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ファットマックス 怒りのデブロード 8

「Fu●k! f●ck! ●ァーック!」


 僕が引き金を引く度に、目の前を埋め尽くすゾンビの群れの一部が纏めて吹き飛んで魔力の光が舞う。

 スライドを引き、もう1発! 2発! 3発!


 これだけバンバン撃ってるのに、一向に弾切れになる気配すら見せない。

 そして、これだけ大量のゾンビをミートボールにしているのに、僕の身体にも一向に変化が現れない。


 もう何となく分かってきたけど、コイツ、経験値を弾に変換して撃ち出すタイプの銃だ!

 いくら撃っても弾切れにならないのはいいけど、僕もこの際だからちょっとは痩せたかったよ畜生!


 僕は今、関係者専用通路の奥で壁を背にゾンビたちに追い詰められていた。

 最初は順調だったんだ。

 でも銃声を聞きつけたゾンビたちが次から次へと集まってきて、囲まれないように逃げている内にここまで追い込まれてしまった。


 僕だってまだ死にたくないし、ゾンビのおやつになるつもりもないけど、そろそろ限界が近い。

 そもそもポンプアクションっていうのが良くないよ! なんでオートマチックじゃないのさ! カッコよくても実用性が無きゃ意味ないよクソッたれ!


 おかげで腕が疲れちゃって、スライド引くだけでも大変になってきた。


 でも銃を構える手を下ろすわけにはいかない。だってそうしたら僕はあっという間にこいつらのおやつだからね!

 まあこんな脂身だらけの身体なんて食べても不味いだけだろうけど! ざまあみろ! HAHAHA!


 と、またもや僕の撃った弾がゾンビを纏めてハンバーグにしてやった、その時だった。


 ヒュゥン! と、どこからともなく、鋭い刃物が通り過ぎたみたいな音が聞こえたと思った、次の瞬間。

 目の前で渋滞していたゾンビたちの首が一斉にゴロリと落ちて、魔力の光になって消えてしまったではないか。


「マックス! 無事だったか!」


「レイジ!? どうして君がここに!?」


 ゾンビが消えてすっきりした通路の角から姿を現したのはレイジだった。

 ま、まさか僕の事を追いかけて……!? き、君ってやつは……!


「馬鹿野郎ッ!」


「あだだだだっっ!? レイジ! それ以上いけない!」


 と、思ったら流れるようにアームロックをかけられてしまった。痛い痛い!?

 普通ならここはぶん殴られる場面なんだろうけど、お互いのレベル差を考慮した結果こうなったんだろう。

 レベル1の僕が彼に殴られたら確実に死んじゃうからね! 


「後先考えずにダンジョンに突っ込む馬鹿があるか! 死にてぇのか!」


「そ、それ、君が言える事かい?」


「俺はそれなりのレベルだし、素手でも戦えるからいいんだよ! 武器もスキルも魔法も無いペーパー探索者(レベル1)が、暴走ダンジョンに突っ込むなんて無謀だって事くらいお前なら分かるだろ?」


「うっ……! そ、それは……ご、ごめん」


「分かればいいんだ。二度とやるなよ。……兎に角、無事でよかった」


 レイジがアームロックを解いて、僕の肩に手を置きながらホッとしたように息を吐く。


「そ、それよりミカは!? まだ見つけてないの!?」


「落ち着け。これから2人で探そう。大丈夫、アイツならきっと生きてる」


「ああ、そうともさ。彼女が死ぬはずない。死なせてたまるか!」


「そうだ。俺たちで助けるんだ。さあ行こう! 時間が無い!」


 レイジの言葉に僕は頷き、僕たちはミカを探すために行動を開始した。


「ところでさレイジ」


「なんだ?」


「今の僕たちってさ……」


「……ああ、だな」



「「B級スプラッタのワンシーンみたいだよな!」」



 HAHAHAHA!



 ◇ ◇ ◇



 ヒィィン! ヒュゥン! と、俺の投げたチャクラムが空気を切り裂きながら飛んで行き、ゾンビたちの首を挟み込むような軌道で片っ端から切り落とす。

 俺の魔力を帯びた刃は止まる事を知らず、俺の意志に従い自由自在に飛び回り、頭の中で「戻ってこい」と命じるだけで、俺の指先数センチの所に帰ってきてクルクル回りながら滞空する。


 宝箱から見つけたチャクラムの正式名称は『魔操円月輪(まそうえんげつりん)』という。

 名前からしてすでに中二アトモスフィアをひしひしと感じるコイツだが、効果は見た通り凄まじく、俺の魔力を介して刃の軌道を操れるというかなりの強武器だった。


 ただし、あくまでも本体は直径30センチ程度の薄い金属の刃でしかないため、大型の敵には効果が薄い。小型の雑魚専用の武器という訳だ。

 それでもコイツのおかげで大量のゾンビどもを楽に処理できるようになり、俺のレベルもこの短時間の間に、レベル21まで上がっている。




「ところでマックス。お前、面白い武器拾ったな」


「えっ? レイジ、これが何か知ってるのかい?」


「ああ、協会のライブラリに載ってるのを見てな」


 行方不明だったマックスと再会すると、彼は珍しい武器を持っていた。

 彼が持っている銃は正式名称を『エグゼキューショナーズショット』といい、その物騒なネーミングに似合った強力な能力を秘めている。


「その銃な、倒した敵の経験値を弾に変えて撃ち出すから、敵を倒しても使ってる人間は一切レベルが上がらないんだけど、銃そのものが成長していくんだよ」


「マジで!?」


「ああ。お前、もうその銃で随分ゾンビ倒しただろ? じゃあそろそろチャージショットが使えるんじゃないか?」


「何それ胸熱!」


 やり方を教えて、マックスがスライドを2回引き、近くにいたゾンビに向けてぶっぱなす。

 すると、明らかに先程までより威力の高い銃弾がズドンッ! と飛び出し、ゾンビを跡形も無くバラバラにしてしまったではないか。


「ひゅ~ぅ! あっ、でもなんか力が抜ける……」


「そりゃ、経験値で補いきれなかった分は自分の魔力から引かれるからな」


 魔力不足でふらつくマックスと2人で、関係者専用通路を進む。

 襲い来るゾンビたちを円月輪とショットガンの連携でズバズバ倒しながら進むと、俺たちはドアが壊されている部屋を発見する。

 

 周囲のゾンビを俺の円月輪でズバッと倒して安全を確保し、部屋の中に入る。


 どうやらここは休憩室のようだ。

 上がり(がまち)の奥には6畳間があり、小さなちゃぶ台と茶箪笥(ちゃだんす)もある。

 押入れの奥から布団を引っ張り出したような形跡があり、畳の上には何か巨大なモンスターでも通ったかのような足跡があった。


「タイプライターは無いの?」


「セーブできたらどんだけ気が(らく)か」


 なにか使えそうなアイテムが無いか部屋の中を物色していると、押入れの中に何かが落ちているのを発見する。


「お、おい……これ……っ!?」


「それって、もしかしてミカの!?」


「間違いない。これ、アイツのだ!」


「じゃあ、ミカはここにいたんだね!?」


「くそっ、どこ行きやがったアイツ……っ!」



 ◇ ◇ ◇



「暇だ……」


 折角お茶っ()はあるのに、ポットも急須(きゅうす)も無いんじゃお茶は飲めない。

 さっそくやることが無くなってしまい、いつもの癖でスマホを弄ろうとするが、画面右上に表示された『圏外』の文字にアタシは思わずため息を()いた。


「そういえばまだ押入れの中、まだしっかり見てなかったよね……」


 他にやることもないので、押入れの中に入っていた布団を引っ張り出して、中を調べていた、その時だ。


 ────ドンドンドンドンッ!


「ひぃっ!?」


 突然、部屋のドアが激しくノックされる。

 魔力感知スキルが、ドアの向こうにいるのがモンスターであるとアタシに知らせた。しかも相当ヤバいやつだ。

 アタシは押入れの戸を閉めて、下の段の奥の方に身を潜め、じっと息を殺す。



 ────バァンッ!



 ドアが壊される音。

 何かの重たい足音が、ミシッ、ミシッ、と部屋の畳を軋ませる。

 悲鳴が出そうになるのを必死で堪え、口元を押さえて、ただただじっとしている事しかできない。


 な、なに、コイツ!? とんでもない魔力量! ヤバい、ヤバすぎるってこんなん!?


 足音が、押入れの前で止まる。



 ────スパァンッ!



 押入れの戸が、勢いよく開けられる。

 ハードレザーでギチギチに固められた、象のように太い脚が見えた。

 足のサイズは間違いなく40センチ以上はある。靴は履いておらず、剥き出しの焼け爛れたような足に、生理的嫌悪感がゾワゾワと込み上げてくる。


『…………』

「…………っ」


 しばらくそこでじっとしていた「何か」は、また向きを変えると、ミシミシと足音を立ててどこかへと去っていった……。


 こ、怖かった……! 


 「何か」が去ってしばらくしてから、アタシは周囲を伺いながら恐る恐る押入れの中から顔を出す。


「こ、ここも安全じゃないんだ。ドアも壊れちゃったし……逃げるしか、ないよね……」


 アタシは恐怖で震える足を何とか立たせて、救急箱だけを掴むと、周囲を漂う魔力の気配を頼りに、こっそりと部屋を抜け出した。





その差、僅か10分。


さあ、ぞんぞんしてまいりました


作者にエサ(ブクマ・ポイント評価)を与えるととても喜びます。

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