おいでやす京都、モフモフ大パニック 8
長くなってしまった
「ニャーオ」
「ニャー?」
「ニャ」
「フニャー!?」
猫との会話に合わせて華恋の頭に生えた三角の猫耳がピコピコ動き、細い尻尾がゆらゆらと揺れる。
稲荷山の奥地でダンジョンを見つけてしまった零士たちは、いきなりダンジョンに突入するようなことはせず、まずはその周囲でたむろしていた猫たちに話を聞いてみることにした。
そこで登場したひみつ道具、もといダンジョンアイテムがUMAの城で見つけた猫耳カチューシャ『にゃんこ耳』である。
つけると猫のような身体能力と、猫との会話能力を得られる素敵アイテムだが、あまり長く着けているとそのまま身体に定着して取れなくなってしまうというちょっと困った効果もあった。
「……で、なんだって?」
彼女の猫耳姿に悶えていた零士が顔を引き締めつつ、驚いたまま固まってしまった華恋に訊いた。
なお、美香は先程からスマホで写真を撮りまくっては「たはー!」と悶えており、トミーはリアル猫耳美少女という奇跡の存在を前に必死に己の信仰を思い出して耐え忍んでいる。
マックスだけは犬派なのでなんともなかった。
「あと二時間くらいで人間の世界は終って猫の世界が来るから、ここでその時を待ってるんだって」
「いやいやいや、待って待って!? なんで!? 世界が滅ぶまであと一ヵ月あったよな!?」
「私だってわかんないよそんなの! でもこの猫はそう言ってるんだもん!」
「いや、『だもん』て……」
かわいい。そしてあざとい。
猫耳がついてかわいさマシマシな華恋に再び悶えそうになる零士たち。
というか『ニャー』の一言にどれだけの意味が込められているというのか。
「だったら猶更このダンジョンは放置できないでごじゃるな」
「いつも通り」
日向と朔夜が毛並みを逆立ててダンジョンの入り口を塞ぐように座り込む猫たちを威嚇して追い散らそうとする。
だが……
「ニャオ」
やけに目つきの悪いボス猫が一声鳴くと、周囲の木々の影からぞろぞろと猫たちが顔を出した。
いったいいつからそこにいたのか、あまりにも気配が自然すぎて誰も今まで気付けなかった。
この捉えどころのない殺気。この猫たち、どうやら普通の猫ではないらしい。
「ニャニャ」
「な、なんだって?」
「邪魔するなら容赦はしない。だが、猫っぽい女だけは猫神様のつがいになるならゆるしてやる……ってお断りニャ!」
「いや『ニャ』て……」
とうとう語尾まで猫っぽくなってきた華恋。
零士はそのまま抱きしめてしまいたい衝動を堪えるのに必死である。
くそっ、こんなの卑怯だぞ。なんてあざといんだ!
だが、華恋の回答を完全な決別と受け取ったボス猫は『ウニャーオ!』と一声野太い鳴き声を上げる。
すると周囲の猫たちが一斉に華恋目掛けて目にも留まらぬ速さで駆け寄ってきて……
「え、えぇ!? ちょ、ちょちょちょっとー!? きゃーーーーーっ!」
そのまま彼女の足元を掬って転ばせると、そのまま神輿のように背中に担いでダンジョンの中へ連れ去ると、今までそこにあったはずのダンジョンの入り口が突然パッと消えてしまったではないか。
ダンジョンの入り口が消失すると同時、距離が離れすぎたことで日向の分離状態が解除されて光の球になってどこか遠くの空へと飛んで行ってしまった。
「そ、そんな!? レンちゃん!」「カレン!?」
マックスと美香が慌てて朽ちかけた社に駆け寄るが、そこに入り口はすでになく、あれだけいた猫たちも一匹残らず消えてしまっていた。
「お、おい! 消えちまったぞダンジョン!?」
トミーが普通ではありえない事態に混乱してどうすんだよと取り乱す。
「落ち着け、落ち着け、落ち着けッ!」自分に言い聞かせるように零士が何度も落ち着けと繰り返す。
そうだ、華恋さんがこんなことで死ぬはずない。それに先程の消え方はダンジョンが崩壊する時とは大分様子が違っていた。ならば彼女がダンジョンの崩壊に巻き込まれた可能性は低いはず。彼女を探すヒントは必ずあるはずだ。
考えろ、考えろ、考えろ……
「……っ! そうだ、日向! 日向が飛んで行った方向を探せば! 朔夜! さっきのダンジョンの気配、まだ探れるか!?」
「微かには。でも、気配が分散してる……?」
「くそっ! なにか、なにかないのか……っ!?」
何か役に立ちそうなものはないかと制服のポケットを探ると、財布の中からそれは見つかった。
「運命の赤い糸!」
それは南の島でまちゅみに貰い、何かあった時のために日頃から持ち歩くようにして、結局今まで使わずにいたモノ探しのアイテム。
早速指に巻き付けて華恋の姿を思い浮かべると、なんとなく彼女は北西の方角にいるという直感を得た。
「感じる! 大丈夫、華恋さんはまだ生きてる! あっちの方だ!」
ひとまず華恋がダンジョンの崩壊に巻き込まれたわけではないとわかりほっとする一同。
「でも、さっきあの目つきの悪い猫はあと二時間で人の世が終わるとか言ってたみたいだし、あんまり時間無ぇんじゃ……」
トミーが最近買った腕時計を見ながら言った。現在時刻、9時31分。
「走るぞ! ミカ子は走りながらでいいから親父さんとおふくろさんに連絡しろ! 今日本にいるんだろ!?」
「えっ!? あ、う、うん!」
と、そのタイミングで零士のスマホに電話が掛かってきた。藤堂からだ。
スピーカーをオンにして電話に出る。
「もしもし藤堂さん!? 大変なんです!」
『落ち着きや加苅くん。事情は把握しとる。今回のは混沌神復活の前震みたいなもんで、被害範囲は京都周辺だけや。これから12月末まで世界中でこんなようなことが起こりまくる。ああ、それと三上さんとこにはすでに連絡して動いてもらっとるで連絡は不要やで』
流石藤堂、仕事が早い。
『今リリカちゃんがまちゅみからのお届け物持って超特急でそっち向かっとるさかい、20分後までに京都駅の八条西口におっとってくれ。みんなの分の装備や回復アイテムも持たせたで、自由に使ってくれてええで』
まちゅみからのお届け物。どうやら頼んでおいた例の装備が見つかったらしい。
しかも仲間たちの分の装備まで用意してくれたようだ。
「分かりました。あの、なんか猫たちの話ではもうすぐ猫の世界が来るらしいんですけど……何が起こるんですか?」
『なんや今回は猫まみれかいな……。ぶっちゃけワイにもわからん。前回はキノコまみれやったし、前々回はゴキブリパラダイスやった。せやから今回どうなるかは起こってみんことにはなんとも言えん』
キノコまみれにGパラダイスとは、これまた想像するだけでも気が狂いそうな光景だ。
「そうですか……。それで、藤堂さんはどうするんです?」
『今ワイもそっちに向かっとる。ただ、今までの流れからして恐らく今回のダンジョンに最後の鍵は眠っとるはずや。せやからダンジョンの攻略は君らに任せる。ワイらは町の人たち守るんに専念するわ。折角の修学旅行ぶち壊しおったクソダンジョンぶっ潰したれ!』
「了解です!」
そこで電話は切れた。藤堂たちが外で控えていてくれるならこれより安心なこともない。
「みんな、聞いた通りだ。駅まで走るぞ!」
「お、おう!」「急がなきゃ!」「全く、カレンってば毎回攫われてる気がするなぁ」
仲間たちがそれぞれ返事を返し、全員で身体能力に物を言わせて山を駆け下った。
◇ ◇ ◇
稲荷山から全速力で待ち合わせ場所まで走り抜けると、駅前に見知った顔がいた。
「あれ、剛じゃないか! それに涼さんまで!? なんでここに!?」
「いや、それがな……」
剛がなぜこんなことになっているのかイマイチ理解していない顔で事情を話す。
聞くにどうやら二人は武尊流の交流試合に出るために京都まで来ていたそうなのだが、そこへつい先程、藤堂から涼のスマホへ電話が掛かってきたらしい。
「私は資格を持っていないと言ったのだが、『特例でなんとかするから協力してやってくれ』と他でもない藤堂さんから頼まれてはな……」
涼が腕に着けた輝く腕輪『星に願いを』を一撫でして渋々といった感じで言った。
どうやら今回は彼女もいっしょに戦ってくれるらしい。地上最強の女が一緒なら文字通り百人力だ。
と、ここで東の空からジェット噴射の轟音を立てて人型超兵器妹がズシンッ! と駅前に某メタルスーツのアメコミヒーローばりの着地で到着する。
「あ! おねーちゃーん! お届け物持って来たよぉ! パンツ嗅がせてぐへへ!」
突然空から飛んできた機械少女に騒然とする人混みの中から美香たちを見つけたリリカがこちらに駆け寄ってくる。
「リリカー! よく来てくれたね~、偉い偉い♪ あとしれっとセクハラしないの! それとポケットの中に隠してるアタシのパンツも返しなさい!」
「ケチー!」
そのまま美香のスカートの中に顔を突っ込もうとした妹をがっしりと抱きとめて行動を封じ、妹のポケットから周囲に見えないようにこっそりと自分のパンツを取り返す美香。
一緒に暮らし始めて一週間あまり。すでにこの高性能セクハラ妹の行動パターンは把握したらしい。
リリカがマジックポーチ(たくさん物が収納できる魔法のポーチ)の中に入れて持って来たのは全員分の装備と、回復アイテムが多数。
このポーチに入っているものの総額を合わせたら一体どれほどになるのか見当もつかない超アイテムばかりだ。
ひとまず駅の構内に入り、トイレで装備に着替えて再び外へ出る。
街中ということもあり武器はまだポーチの中だ。
トイレから出てきた零士たちは、普段と違う装いに見た目もガラリと様変わりしていた。
零士は艶の無い真っ黒な金属で各所を覆われた忍者服に、同じく黒い金属製の兜を被った『猿飛シリーズ』へ。
首元からすらりと背後にたなびく影のようなマフラーがカッコイイ。
猿飛シリーズ
レア度☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
猿飛の兜:反射神経強化(極大) 即死無効
猿飛の籠手:精密動作補助(極大) 投擲必中
影の黒衣(上):物理耐性(極大) 状態異常無効 運動能力強化(極大)
影の黒衣(下):移動速度上昇(超極大) 魔法耐性(極大)
絶影の足袋:気配完全遮断 地形ダメージ無効 壁歩き
※猿飛シリーズ統一効果:魔力を消費して影から影へ瞬間移動できるようになる。消費する魔力量は飛距離に比例する。
美香は女性的な曲線美と精緻な茨の金細工が美しい赤金の鎧『戦乙女シリーズ』。
頭の羽飾りのような黄金のサークレットが彼女の美しさをより引き立てる。
戦乙女シリーズ
レア度☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
戦乙女の金冠:動体視力強化(極大) 即死無効 状態異常無効
ヴァルキュリーガントレット:自動防御 剣速3倍
赤薔薇の鎧:物理耐性(極大) スタミナ消費軽減(極大) 魔力急速回復
ヴァルキュリースカート:魔法耐性(極大) 移動速度上昇(極大)
ヴァルキュリーヒール:地形ダメージ無効 空中歩行
※戦乙女シリーズ統一効果:剣を使った攻撃全てに空間属性を付与する。空間属性が付与された攻撃は距離を無視して届くようになる。
マックスは全身に青い金属製のプロテクターを装着したロボットっぽい『エックスシリーズ』。
右腕と一体化したバスターライフルが男心をくすぐる。
エックスシリーズ
レア度☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
エックスメット:状態異常無効 即死無効
エックスバスター:絶対命中 弾数無限 全属性弾発射可能
エックスボディ(上):筋力上昇(極大) 運動能力上昇(極大)
エックスボディ(下):物理耐性(極大) 魔法耐性(極大) スタミナ無限
エックスブーツ:地形ダメージ無効 移動速度上昇(極大) 二段ジャンプ
※エックスシリーズ統一効果:装備者が力尽きた際、レベルを3消費してその場で復活できるようになる。ただし、レベル3以下になると復活できずそのまま死んでしまうため注意が必要。
トミーはどこか宇宙的なデザインの襟の立ったジャケット姿『超銀河ギタリストシリーズ』へ。
丸い伊達メガネと赤いリストバンドがボンバーである。
超銀河ギタリストシリーズ
レア度☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
突撃丸メガネ:絶対音感 光属性反射 演算能力補助(極大)
ボンバーリストバンド:演奏効果2倍 精密動作補助(極大)
超銀河ジャケット:即死無効 物理耐性(極大) 魔法耐性(極大)
超銀河パンツ:状態異常無効 スタミナ消費軽減(極大)
ボンバーブーツ:地形ダメージ無効 魔力消費量軽減(極大)
※超銀河ギタリスト装備統一効果:魔力を消費して空中を移動可能な『フライングステージ』を呼び出せるようになる。『フライングステージ』召喚中は全ての魔法楽器と、アンプの効果が3倍になる。
剛はオレンジ色の道着を黒い帯で締め、グリップ性能抜群な青いゴム足袋を履いた『Zの道着シリーズ』へ。
ゴム足袋なので歩くとギュピギュピ音が鳴るが、それがかえって強そうな雰囲気を醸し出していた。
Zの道着シリーズ
レア度☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
超戦士イヤリング:反射神経強化(極大) 動体視力強化(極大)
伝説のリストバンド:筋力強化(極大) 身体能力強化(極大)
Zの道着(上):物理耐性(極大) 回復力上昇(極大) 即死無効
Zの道着(下):魔法耐性(極大) スタミナ回復速度上昇(極大)
スーパーゴム足袋:地形ダメージ無効 移動速度上昇(極大) 飛行可能
※Zの道着シリーズ統一効果:魔力とスタミナを大きく消費して『スーパーモード』へ変身できるようになる。『スーパーモード』変身中はあらゆる能力が10倍になるが、その分消費も激しいので注意が必要。
涼だけは使い慣れた普段の道着に着替えただけだが、その腕にはレベルを消費して願いを叶える腕輪『星に願いを』と、さらにもう一つ、レベル1の人間のみが装備可能な特殊な腕輪が填められていた。
『覇王の腕輪』
装備者に覇王の如き力を与える腕輪。
※このアイテムはレベル1の人間のみ装備可能。このアイテムを装備中はレベルが上がらなくなる。
※物理耐性(超極大) 魔法無効 状態異常無効 即死無効
身体能力上昇(超極大) 回復力上昇(超極大) 反射神経強化(超極大)
「こうしてみると愉快なコスプレ集団だな……」
突如駅前に現れたコスプレっぽい装備に身を包んだ美男美女軍団を見て、涼が苦笑いする。
忍者、戦乙女、岩男、熱気バ●ラ、Z戦士……どこからどう見てもコミケ会場だ。
周囲の野次馬たちも「なに? 探索者?」「映画の撮影か?」とスマホのカメラを向けてくる。
「性能はコスプレどころの騒ぎじゃないですけどね。っと、そんなことよりあっちだ! みんな行くぞ!」
運命の赤い糸に導かれ、零士たちが動き出す。
猫の世界が訪れるまで、残り―――――――1時間24分。
最終章に向けた露骨な強化タイム(*´ω`*)
SEKAIのOWARIは近い……




