女神新生 俺と彼女の世界変革の時 5
誤字報告してくださってる方、本当にありがとうございます<(_ _)>
自分でも気づかないうっかりミスのまあ多いこと多いこと。気を付けてはいるんだけど……(;^ω^)
自らを太上老君と名乗った老爺に倣い、白夜も自らの神格を表す名を名乗ることにした。
「僕はウカノミタマ。……といっても、なったのは最近ですけどね」
「ほっほ。神格を得てしまえば時間の前後などさしたる問題ではない。それは君もよくわかっているだろう?」
白夜が頷く。
修学旅行のとき、伏見稲荷大社へ連れて行ってもらったことで、白夜の神格はウカノミタマや、各地の妖狐伝説に語られる化け狐たちと同化している。
白夜はあの瞬間、時間と空間を超越した『狐の伝承そのもの』になったのだ。
それでも混沌神の時間の牢獄を破ることが出来なかったのは、単純に神としての格が向こうの方が圧倒的に上だったというだけのこと。
「それで、僕をここに招いてくださったということは、つまりそういうことですね?」
白夜が口に放り込んだマカロンを飲み込んでから老爺に尋ね返す。
そういうこととはつまり、光と闇の神々の戦争が闇側の勝利で終わろうとしているのを、この老爺はひっくり返したいと思っているということだ。
「うむ。これでも元は人間でな。やはり人の子らが滅ぶのは見たくないのだよ」
「でもいいんですか? 調停者が片方に肩入れしちゃって」
「私が肩入れするのはあくまでも人間たちだよ。神々の陣営がどうなろうと知ったことではない」
お茶目にウインクしつつマカロンを頬張る太上老君。
宇宙創成の頃より光と闇の陣営は、互いの勢力図を塗り替えるために争い続けてきた。
だが、知的生命の誕生が彼らの在り方を根本から変えてしまうことになる。
知的生命たちの信仰により神格という概念が生まれ、同時に善悪の神々も彼らの信仰心によって定められた。
これをあえて人間の尺度で例えるなら、面白い小説を読んだ中学生がそれに感化された、というのが一番近いだろうか。
ともあれ、こうして本来なら取るに足らないはずのちっぽけな存在から多大な影響を受けた神々は、様々な能力を獲得する代わりに、その神格に縛られることにもなった。
それからというもの、善と悪に振り分けられた神々はそれぞれ、宇宙誕生の頃より続く因縁を引き摺ったまま、人々の信ずる力を振るい戦いを繰り広げていく。
そうして長い時の果てに生まれたルールが、ダンジョンを利用した神々の代理戦争というわけだ。
定められた時間までに人類がダンジョンの秘密を解き明かし、その最奥に眠る混沌神の現身を倒せれば光の陣営の勝利。
できなければ闇側の勝ちとなる。
そしてこのルールを提唱した神こそ、闇の陣営の最高神にして宇宙最古の神、混沌神だった。
ルールの導入以降、宇宙に存在する知的生命の進化の速度は爆発的に加速した。
中には個人で神へ至った者や、全体が一つの個として神へ至った種族も少なくない。
太上老君もかつて地球で行われたダンジョン戦争で現人神となり、その死後、彼を慕う者たちの信仰により神へ至った。
ダンジョン戦争は地球では過去数万年の間に何度か行われ、その全てが光の陣営の勝利で終わっている。
それらの時代にダンジョンから持ち出された魔法のアイテムは、戦争終結と同時にダンジョンと共に消滅してしまったが、起きた出来事は神話や伝承となって後世まで語り継がれることになった。
そして今回の戦争でも、藤堂儀十郎という傑出した英雄が生まれ、世界は救われる……はずだった。
「……全く、かの神の飽き性にも困ったものだ。自分で言い出したルールなのに、やっぱり見ているだけではつまらんと、ルールの抜け穴を突くような真似を。……否、あれは最初からそうするつもりでああいうルールにしたのだろうな」
太上老君がやれやれと嘆息する。
本来、時が来るまで混沌神の現身はダンジョンの奥深くに封印され、高位次元に存在するかの神の本体も、この世界に直接干渉することは禁じられている。
だが混沌神は密かに生み出した己の眷属たちを使うことで、ルールに触れる事なく間接的にそれをやってのけた。
そうして世界を救うはずだった英雄は、本人すらも気付かぬうちに徐々に追い詰められ、死んだ。
―――――その後の結果は知っての通りである。
しかし、そんな殆ど反則みたいな真似を人類の守護者たる善なる神々の陣営が許すはずもなく。
そうしてねじ込まれた掟破りの延長戦こそが、メアリーと、後に藤堂にも託された『時間逆行』のスキルだったというわけだ。
結果、世界はあるべき姿から大きく外れ、二人のイレギュラーが生まれた。
その時点で世界を救う英雄としての役目は、藤堂儀十郎から加苅零士と花沢華恋の二人に移ってしまっている。
混沌神の間接的な介入が無ければ、鍵は二人が生まれる前にすでに揃っていたはずで、藤堂がレベル99に到達するのも、もっと早かったはずだったのだ。
混沌神の封印を解くのがあと17年早ければ、藤堂たちでも勝てただろう。
だがすでに世界は本来の歴史から大きく捻じ曲がっており、今更鍵が揃ったところで、すでに英雄の運命から外れた藤堂たちに、完全復活間近の、殆ど万全の状態に近い混沌神を倒せるはずもなかった。
「それで、僕は何をすれば?」
「混沌の宝玉。あれを使い、この宇宙を完全に閉ざしてほしいのだ。光と闇、双方の手が二度と及ばぬようにな。あれを扱うための『鍵』はすでに、君の母上が持っている」
「鍵……?」
マカロンをもう一つ頬張り、老爺が続ける。
「混沌魔法『カオス』。そのスクロールさ。あの魔法こそ、かの宝玉が秘める無限の可能性を制御するための魔法なのだよ。……それ単体で使用したらどちらも何が起こるか分からない危険物でしかないがね」
「……なぜ両陣営ともこの宇宙から追い出すような真似を?」
「光も強すぎれば人々の心に影を落としてしまうからね。それに、やはり人の世は人が動かしていくべきだ。仮に自覚がなくとも、いつまでも神の庇護下にあるのは健全ではないよ。文明もある程度成熟したし、そろそろ親離れには頃合いだろう」
神々は去っても宝玉の力でダンジョンというシステムは未来永劫、この世界に残り続ける。
それを使い人類が新たなステージへ上り詰めるか、それとも滅びるか。それは本人たちの選択次第だ。
「神々が去ったあと、私のように人から神へ至る者は何人も現れるだろう。古の神々の時代は終わり、世界は新たな神話の時代を迎える。人の世を真の意味で人々が動かしていくために、どうか手を貸しては貰えないか」
ふむ、と顎に手を当てて考え込む白夜。
「……一つ、聞いていいですか?」
「もちろん、一つと言わずどんな質問にも答えよう」
「じゃあ遠慮なく。この宇宙を完全に閉ざすとなると、人間に転生している神々はどうなるんです?」
「無論、そのまま人としての生を終えたのち、そのまま魂の輪廻に組み込まれるだろう」
「じゃあ、人から神になった者たちは?」
「人から神へ至った存在はその本体もまたこの宇宙にある。私の望みはあくまでも、外宇宙から干渉してくる光と闇の古き神々の影響を取り除くことだよ」
わかりやすく例えるなら、宇宙というパソコンを完全なオフライン状態に切り替えてほしい。そういう頼みだった。
神々の追放。それは即ち、宇宙創世の頃から続く光と闇の終わりなき戦いの終焉。
この世界にアクセスできなくとも、神々は別の可能性宇宙で争い続けるだろうが、少なくとも今自分たちがいるこの世界と、ここから派生する全ての分岐世界においては、光と闇の不毛な争いは終わる。
混沌神だけは現身を倒さねば干渉権を完全には奪えないだろうが、それさえ倒してしまえば全ては丸く収まる。
「……わかりました。その役目、引き受けます」
ぬるくなった紅茶を一気に飲み干して、白夜が頷く。
老爺はまるで白夜がそう言うとわかっていたように「うむ」と一言頷き、長い白ひげを撫でた。
「さて、そうと決まればあとは君の母上たちの試練が終わるまで、ここでゆっくりしていきなさい。ここにいるだけでも君の格は随分と上がるだろうからね」
「それじゃ、お言葉に甘えて」
白夜がマカロンの最後の一個を頬張り、幸せな甘さに表情を綻ばせる。
まるで孫娘のように愛らしい白夜の姿に、太上老君もひげを撫でつつほっほと笑った。
「ところで、これは個人的なお願いなのだが……その尻尾、少し触らせてはもらえまいか」
「いいですよ。美味しいマカロンのお礼です」
ドロン! と白夜がコロコロの白毛玉と黒毛玉の姿に分離する。
てててっとテーブルの上を駆けて老爺の膝の上に飛び乗った二匹は、甘えるようにふかふかの毛並みをすりすりこすりつけた。
「ほっほっほ。これは素晴らしい。ほら、チョコレートもあるよ。お食べなさい」
「「わーい!」」
おじいちゃんからチョコを貰い嬉しそうに尻尾を振る毛玉たち。
お前らそれでも一応豊穣の神だろうとツッコミたくなるような光景だが、分離中はあくまでも半人前ならぬ半神前なので、神としての格もはんぶんこだ。
だから分離中は数え方も一匹二匹だし、力も相応に下がってしまう。
格の下がった半神前など、この神界で永劫の時を修業に費やす太上老君からしてみれば、愛玩動物も同然だった。
世界から隔絶された神界で、ゆったりと穏やかな時間が過ぎていく――――――。
神様連中がウチのPCハッキングして好き放題してくるから、回線ぶっこ抜いちゃえって話。
究極の安全対策はネットに繋がないこと(極論)
ただしすでにインストールされてるゲーム(ダンジョン)はオフラインで有効に使わせてもらいますよ、みたいな。
神々(´・ω・`)そんなー




