表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/50

洞窟

結局マリーはアレクの小屋に泊まることになった。敷寝も掛布も何も無い。ただの板の上に2人で横になる。アレクは横になりながら、なぜこの島を出たいのかマリーに詳しく聞いてみた。


どうやら小さい時に父親から貰ったおとぎ話の本を、繰り返して読んでいるうちに、おとぎ話の主人公のように色々な国を回りたくなったらしい。その本のタイトル聞いてアレクはびっくりした。なぜなら自分も小さい頃に好きで読んでいた本なのだ。


ただ最後があまりにも悲しいお話だったので、好きな部分とそうでない部分の両方の印象がある本だった。マリーは他にも父親が騎士をしていた国にも行ってみたいやら、色々な国の街を見てみたいとか、色々な食べ物も食べたいという話だった。


結論を言えば観光をしたいのだろう。諸島から大陸は一番近い港でも船で2ヶ月以上かかるため、船の乗船料もかなり高い。諸島の貧しい人々にとっては気軽に大陸にいける金額ではない。実際アレクもこの島に流れ着いて見たこの島民の生活水準に衝撃を受けた。こんな貧しくても生きていけるのかと。


「うちの家は島の中では裕福な方だけど、それでも気軽に貿易船に乗るなんてできないさ」


そのあとアレクも少しだけ自分の妹の話をして、大陸には必ず行くつもりだと話をした。2人は壁の隙間から月を見ながら、それぞれが大陸の事を夢想しつつ眠りに落ちていった。



◇◇◇◇◇◆◆◆◆◆◇◇◇◇◇



次の日、アレクはいつもの様に朝早く起きていた。マリーが寝ている間に光る石が今どうなっているのか確認するためだ。化物との最後の戦闘時、アレクは炎を出したが、その時石はしっかり握って石は見えない状態だったのだ。


「もしかして石と火の出現位置の関係は、自分の念じ方で決まるのかも・・」


確かに光る石によって火を発現させる時は、いつも石の先から火がでる想像を石に念じていた。この想像を違う場所からにすれば、体に埋まってしまった石でも自由に使えるかもしれない。


「まずはやってみよう。石からの火でなく、木の枝が直接燃える想像を石に念じてみる・・」


光る石が埋まった右手を、近くに落ちていた木の枝に向け強く念じてみる。

すると枝に大きな炎がまとわり出し、枝は瞬時に燃え尽きた。


「で、できる!これでも火を出せるんだ!」


火が出たことでアレクは大きく安堵していた。今までの訓練が無駄にならずに済んだのだ。しかし燃え尽きた枝を見て、アレクは首をひねっていた。


「でも火が強すぎる・・、それに体の中を何かが流れた気がする・・」


念じた火は枝が少し燃えるだけを想像しており、こんなに大きな火は考えていなかった。アレクはまた小さい枝をひろうと、今度は火をかなり小さく想像し、もう一度やってみた。小さな火が枝に現れチリチリと燃やし始める。今回は小さく長い時間火力を放出したため、自分の体の変化をよく理解できた。


「こ、これは胸の光る石から何かが体の中を通って、手の石で大きくなってるみたいだ」


理由はわからないが、手に埋め込まれてしまった岩山の光る石と、胸に埋め込まれたクジラの光る石が、繋がったような確信を持った。それによって力が増幅されるのかもしれない。


「仕組みはよくわからないけど、石が使えるのであれば問題ないかな」


不安だった石が使えなくなる問題も解決できたので、仕組みについては深く考えないようにした。

後は森と化物だ。アレクは早速森に向かった。


森は酷いことになっていた。切り出しを行っていた一面が真っ黒に焦げており、襲ってきたであろう化物も完全な灰になっている。幸運にも森全体に延焼しておらず、大問題にはならなそうだ。もし森が無くなっていたら村から追放されていたかもしれない。


アレクは伐採した場所を眺めながら、なぜ木の化物がこの伐採済みの場所に入れたのかを考えていた。化け物達は、最初に見たときにはこの場所に入っておらず、森との境目で僕を待っていた。ということは好んではこの場所には入りたく無いが、無理に入れないわけではないということだ。


その時、また周りに不穏な雰囲気が漂い始め、1匹の化物が現れた。枝が何本か切れているのを見ると、昨日現れた3匹の内、最初に攻撃したやつだろう。アレクは倒せる自信があったがあえて逃げ出した。


「(さあ追ってこい!いったいどこまで来れる?)」


木の化物は、木を伐採した場所に入り込み平然と追いかけてくる。しかしアレクが昨日2匹を燃やしたあたりまで来ると、木の化物は追いかけてこなくなった。昨日の2匹の化物は追ってきたのにだ。


アレクは木の化物の前で、その違いについて考えていた。離れているとはいえ、化物の前で考え事をするアレク。とても8歳の子供に思えない。さすがに4度目ともなる化物との戦闘に、慣れてきているのかしれない。木の化物がうねうね動いている周りには、焦げてはいるが伐採した跡の切り株などが見える。


「焦げていても化物の領域なのか・・、もしかして切り株なのかな?」


この2匹の化物が燃えた場所は、灰になった化物以外も、切り株も木の葉も落ち枝も、すべてが灰になっている。きっと切り株でも森と認識されているのかもしれない。アレクは木の化物を炎であっさり倒し、落ちた不気味な光る石を、昨日倒した2つとあわせて前に埋めた所に埋めておく。


アレクは切り株を延焼しないように炎を凝縮する想像をし、根っこの部分まで燃やした。

一通り伐採した場所すべての切り株を燃やしたあと、切り株や根を燃やして穴が空いた場所に、周りの土を埋めて平らにならしていく。一通り終わった後、新しい木の伐採を再開する。


「やっぱり、水の威力も上がってる・・」


光る石の水力を使って、木を切ると今まで苦労していた木の切断がまるで柔らかい肉を切るように簡単に切れるようになっていた。ただ水の力は細い糸のようにしか想像できないため、右手の人差指の先から出るように念じて使っていると、それはまるで蜘蛛の尻からでる糸のように見える。


「おーい!アレクちゃん!」


マリーさんが起きてしまったようだ。アレクは木の切断作業を一時止めて、マリーさんの近くの安全な場所まで向かっていく。あまりこの伐採作業は見られたくないからだ。


「おはようございます。マリーさん」

「おはようさー!この森は危ないって聞いたけど大丈夫なんさ?」

「危ないですよ。ところでこれから魚を獲りに行くんですが、一緒に行きますか?」

「えー?やだ」

「でも食べるもの無いので・・」


一応干物は少し残っているが毎日魚を取らなければ行きていけない。どうやらマリーは僕が自分で食べ物を準備していることに驚いていた。たぶんこの人は、自分で料理もやったことがないのかもしれない。アレクはますます憂鬱になっていた。2人は海に向かって歩き出した。


「アレクちゃんさー、船賃どうすんのさー」

「働いて稼ぐつもりです。マリーさんは?」

「アレクちゃんにお願いするしか無いさー」


この人はなぜ子供の僕にたかろうとするのかアレクは理解できない。海に着くとアレクはマリーを無視して魚獲りを始める。一応4匹は獲らないとマリーの分が無い。しかしアレクが一心不乱に目標分の魚獲りを終え、浜辺に戻るとすでにマリーの姿はなかった。


「本当に自由な人だ・・・」


アレクはマリーが居なくなったことに喜びながら小屋に帰る。1匹だけ焼いて食べ、残りは干物にするとまた1人で森に向かった。


石の力が強くなったので伐採作業はかなり早く進むようになった。伐採後の切り株も丁寧に燃やして、木の化物が入れないように道も作っていく。伐採して薪になったものは後でまとめて運ぶことにして、どんどん奥まで開拓を進めていく。


その日は夕方まで開拓を進めたので、かなり進めた。



◇◇◇◇◇◆◆◆◆◆◇◇◇◇◇



今日は昨日多めに獲った魚があるので、食事のあと朝から森に入る。すでに今までのも含めて原木300本以上は薪にしてきた。アレクが作った森の中の道には、所々に薪が積み上げられている。昼にはすでに森の入口が見えない所まで進んでいた。


「だいぶ慣れてきたみたい。早くなってきた」


お昼は薪に座りながら、光る石で出した水を飲んだ後、『がんばれアレク!』と自分で自分を応援しながら作業を開始する。数時間後、森が開けてきた。


「ここが、あの空白地帯?」


岩山の上から見えていた森のなかの空白地帯は、近くで見ると綺麗な花が咲き乱れる場所だった。


「なんでここだけ木が生えないんだろう・・池になってるわけじゃないし・・」


不思議とこの空間だけ木が生えていない。直径30mほどの花園には綺麗な花以外何も無いように見えた。しかし、すぐにアレクは花園の真ん中に低い岩があり、その岩と地面の間に、人が通れるほどの隙間があることに気がついた。


「なんだろう?鍾乳洞でもあるのかな?」


近づいてみると、洞穴のような隙間からは風が流れてきている。なぜかその風には不思議な力がある感じがする。この力のおかげで、ここには木が生えないのかもしれない。


アレクは自分が考えたことが、常識から外れていると判っていたが、それほどまでに、その風には不思議な力を感じてしまう。アレクは右手を洞穴のような隙間の入り口に掲げ、石の光の力を使う。中は深く、奥まで伸びているようだ。アレクの体ならなんとか入れそうな隙間である。


「やっぱり、この不思議な風は気になるよね・・・」


自分に言い訳するように、隙間に入っていった。緩やかな下り勾配が続き少しづつ奥に進んでいく。途中から空間の高さが広がり立って歩けるほどになっていた。立って歩けるようになると今度は緩やかな上りになっているようだ。


「方向的にはあの岩山の下の方に向かってるのかな」


その洞穴は鍾乳洞のようにはなっていなかった。地中湖もなく乾燥しており、綺麗に掘り抜かれた人工的なものの様にも見える。すでにアレクはかなり歩いてきていた。ちょうど岩山の頂上の真下あたりだろうか、大きな空洞が現れた。


空洞の中は薄っすらと明るくなっており、その明かりの中心には小さな池がある。池の真ん中には高さ1mくらいの石の台座のようなものが見える。台座の中心からは不思議な力を感じる水が溢れ出し、周りの池に流れ落ちている。水の流れは大量では無いものの、周りの池が水で溢れない事が不思議でならない。


「台座から溢れる水の量と、土に染み込む量が同じなのかもしれないな」


台座に近寄ってみると上部の水が溢れている中心から、血管のような、模様のようなものが台座に浮かび上がっている。アレクは岩山の頂上で見た模様を思い出した。


「同じ模様ということはもしかして・・」


アレクは水が溢れ出している所を覗き込む。そこには光る石が埋まっていた。水が出てきている穴はかなり深い上に小さく、手を入れることは難しそうだ。アレクは穴の上から石を観察してみる。


「この光る石にも沢山の光る星が中にある。やっぱり岩山の光る石と同じなんだ・・」


アレクは吸い込まれるように、穴の中の光る石を見ていると、突然鈍器で頭を殴られたような頭痛に襲われ、かなり後ろまで体が飛ばされた。どうやら額のあたりに痛みが発生したようだ。


「ぐああぁぁーー!痛い痛い!!」


アレクは額を抑えながらゴロゴロと転がりまわる。5分ほど転がりまわった後、痛みが引いてきた額を擦っていると、額の真ん中あたりに何か小さな出っ張りを感じる。


「嫌な予感がします・・」


アレクは、水が溢れている穴をもう一度覗き込んでみた。先程までそこにあった光る石が無くなっている。どうやら光る石は飛び出して、アレクの額に埋まってしまったようだ。


「石に呪われているのでしょうか・・」


流石に3回目ともなると、驚くよりも諦めの気持ちが強く、大きなため息を吐いていた。こんなものを人に見られては、自分が化物扱いされると思ったアレクは、自分の服の裾を小刀で切って、鉢巻を作って頭に巻く。


台座から溢れる水に変化は無く、まるで何も無かったように静かだった。水からは相変わらず不思議な力を感じる。どうやら不思議な力と光る石は関係が無かったようだ。懲りずに湧き出ている水を見ていると、アレクは昔に勉強したことを思い出していた。


「これは聖泉なのかもしれないな。それで光る石を清めていたのかもしれない」


溢れた水の先にある池の中も見てみると、なんとそこには光る石が何十個も池の中に転がっていた。ただしその光る石は、中で輝く星が1つしかなく、色を除けばテガルの火石にそっくりだった。


「もしかして火石などの元の姿?」


アレクは服を脱いで、それらの光る石を拾って服に包んだ。腰の紐でしっかりと縛ると、小刀と一緒に脇に抱え、一度小屋に戻ることにした。


洞窟を抜け、作った森の道を抜けるとすぐに自分の小屋だ。アレクは洞窟で拾った光る石を小屋の中に穴を掘って埋めると服を着て、もう一度森の入口に向かった。森の入口に埋めて置いた木の化物が残した、不気味な光る石を掘り起こすと急いで洞窟に戻り、台座の横の池に4つとも入れてみた。


すると黒く緑色に光っている石の色が少し薄くなる。


「やっぱり聖泉かもしれない、不浄なものを清浄なものに変えてくれる泉だ」


アレクは昔に教会で聖泉について勉強した事を思い出す。穢れの強さによって清浄化する時間が変化するという話だった。ただ清浄化する期間によって金貨がかかるとも言っていた気がする。

これで本当に清浄化できれば、木の化物の光る石も使える石になりそうだ。


これで旅費を稼げるかもしれない。自然と小屋に帰る足取りが早くなっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ