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ニンジャコスプレイヤー=サン 着ルズ

 土曜日。

 俺と花沢さんは、家族共々、学校の校長室に呼び出されていた。

 四角いローテーブルを挟んだ向こう側のソファーには、校長、教頭、担任の安岡が座ってこちらを睨んでいる。


「さて……説明してもらおうか、加苅っ! 花沢っ!」


 嫌味な性格で嫌われ者の教頭が、俺たちの少し前の写真を机に叩きつけて怒鳴った。


「説明と言われましても、見た通りですよ。この通り許可証だって持ってるし、校則にもダンジョンに潜ってはいけないなんて書かれてないじゃないですか」


 俺はあくまで堂々と、学生探索者許可証を提示して言い切った。


「私が言っているのはそういう問題じゃない! 社会規範に照らして非常識だと言っているんだ! 大体、どうやってそんなもの手に入れた!? どうせ人に言えないような事したんだろ! えぇ!? 去年のアレはお前も一応イジメの被害者という事で大目に見てやったが、今度という今度は許さん! 退学だ!」


 が、教頭は顔を真っ赤にして口角泡を飛ばす勢いで怒鳴り散らす。


「まあまあ、教頭先生。落ち着いて。まずは事情を聴きましょう。……さて、それじゃ説明してくれるね?」


 そんな教頭を校長が穏やかな口調で窘めこちらに視線を寄越す。

 表情は穏やかだが目が笑っていなかった。

 と、その時。校長室のドアがノックも無しに開かれた。


「こ、校長先生! お、お客様です!」


「ノックぐらいせんか馬鹿者! 今取り込み中だ! 後にしろ!」


 校長室に飛び込んできた事務の先生に怒声を飛ばす教頭。

 しかし、俺は廊下の方から漂ってきた清浄な空気と、廊下を照らす謎の光に勝利を確信した。



「おじゃまします~。よっす加苅くん、花沢さん! 一昨日ぶりやな!」



 校長室に美の化身が、ひょっこりと降臨した。



 せかいに ひかりが あふれる────っ!



「あっ……あっ……あっ…………!」


 ああ、教頭の嫌味な性格が滲み出たような顔が、みるみる穏やかになっていく! 

 涙をボロボロと零して床に跪く教頭の姿は、神の前で己の罪を懺悔しているようにも見える。


「おぉ……おぉ……っ!」


 ああ、そんな! 不毛地帯だった校長の頭皮に新たな命(かみのけ)が芽生えた! 奇跡だ! 奇跡は本当にあったんだっ!

 かつらを押し上げて生えてくる髪の毛に触れて、校長はまるで神の奇跡でも目撃したかのように、静かに泣いた。


「あら? 膝の痛みが……消えた?」


 花沢さんのおばあちゃんに至っては膝の痛みまで解消されて、その場に跪いて拝み始めてしまう始末。

 完全にカオスである。あーあ、もう滅茶苦茶だよ。



 ◇ ◇ ◇



 とまあ、そんなこんなで、俺が事前に呼んでいた藤堂さんの登場により、無断でダンジョンに潜っていた件については一切お咎めなしとなった。

 学校からの呼び出しの電話があった直後にメールを入れたら、今日は丁度オフの日だったらしく、快く学校側の説得に協力してくれた。

 あの人には何度もお世話になりっぱなしでもう足を向けて寝られない。


 ついでに不毛地帯だった校長の頭皮に新たな命(かみのけ)が芽生え、教頭の嫌味と花沢さんのおばあちゃんの膝痛も治って文句なしのハッピーエンドだ。めでたしめでたし。



 と、色々あったが、明けて翌日。

 無敵の藤堂パワーで学校からの許可も下りて、ずっとお預けになっていたダンジョン探索を再開すべく花沢さんの家を訪ねると、藤堂さんから荷物が届いていた。


 リビングに通されると、そこには大きな段ボール箱が2つ。

 早速箱を開けて試着会が始まる。

 

「ど、どうかな?」


「うん、すっげー似合う」


「ほんとねぇ、可愛いわよ華恋ちゃん」


「えへへ、ありがとう」


 段ボールから取り出した装備に着替えた花沢さんが、俺とおばあさんの前で黒いローブを翻しながらくるっと回ってみせる。

 つばの広い三角帽子の位置を直してはにかむ姿は、どこからどう見ても魔法使いの美少女だ。


 ローブの下は襟元にヒラヒラが付いた白いブラウスと、赤いチェック柄のミニスカート。足元は先の反った黒い三角靴で、手には長さ30センチほどの杖が握られている。


 これらは全て、藤堂さんから送られてきてきたダンジョン産の装備であり、特殊な効果を秘めた魔法の品々だ。

 箱に一緒に入っていた説明書に書かれていた効果はこんな感じ。



 魔女っ子シリーズ ※女性専用


 レア度☆☆☆☆☆


 【武器】

 黒薔薇の杖:魔法使用速度上昇(中)


 【防具】 

 黒魔女の帽子:魔力倍増


 魔女っ子ローブ:魔法耐性上昇(中) 


 おしゃれブラウス:魔力回復速度上昇(中)


 魔女っ子ミニスカ:魔法威力アップ(小)


 マジカルシューズ:歩くごとに魔力微回復


 ※魔女っ子シリーズ統一効果:5属性(炎・水・風・土・雷)の中級までの魔法全てが使えるようになる




 すごい(小並感)

 明らかに探索歴1ヵ月ちょっとの初心者が持っていていい装備じゃない。

 中級ダンジョンくらいまでなら余裕で通用するレベルだ。

 けど、魔女っ子の名前からも分かる通り、女性用装備だし、藤堂さんの潜る超級ダンジョンでは全く役に立たない程度の性能しかないから、死蔵するくらいなら花沢さんにという事なんだろう。


 で、俺の装備はというと、


「似合う?」


「うん! まさに忍者って感じ」


「やっぱりいい男は何着ても映えるわねぇ」


「ドーモ、ニンジャコスプレイヤー、デス」


 頭には銀の額当てが付いた黒頭巾。

 黒装束に身を包み、腰に2本の短刀を差す今の拙者は、まさに忍者でござった。

 ニンジャアトモスフィアが全身に満ちていく気がする。

 ちなみにこの装備が秘めたるニンジャアビリティは次の通り。



 忍者シリーズ(中忍)


 レア度☆☆☆☆☆☆


 【武器】

 風切(カザキリ):風属性 攻撃速度上昇(中)

 雷切(ライキリ):雷属性 麻痺付与(中)


 【防具】


 覚悟の額当て:集中力強化(中)


 忍籠手:精密動作補助(中)


 忍装束(上):物理耐性(中)


 忍装束(下):移動速度上昇(大) 


 無音足袋:気配遮断(大)


 ※忍者シリーズ統一効果:壁や天井を歩けるようになる




 はやい(確信)

 これ着てると身体がめっちゃ動く。ジッサイ、スゴクハヤイ。

 反復横跳びでなんちゃって影分身だって出来ちゃうぜ。

 天井からのローリングカラテの前にゴブリン=サンはしめやかに失禁して爆発四散する事だろう。コワイ!

 

 ……なんて、そろそろ疲れてきたから、なんちゃってニンジャソウルにはご退散いただくとして。


 実際この装備、かなり強い事は間違いない。

 というかこんな装備で今の引き出しダンジョンに挑んだらヌルゲーになってしまう。

 ゲームに例えるなら、序盤の街で中盤以降の装備を手に入れてしまったような感じだろうか。

 まあ、安全第一だから別にいいんだけどさ。



 で、それぞれの装備と一緒に入っていたスキルキューブだが、こっちは地味に嬉しいやつばかりだった。

 全8個のラインナップは次の通りである。




 『芳香』 体臭が良い香りになる。


 『清潔』 身体、及び装備品が常に清潔な状態に保たれる。


 『記憶力強化』 記憶力が強化される。


 『罠解除』 罠を発見しやすくなり、達人級の罠解除技術を習得できる。また、罠を解除した際入手できる経験値量が1・3倍になる。


 『睡眠短縮』 1時間の睡眠で8時間分の睡眠効果が得られる。


 『美肌』 美肌になり、肌が荒れなくなる。


 『投擲』 肩が強靭になり、達人級の投擲技術を習得できる。


 『快便』 お通じの状態が常に最高になり、痔にならなくなる。




 うーんこの極端なチートにならない絶妙なラインナップよ。

 いやまあ、嬉しい事は嬉しいんだよ? 『睡眠短縮』とか『罠解除』とか『投擲』とか、地味に優秀なスキルも入っているし。

 ただ、名実共に世界一の探索者からの贈り物と考えるとちょっと地味かなーとも思わなくもない。

 っていうか殆ど花沢さん専用の美容健康セットだコレ!



 で、話し合いの結果、スキルキューブは4個ずつ好きなものを選ぶことになり、俺が『罠解除』『睡眠短縮』『投擲』『記憶力強化』を、花沢さんが『芳香』『清潔』『美肌』『快便』を選択。

 それにより、花沢さんからシャンプーの香りとはまた別のいい香りがふんわり漂い始め、ついでに透明感のある美肌になって、より美少女度が増した。


「はい、じゃあなんか色々あったけど、今日からまたダンジョン探索再開します!」


「うん、頑張る!」


「2人とも怪我には気を付けてね」


「「はーい」」


 こうして新装備を身に纏った俺たちは、おばあさんに見送られて、意気揚々とダンジョンへと飛び込んだ。



 ◇ ◇ ◇



 学生探索者許可証を得たことで、ようやくスマホのマップアプリを使用できるようになった俺たちは、カメラで撮影する度に自動更新されるマップを頼りにサクサクと攻略を進めて行く。


 道中出てきたゴブリン=サン、コボルト=サン、スライム=サンは、魔法少女となったハナザワ=サンの炎魔法の前にしめやかに爆発四散した。

 アイエエエ!? ニンジャ、ニンジャ出番ナイ!? ナンデ!?


 ともあれ、その成果もあって花沢さんはレベルがまた1つ上がり、レベル14になった。


 またちょっぴり背が伸びて、全体的にまた少し引き締まり、スキルの効果も合わさって、もうここまで来ると街でも中々見かけないくらいの美少女だ。ロリ爆乳である。

 

 だが、それでも世界一にはまだ遠い。目指す高みは遥か先だ。

 このアンバランス感がいいという人もいるだろうが、俺はもうちょっと背が高い方が好みだ。

 胸は……うん、このままでいいんじゃないかな!

 


 ところで、今の所俺の出番と言えば、罠解除のスキルでたまーに簡単な罠を見つけては解除するだけである。

 今までは装備が弱かった事もあって協力プレイしていたが、これならもう俺は彼女が安全に探索できるようにサポートするだけでいいだろう。

 これでようやく、本来想定していた形で探索ができるわけだ。これからはバリバリ罠解除していくぜ!

 罠解除でもちょっとだけ経験値入るからな。塵も積もれば山となるだ。



 それから地下1階をくまなく探索して、宝箱を1つ発見。

 中身は紫色の液体が入ったポーション瓶のセットが1ダース。

 紫ポーションは確か、こんな毒々しい色でも、解毒の効果があったはずだ。

 あって損は無いが、なんかハズレ感が凄い。



 そうして探索を続けていく内に、俺たちはとうとう、ボス部屋の前までたどり着いた。

 両開きの金属扉に手を掛けると、扉が自動で開き、中の様子が明らかになる。

 あれは……ゴブリンキングだ!



 ゴブリンキングはその名の通り、ゴブリンたちの王だ。

 体長は2・5メートルと、他のゴブリンと比較してもかなり大柄で、力も強く俊敏だ。


 しかも戦闘中に多数のゴブリンを召喚してくるし、キングの指揮下だとゴブリンたちの動きは格段に良くなる。極めて厄介な相手だ。

 けどキングさえ討伐してしまえば召喚されたゴブリンたちは消えるため、キングとの一騎打ちの状況を作り出せればベストとされている。


「よし、今日は引き返そう。ボスに挑むのはしっかりレベル上げしてからにしようか。元々、レベル上げが目的だしね」


「うん、わかった」


 焦る必要はない。装備が強くなったとはいえ、俺たち自身が強くなったわけではないし、彼女の身に何か起きてからでは遅いのだ。

 それに俺自身も、両親に五体満足で帰ると約束している以上、減らせるリスクは可能な限り減らすべきだろう。


 なのでここは当初の予定通りレベル上げに専念して、余裕をもって挑むとしよう。


 俺たちを見て鼻で笑うキングを俺は睨み返し、2人でその場を後にする。

 今に見ていろゴブリンキング。俺たちは今より強くなってもう一度ここへ戻ってくる。その時がお前の最後だ!




スキル「快便」の効果は作者の切なる願い。

痔はマジで痛い(涙)


それと、松岡氏の頭がサイヤ人の王子程度で済んでいるのも、全部藤堂さんの美貌のお陰。

まあ、その分ストレスいっぱいで、生えた傍から抜けてくんだけどね……



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