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ファットマックス 怒りのデブロード 4

 マックスがダイエットを始めてから早くも2週間。

 日々の運動と食事改善により、彼は3キロの減量に成功していた。

 見た目的には全然変わりはないのだが、少しでも体重が減った事は彼の自信に繋がったらしく、最近では放課後のウォーキングの足取りも心なしか軽やかになってきている気がする。


「ほっ、ほっ、ほっ、ほっ……」


「順調だなマックス。もうすぐ2駅目だぞ?」


「ほっ、ほっ、ほっ、うんっ、毎日歩いてるからかな? ほっ、ほっ、ほっ、少し筋肉がついてきたのかも」


 一定のリズムで軽やかに呼吸しながら進むマックス。

 花沢さんの話によれば、ここ最近のメニューは大豆中心の植物性タンパク質で筋肉量の増加を狙っているそうだ。

 一日の終わりにはヒールもかけているらしいし、それで肉体が活性化して筋肉量が短期間で増えたものと思われる。


「よしよし、良い兆候だな。それじゃ今日からもう1駅分増やしてみるか」


「はっ、はっ、なんだか。ほっ、ほっ、ジムのインストラクターと。ふっ、ふっ、同じこと言ってるねレイジ。ひっ、ひっ、そういうの。ほっ、ほっ、向いてるんじゃない? ふっ、ふーっ」


「そうか? まあ、そういう方向を目指してみるってのも悪くないかもな」


「うん。ふっ、ふっ、きっと。ひっ、ひっ、いいインストラクターに。ふっ、ふっ、なるよ。ほっ、ほっ」


 結局その日は2駅目と3駅目の間でバテてしまったマックスだったが、どうにか3つ目の駅まで歩き切って、記録を大幅に更新したのだった。



 ◇ ◇ ◇



 さて、そんなマックスのダイエットな日々と並行して、俺たちのダンジョン探索も土日を利用して着々と進んでいる。

 この2週間で俺たちのレベルはさらに1ずつ上がって、俺はレベル19に、花沢さんはレベル20へと上がった。


 ……最近、花沢さんの身体がエッチ過ぎていけない。

 程よいムチムチ感を残しつつ、くびれる所はキュッとくびれていて、出ていてほしい部分はボインボインだ。

 もう後10センチくらい身長が伸びてくれたら、俺の好みにジャストミートなんだが……って、俺は何を考えているんだ!?。


 いかんいかん。最近どうにもあのオネェチンパンの言葉が引っ掛ってて、イマイチ集中に欠けている。

 こんなことでどうするんだ。しっかりしろ、俺!


 と、それはさておき。ダンジョン探索の話である。

 マップアプリで確認する限りでは、現在のダンジョンの踏破率は大体10%くらいだろうか?

 まだまだ穴だらけの地図だが、それでも発見が無かったわけではない。


 まず1つ目の発見は新たな宝箱を見つけた事だ。未探索の場所を歩いていたら偶然見つけた。

 中身は5センチほどの大きさのルビーとサファイアがそれぞれ5個ずつ。

 これぞまさにザ・お宝という発見に俺たちは2人で跳びあがって喜んだ。


 で、もう1つの発見は、どうやらこのダンジョンはアリの巣のような構造になっているらしいという事である。

 平面的な2D地図では気付けなかっただろうが、マップアプリの地図は3D表示にもできるのでそれで気付けた。



 現在俺たちはまだ未探索のエリアへ向かって緩やかな下り坂を下りている。

 俺が罠を解除しつつ、突然奇襲してきたブラッディバット(巨大なコウモリ。上空から噛みついて吸血してくる素早くて厄介な敵)を花沢さんが初級の雷魔法で撃ち落としながら進むと、やがて通路の先が開けた。


 学校の体育館ほどの広さのその部屋は、部屋の四隅に窪みがあり、部屋の中央には4体の石像と1枚の石碑が置いてある。

 石碑に近づいて文章を読んでみると(日本語だった)、こんな事が書かれていた。



【4体の獣を台座に収めよ。北は部屋の右の奥。

 西は北に、東は南に。北は東に、南は西に】



 4体の石像を見る。大きさは俺と同じくらい。

 おそらくそれぞれ、白虎・朱雀・玄武・青龍の像なのだろうが……なんか妙にデフォルメされて、気の抜けたゆるキャラみたくなっている。

 試しに少し押してみると、発泡スチロールかと思うくらい軽かった。


「ね、ねぇ。これって……」


「謎解き、だな。まあこんなの、謎でもなんでもないんだけどさ」


 要するに、それぞれの聖獣が司る方角に石像を収めろという意味だろう。

 ただし収める位置はあべこべになっている、と。

 だから北を司る玄武は東に、南の朱雀は西へ、西の白虎は北で、東の青龍は南に収めればいいわけだ。

 イージー過ぎて欠伸が出るぜ、こんなの。


 とりあえず石碑に書いてある通りに石像を動かして、それぞれの穴に収める。

 すると────


「アンタ」

「隣の子の胸」

「ジロジロ見てたでしょう」

「アンタも好きねぇ」


 と、石像がそれぞれ謎の言葉を残しつつ、ニヤニヤ笑いながら魔力の光となって消えてゆき、最後に石碑からも「イヤンエッチ!」と野郎の裏声みたいな声が聞こえてきて、魔力となって消えた。


 ……なんなんだよ。……なんなんだよ! 


「………………ごめん」


「う、ううん……べ、別に気にしてない……から……」


 き、気まずい……! くそっ、なんて悪辣な罠だ!


 と、ここでダンジョン全体を揺るがすような振動が起きる。

 揺れは10秒ほどで収まり、最後に、部屋の中央に何かがドスンっ! と音を立てて落ちてきた。

 あれは……ブリキゴーレムだ!?



 ブリキゴーレムはその名の通り、全身ブリキ製の、昭和のオモチャみたいなゴーレムだ。


 ただしオモチャみたいなのは外見だけで、全長は4・5メートルもあり、軽自動車くらいなら軽々と投げつけるほどの馬力も備えている。

 しかし外見から分かる通り、関節の可動域が狭く、腕の先もUFOキャッチャーのアームみたいなので、捕まったり踏みつぶされたりしなければ比較的楽な相手だ。

 対処法は懐に潜り込んでコアを直接破壊するか、遠距離から魔法で一気に破壊してしまうのがベスト。



「お、俺が奴の気を引き付けるから、その間に花沢さんは魔法の準備を!」


「わ、わかった!」


 気まずい空気を無視して意識を戦闘モードに切り替える。

 花沢さんが魔法の準備に取り掛かると同時に、俺はブリキゴーレムに向かって一気に距離を詰めた。

 俺を捕らえようとするゴーレムのポンコツアームをひらりひらりとアクロバットで回避しつつ、ゴーレムの頭部目掛けてポーチから取り出した石灰風船を投げつける。


 石灰風船はゴーレムのレンズをバシッと捉え、割れた風船の中から石灰の粉が飛び散ってレンズを真っ白に染め上げる。

 突然の視界不良にジタバタと暴れ回るブリキゴーレム。

 するとそこへ、


「行くよっ!」


 花沢さんの準備が整った!


『プラズマバースト!』


 俺が背後に向かって跳躍すると同時に、雷の中級魔法(レベル6)『プラズマバースト』が発動。

 花沢さんの杖の先から白熱するビームが発射され、ビームが直撃したブリキゴーレムは一瞬で蒸発した。

 つ、強ぇぇぇぇ……。


 魔法少女マジカル☆カレン。絶対に怒らせてはいけない相手だ。


「お疲れ」


「……っ!」


 それでも、勝利の後のハイタッチ……をしようとして、まさかの空振り。

 まさかスカをくらうなんて思ってもみなくて、花沢さんの方を見るが、視線を逸らされてしまう。

 ……き、気まずい。


「……あー、えっと、な、ナイスビーム!」


「……う、うん。あ、ありがと」


「「……………………」」


 会話が、続かない!

 花沢さんが目を合わせてくれない。

 どうしよう、顔赤いし、絶対怒ってるよこれ。

 こ、こうなりゃ誠心誠意謝るしか……!


「……っ、ごめん! 俺が悪かった!」


 俺は床に額をこすりつけるくらい深く深く頭を下げた。

 そう、土下座である。


「え、えぇっ!? や、やめて! そんな事しなくていいから!」


「全てスケベな俺が悪いですっ! 本当に、本当に申し訳ありませんでしたぁぁッ!」


「べ、別に気にしてないから! だから頭上げて!」


 俺が顔を上げると、今度はちゃんと俺の顔を見てくれた。

 ただし、視線は泳ぎまくっているし、顔もまだ赤いままだ。


「別に私、怒ってない……よ? ただ、その……ちょっと恥ずかしかったっていうか……その……むしろちょっと嬉しかったっていうかなんというかあのその……」


 どんどん尻すぼみになっていく声。最後の方は口の中でモゴモゴ言ってるだけで殆ど聞き取れなかったけど、とりあえず怒ってはいないらしいという事は伝わった。


「と、兎に角! か、加苅くんは、私の事、世界一の美少女にしてくれるんでしょ!? だから、その……私の事、全然、見てもいいから! むしろ見てくださいお願いします!」


「お、おう……?」


 お願いされてしまった。

 そうか……そうだよな。俺は彼女を世界一の美少女にすると約束したじゃないか。

 初心忘るべからず。分かっていたつもりでも、最近随分と可愛くなってきて、肝心な事を忘れてしまっていたのかもしれない。

 俺は彼女の変わりたいという強い思いに惹かれて、彼女を変えてやると誓ったんだ。


 俺がここにいるのは、花沢さんがセクシーな美少女だからじゃない。彼女の変わりたいという意思に共感したからだ。

 そんな大事な事を忘れるなんて、俺、最低だ……っ


「花沢さんっ、俺を殴ってくれっ!」


「え、えぇっ!?」


「俺、大事な事、忘れてたっ! 俺は君を世界一にするって言ったのに、最初の誓いを忘れかけてた! だから、殴ってくれ!」


「そんな! 殴るなんてできないよ!」


「わかった。じゃあこうする!」


 俺は一度だけ、思い切りダンジョンの床に頭を叩き付けた。


「これは俺なりのけじめだ。俺はもう、迷わない!」


「う、うーん……?」 


 ともあれ、ブリキゴーレムを倒した俺たちは、ドロップ品の謎の缶詰(何が入っているかは開けてからのお楽しみ!)を回収して、地図の未踏破部分を埋めるため、再び探索を再開したのだった。


加苅くん……(´・ω・`)


違う、そうじゃない。そうじゃないだろぉぉぉ!


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