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女神新生 俺と彼女の世界変革の時 2

 結論から言えば、時間の停まった世界でもダンジョンには普通に入れたし、中に入ってしまえばモンスターは普通に動いていた。

 リリカが言うには、ダンジョンは外とは隔絶された一種の異空間なので、時間停止の影響は受けないのだとか。


 そして、華恋の家の引き出しに現れたダンジョン。あれこそが世界の運命を変える鍵だった。

 その特別なダンジョンのレベルを超級(レベル10)のさらにその先、神級(エクストラ)ダンジョンになるまで引き上げてやり、それを攻略することで全員の神格を高めて混沌神をぶっ倒そう! ……ということらしい。


 ……と、そんなわけで、引き出しダンジョンに挑む前に、まずはアマルガムダンジョンでレベルを最大まで上げることにした零士たちは、


「ヒャッハー! メタル狩りじゃぁぁぁぁっ!」


 逃げ惑う経験値の塊(アマルガム)を絶滅させる勢いで狩りまくっていた!


 素早いアマルガムたちを効率的に狩るため、ここで再び役に立ったのが零士と華恋にとっては最早懐かしい思い出のアイテム『モンスターマーカー』。

 アイテムボックスの中にずっと仕舞われたままだったそれを、ダンジョン内の通路の奥に設置して待つことしばし。

 するとまあ集まるわ集まるわ。

 見ているだけで笑いと涎が止まらないアマルガムの群れ(人類の夢)を、それぞれの方法でもりもり駆逐していく。


「覇ぁッ!」


 全身から黄金のオーラを立ち昇らせた剛の蹴りが、アマルガムのコアをサッカーボールのように掬い上げて粉々に粉砕。

 その横をすり抜けたアマルガムをマックスの必中チャージショットがぶち抜いて、それに驚いて逃げ出すアマルガムたちを美香の斬撃がまとめてバラバラに切り刻む。


 トミーの演奏が仲間の動体視力や反射神経を最大限まで引き上げ、ファイアーバルキリーズの音撃砲が液体金属に破壊的な振動を叩き込み内部のコアごと吹き飛ばす。

 天井や壁を這って逃げようとするアマルガムは、零士の目にも留まらぬ神速のガン=カタでぶち抜かれて全て魔力の塵へと消えた。


『メテオ!』


 逃げようとして行き止まりの角に溜まっていたアマルガムの塊を、宇宙空間から呼び出された隕石が木端微塵(こっぱみじん)に消し飛ばす。

 アマルガムのボディはあらゆる魔法を無効化するが、召喚された隕石そのものは宇宙空間を超高速で漂う岩の塊なので無効化できない。


 積み上がる希少な魔法金属(ドロップアイテム)の山。

 アマルガムは他のモンスターと比べて、スキルキューブやスクロールなどの貴重なアイテムを落とす確率も高く、それらも着実に増えていく。


 そしてついに―――――――!


「これでっ!」

「ラスト――――――――ッ!」


 見渡す限りを埋め尽くしていたアマルガムの最後の一匹を零士の二丁拳銃(ウロボロス)が撃ち抜いた。

 祭りのあとにも似た一抹の寂しさと、やりきった達成感が六人の胸に込み上げてくる。


「「綺麗……」」


 ふと、美香とマックスの視線が合い、思わずといった様子で二人の口から同じ言葉が同時に出た。

 そこに立っていたのは、まるで神話の世界から飛び出してきたような、筋骨逞しい男神(おがみ)のような少年と、同じく筆舌に尽くしがたいほど美しい、神々すら羨む美貌の乙女。


「まさか自分の姿を美しいと思ってしまう瞬間がくるとはな……」

「これが……俺? ははっ、嘘だろ」


 スマホで自分の顔を確認したトミーが、画面に映る自分の姿に感嘆の息を漏らす。

 陳腐な液晶画面に映り込むのは、神が作りだした至高の彫刻作品のような、完成された美丈夫の姿。


 剛もまた、息を呑むほどの力強さと存在感を放つ雄々しくも美しい青年へ。

 全身から漲る闘気は僅かな神性を帯びており、ひたむきに強さを求め続けた彼はとうとう人の限界を越えて神の領域へと到達した。


「「…………」」


 見つめ合ったまま彫像のように動かない零士と華恋。

 二人とも、お互いのあまりの美しさに我も忘れて見惚れていた。

 静謐でありながらその奥に折れることなき鋼の意思を宿す黒曜の瞳と、溺れてしまいそうなほど温かな慈愛に満ちた深い亜麻色の瞳が重なり、揺れる。


 零士のそれは、例えるなら研ぎ澄まされた刀剣の美しさだ。

 どこまでも鋭く、触れれば怪我をするとわかっているのに、それでもなお目を離せない。人を惹きつけてやまない、妖しげな魅力。

 だが、彼の真っすぐで情熱的な人柄が、刀剣の危うさを護身刀のような温かみのあるものへと昇華させていた。


 自分を見つめる華恋の瞳に、零士もまた吸い込まれそうになる。

 美しくなりたいと願い続けて努力を積み重ね続けた彼女の美貌は、ついに神性を帯びるほどのものへと到達せしめた。

 美しさを極めた果てに、華恋はとうとう「女神のような」ではなく、美の女神そのものになったのだ。


 神すら魅了して堕落させかねないほどの魔性の色香と、全てを優しく包み育む聖母の包容力を兼ね備え、されど咲き誇るような少女の瑞々しさもあり。

 あえて断言しよう。彼女こそが間違いなく『世界一の美少女』だ。

 今後、世界に星の数ほどの美少女が生まれようとも、彼女を越える美少女は生まれてこないだろう。

 誰もがそう確信するほどの、それほどの美貌―――――――。


 お互いの美しさに言葉を失い、再び恋に落ちた二人は、あの時の約束を思い出す。

 だが、今はそれを言うべき場面ではないこともまた、二人とも痛いほど理解していた。だから、


「――――――倒そう」

「……うん」


 ただ一言。二人で歩むための未来を勝ち取るために。

 二人の意思は一切の齟齬(そご)なくお互いに通じ合い、同時に一つ頷いて小さく笑った。


「行こう!」


 人類の限界に到達し、零士たちは僅かな神性を得て現人神となった。

 これより目指すはさらにその先。人知を超えた神の領域。

 いざ、はじまりの地へ。



 ◇ ◇ ◇



 人類の限界(レベル99)へ到達して、アマルガムダンジョンから出た零士たちは、ダンジョン内で拾った大量のスキルキューブとスクロールを整理して、時の停まった空を流星の如く駆け抜け花沢家へと戻ってきた。


「おばあちゃん……」


 リビングを覗くとそこにはソファーに座ろうとしたまま停止した華恋のおばあちゃんの姿が。

 ピクリとも動かない祖母の姿にさらに強く決意を固め、自分の部屋の机の引き出しを開ける。

 すると、そこにはいつも通りの白い渦があった。やっぱり何度見てもタイムマシンの入り口にしか見えない。


 ダンジョンに入ると、その先に広がっていたのは……


「やっぱそうなるよな……」

「うげーっ、またやり直しかよ」


 トミーがうんざりしたように肩を落とす。

 見渡す限り広がる巨大樹の森。

 両腕を広げた大人が十人並んでも囲めないほど太い幹が柱のように立ち並び、根元の岩場の隙間を縫うように小川が流れていた。


 ともあれ、一度攻略したダンジョンなので、ボス部屋までのルートはすでに把握済みだ。

 ダンジョン内のマップを記憶しているリリカにナビゲートを任せて、零士たちは風のように巨大樹の森を駆け抜ける。


 道中何度もモンスターと遭遇したが、全て鎧袖一触で薙ぎ払い進む。

 いつか藤堂が言っていた『ダーッと行ってプチプチっとしてボカーン!』の意味をようやく理解できた。

 あまりにもレベル差がありすぎると戦闘にすらならないのだ。

 敵の動きは亀のように遅く見えるし、動かない敵を適当に殴ればそれで消えてしまうので、むしろ邪魔な障害物をどけている感覚に近い。


 すでにレベルは最大まで上がりきっているため、どれだけ敵を倒しても成長の喜びは得られず、ただ邪魔なガラクタを落とすのみ。

 ……最強とはこれほどまでにつまらないものだったのか。

 零士たちは改めて、長年その不毛な作業に耐えてきた藤堂の凄さを思い知らされた気分だった。


 そうして僅か5分ほどでボス部屋までたどり着く。

 中で待ち構えていたフォレストタイタン(全長200メートルを超える、植物の特性を併せ持つ巨人モンスター。非常に再生力が強くてタフ)を、華恋の超級魔法が一撃で消し飛ばし、特に見せ場も無くボス戦は終了。

 宝箱のアイテムを適当に回収して、再び外へ。


「あとはダンジョン内の時間で一週間経つのを待って再チャレンジ。この繰り返しじゃな」

「マジかよ……」


 最大レベルに到達して完全に作業ゲーと化した探索に、トミーが憂鬱そうに唸る。


「あ、じゃあただ待ってるだけなのも暇だし、パパとママが探索してたとこ行ってみる?」

「……それもそうだな。スキルはいくらあっても困らないし、ちょっと行ってみるか」


 美香の提案で零士たちは引き出しダンジョンが次のレベルに上がるまでの間、スキルキューブのみをドロップするという極秘ダンジョンへ挑むことにした。


スキルもレベルも神の前では所詮は飾り。



アイテム紹介


全知の書(電子版)

900ゼタバイトにもなる膨大な文章と図形のデータが収められたUSBメモリ。

そこには、全宇宙の知的生命体が長い時の果てに積み重ねた知識や技術の全てが収められている。


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