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おいでやす京都、モフモフ大パニック 11

 京都市北区の山中にあるゴルフ場の茂みの中からダンジョンへ入った零士とトミーの二人は、零士の影転移を利用して大樹の枝の影へ直接転移して大幅なショートカットに成功していた。

 大樹の周囲を渦巻く暴風の壁も、内側に入ってしまえば穏やかなものだった。


 そのまま大樹の中心部へと向かおうとする二人に襲いかかってきた高レベル野良猫たちを、トミーの新ギター『ファイアーボンバー』と新アンプ『ファイアーバルキリーズ』が戦意喪失させ、それでも襲ってくる凶暴なモンスターは、零士のメイン武器『黒刀(こくとう)刃心(じんしん)』の一撃で一刀両断にして進む。



 『ファイアーボンバー』

 このギターが奏でる音は、味方にはプラスの能力変化を、モンスターにはマイナスの能力変化を与える。

 また、このギターの音色はあらゆる敵の戦意を低下させる。


 『ファイアーバルキリーズ』

 ※このアイテムはこれ単体では使用できない。

 魔法の楽器と魔力接続して使うアンプ。使用者の魔力を消費して空中を自在に移動させることができる。

 魔力接続した楽器の演奏効果を3倍に高める。

 また、音量を調整することで対象を破壊する『音撃砲』を発射可能。


 『黒刀刃心』闇・空間属性

 ※攻撃速度3倍 影を斬りつけると本体に2倍ダメージ



 太い枝の影から突然びょーん! と手足を広げて襲い掛かってきた桃色パンサー(体長4メートルほどの巨大な桃色の豹。ひょうきんな動きで敵を狩る)の影を零士がすれ違いざまに斬り裂く。

 影を斬り裂かれて2倍のダメージを受けた桃色パンサーの身体が細切れになり、魔力の塵となって霧散する。


 続けて襲ってきたキャッツI(レオタード姿のスマートな泥棒猫。鮮やかな手つきでアイテムを盗んでくる)をトミーの音撃砲が粉砕、木の葉の影から飛び出してきた劇団死期(見た者に死の呪いを与える猫のミュージカル集団)を分身自爆で纏めて吹き飛ばしてさらに先へ。


 周囲の枝の上には戦意を失った野良猫たちがぐてーっと力なくぶら下がっており、それらを横目で見ながら零士たちは赤い糸に導かれて大きな木の洞へと飛び込んだ―――――――。



 ◇ ◇ ◇



 城内へ侵入したマックスたちを待ち受けていたのは、このダンジョンでレベルを上げ、猫神の加護を授かった野良猫たちだった。

 白、黒、三毛、ぶち、色々な毛色の美猫たちが一斉に毛を逆立てて神の城へと足を踏み入れた人間たちを威嚇する。


「あれ、やっぱり普通の猫だよね……?」


 美香が腰の剣に手をかけながらも、どこか及び腰な様子で言った。


「うん。ばっちり生体反応があるから、あれはモンスターじゃなくて本物の猫ちゃんじゃのう」


 リリカが観測したデータを元に結論を告げる。


「うっ……やっぱり? でも、いくらなんでも普通の猫を殺しちゃうのはちょっと……」

「僕はどっちかといえば犬派だけど、確かに罪もない猫を殺すのは……」


 今までの敵とは違い、相手が生身の生物であるということが、二人にこれ以上先へ進むことを躊躇させていた。

 ちなみにだが、夏休みの事件の時はダンジョンで偶然手に入れたガムガムガン(ベットベトのガムで相手を問答無用で無力化できる非殺傷武器)で誰も殺すことなく切り抜けられたので、殺すか殺さないかの選択を迫られるのは今回がはじめてだった。


「だったらここはワシにおまかせじゃな! たーだーし、後でちょーっとおっぱい吸わせてくれたらだけどぐひひひひ!」

「そ、そんなのダメに決まってるでしょ!? バカな事言ってないでなんとかして!」


 ここぞとばかりにセクハラをねじ込んでくるポンコツ妹ロボに美香が思わず赤面する。


「ちぇー。ま、お姉ちゃんのその顔見れただけでもよしとしますかね。えー、ゴホン……ニャオ(失せろ畜生ども)」


 ――――――キィィィィィィィィィィィィン!


 咳払い一つ、リリカの口から猫が嫌がる超音波が周囲に向けて放たれる。

 人間で例えるなら『黒板を引っ掻いたような嫌な音』を浴びた猫たちが「ギニャー!?」と悲鳴を上げて散り散りに逃げていく。

 5秒と経たない内に美香たちを囲んでいた猫たちは一匹残らずどこかへと消えてしまった。


「すごいじゃんリリカ! っていうかこんなことできるなら最初からこうすればよかったのに」

「えー、だって手札はできるだけ隠しておきたいじゃろ?」

「味方にまで隠してどうすんのよ……。ま、とりあえず猫はいなくなったし、先急ご!」


 上下に動く太い鉄骨が何重にも交差する機械仕掛けの城の中を、三人は多段ジャンプによる空中機動で上へ上へと駆けあがる。


 道中、トムキャット&マウスボンバー(二組で一体のモンスター。爆発するネズミを猫が追い立てて最後はどちらも大爆発!)たちが襲い掛かってきたが、リリカが周囲を警戒してくれていたお陰で奇襲は全て失敗に終わり、逆に返り討ちにして進む。


 長い梯子を上り、猫モドキ(猫のようなナニカ。迂闊に近づくとグロテスクな捕食器官を剥き出しにして襲い掛かってくる)の強襲をバスターライフルで蹴散らして逆さ城を上へ上へと登っていくと、やがて何本もの木の枝が複雑に絡み合った巨大な壁の前に辿り着く。

 赤い糸は華恋がこの奥にいると告げている。どうやらここがこのダンジョンのボス部屋のようだった。


 壁の前では剛と涼が他の仲間たちの到着を待っており、……なぜか涼がぐったりとした猫型モンスターを愛おしそうに抱えていたが、三人の到着に気付いた剛が手を上げて声を掛けてきた。


「みんな無事だったかッ!」

「あ、師匠! 涼さんも! 先に着いてたんですね」

「ああ。涼さんがいたからな」

「ああ……」


 竹林の小径での事を思い出してマックスと美香が苦笑いする。

 たしかに、最強の猫除けがいれば探索もさぞ楽だっただろう。


 ここに来るまでの戦闘で、剛はレベル53、マックスはレベル51、美香はレベル52までそれぞれ成長していた。

 赤い糸の探し物の対象を零士たちに変更すると、零士たちの気配を壁の向こう側に感じた。

 どうやら零士たちは別ルートから部屋の中へと侵入したようだ。


「行こうッ!」


 剛が壁に手を触れると絡まっていた枝や(つる)がスルスルと解けて入り口が開いた。

 涼が名残惜しそうにニャン慶とお別れして(解放したら一目散に逃げていった)、それぞれ武器を構えて部屋の中へと突入すると、合わせたように天井から零士たちが飛び降りてきて合流してきた。

 ここに来るまでに零士はレベル54、トミーもレベル52へとレベルアップしている。


「ナーゴ」

「ふっ、さしずめワシの計画を止めに来た勇者気取りといったところか。そろいもそろって無駄なことを……」


 部屋の中央でごろ寝していた巨大猫の言葉を、その背に座る虚ろな目をした華恋が訳す。

 座る姿勢や仕草はもう殆ど猫のそれで、何故か服も下着の上にシャツ一枚を羽織っただけになっており……たった今脱ぎ掛けだった靴下を邪魔そうに投げ捨てた。

 明らかに様子がおかしい。


「華恋さん助けに来たぞ! さあ、こっちへ!」


 零士が華恋に手を差し伸べる。だが……


「ニャオ」

「無駄だ。この娘の支配率はすでに八割を超えておる。もう間もなくすればこの娘も完全な『猫』となり、ワシのつがいとなるじゃろう」

「なっ!?」


 猫神の言葉に戦慄する零士たち。

 そんな零士たちを見て猫神はつまらなそうに鼻から「フン」と息を吐き、それから「ニャオン」と一声鳴く。

 すると零士たちの前に一つの宝箱が現れ、触れてもいないのに勝手に蓋が開いた。

 宝箱の中に入っていたのは華恋が付けているものと同じ、人数分の『にゃんこ耳』。


「ウニャ」

「それはワシの慈悲じゃ。それを手に取り『猫』になる道を選ぶなら、お主らに世界の半分をくれてやろうではないか。どうじゃ、ワシの下で猫たちの王として君臨してみる気はないか?」


 轟々と荒ぶる神力を発しながら零士たちに問いかける猫神。

 全身の細胞が震え、目の前の巨大猫が自分たちとは圧倒的に格の違う存在であると、逆らってはいけない相手だと警鐘を鳴らす。

 涼だけは「そよ風でも吹いたかな?」程度にしか感じていなかったが、夢みたいに大きな猫さんを前にして、感動のあまり動けなくなっていた。


 思わず膝を付いて(こうべ)を垂れそうになったのを必死で堪え、零士は逆に問い返した。


「……その世界で、人間たちはどうなる?」

「ニャフ」

「我らを愛し大切にしてきた者たちには猫として生きる権利をやろう。だが、我らをいじめたり、捨てたりした者には容赦はせん。皆殺しだ。それ以外の者は猫たちの奴隷として一生こき使ってやる。我らのためにその身を捧げられるのだ、これより幸せなことは他にあるまい?」

「…………」


 零士が俯き黙り込む。


「ナーゴ」

「何を迷う事がある。じきにここより世界に向けて選別の光が放たれる。さすれば人間どもはワシの意思のまま、それぞれの役割へと振り分けられるじゃろう。猫を嫌う者は滅び、猫たちの楽園が築かれる。そんな世界の王にしてやろうというのだ。これほどの名誉はないぞ?」

「……ああ、お前の言い分はよくわかった」


 零士が頷き、宝箱の方へと進む。

 仲間たちが全員驚いたように声を上げ、彼を引き留めようとする中、零士は宝箱から『にゃんこ耳』を手に取り―――――――



「今だッ!」

「待ってましたァッ! 俺のギターを聴きやがれェッ!」


 ――――――ギュイィィィィィィィィン!!


 全身を()()()()()()と駆け巡るギターの演奏が、()()()()()()空気を震わせながら響き渡った。

 天井に開いていた穴を塞ぐように広がっていた影が揺らいで、その中からフライングステージに乗ったトミーがギターを演奏しながら空中を滑るように降りてくる。


 突然の爆音に力と戦意をごっそりと奪われた猫神が「フニャ……」と力なく蹲る。

 その隙に零士は華恋を猫神の背中からお姫様抱っこでかっさらい、その頭から『にゃんこ耳』を引っぺがす。


「あ、あれ……? 私、なにして……。って、なんで服脱げてるの!?」

「よかった、正気に戻ったか。悪いけど説明はあと! はいコレ、中に新装備が入ってるから着替えて! 朔夜は彼女が着替えてる間のカーテン頼む!」

「わかった」朔夜が影の中から返事を返す。


 零士がリリカからひったくったマジックポーチを華恋に押し付けて、朔夜が影のカーテンで華恋を覆い隠す。

 突然の急展開に仲間たちが唖然とする中、彼らの傍にいたトミーの姿がぐにゃりと歪んで零士の分身へと姿を変えた。


 レベル50で新たに解放された『忍術』スキル、変化の術。

 自分の姿を思い浮かべた人物そっくりに変えてしまう、トリッキーな術だ。

 影転移による大幅なショートカットで仲間たちに先駆けてボス部屋に到達していた零士とトミーは、華恋を救出する隙を作り出すために一計をめぐらせていたのだ。


「ナァーゴ……ッ(ニャンだこの音色は……っ。ち、力が入らぬ。まさか人間風情に裏をかかれるとは。たかが人間と侮り過ぎたか……)」


 猫神がフラフラと立ち上がろうとするが、うまく力が入らず足が滑ってしまい中々起き上がれない。

 そうして猫神がまごついているうちに、影のカーテンがサッと解除されて、新装備に着替えた華恋が姿を見せる。


 白と青の二色を基調にした魔法少女チックな衣装だが、肩や腰回りに配置された機械パーツがどこか近未来的でもあった。



 リリカルホワイトシリーズ


 レア度☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 【武器】

 ブレイブハート改:魔法使用速度上昇(超極大) 使用魔力2分の1



 【防具】

 リリカルリボン:魔力3倍 即死無効 状態異常無効


 リリカルガントレット:魔法耐性(極大) 物理耐性(極大)


 リリカルジャケット:魔力回復速度上昇(超極大) 魔法威力3倍


 リリカルスカート:全属性ダメージ軽減(極大) 魔法範囲拡大


 リリカルブーツ:移動速度上昇(極大) 地形ダメージ無効


 ※リリカルホワイトシリーズ統一効果:8属性(火・水・風・土・雷・光・闇・無)の全ての魔法を使用可能になる。



「フシャーーーーーーッ!(だが、この程度でワシを鎮められると思うなよ! 神たるワシを(たばか)ってくれたこと、万死に値する! 貴様らは全員ここで八つ裂きにして、はらわた食らいつくしてくれるわッ!)」


 猫神の身体に力がみるみる漲っていく……。

 奪われた戦意も、力の高まりと共にふつふつと湧き上がり、猫神の身体がメキメキとさらに巨大化をはじめ、その姿が歪に変化していく。


 ふさふさの毛並みは轟々と燃え盛る灼熱の炎へと変わり、二足の足で立ち上がった猫神の背中から六対の逞しい腕が生えてくる。

 合計八本になった手の中にはそれぞれ金剛杵(こんごうしょ)や錫杖などの武器や法具が現れ、その神威を示すように背面に輝く後輪が広がる。


 ―――――それはまさに猫頭の阿修羅とでもいうべき荒々しき姿。


「フンッ! これがワシの真の姿じゃ! 祖神(おやがみ)に最も近き存在たるこのワシの威容をその目に焼き付けて死ねること、光栄に思うがいいッッ!」


 ―――――GAOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!


 猫神が錫杖の石突きを床に撃ちつけ、灼熱を帯びた雄たけびを上げる。




 猫神改め……怒れる金剛猫(こんごうねこ)大権現(だいごんげん)が襲い掛かってきた!




ボスは第二形態になってからが本番。

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