第5話 再会
一同は言葉を失った。眼前の神でさえ沈黙している。
責任者であるガイ・グラントは、論理的に状況を理解しようと努めたが、易しいことではなかった。
一行は森の異変を調査するためにやって来た。魔獣をいたずらに刺激せぬために、カイルを先導者として。
ところがこの状況はどうだ。魔獣を刺激するどころの話ではない。
「…ほぅ、お前はあの時の…」
静かに口を開いたのは獣の神だ。
神の言葉を受けてカイルの瞳はにわかに喜色をたたえたが、そのことを知るのはまさに神のみである。
二人が既知であると知り、後ろで見守るガイたちはかすかに安堵した。カイルの常軌を逸した言動の真意は未だに理解しかねたが、少なくとも神との対話は不可能ではないと証明されたからだ。
しかしそれも束の間のことだった。続く神の言葉に、一同は再び凍り付くことになる。
「血の匂いが染み付いているな。どれほどの獣を斬ってきたのか」
彼女が真に獣の神であるならば、森の魔獣は彼女の眷族であり、10年に渡り彼らを斬り伏せてきたカイルには神罰が下されるのではないか。
カイルの答えは毅然としたものだった。
「斬った。あんたにもう一度会いたくて、何度も森に入った。何度も魔獣に襲われた。俺はあんたに会うまで死ぬわけにいかなかった。だから斬った」
偽りも誤魔化しもない、真実の言葉だった。
神は再び問うた。
「ではお前は、10年前の約定を果たすために私に会いに来たのか。私に喰われるために、会いに来たのか」
レイは肌が粟立つのを抑えられなかった。神がカイルを喰らおうとしているのか。
10年前、幼き日のカイルはたった一人で森へと入り、魔獣に追い詰められた。図らずも、獣の神がそんなカイルを救った。大きくなったら喰われに戻って来いと言い置いて。
カイルもあの日のことは決して忘れていない。
「喰われてやる。だがその前に、俺と夫婦になってくれ。話はそれからだ」
分からないのはこれだ。獣の神に対し少年は、熱烈に求婚しているのだ。
「俺はあんたに惚れた。ほんのわずかでいいから、あんたと夫婦として生きられたなら、俺の想いは報われる。その後は、腹からでも頭からでも好きなように喰えばいい。だから俺の嫁になってくれ!」
彼の理屈は理解しがたかった。その言動はおおよそ常識の埒外にある。だが、どうやら少年は、命懸けで神に惚れているようなのだ。
獣の神は高らかに笑った。その口元に鋭い牙が光る。神の笑い声は存外快活で、人々の心にかかった暗雲を払い飛ばすようだった。
「お前はどこまでも私を驚かせてくれる。いいだろう。しかし、神を娶ろうなどとおこがましいことを求めるならば、相応の証しだてが必要だ」
神の目がいたずらっぽく笑っている。
「剣を取れ。その鉄の刃で私の体に一太刀でもあびせることができれば、お前としばしの時を生きてやろう」
そう言うと神は、なまめかしい人間の体の部分を指した。
「うん、それで充分」
カイルも笑った。
嬉しそうに笑っていた。