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LONG☆LONG☆AGO 6

 6月最後の日曜日。

 期末テストも近いということで今日はダンジョン探索をお休みし、皆でテスト勉強をすることになった。

 レベル上げも大事だが自分たちが学生であるという事も忘れてはならない。

 赤点で追試なんて事になればその分時間を取られてしまうし、ここはどうにか全員で一発合格を目指したいところだ。


 と、そんなこんなで花沢さん()のリビングにミカ子を呼んで始まった勉強会だったが……やはりというか、ミカ子とマックスが全然集中できていない。

 マックスは最近どんどん綺麗になってきているミカ子の方に意識が吸い寄せられているし、ミカ子もミカ子でそんなマックスの熱い視線を感じてソワソワと落ち着かない様子だ。


 近い内に一緒にダンジョンを攻略するのに、いつまでも2人が気まずいままだとまずいと思い、皆で勉強会をやろうなんて言い出したのだが、余計なお世話だったかもしれない。

 だがこうしてミカ子が来ているという事は、少なくとも全くの脈ナシではないはずだ。

 恐らく後一押し、何かきっかけさえあればいけそうな気が……しなくもない。


 俺は花沢さんに目配せして、自然な体を装いながらさりげなく立ち上がる。


「悪い、ちょっとトイレ」


「あ、私もちょっと部屋から辞書持ってくるね」


「「あ、うん……」」


 2人が若干気まずそうに返事したのを見て、俺たちはリビングから立ち去り、ドアの隙間から家政婦の如くこっそりと2人の様子を伺う。


 俺たちが去ってからしばらくの間、2人は表面上は黙々と勉強するフリをしていた。だが、よくよく見れば2人のノートが白紙のままなのがドアの隙間からでもよく見えた。

 やがて、いよいよ場の空気に耐えられなくなったのか、ミカ子がポツリと口を開く。


「お、遅いね、2人とも」


「そ、そうだね」


「アタシちょっと様子見てくるね!」


 上手い言い訳を見つけてミカ子が食い気味に立ち上がるが、


「ま、待って! ……もしかしたら2人きりになりたかったのかもしれないし、もうちょっとだけそっとしておいてあげようよ」


「あ……そ、そうだね。あの2人、仲いいもんね……」


 マックスが変な勘繰りをしてミカ子を引き留める。逆なんだけどなぁ……。

 そして変に気を遣ったミカ子が遠慮がちに座り、また沈黙が訪れる。

 時計の針の音がやけに大きく聞こえて、見ているこっちまで息が詰まるようだった。


 時間が経つのがやけに遅い。時計の秒針が1周するだけで、気分的には10分くらい過ごしたような気さえしてくる。

 妙に張り詰めた緊張感が漂う中、ここでついにマックスが意を決したように顔を上げた。


「……その、4月の時はごめん。僕、あんなこと初めてでさ。気持ちが抑えきれなかったんだ」


 ミカ子の顔がサァっと赤く染まる。

 白く細い手が所在なさげにテーブルの下でモジモジと彷徨う。


「でも僕が君の事を好きなのは本当なんだ。この数ヵ月、君を見てきてそれは確信に変わった」


 だが、マックスはそんなミカ子に向かって、落ち着いた声で自分の気持ちを正直に打ち明ける。


「返事はいつでもいいんだ。ただ、君と仲良くなりたい。……ダメかな?」


 今までの彼の告白は勢い任せの衝動的なものだったが、今度のは違う。

 冷静な頭で自分の気持ちを見つめ直して、その上で出した誠意の籠った告白だ。


 しばらくの間、ミカ子はテーブルの下で手をモジモジさせていたが、やがて蚊の鳴くような小さな声でポツリと返事を返す。


「…………と、友達から」


「え?」


「友達からでいいなら……」


「もちろんさ! 僕、もっと痩せて君に釣り合う男になるから!」


「あ、あぅ……」


 再起動したマックスがミカ子の手をしっかり握って、己の決意を表明する。

 不意に手を握られたミカ子はさらに顔を紅潮させ今にも爆発してしまいそうだ。

 ともあれ、2人の仲も一応の進展を見せたし、めでたしめでたしである。


 その後、本当にトイレに行ってからリビングに戻ると、4人で分からない部分を教え合いながらしっかりと勉強に励んだ。

 そうして万全の状態で迎えた期末テストも、全員余裕を持って乗り切ることができた。


 ちなみに、期末テストの結果は、俺が学年43位、花沢さんが7位、ミカ子が50位、マックスが54位で、全員が中間テストの時よりも順位を上げた形になる。

 やはりマックスから英語を教えてもらえたのが成績アップの一番の理由だろう。逆にマックスも俺たちから日本語を教わった事で国語の成績がアップしている。


 後顧(こうこ)の憂いも無くなったことで、ようやくレベル上げに専念できるようになった俺たちは、久しぶりにモンスターマーカーを使用して効率的にレベル上げを行った。

 そうして夏休みを目前に控えた7月18日。俺たちはついに全員がレベル29へと到達したのだった────!



 ◇ ◇ ◇



 7月20日。終業式を終えた俺たちはその足で武尊流武術道場へと向かった。

 花沢さんのアイテムボックスから全員の装備一式を出してもらい、道場の裏手で男女に分かれて着替えを済ませた俺たちは、白く渦巻く道場の入り口前へと整列する。


 レベル29になったことで、花沢さんもいよいよ「100年に一人」と言っていいレベルの美少女へと成長し、ミカ子もカリスマギャルから「スーパーモデル系美女」へと進化した。


 剛はまだちょっとしゃくれているが活舌は大分改善しており、冷えピタすら貼れそうになかった狭い額もようやく普通くらいにまで広がってきている。

 現在の剛の全体的な印象は「しゃくれた薩摩隼人」といった感じか。

 レベル1だった時の「もじゃもじゃモアイ」から随分と進化したものだ。


 マックスも日本の夏の暑さにも負けず、毎日しっかり修業と筋トレに励んだ事で、あれからさらに3キロほど痩せている。

 それによってとうとう体脂肪率と骨格筋率が逆転したマックスは、全身にぶよぶよの皮こそ余っているが、筋骨隆々の金髪マッチョマンに大変身を遂げていた。


 ちなみに俺はというと、ついに身長が180センチ台に突入し、日々の修業の成果もあって、力を籠めると背中にうっすらと鬼の貌が現れるようになってきた。

 筋肉が付いた事でカラテのワザマエもさらに冴えわたり、着実に地上最強へと近づいて行っている気がする。



「……まずは、今日までオレのワガママのために色々と良くしてくれた事、本当に感謝するッ」


 剛が俺たちの顔を見渡し深々と頭を下げる。


「だがッ、ここから先は撤退不可の危険な戦いだ……ッ。もしかしたら、この中の誰かが命を落とすことになるかもしれない。何度も言うが、これは元々、オレのワガママから始まった事だ。……だから、オレは今この場から君たちが去ったとしても、それを引き留めたりはしないし、する権利もない」


 剛の言葉に全員が唾を飲み込んだ。

 撤退不可のボスラッシュ。そこには当然、通常のダンジョンとは比較にならないほどの死の危険が待ち受けている事は想像に難くない。

 だが────


「ここに来てそれはないんじゃないか?」


「そうだよ! そのためにこの2ヵ月の間頑張ってきたんじゃん!」


「いざとなったら中級ポーションもありますし、多少の怪我なら私が治しますから! 普段通りやりましょう!」


「師匠と僕たちで道場の皆を助けましょう! 大丈夫、僕たちならできますッ!」


 ここで逃げ出すようなら、そもそもこんな場所にわざわざ集まったりしていない。

 俺たちの決意に満ちた顔を見て、剛は感極まったように上を向き、腕で目元を乱暴にゴシゴシと擦った。


「皆……! 変な事を言った。すまないッ! だが、お礼はまだ言わないぞ。お礼を言うのは全員無事で帰ってきたその時だッ!」


 剛の言葉に全員が頷き、剛も一つ頷いて、道場の中へと足を進める。


「行くぞッ!」


「「「おう!」」」



 いざ、決戦の舞台へ────!



「ぎ、ギップリャー!」 ※あまりのリア充オーラに耐えかねた作者の心の叫び

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