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この話は、「レグルノーラの悪魔~滅びゆく世界と不遇の救世主~」の番外編です。
本編に未読の場合、一部説明不足を感じる可能性があります。
わかりにくい内容にならないよう努めますが、あくまで番外編ですので、至らない点はどうぞご容赦ください。
登場人物の紹介などはございませんので、あしからず。
10月のとある日、部室でダラダラと過ごす俺たちのところに須川怜依奈がニコニコしながら持ってきたのは、生徒会で配ったという『翠清学園☆ハロウィン・コスプレ大会』なるチラシだった。
「何だこの、妙に気合いの入ったカラーイラスト入りのチラシは」
予算もあろうに、なぜかレーザープリンターでフルカラー刷り、A4サイズからはみ出んばかりにアニメ絵が描かれていた。
突きつけられた俺は受け取りを拒否し、数センチ後ろに引いた。
「どれどれ、見せて」
それをヒョイと持ってったのが芝山哲弥。部活中机に宿題を広げていた芝山が、一番に反応した。
「校内コスプレイベント開催のお知らせ……、10月31日放課後17時スタート星マーク。人気投票上位には素敵商品、カップル部門ありますハートハートハート……。何コレ。去年はこんなのなかったよね」
眼鏡の位置を直しながら、ボソボソと読み上げる芝山。
「生徒会入れ替わったから、色々方針が変わったのよ。19時までの短い時間だけど、校内でコスプレ出来ちゃうなんて凄くない?」
物凄く楽しみなのだろう。須川はニコニコと嬉しそうだ。
「えぇぇ。面倒くさいなぁ。その日は早めに帰ろうかな」
知らん振りしてそっぽを向こうとする俺に、須川と芝山はグイッとわざとらしく迫った。
「凌! コスプレするでしょ! 当然! Rユニオンの皆でコスプレして、上位狙おうよ!」
「来澄も出りゃあ良いじゃないか。美桜とカップル部門で」
二人ともいつもは大人しいクセに、こういうイベントごとになると人が変わるの止めて欲しい。
俺は窓際で本を読む美桜に助けを呼んだ。
「おい、美桜。こういう面倒なの、やりたいヤツだけやるって方向で良いよな?」
美桜は本を読むのを止め、ゆっくりと顔を上げた。
長い茶髪を掻き上げ、一言。
「やっぱり、コスプレと言ったら魔女よね。テーマ決めましょうか」
思っていたのとは全く別の答えに、俺は肩を落としたのだった。
*
Rユニオンという同好会のメンバーは、俺・来澄凌と、部長の芝山哲弥、須川怜依奈、それから俺の彼女でもある芳野美桜の四人。実は俺たち、裏の世界レグルノーラに干渉出来る能力を持つ干渉者と呼ばれる存在なのだが、それはこっちの世界では秘密だ。
ユニオンの活動は主に異世界に飛んで戦ったり、向こうの暮らしを楽しんだりすること。
ちょっと事情があって、俺はレグルノーラでは神様扱い。で、美桜は俺の僕竜。
芝山と須川も能力者として二つの世界を行き来しているが、俺と美桜がレグルノーラに軸足を置いているのに対し、芝山たちはこっちの世界が生活の主体。四人とも、二つの世界で二重生活を送っている。
そんなこともあって、俺としては出来るだけこっちで面倒なことはしたくないんだが、周囲はそれを許さない。困ったことに、どんどん俺を色んなことに巻き込んでいくわけで……。
*
女子二人の動きは早かった。
まず、イラストの上手い須川が、サササッとラフを描き上げ、どういう格好にするか美桜と一緒にイメージを固めた。
「芳野さんは魔女ね。コスプレしなくったって、魔女みたいなもんだけどね~魔法使えるし。それはそれとして、私は猫ちゃん。で、芝山君と凌、どっちが吸血鬼にするか、どっちがフランケンシュタインにするか決めて。あ、ジェイソンでも良いけど」
ま、そうだよな。
女子は可愛い、綺麗系。男子は色モノだよな。
「いいよ、俺は」
言いかけたところで、芝山がバシッと手を挙げた。
「ボク、ドラキュラ伯爵で」
吸血鬼じゃなくて、ドラキュラ伯爵と断言するあたりが芝山らしいが、……タッパも小さく、なんとなく微妙な感じがしなくもない。
「芝山君は、ドラキュラ伯爵というより、怪物くん似合いそうだけどね!」
須川が悪気のない一発をお見舞いすると、芝山にとっては痛恨の一撃だったのか、「うっ……!」と言って、急に苦しむフリをした。
「芝山がドラキュラやるなら、俺、フランケンシュタインでいいよ。どうせ人相悪いし」
「そうね。凌は背も高いし、肩幅もあるから丁度いいかも」
自虐ネタだったのだが、美桜が思いもよらぬフォローをしてきて、なんとなく微妙な感じになってしまった。
衣装イメージ、メイクイメージをサラサラと書き込み、
「じゃ、買い出しは私と芳野さんでやっておくから、凌は特に本番逃げないようにね」
須川がニッコリと屈託ない笑顔で俺に念を押した。