熟練兵士と同等の技能が使えるようになる。
※その2:無限ミニガンが無限ガトリングレールガンに変形する。
「弾数無限か。二週目特典のチート装備かなこれ」
「まあ、レア度9だしな。でも、レベル消費しなきゃそれほどでもないと思うぞ?」
「オーバーヒートしちゃうのが玉に瑕って所かな。それでもミニガン撃ち放題は十分魅力的だよ」
カンフーマスターシリーズ
レア度☆☆☆☆☆☆
【防具】
龍のカンフー服(上):物理耐性(中) 打撃攻撃威力上昇(中)
龍の包帯(腕):筋力上昇(中) 自然治癒力上昇(小)
龍のカンフー服(下):関節可動域拡大 柔軟性上昇
龍のカンフーシューズ:移動速度上昇(中)
※装備統一効果:打撃攻撃が全て防御貫通攻撃になる。
「この装備、中々気に入ったぞッ! 何より肌触りが良いのが素晴らしいッ!」
と、そんなこんなでコマンドーシリーズはマックスが、カンフーマスターシリーズは剛が装備する事になった。
そして残ったスクロールだが、これは当然、一番魔力の多い花沢さんへと送られた。
で、肝心の内容はと言えば、こんな感じである。
光魔法レベル7『ホーリーバスター』
敵の頭上から光の柱が降り注ぐ攻撃魔法。敵が複数いる場合は拡散する。
回復魔法レベル5『ヒーラル』
複雑骨折や破裂した内臓も元通りに治す回復魔法。
念動魔法レベル4『テレキネシス』
同時に4つまでの対象を念力で自由に持ち上げて動かせる特殊魔法。
混沌魔法『カオス』
すべての魔力を消費して発動する超特殊魔法。使ってみるまで何が起こるかわからない。
「……何が起こるか分からないって、すっごく怖いんだけど」
「い、いざって時の切り札には……ならないよなぁ」
ちなみに、ライブラリに載っていた過去の使用記録によれば、過去に一度藤堂さんが使ったきり、他に誰も使った事が無いらしい。
その時は地面から大量のバフンウニが生えてきて、空に向かって流星の如く飛び去っていったとの事。わけがわからないよ。
結局カオスのスクロールはアイテムボックスの中に封印する事になり、花沢さんは新たに3つの魔法を習得した。
戦利品の分配もひと段落ついたので、早速新装備を試したいという2人を連れてダンジョンに潜ろうとした、その時。
「華恋ちゃん。お手紙よ」
花沢さんのおばあちゃんが花沢さん宛ての手紙を持って来た。
「手紙? 誰からだろ……えっ!? 藤堂さんからだ……」
なんと差出人は藤堂さんのようだ。
花沢さんが封筒を開けて、手紙を読み始める。……すると、みるみるうちに顔が真っ青になって、とうとう真っ白になった。
な、なにが書いてあったんだ!?
「ど、どどどど、どうしよう!?」
「どうしたのレンちゃん!? 顔色ヤバいよ!?」
「と、藤堂さんが……藤堂さんが……っ!」
「藤堂さんがどうしたの!?」
俺が聞くと花沢さんはごくりと唾を飲み込んで、絞り出すように声を出す。
「…………藤堂さんの結婚式に招待されちゃった」
………………え?
「「「「……はぁっ!?」」」」




