表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/120

おいでやす京都、モフモフ大パニック 9

 移動にはトミーのフライングステージが役に立った。空を飛べない者はこれに乗せてもらい、自力で飛べるようになった者は空中戦の練習がてら京都上空を高速で移動する。

 京都駅から運命の赤い糸に導かれてさらに北西、嵐山方面へ。

 眼下に竹林の小径が見えてくると糸が伝える直感がより強くなる。


「あそこだ!」


 零士が竹林の中に開いた空間を指差して言った。

 そこはどうやら竹林を管理するための道具などを保管する小屋のようで、銀河のように渦巻く入り口付近にはやはり大勢の猫たちがたむろしていた。

 小屋の前に零士たちが着地すると、猫たちが一斉に威嚇してくる。


「ふふふ、そう怖がらなくてもいいぞ。ほら、怖くない怖くない」


 涼が優しい笑み(と、本人は思っている)を浮かべて猫たちにじりじりと近づいていく。

 だが、牙をむいて威嚇してくる(ようにしか見えない)最強生物を前に、猫たちは生存本能を刺激されて、一目散に逃げだしてしまった。


「……なぜだ」


 かわいい動物が大好きなのに、なぜかいつも逃げられてしまう。ハムスターなどは近づいただけで心臓麻痺を起こして死んでしまうほどだ。

 原因は一目瞭然なのだが、誰も怖くて口に出せないので結局そのままなのだった。


 がっくりと肩を落とす涼はひとまず置いといて、零士たちはマジックポーチの中からそれぞれの武器を取り出して突入しようとするが、その肩を剛が引きとめた。


「またさっきみたいに入った瞬間入り口が消えるかもしれない。ここは全員で手を繋いでいこう」


 全員で手を繋ぎダンジョンへ入ろうとする。―――――――だが、


「うわっ!?」


 バチンッ! と見えない力に弾かれて侵入できなかった。

 前回もそうだったが、どうやら色の付いたダンジョンは入るのに特殊な条件があるらしい。


「むぅッ、ならば今度は二人ずつで試してみよう」

「あ、それならちょっと待ってくれ」


 零士がそう言って指に巻き付けていた運命の赤い糸をサブ武器の『那由多苦無(なゆたくない)』(自分の影から何度でも召喚可能な苦無)で短く切って全員に渡す。


「これさえ持ってれば中でまた合流できるだろ」


 糸の切れ端を指に巻き付けた剛と涼が手を繋ぎ渦に飛び込むと、今度は弾かれることなくダンジョンに侵入できた。

 そしてやはり彼の予想通り、渦は先程と同じようにパッと消えてしまう。

 そして今度はほぼ真西の方角に華恋がいるという直感が糸から伝わってきた。


「今度は西か。行くぞ!」



 ◇ ◇ ◇



 またもやダンジョン内に拉致されてしまった華恋は、そのまま猫の絨毯(じゅうたん)に乗って、迷路のように入り組む巨大樹の幹の上を右へ左へ連れ回される。

 『リターン』で帰還しようと試みるも、謎の力に魔法がかき消されてしまい脱出できなかった。

 しばらくすると大きな(うろ)が見えてきて、華恋はそこで猫たちの背中からぽいっ! と、洞の奥に投げ捨てられた。


 すってんころりん!


 木の洞の中を転げ落ちた先で、フッカフカの何かに受け止められて、その上でボフンッ! と華恋の身体が跳ねる。


「うぅ、なんか毎度攫われてる気がする……」


 こうも何度も攫われては、何か変な前世の因縁でもあるのかと疑ってしまう。

 きっと彼女の前世は、どこか遠い異世界のキノコの国の桃姫様かなにかに違いなかった。


 華恋が起き上がり辺りを見渡すと、そこは木の内部をくり抜いたような大きな空洞だった。

 大人の握り拳ほどもある蛍のようなものが無数に飛び回っており、壁や天井にもヒカリゴケがもっさりと生えていて、空間全体を蛍光色で優しく照らし出している。


『ナーゴ(これはまたなんとも美しい娘さんが来たもんじゃのう)』

「にゃ!?(うわっ!? びっくりした!)」


 突然足元から低く唸るような鳴き声がして、華恋がそちらに視線を向けると、そこにいたのは超巨大な毛の長い白猫だった。

 体高は10メートル近くあるだろうか。いままでフカフカのクッションだと思っていたのは、この白猫のお腹だったのだ。


「にゃ、にゃにゃにゃ!(ト●ロ! あなた●トロでしょ!)」

「ウニャ(違わい。ワシゃ猫の神様じゃ。名前はまだない)」


 夏目漱石か。なかなか博識な猫のようである。

 もっふもふの巨大猫にすっかり童心に帰った華恋は「ふかふかだぁ♪」と、あったかいお腹の上でゴロゴロしだす。


「ニャ(ふふふ、めんこい女子(おなご)じゃのぅ。気に入った! お主、ワシのつがいにならんか?)」

「……うにゃ!?(……はっ!? いけない、すっかり油断しちゃった。お断りです! 私、将来を約束した人がいますから)」

「ニャ……(つれないのぅ……。ま、よいわ。そのうち嫌でも『うん』と言うようになるからのぅ)」


 でっかい猫がゴロゴロと喉を鳴らして笑う。


「にゃあ?(どういうこと?)」

「ニャフ(ここはワシの領域じゃ。ここにおる限り全ての猫はワシの庇護下に入る。お主は今はまだ紛い物じゃが、もうあと半刻もすれば『本物』になる。そうなればお主はワシの意思に逆らえなくなる。当然じゃな、なにせワシ、全ての猫の神であるが故)」

「にゃにゃぁ!?(そ、そんな!? だったらこんな耳!)」


 華恋が慌てて頭のカチューシャを取ろうとする。だが……


「ニャゴ(やめておけ。それを外せばワシはお主を敵として殺さねばならなくなる)」

「……っ!?」


 でっかい猫の纏う空気がゾッ……と、急に重みを増した。

 今の今まで全く無害で穏やかな気配しか発していなかったから気付かなかったが、この猫、かなり強い。

 おそらく今の自分では完全武装しても絶対に勝てない相手。

 押しつぶされそうなほどの凄まじい重圧に、華恋は彼我の力量差を直感的に悟り、大人しくカチューシャにかけた手を膝の上に置いた。


「ウニャ(それでいい。お主が『猫』であるかぎりはワシはお主を守ると約束しよう)」

「ニャーゴ!(猫神様! お部屋の周囲を変な奴がうろついてたので捕らえました!)」


 複雑に絡まり合っていた木の枝がスルスルと解けて、密室だった巨大空間の壁に入り口ができると、そこから二足歩行の猫たちが(つる)でぐるぐる巻きにされた白い毛玉を引き摺って入ってくる。


「こらー! 放せ! 拙者を解放しろー! これでも拙者、神様でごじゃるよ!? 乱暴にすると天罰下すでごじゃる!」

「日向!」

「あ! ママ! やっぱりここにいたでごじゃるね!」


 ようやく見つけた母親に日向が顔をぱっと輝かせる。

 華恋がダンジョン内に攫われてすぐに融合状態が解除されて、その後を追いかけてきた日向だったが、ダンジョン内に入っても、なぜか融合状態に戻ることもできず、仕方なく華恋を探していたら途中で捕まってしまったのだ。

 

「ウニャ(ほう? これはこれは、こんな所で末の妹に出会えるとは奇妙な縁もあったものじゃのう)」

「んん~? 猫の言葉はイマイチわかりづらいでごじゃる……。ま、でも言いたいことは大体伝わったでごじゃるよ。お前みたいな泥棒猫、兄でもなんでもないでごじゃる! ママを返せ!」

「ニャーゴロゴロ(くっくっく、威勢のいいチビっ子じゃのう。だが、格の違いも判らぬようではまだまだ半人前もいいとこよ」


 轟ッ! 猫神の神力が高まり、その圧倒的なまでの神々しさに猫たちは思わずたじろいで床に平伏する。

 その神力たるや、まだ『猫もどき』の華恋ですら、思わず猫神の腹の上から飛び降りて猫たちと一緒に平伏してしまうほどであった。


 猫神の背後から金色の後光が射しこみ、半人前の神を照らす。

 文字通り『格の違い』を見せつけられた日向は、蛇に睨まれた蛙のように、息をすることも忘れて動けなくなってしまう。


「ナーゴ……(ふっ……この程度で動けなくなるか。少し大人気なかったかのぅ。まあよい、同じ祖神(おやがみ)に連なる柱のよしみじゃ。まだ赤子同然のお主の無礼、許してやろうではないか。お主もここで世界が変わる瞬間をしかと目に焼き付けるがよい)」

「――――――――はっ!?」


 猫神がふっと力を抜き、荒ぶる神力を鎮めると、日向の身体に巻きついていた(つる)がパンッ! と弾けて身体が自由になった。

 本能的に猫神に跪いてしまった華恋が我を取り戻し、すぐに日向を守るように二柱の間に割って入る。

 猫神はそんな華恋を愛玩動物を愛でるような目で眺めると、長く大きな尻尾を華恋の目の前でゆらゆら揺らして弄ぶ。


 巨大な尻尾が迫り、怯えた日向が逃げるように融合状態へ戻ると、猫の本能を刺激された華恋は揺れる尻尾に「うにゃあ!」と飛びついた。


うにゃーんゴロゴロ(=`ω´=)



華恋ちゃん猫化進行率 20%

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ