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机の引き出しに入ろうとする彼女の後姿がどこからどうみても例のネコ型ロボットな件

ダンジョンの設定とか説明不足かなと思ってちょこっと書き足しました。

 買ったまま放置していたゲームを消化していたら、あっという間に冬休みは過ぎて、いよいよ3学期が始まる。


 果たして、花沢さんは俺の課したノルマを達成できているだろうか?


 ……まあ、無理だろうなぁ。


 流石に冬休み中に10キロは言い過ぎだったし。現実的に考えて1~2キロって所だろうな。


 でも、レベルアップなんていうズルを使うんだから、やはりそれくらいの根性は見せてもらわないとかつての俺の努力が浮かばれない。


 そんな複雑な思いを抱えていたからか、いつもより1時間も早く学校に来てしまった。道理で電車が空いていたわけだ。


 少しでも痩せていたら褒めてやろうなどと考えながら教室に入ると、そこには一回り小さくなった花沢さんの姿が。


「加苅くん! 私、やったよ。今朝計ったら、あの日より11キロ痩せてた!」


「ま、マジか!? すごいじゃないか花沢さん。見直したよ!」


 確かに、未だに彼女はデブでブスのままだ。


 しかしそれでも彼女が様々な誘惑に打ち勝ち、この短い期間中に自分1人の力で11キロも痩せたという奇跡のような事実に変わりはない。

 その事実が彼女に確かな自信を与え、表情を生き生きと輝かせていた。


 ……あっ、よくよく見たらこれ、単純に脂汗でテカってるだけだわ。


「辛かっただろう? よく頑張ったね。えらいぞ」


 しかし、例え脂汗でテカテカだとしても、俺は努力した人間への称賛を惜しまない。

 

 かつて兄がそうしてくれたように、俺は彼女の手を握りその不断の努力を労った。


「……うん。すごく、すごく辛かった。でも、負けたくないって思ったから。変わるんだって、決めたから。頑張れた。加苅くんのお陰だよ」


「俺は少し背中を押しただけさ。全ては君が頑張ったからこその結果だよ。本当に、よく頑張った!」


「か、加苅くん! うぅぅ、フゴッ、フゴッ」


 とうとう感極まった花沢さんがボロボロと大粒の涙を流すが、鼻で息を吸う度に豚みたいな団子鼻がフゴフゴ鳴って面白いだけである。


 しかしまさか本当にやり遂げるとはなぁ。大したもんだ。


「花沢さんの変わりたいって熱意。確かに伝わったよ。だから、今度は俺が約束を守る番だ。早速、今日の放課後から始めよう」


「うん。……フゴッ、よろじぐおねがいじまず。……ブピっ」


 涙を流す花沢さんは本当に汚らしくて、眉をひそめたくなるほど醜い。

 元々ブスだし百貫デブだから、11キロ痩せた程度では本当に誤差でしかない。


 だが、約束した以上、俺には彼女を世界一の美少女にしてやる責任がある。


 さあ今こそ、彼女ならきっとやり遂げると信じて準備してきた必勝の策を見せる時だ。



 ◇ ◇ ◇



 その日の放課後、一旦家に帰った俺は、色々と準備していた道具を持って花沢さんの家にお邪魔していた。


 彼女の家は意外と近い所にあり、家から徒歩10分くらいの場所にあった。

 二階建てのごく普通の都市型住宅で、小さいながら庭もある。


 丁度、小中学校の学区の境目なので、今まで特に接点も無かったからお互い家がこんなに近いなんて知らなくて当然だった。


 話を聞くにここは父方のおばあさんの実家らしく、海外で働いている両親の代わりにおばあさんと2人で暮らしているらしい。


「ただいま~」「お邪魔します」


 花沢さんの大きな背中に続いて彼女の家にお邪魔すると、彼女のおばあさんが俺たちを出迎える。


 人のよさそうな感じのおばあちゃんだ。体形は多少ふくよかだが、孫ほどではない。顔も含めてごく普通の範囲だった。


「おかえりなさい華恋ちゃん。それと、後ろのあなたが加苅くん? 話は孫から聞いてるわ。どうかウチの華恋ちゃんをよろしくお願いしますね」


「あっはい。でも、本当にいいんですか? 役所に届け出なくて」


「本当はそうしなきゃいけないのは分かってるんだけどねぇ。やっぱり、ここで過ごした思い出もあるし、いくら危険だからって、ここを捨てることなんてできないわ。それに、今日からあなた達が毎日モンスターを退治してくれるんでしょう? だったらお家の中がモンスターだらけになることもないわね?」


「まあ、そうですね。任せてください」



 ダンジョンは放置しておくと内部でどんどんモンスターが湧き続けて、やがて臨界点を越えると、ダンジョンの中からモンスターが溢れ出してくる。


 これをダンジョンハザードと言い、ダンジョンを見つけたらすぐに役所の専用窓口に連絡しなければいけない事になっているのもこのためだ。


 家の中に発生しようものなら家ごと差し押さえられて引っ越しを強制させられるのはやりすぎとも思わなくもないが。


 実際、花沢さんのおばあさんのように家を捨てるという決断ができず、役所に黙ったままでいるケースも多いようで、そうした隠しダンジョンは日本中にかなりの数があるとされている。


 一説によれば関東だけでも2000軒はあるのではないかとも言われているが、なにぶん()()ダンジョンであるため、詳しい実態は役所も把握していないらしい。



「うふふ、やっぱり男の子は頼もしいわね。今夜はお赤飯炊かなきゃかしら?」


「おばあちゃん!」


 赤飯? 何かおめでたいようなことでもあったのだろうか。



 それはさておき、花沢さんに案内されて彼女の部屋まで通される。


 彼女の部屋は想像以上にすっきりと片付いており、清潔感があった。

 嫌な臭いも特にしないし、食べ物のカスが落ちていたりすることも無い。


 無香タイプの消臭ポットが3つも置いてあるのと、冬なのに窓が全開である事以外は、ごくごく普通の女子高生のお部屋といった感じである。


 まあ、実物を見るのはこれが初めてなのだが。


「で、問題のダンジョンは?」


「ここだよ」


 花沢さんが勉強机の引き出しを開けると、そこには白く渦巻くダンジョンへの入り口が確かにあった。話には聞いていたとはいえ、実際に目の当たりにすると異物感がハンパない。


 ダンジョンと繋がった部屋や家具などは基本、空間ごとその場所に固定されてしまうから家を壊してもそこだけそのままだし、当然机だけ動かすなんて事もできない。


 引き出しくらいならスライドできるが、それも取り外す事は不可能だ。


 しかも放っておけばモンスターが溢れ出てくるので、ダンジョンという奴は多大な利益も齎すが、基本的には困ったちゃんなのである。


「なんかタイムマシンでも置いてありそうな感じだな」


「私、ドラ●もんじゃないから」


「いや、言ってないから。ま、とりあえす家主の花沢さんからお先にどうぞ」


「う、うん」


 机の前に踏み台を持って来た花沢さんはそこで靴を履いて、引き出しの中に足を入れようとする。


 ところが……


「あっ!?」


 手汗で滑ったのか突然バランスを崩してしまい、頭からダンジョンの中へと落ちてしまった。


 その様子を後ろから見ていた俺は、その光景に激しい既視感を覚えつつも、落ちていった彼女を追いかけて自分もダンジョンの中へ飛び込んだ。


「大丈夫ドラ●もん!?」


「痛たたた……。大丈夫だよの●太君。って、だからドラ●もんじゃないってば!?」


「お手本通りのノリツッコミどうも。それより花沢さんちょっとハイになってない? 大丈夫?」


「う、うん、そうかも……」


 これはビギナーズハイと呼ばれる症状だろう。

 ダンジョンの魔力にてられると過剰な躁状態そうじょうたいになったり、恐怖を強く感じてしまうのだ。


 この症状はレベルアップしてダンジョンの魔力に身体が馴染めば収まる。

 俺が比較的落ち着いているのは探索者だった爺ちゃんからの遺伝だろう。


「ほら、ちょっと深呼吸してみようか。はい、ヒッヒッフー」


「ヒッヒッフー。って、私妊婦じゃないし!」


 ダンジョンの入り口は転送ポータルになっているので、渦に触れさえすればわざわざ足から入ろうとしなくても入れるのだが面白いから気付くまで黙ってよう。


 その悔しさをバネにして是非とも綺麗になってくれたまえ。



 

 ダンジョンの中は岩盤をくり抜いて作られたような洞窟だった。

 通路の幅は3メートルほどで、高さは4メートルくらい。

 標準的なダンジョンの通路直径とほぼ同じである。


 明かりなど一切ないはずなのに、洞窟の中は仄かに明るく、自分の周囲を見渡すのに苦労はない。これも他のダンジョンと同じだ。


 俺はスライム対策の秘密兵器を入れた袋を携えて奥へと進んで行く。


 通路を10メートルほど進むと、その先は十字路になっていて、交差点の中心で1匹のスライムがもにょもにょ蠢いていた。


 スライムといっても、あの角の生えた水まんじゅうみたいな奴ではない。

 デロデロの不気味な不定形生物の方だ。


「うぅ、やっぱり何度見ても気持ち悪い……」


「綺麗になりたいんだろ? だったら倒さなきゃ。ほら、一思いにパーっと!」


「そ、そうだね。うん、やるよ。やってやるっ!」


 花沢さんは綺麗になりたいという決意を勇気に変えて、俺が用意したゴム手袋を付けてから、ビニール袋に入れていた白い粉をスライムに振りかける。


 すると白い粉を浴びたスライムは、あっという間に萎びて死んでしまい、死体はすぐに魔素となって薄紫の燐光を放ちながら空気へと溶けていった。


 白い粉の正体は石灰だ。学校の校庭に線を引くためのアレである。


 スライムは塩でも倒せるが、殆どのスライムは酸性なので、アルカリ性の石灰がよく効くし、こっちの方が即効性が高いので、顔に張り付かれた時なんかはとても有効だ。


 ……と、探索者協会のデータベースに書いてあったので一応用意して持って来たが、確かに効果は抜群だったな。


「……あっ、なんだろう。身体がポカポカする」


「うーん……? 若干、細くなったような? あっ! ニキビが消えた!」


「えっ!? ほんとだ!」


 ポケットからスマホを取り出してカメラ機能で自分の姿を確認した花沢さんは、自分の顔からブツブツのニキビが奇麗に消えている事に喜びの声を上げる。


 どうやらダンジョン内で初めてモンスターを倒したことで、彼女は無事レベルアップしたようだ。


 それにしても、あんなに酷かったニキビが一瞬で消えてしまうなんて凄い効果だ。顔は未だにブスのままだけど、ニキビが無いだけでもかなり印象は違って見える。


 なんというか、見るのも嫌な醜いブスから、ギリギリ見れるブスにランクアップした感じだ。

 このままレベルアップを重ねて行けば、そう遠からず人間になれる日も来るんじゃなかろうか。


「よーし! やる気出た! どんどん行こう、加苅くん!」


「その意気だ!」




 その後も俺たちは探索を続行し、十字路の先を左から順に見て回ったが、左右の通路の奥には6畳ほどの何もない小部屋があるだけで、正面の通路の奥にはボス部屋らしき鉄扉があるだけだった。


 生まれたばかりのダンジョンなので敵もまだスライムしかおらず、左右の小部屋に湧いていた2匹も花沢さんが美しくなるための生贄になったので、ダンジョン内の敵はボスを残すのみである。


「敵、いないね」


「まあ生まれたばっかりのダンジョンだしこんなもんでしょ。広さも丁度いいし、アレが使えそうでよかったよ」


「アレって……あの部屋に置いてきた三角コーン?」


「そう、それ」


 何を隠そう、その三角コーンこそが今回の秘密兵器なのだ。

 俺は冬休み中に帰省した兄貴に頼んで、ちょっと特殊な塗料を取り寄せてもらっていた。


 そして、今日持って来た三角コーンにはその塗料がたっぷりと塗ってある。そいつをこの十字路に置いておくと、ちょっと面白い事が起きるのだ。


「まあ見てなって。自衛隊御用達の、モンスターマーカーの威力をさ……」


 一度三角コーンを部屋まで取りに行って、また十字路へと戻ってくる。

 そしてそれを交差点のど真ん中に設置。コーン全体に石灰の粉を(まぶ)して、コーンを囲むように石灰で線を引いておく。


 こうしないとスライムにコーンを食われちゃうからな。こいつはここにあり続けてこそ効果を発揮するのだ。


 この秘密兵器は効果が出るまで少し時間が掛かるので、明日の放課後、また様子を見に来るということでその日は解散となった。




ドラ●もんのくだりをちょこっと変更

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