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閑話 マッスル☆ダンベル エクササイズ!

 五月連休真っ只中のこの日、俺は兄貴と一緒に、朝から家の近所の公園に来ていた。

 マックスも呼べとの事なので、スマホで連絡してしばらく待つ。

 10分ほど待つと、額に汗を滲ませたマックスがドスドスとやってきて、俺たちの顔を見て何かを察したような顔で溜息を吐いた。


「……何となく想像はついてたけど、このメンツを見て今確信したよ。……ダイエットだね?」


「おう! その通りだ! 今日は折角だから俺がインストラクターの代わりをしてやろうと思ってな」


 兄貴が白い歯を輝かせ屈託のない笑みを浮かべる。

 その笑顔から今日のダイエットの過酷さを察したらしいマックスは、引き攣ったような笑みを浮かべて後ずさった。


「悪いなマックス。今日は俺も付き合うから一緒に頑張ろう」


「恨むよレイジ」


 マックスからの恨みがましい視線を右から左へ受け流す。

 と、ここで兄貴は持って来た手提げ袋の中から、ついこの間ダンジョン内で見つけたダンベルを取り出した。


「あっ、それダンジョンで見つけたやつですよね?」


「喜べマックス。コイツはまさしく今のお前さんにぴったりの道具だぜ」


 兄貴がしたり顔でダンベルの説明を始める。


 

 このダンベルの正式名称は『マッスル☆ダンベル』と言う。

 随分と安直なネーミングだが、これでもれっきとした魔法道具で、その効果は、『ダンベル運動だけで全身の筋肉に隈なく最適な負荷をかけられる』というものだ。


 しかもこのダンベル、身体に筋肉が付く仕組みを加速させる効果もあるので、使えば使うほど体内の栄養素やエネルギーを消費してガンガン筋肉が付いていく。

 さらに使用者の筋肉量に応じてダンベルの重さも変わるため、どれだけ使っても軽くならないから、これ1つあれば永遠に筋トレできる。まさに夢のようなダンベルだった。


「ただし何も食べずに使い続けるとすぐに栄養失調になっちまうから、今日はコイツを使う」


 そう言って兄貴が腰に巻いた異空間ポーチ(ダンジョン産)から取り出したのは、プロテインシェイカーに入った、なにやら黒っぽいドロッとした液体。


「こいつはプロテインを低級ポーションで割って、溶かしたチョコレートとキャラメル、その他色々をぶち込んだ栄養満点の超高カロリードリンクだ!」


「「うぇっ、不味そう……」」


「はっはっはっ! まあ、味の保証はしねぇが、このダンベルで運動した後にコイツを飲めば更なる筋力アップが見込めるって寸法よ!」


 そんな不味そうなモノ飲まされる上に筋トレさせられるとか、どんな地獄だそれ。

 だが、ここまでやる気になった兄貴から逃げることは絶対に不可能なので、諦めるしかない。


「つーわけでブートキャンプへようこそファッキンおデブちゃんと元おデブちゃんめ! 今日は俺様が貴様らをカリッカリのシックスパックになるまで鍛えてやるから覚悟しておけェ!」


「「サーイエッサーァ!」」


 兄貴からそれぞれ1つずつダンベルを手渡された俺たちは、木陰の中に横一列に並び、ノリノリの兄貴に合わせて、仕方なく投げやりな返事を返す。


「まずはゆったりした曲に合わせてウォームアップだ!」


 兄貴は自分の身体を重力魔法で荷重して、スマホから流れる音楽に合わせてリズミカルに腕立て伏せを始める。

 俺たちは兄貴の腕立てに合わせてダンベルをリズミカルに動かす。


 全身の筋肉に満遍なく負荷が掛かるのが分かる。

 これっ、中々っ、きついっ!


「はいっ、ワン、ツー。ワン、ツー! リズムを崩すなよー?」


「ワン、ツー。ワン、ツー! こ、これ……かなり……キッツ……っ」


「ほーら筋肉が喜んでるぞーッ! 筋肉の声を感じるんだッ! そら、もう少しッ!」


 白昼の公園に突如開園した筋肉ランドに通行人たちは奇異なモノを見たような視線を投げかけてくる。


「ねぇ、ママ~、あのお兄ちゃんたちなにしてるの~?」


「迸る美少年たちの汗、唸る筋肉……はぁ、尊いわ」


 奥さん、見世物じゃないんです。あっち行ってください。



 約4分半の最初の曲が終わった。

 すでにマックスはへとへとの汗まみれで、俺も全身から汗がじんわり滲んできている。

 ヤバい、これ、スゲェいい運動になるわ。


「よーし、それじゃ最初の1杯だッ!」


 兄貴特製のゲテモノドリンクを手渡される。うわぁ……あったかぁい……。


「一気にグビッといけよ? ほれ、カンパーイ!」


「「ぐっ……! か、カンパーイ!」」


 甘ったるい匂いのするそれを、俺たちは一気に飲み下す。

 温かいドロッドロの甘ったるい液体が、口の中の水分を奪いながら胃袋へとゆっくりと落ちて行く。

 しかもちょっと薬臭いし、溶けてないプロテインのダマが喉に引っ掛ってすごく飲みにくい!


 がぁーっ、不味いっ! 甘すぎるっ!


 するとここで不思議な事が起こった。

 それまでの運動の疲労が急にスーッと楽になり、身体中の筋肉がミチミチと音を立てて超再生していくのが体感で分かった。

 えっ、なにこれ怖っ!?


「よーし、飲んだな? そんじゃ次のセット行くぞーッ!」


「えーっ! まだやるのーっ!?」


 マックスが甘ったるい息を吐きながら悲鳴を上げる。


「マックスお前、好きな子を振り向かせたくてダイエットしてるらしいじゃねぇか! お前の愛はこの程度の筋トレにも耐えられねぇような安っぽいもんなのか!?」


「NO、サーッ!」


「だったら最初から弱音なんぞ吐くんじゃねェッ! もう5セット追加だァ!」


「な、なんで俺まで!?」


「じゃあ何だ、お前は友達が辛い思いをしてる時にのんびり隣で見てんのか!?」


 くそっ、なんてズルい言い方だ。そんな言い方されたら「はい」なんて言えないじゃねぇか。


「ぐぬぬ……っ! NO、サーッ!」


「そうだろうそうだろう! 友達なら苦しみは分かち合うべきだ! 分かったら返事ィ!」


「「サーイエッサーァッ!」」


 俺たちの返事を聞いて兄貴は超いい笑顔で頷いた。

 お、鬼教官め……。


 その後俺たちは運動して、激マズドリンクを飲んで、また運動というサイクルを10回ほど繰り返した。

 1回の運動時間は兄貴が流すBGMが終わるまでだが、回数を重ねるごとに曲の時間は長くなり、しかもテンポも速くなっていったので滅茶苦茶キツかった。


 普段使っていない筋肉が強制的に刺激されるのできつくて当然なのだが、あの激マズドリンクを飲むと何故か疲れまで取れてしまうので、止める口実ができないのがつらい。


 だがきつい分効果のほどは凄まじく、この1時間ほどでマックスの身体は目に見えて痩せてきている。

 ついさっきまで完全に同化していたアゴと首は、今やすっかり綺麗に分かれており、でっぷり出ていたお腹も一回り以上小さくなっていた。

 あの激マズドリンクを飲んでいて尚それなのだから、そのカロリー消費量の凄まじさが伺い知れるというものだ。


「さーて、ドリンクの残りもあと5杯ずつだ! 2人とも頑張れ!」


「「サーイエッサーァッ!」」


 残り5セット……ッ! 後5回やれば、あの糞マズドリンクとオサラバできる……っ!

 苦行の中に僅かな希望を見出した俺たちは、さらにアップテンポになっていくリズムに合わせてラストスパートをかけた。




 ────結果として、この日だけでマックスは15キロも減量して、代わりに筋肉がモリっと付いた事で、ただのピザデブだったのが、小太りなマッチョにまで激やせした。

 その分、皮が大分余ってしまったが、その内ダンジョンでレベルアップさせれば取れるので、大した問題ではない。


 で、それに付き合った俺はと言うと、全身がパンプアップして腹筋のラインがカリッカリになった。やったぜ。


イッツマイ、やーーーーーーーーーっ☆




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