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「面倒じゃないか? 何がコスプレだよ。ハロウィンなんだと思ってんだ」


 女子がいなくなった部室で、俺がぶつくさ言っていると、芝山が宿題の手を止めて顔を上げた。


「ハロウィンは、元々古代ケルト人の」


「そうじゃなくて。コスプレなんか面倒くさいって言いたいの。芝山も芝山だよ。お前なんか、レグルノーラに行けばいつでもコスプレしてるような状態なクセに」


「心外だな。向こうの世界で、僕は単に美を追究しているまで。君にとやかく言われる筋合いなどないな。そっちだって、向こうでは神様のクセに、表の世界では単にやる気のない強面野郎じゃないか。協調性を持て協調性を」


「っるっせーな」


 あんまり目立ちたくないんだよ。

 とは、言えなかった。

 込み入った事情で俺が向こうで神様をしてることなんて、知ってるのはユニオンのメンバーくらい。俺は平穏無事に高校生活を終え、その後無難に大学にでも入って、そんで無難に就職して以下略が出来ればそれでいいと思ってるんだが、その無難の中に、一般人にとっての一大イベントが挟まるのが面倒くさいと思ったまでで。


「お祭り騒ぎが苦手なんだって」


 言ったところで理解されないだろう、俺の気持ち。

 静かな日々を求めるというのは、案外難しいもんらしい。



 *



 100円ショップやリサイクルショップでグッズを毎日のように買い足し、部室に持ってくる美桜と須川。おかげで部室の中はハロウィングッズだらけだ。


「年に一度のイベントにお金使いすぎだろ?」と言うと、


「部費から捻出してるから大丈夫でーす」と、須川の楽しそうな声が響いた。


 ウチの学校の場合、5人集まれば部費が出る仕組み。以前はここにもう一人いたんだが、いなくなってからも年度分として支給されたお金があった。正直なところ、コレといって使い道もなく、偶に飲み物やお菓子を買ってくるくらいだったため、女子二人は、この残金をハロウィンにつぎ込もうと考えたようだ。

 オレンジと黒、紫色の組み合わせの様々なグッズが、部室のあちこちに飾られてゆく。

 そして仮装のための様々な道具も、徐々に集まってきていた。

 衣装、血糊、カツラ、小道具。


「結構金かかってるだろ? 大丈夫なのか。部費使い切るなよ。年度末まで半年近くあるんだから」


 注意するが、須川はニコニコ顔で、


「今はね、どこでも安く手に入るの! この魔女の帽子も100円だよ! 凄くない?」


 美桜が身につける魔女の三角帽子とマント、魔法の杖まで100円だった。

 勿論、須川用のネコミミの100円。しっぽも100円グッズで安く作っていた。


「須川、手先器用だよな。絵も上手いし。良いお嫁さんになれる」


 社交辞令的に褒めたためか、須川はポッと顔を赤くした。


「料理も得意だよ。どう? 今のうちに芳野さんから鞍替えする? 超大歓迎」


「あはは。面白いなその冗談」


 俺は棒読みで返してやった。

 美桜もチクチクと自分の衣装を手縫いしている。こう見てると、本当に普通のただの女の子だ。

 テーブルの上に、裁縫道具と共にイメージ画とメモが置いてある。魔女は胸を強調させたようなデザインになるらしい。市販の服をアレンジして、魔女っぽく見せようという算段のようだ。


「思ったより露出度高そうだけど、それ大丈夫?」


 一応、彼氏という立場の俺は、メモを覗き込んで美桜にそう声をかけた。

 美桜は裁縫の手を止めずに、「大丈夫」と言う。


「どうせやるならコンテスト一位目指すでしょう? 見た目重視しなきゃ。それとも、しわくちゃなおばあちゃん魔女みたいな衣装の方がよかった?」


「……いや、こっちでいいです」


 そうだよな。どうせ見るなら。

 完成図を想像し、俺は一人ニヤニヤした。


「それより、凌も自分のシャツ、血糊や絵の具で汚しといてよ。どうせやるなら徹底的に、でしょ」


「はいはい」


 コスプレは微妙だが、作る工程を楽しんでいる美桜たちを見るのは楽しかった。

 まぁこれも、お祭りの一環ってヤツか。


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