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VS ゴブリンキング!

 季節は3月に入り、特に関わりもなかった3年生たちが卒業して、学校は春休みを迎えた。

 ボス部屋を発見した後、俺たちはモンスターマーカーを使って順調にレベルアップを重ねてゆき、花沢さんはレベル18、俺はレベル17までレベルアップした。


 レベル18にもなると花沢さんの体形にもさらに変化が現れ始め、腕や足はさらに細く長く、腰もかなりくびれてきている。

 足が長くなったことで身長も4センチくらい伸びた。とは言え、それでも155センチくらいだから、まだまだ小さいのだが。

 胸のカップ数が1つ下がったと花沢さんは喜んでいた。

 確かに、以前よりほんの僅かだが小さくなったような気がしなくもないが、依然として爆乳である。



 さて、そんなこんなでレベルアップを重ねてきた俺たちだったが、最近とうとう、このダンジョンでの適正レベルを超えたのか、中々レベルアップしなくなってきた。

 レベル1ダンジョンでも、レベル7くらいから急にレベルアップの速度が落ちてきたので、それくらいが適正レベルなのかもしれない。


 ちなみに、ダンジョンのレベルは10まであり、それぞれ、


 レベル1~2 初級ダンジョン


 レベル3~4 下級ダンジョン


 レベル5~6 中級ダンジョン


 レベル7~8 上級ダンジョン


 レベル9~10 超級ダンジョン

 

 と区分されており、このレベルは発見されるお宝や装備のレア度と等比になっている。

 だから例えば、レベル5のダンジョンから発見されるお宝は、星5つのレア度と評価されるわけだ。


 ただし何事にも例外はあり、ごく稀にダンジョンのレベルを超えるレアアイテムが発見されたり、逆に何の価値も無いゴミが出てくることもあったりと、それなりに運要素もある。

 特殊ダンジョンはその際たる例で、出現する宝箱の中身のレア度が完全にランダムになっている。


 で、先月俺たちが見つけた例のビキニアーマーはなんとビックリ、星7つの超レア装備だったようだが、装備統一ボーナスのデメリットが強すぎて使えないから封印してしまうらしい。


 どんなデメリットがあるのか気になって訊ねてみても、彼女は頑なに口を割らなかった。

 だったら、装備を統一せずに使えばいいじゃんと提案したのだが、涙目で睨まれてしまってはそれ以上何も言えなかった。


 なので結局、あの装備はお蔵入りになったのだった。残念。



 と、そんな残念エピソードはさておき。

 今日はいよいよ、ゴブリンキングとの決戦の日である。


 藤堂さんから貰った装備に着替え、再びボス部屋の前にやってきた俺たちは、今回のボス戦でのそれぞれの役割を再確認する。


「じゃあ最後の確認な。今回のボスは人型でパワーとスピードを兼ね備えたタイプだから花沢さんとは相性が悪い。だから俺が1対1で倒す。花沢さんには、ボスが召喚する取り巻きのゴブリンたちを倒してほしい。OK?」


「うん、大丈夫」



 魔法の発動には3つのプロセスを必要とする。

 まずは使う魔法を頭の中に思い浮かべ、次にその魔法の発動に必要な魔力を溜め、最後に魔法の発動ワードを唱える。

 この一連のプロセスは全ての魔法で共通だ。


 当然レベルの高い魔法は発動に必要な魔力も多くなるし、魔力のチャージにも時間が掛かる。

 だからゲームなんかではボス部屋の前で発動待機しておいて、ボス部屋に突入した瞬間にドカン! なんて戦術が取られたりするわけだが、現実のダンジョンでそれはできない。


 なぜならボス部屋には外からの攻撃をすべて無効化する結界が張られており、この結界は部屋の外でチャージされた魔力を霧散させる力も持っているからだ。

 ちなみにボス部屋の外でかけたバフも全て解除される。


 だからダンジョンのボスに対して開幕の不意打ちは絶対にできない。

 開幕ブッパができない魔法使いなんてただの置物でしかないため、今回はやむを得ず俺がボスの相手をするという訳だ。



「自信のほどは?」


「ある……とは言えないけど、頑張る」


「上等、じゃあ行くぞ!」


「うん!」


 俺たちが金属扉に手をかけると、扉が自動で開く。

 再びゴブリンキングと視線が交わり、奴は俺たちを侮るようにニヤリと笑った。

 野郎。ぶちのめしてやる。


 俺たちはそれぞれ武器を構えて、キングが待ち受けるボス部屋へと突入した。



 ◇ ◇ ◇



 そこは直径100メートルほどの、円形の闘技場だった。

 観客席は無数のゴブリンたちで埋め尽くされ、ギャアギャアと耳障りな声で何か叫んでいる。

 その闘技場の中央で、キングは身の丈ほどもある大斧を担いで、太い2本の足でしっかりと大地の上に立っていた。


 ―――――ゴォォン!!!!


 ゴング代わりの銅鑼が鳴り、キングが吼える。戦闘開始だ。

 キングの咆哮に応じたゴブリンたちが観客席から飛び降りてくる。

 その数30!


「任せた!」


「うん!」


 ニンジャ装備の効果で音も無く風のようにキングへと走り寄った俺は、振り回された大斧の横薙ぎをジャンプで躱して、続けざまに襲い掛かる丸太のような左腕を雷切で払いのける。


 と、ここで背後から花沢さんの炎の中級魔法(レベル5)『フレアスパロー』が飛び出し、炎の(つばめ)たちが闘技場のフィールド内にいる全ての敵目掛けて飛んで行く。

 炎の燕に当たったゴブリンたちは瞬く間に燃え上がり、あっという間に魔力の光へと還っていった。


 が、キングだけは俺の相手をしながらも、炎の燕の攻撃をひらりひらりと余裕で躱す。

 野郎、やはり一筋縄ではいかないか!

 再び吼えて手下を呼んだキングは斧は当たらないと思ったのか、俺目掛けて思い切り斧をブン投げてきた。

 

 凄まじい速度で飛んできた斧を地面に這いつくばって躱し、飛んできた斧の影に隠れて繰り出されたキングのローキックを、蛙のようにジャンプして躱す。


 空中で身動きが取れない俺を狙い、キングの丸太のような両腕が俺を捕らえようと左右から迫るが、俺は身体を捻って回転させ、逆にキングの胴体に風切と雷切の連撃をヒットさせる。


 厚い胸板に深い傷を刻まれたキングは痛みと怒りに大きく吼え、出鱈目な動きで力任せに俺を殴り飛ばそうとする。が、その瞬間!


 花沢さんの雷の中級魔法(レベル5)『ライトニングダンス』がフィールド全体に迸った。

 踊る雷が手下のゴブリン共を焼き尽くすと同時に、キングの動きをけん制する。

 雷が踊り狂う中を、俺たちはお互いにバック転で距離を取る。

 さあ、仕切り直しだ!


「来いよウスノロ! ピッ●ロ大魔王みてぇな色しやがって!」


 言葉が通じたかは不明だが、ニュアンスはなんとなく伝わったのか、キングは怒りのままに、俺に向かって凄まじい速度で向かってくる。

 レーシングカー並みの速度で一気に距離を詰めてきたキングの拳を、俺は最小限の動きで躱して、脇腹の横をすり抜けながら雷切で斬りつけた。


 振り返りざまのキングの裏拳を屈んで躱して、さらに雷切でもう一撃!


 するとここでようやく雷切の麻痺が効いてきたのか、キングの動きが一瞬硬直した。チャンスだ!

 

 俺は風切と雷切を交互に振るい、キングの身体に可能な限りの手傷を負わせていく。

 麻痺から解放されたキングの鋭い反撃を懐に潜り込んで躱し、すり抜け様に今度は風切で斬りつける。

 すると脇腹に深い切り傷を負ったキングの身体がぐらりと揺らいだ。

 その背中目掛けて、俺は風切と雷切の乱舞を叩き込む!


 1撃 2撃 3撃 4撃 5連撃!


 さらに揺らいだキングの脳天に、とどめの大回転踵落としが突き刺さる!


 俺の(かかと)落としをモロに食らったゴブリンキング=サンはヨタヨタと数歩よろめき、魔力の燐光を撒き散らしてしめやかに爆発四散!


 哀れ手下のゴブリン共も首領の後を追うようにサラサラと空気に溶けて、闘技場内に薄紫の光が花吹雪の如くぶわっと舞った。


 ゴブリン死すべし、慈悲は無い。イヤーーーッ!


 と、キングを倒したことで俺のニンジャアトモスフィア……もとい、レベルが上がる。

 これでレベル18。また1歩前進だ。


「お疲れさま加苅くん。怪我はない?」


「ああ。ギリギリだったけど無傷だよ」


 俺はハイタッチで自分の無事を彼女に伝える。


 ……にしても、ボスがちょっと強すぎじゃないだろうか?

 藤堂さんから装備貰ってなかったら、確実に無傷じゃ勝てなかっただろ、コレ。

 藤堂さんとの出会いといい、強すぎるボスといい、やっぱりこのダンジョン、何か変だ……。


 すると俺たちの勝利を認めるように、闘技場の中央に大きな宝箱が出現した。


 ま、とりあえず無傷で勝てたんだから良しとしよう。

 しかし今後さらに敵は強くなっていくだろうし、何か対策は考えなきゃな……。仲間でも増やすか?


 ともあれ、今は皆大好きお宝タイムだ!


「……さて。それじゃあ、御開帳です!」


「楽しみ!」


 ごまだれー♪


 気になる中身は、スキルキューブが5つ、スクロールが2本、それから……


「……鍵?」


「なんの鍵かな?」


「さあ?」


 持ち手の部分が天秤の形をした鍵。以上である。

 また意味深なアイテムが出てきたが……マジでなんなんだ、コレ。



 とりあえずそれ以外の発見物は、スキルキューブが『麻痺無効』『石化無効』『味覚強化』『空手』『魔力弾』であると判明。


 スクロールの方は、封蝋の色が緑と黒。

 数字はどちらもⅡなので、緑の方は毒状態を治す回復の初級魔法(レベル2)の『キュア』。

 黒の方は相手に盲目の状態異常を付与する闇属性の初級魔法(レベル2)の『ブラインド』だと分かった。



 そして、ダンジョンから帰還してライブラリで検索したスキルの効果は次の通りだ。


 『麻痺無効』

 麻痺状態にならなくなる。


 『石化無効』

 石化状態にならなくなる。


 『味覚強化』

 より繊細に味を感じられるようになり、また鼻も少し良くなる。


 『空手』

 達人級の空手が身に付く。


 『魔力弾』

 魔力を消費してエネルギー弾を発射できるようになる。

 ※威力は込めた魔力量に応じて変化する。



 話し合いの結果、俺は『麻痺無効』と『空手』を貰い、それ以外は全て花沢さんに使うということで決着。

 ニンジャとしてはやはり『空手』だけはどうしても譲れなかった。

 ふふふ、これで俺のアクロバティックカラテアーツはついに完成したぜ。ヤッター!


 で、一番気になる例の鍵はと言うと……ライブラリに載っていなかった。

 つまり未だかつて誰も見つけた事の無い、新発見のお宝である。


「……けど、マジで何の鍵なんだ、コレ?」


「うーん。ダンジョンのレベルを上げていけば使える……とか?」


 よく分からないが、とりあえず持っていて損は無いだろうという事で、鍵は紐で結んで、いつでも使えるように花沢さんが首から掛けておくことになった。

 

 ともあれ、こうして無事にレベル2ダンジョンをクリアした俺たちは、残りの春休みを休息に当てる事に決めて、残り僅かとなった春休みを満喫することにしたのだった。



キング「サヨナラッ!」


ちなみにスパローの本来の意味は(すずめ)だそうですが、(つばめ)も生物学的には雀の仲間ですし、スパローミサイルとかけているので誤用ではありません。


次回、閑話を挟んで1年生編はひとまず終了です。



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