競売場
アレク達が競売場に到着するとここにもかなりの数の人が集まっていた。競売は1ヶ月に1回行われ、朝、昼、夕と3部で開催される。高額の物は夕方の部に出品されるらしい。
まだ昼の部の競売中だが、入場券を購入すれば1日出入り自由らしい。入場券には普通席と優先席、そして特別室に分かれていた。特別室は2階から入札に参加でき、1階からは見えないので貴族や裕福な人が利用するということだった。
アレクはあまり目立ちたく無いため、大公国では貴族では無いが特別室の入場券を購入した。この部屋は6人までなら同じ金額で利用することが出来る。
アレク達は特別室に入ると、会場の案内係が特別室には1人必ず着くようで、アレクが初めての利用だと分かると、詳しい入札の手順を教えてくれた。アレクは何種類かの札の説明を受け、理解したと伝えると、有料で飲み物や食べ物を準備してくれるらしい。女の子達が全員注文を始めた。
案内係が注文を受けて部屋を出ると、なぜスコポフスキー男爵の店が、なぜ今頃に競売になるのかをエカテリーナに聞いてみた。
「私が聞いた話では、最初は大公国に残るつもりだったようですね。ただ大事な収入予定だった店は赤字だったようです。領地からの税金で暮らしていただけの貴族ですので、経営については素人で日に日に赤字が拡大したため、遂に売りに出したみたいです」
「以前の店の従業員は?」
「給与が払われないので辞めていったそうです」
「まあ以前より赤字であれば、その従業員にも理由はありそうですね・・」
暫くすると、案内係が飲み物や食べ物を沢山持ってきたので、アレクは代金の他にも少し多めにお金を渡すと、あまりこのような対応は無いらしくとても喜んでいた。
菓子と飲み物を食べながら、競売の様子を見ていると、この大公都で人気がある商品が見えてくるようだった。昼の部はまだ高価なものは少なく、一般の人でも買えそうなものだったので、非常に参考になった。なぜか魔石も出品されているが、店の値段を超えたりはしていない。
競売の商品は本当に幅広く、馬車や犬、街灯や扉、頭蓋骨や本まで何でも扱っていた。その中で魔法の書という本が出品されていた。文字も読めない上、古い本らしくかなり傷んでいるが、一応頁をめくれるようだ。好事家向けのものらしいが、アレクは練習も兼ねて入札に参加してみる。
結果、金貨5枚で落札した。案内係の話では特別室の場合は、係の者がここまで運んで支払いを受け取るらしいが、普通の参加者は会場横の受け渡し室で受け渡しを行うようだ。そんな話しをしている間に他の係の人が本を持ってきた。アレクは係の人に金貨5枚を渡して本を受け取る。
アレクは係の人に読めない文字で書いてあるのに、なぜ魔法の本という名前なのか聞くと「本当はないしょですが・・」と言いながら、競売場の方で勝手に付けたことを教えてくれた。中を見てみたが、炎の絵などが書かれているので、そう判断したのだろう。
思ったよりも競売は簡単だった。アレクはその後も、出品された物を興味津津に見ていた。
暫くすると昼の部が終わり、20分の休憩の後に夕の部が始まるらしい。ここからが本番だ。アレクは飲み物や食べ物を再度頼み入札態勢を整えた。しかし、すでにマリーとソフィは飽きてしまったのか椅子で寝ている。辛うじてマルティーナは起きているが、目を開けたり閉じたり船を漕いでいた。
しかたなく、アレクとエカテリーナの2人は気合を入れ直し、夕の部の出品を目録で確認していく。実は夕の部が始まる時に、案内係が夕の部には出品目録があるといって1枚の紙を置いていったのだ。そこには紙の中程にスコポフスキー男爵の店の名前があった。
しかし目を引いたのは、最後から2番目の竜鉱石だ。幻と言われている竜鉱石が出品されている。本物だろうか?
そして一番最後の出品内容にアレクは驚愕した。竜の子供と書いてあるのだ。
竜というのはおとぎ話でしか聞いたことはない、あとは先日の聖王の話に出てきた神獣の竜だけだ。そもそも伝承など、殆どおとぎ話と変わらない。その竜が実在していたというのは、驚くべきことだ。競売会場がこんなに混んでいたのも、この情報が流れていたからかもしれない。
誰だって興味が湧く。アレクの中ではスコポフスキー男爵の店の注目度が大きく下がっていたが、決して購入しない訳ではない。ただ興味が竜に大きく注がれてしまった。
暫くアレクにあまり関係が無い競売が終わると、次はスコポフスキー男爵の店の番になった。始めの金額は金貨20枚だった。何人かが値を上げていき、アレクもそれに参加する。あまり盛り上がらず、最終的に金貨68枚でアレクが落札した。
アレクの特別室に係がやってきて、すでにスコポフスキー男爵の署名がされた証書を持ってきていた。アレクはその証書に自分の署名を行うと、係が証書を持って登記権利書を取りにいった。
次の入札が終わる頃には、係が戻ってきて証書と登記権利書と店の鍵をアレクに渡し、アレクは金貨68枚を渡した。これで無事に店は手に入った。
そしてアレクは高揚していた。これは店を落札したからではない。当然だろう、これから誰もが伝説にしかすぎない、竜鉱石と竜を見ることが出来るのだ。会場も徐々に熱気が帯びてくる。何点かの出品の入札が終わると、遂に竜鉱石の入札が始まった。
最初の金額は金貨30枚だ。ただの鉱石に金貨30枚というのは異常な金額だ。そもそも鉄鉱石1個なら大銅貨5枚程度。それが金貨30枚もの大金が最初の提示金額なのだ。しかし舞台に置かれている竜鉱石は普通の鉄鉱石とは比較にならない、人と同じくらいの大きさの巨大なものだった。
以前、鍛冶師のダダンに聞いたときには溶鉱炉が無いため、そのままでは置物にしかならないと聞いていた。こんな巨大な鉱石の置物、誰が買うというのか。
それでも入札金額はどんどん上がっていく、アレクもアルデバランの王から貰った褒美の白金貨10枚。聖王からもらった白金貨15枚の合計25枚の白金貨が手元にはある。
アレクも少しだけ参加してみることにした。入札額は遂に金貨100枚を超えていた。すでに白金貨1枚だ。どんな国でも白金貨1枚あれば、十分遊んで暮らせるという金額だ。それが置物鉱石1つの値段になっている。しかし値はまだ上がっていき、遂に金貨120枚になった。流石に入札者も減ってきた。
きっと他の購入者の本命は、次の竜の子供なのかもしれない。結局アレクが金貨136枚で落札してしまった。アレクとしては後悔はしていないが、ちょっと無駄遣いをしてしまった気がする。
係の人が、大きすぎて特別室に持ってこれないので競売場を出る時に手続きをするとの事だった。
アレクは了解して次の入札を待った。どうやら5分の休憩後に行われるらしい。憎い演出だ。
5分たって参加者の心の準備が終わった後、竜の子供の入札が始まった。なんと最初の提示額が金貨200枚からだった。この時点で本日最高金額だ。アレクは入札に参加する前に、舞台の檻の中を注意深く観察してみた。その檻にいた生き物は、2本足で立ち、爬虫類のような鱗が全身を覆っている。
手はあまり長くなく、そして背中からは蝙蝠の羽のような翼が生えている。まだ子供と言う割には、すでに人間より大きい。まさにおとぎ話に出てきた竜の姿そのものだった。そしてなぜか竜の子供は、アレクを見ている気がする。
なぜ竜の子供がアレクを見ているのか分からない。しかし、じっと見られておりエカテリーナも竜の子供の視線に気が付き、アレクをじっと見ている。アレクは勢いよく首を横に振るが、エカテリーナの目が細くなる。そもそもアレクは竜の子供になど会ったことは無い。
しかし竜の子供をアレクもじっと見ていると、何故か自分の子供のような気がしてきた。暫くの逡巡の末、アレクも入札に参加することにした。すでに入札金額は金貨900枚を超えている。すでにオルドゥク程度の街なら全部の店が買えてしまう金額だ。
入札額は更に上がっていく、そして遂にアレクの持っているお金を超えて、入札額は金貨3000枚を超えた。アレクが入札から降りてからも、金額は上がっていき、最終的に落札したのは金貨4650枚だった。もはやこの世界に、これ以上の値がつくものなど無いと思える額だ。
竜の子供を落札出来なかった事は残念だったが、生まれて始めて竜が見れた事に、アレクは素直に喜んでいた。竜の子供は引き渡しの為、舞台の袖に下げられ、今日の競売が終わったことが進行係の声で会場に伝わると、皆ぞろぞろと出口に向かって歩いていく。
アレク達も竜鉱石を受け取りに行くため、寝ていた3人を起こして受け渡し室に向かった。受け渡し室は、高額で落札した人の秘密を守るために、商品毎に別々の部屋になっており、その部屋の横には荷物を運ぶための馬車も横付けされていた。
アレク達は竜鉱石の落札額を払い、大きな荷物用の馬車に乗ると、荷台の中には巨大な竜鉱石が置かれていた。この荷物用の馬車は別料金らしく、運び代を払うと目的の場所まで運んでくれるらしい。アレクは新しく手にいれた店に向かってもらうように頼んだ。
しばらくして、一番通りのスコポフスキー男爵の店に到着し、裏手に馬車を留めてもらい、荷物魔力で竜鉱石を店の裏手に置くと、馬車は戻っていった。アレクは4人に店の中を確認してきてほしいと頼み、鍵を渡した後、アレクは窯を店の裏手に作り出す。
この店も立地は一番ではないが、大きさで言えば中々大きい。裏手にも馬車が数台止められ、厩舎や小屋まである。王都の店と同じくらいだろうか。窯が出来上がり、マリーを呼んで今度は多めに煉瓦を買ってきてほしいと金貨を渡すと、すぐに飛び出していった。
竜鉱石は鉄の3倍の温度が必要と聞いていたので、窯の下に圧縮魔力で強固な穴を作っていく。アレクはこの穴の中で燃焼を行おうと思っていた。暫くしてマリーが店の人と一緒に馬車で煉瓦をもってきた。
前と同じ様に煉瓦の壁作りを店の人に依頼し、アレクは窯の穴の中に入り窯の中の壁にも煉瓦を貼り付けていった。
外の壁が終わった所で、煉瓦屋の人に代金を多めに払い帰ってもらう。余っている煉瓦は近くに積んである。アレクは窯の中の穴に貼り付けた煉瓦を、更に圧縮魔力と粘土魔力で、穴の中すべてに圧縮された煉瓦が内側を覆うように作業した。
アレクは準備が終わると、荷物魔力で竜鉱石を窯の中にいれ、そのまま宙に浮かせて強力な炎で焼いていく。しかし鍛冶師のダダンが言っていた鉄の熱量3倍程度では溶けそうにない。
更に熱が上がるように想像し念じていくと竜鉱石が解け始めてきた。かなりの熱量だ、心なしか穴の中の煉瓦が直接燃やしてしていないのに、溶けて蒸発いるように見る。アレクは粘土魔力と荷物魔力を精密に制御し、竜鉱石から竜鉱と無駄な石の部分とに分離していく。
気がつくと、分離した石の部分は蒸発してしまっているようだ。どうやら分離をしなくても一定の温度が保てれば、不純物は燃えて蒸発してしまうので竜鉱石から竜鉱だけが取れるようだ。
いつの間にか、アレクの後ろに女の子達が集まってアレクの作業を見ていた。しかしかなり熱いはずなのに、熱心に見ている。アレクは窯と自分の間に風魔力で空気の壁を作っているが、すぐに熱くなって何度も重ねて空気の壁を作っている。
溶解作業開始から30分くらい経つと、竜鉱石から純粋な竜鉱だけが抽出できた。アレクはゆっくりと風魔力で出来上がった塊を冷やしながら四角い形に粘土魔力で整えていく。
そして遂に竜鉱石から竜鉱が出来上がった。
なぜか女の子達から拍手が沸き起こっていた。ただの金属の塊を作っただけなのにと、アレクは不思議な顔をしていると、エカテリーナが説明してくれた。
「空に浮いているものが、すごい光を放ち、また凄い温度で溶けながら回っていて、徐々にその輝きが綺麗になっていくんですよ。すごい光景ではないですか」
「ああ、なるほど。そうかもしれません」
「まさにアレク様が大魔法使いである証明でもありましたわ」
アレクは作業に集中しており、客観的な視点がなかったが、傍目からみたらそう見えそうだ。しかし大魔法使いは止めてほしい。荷物魔力と炎魔力だけしか使っていない。
突然、マリーのお腹がなった。そういえばもう遅い時間だ。5人は辺境伯の館に戻って夕食をとり、その日は早く寝た。出来上がった竜鉱は、馬車の中においてある。かなり大きくて重いので、ちょっと馬車が心配だ。
翌朝朝食の時は5人だけで、辺境伯はいなかった。アレクは大公都の時は辺境伯があまり朝食を一緒に取らないのには理由があるのかと、エカテリーナに聞くと平然とした顔で「愛人の家に行ってるのよ」と言っていた。気にならないのだろうか。するとエカテリーナは変なことを言い出した。
「私は愛人が何人いても気にしませんわ」
父親の話のはずが、何故かエカテリーナはアレクを熱く見て話しかける。僕が9歳と知ってるはずですよねと、アレクは心の中でエカテリーナに訴えていたが、詮無きことなので、昨日の竜の子供の話しをエカテリーナに振ると、他の3人が驚いたような視線を向けてきた。
3人が寝ている間に、出品されていた事をエカテリーナが補足すると、3人とも体を捩りながらものすごい後悔をしているようだった。過ぎてしまったことはしょうがない。
食事が終わり、5人で応接の間でお茶をしているときに、アレクはエカテリーナに頼んで、城塞都市のドミトリに、店が手に入ったので大公都に来て欲しいとの手紙を頼んだ。エカテリーナは執事にその旨を頼み早速手紙を出してくれることになった。
ドミトリなら大公都でも店を上手く回してくれるはずだ。確か本人も来たがっていた。暫くお茶して昨日の競売が面白かったことなどを話ししていると、辺境伯が部屋に入ってきた。
「アレク。大公との謁見の準備ができたぞ。午後に大公宮に一緒に付き合ってくれ」
「了解いたしました」
辺境伯からの申し出で、アレク達は午後から大公宮に行くことになった。
大公宮へは辺境伯の豪華な馬車で向かう。アレクは馬車の中で辺境伯の馬車の素晴らしさに感動していた。自分の馬車よりも、室内への振動が少ないのだ。その後も大公宮の巨大な建物に驚きながら、大公宮の門を抜け巨大な正面玄関に馬車を止めると、大公宮の中に辺境伯と共に入っていく。
そのまま大公の間という巨大な部屋に通されると、正面の玉座が未だ主の到着を持っていた。辺境伯とエカテリーナは横の列に移動しアレク達だけが正面に残った。
暫くすると大公が入室し、一同が頭を下げると、大公の声が響き渡る。
「表をあげよ」
アレク達が顔を上げると、そこには玉座に座った大公が座っている。大公はまだ50歳代の迫力のある男だった。大公はアレクと目が合うと話しを始めた。
「大海賊を撃退し、商業都市の化物を討伐せし英雄アレクよ。お主に会えること待ちわびていたぞ」
「身に余るお言葉感謝の言葉もございません。このように大公のお姿を拝謁させていただける栄誉を賜り、身も心も震えております」
「ふふ、齢9歳とは思えんな。さてこの度呼び出したのは他でも無い、大公国への大きな貢献に対する褒美についてだ。余としてはお主に男爵位と、チェルスク港湾都市を含む男爵領を与えようと考えておる」
「僕のような子供には過分な褒美でございます。どうか辞退することをお許しください」
「なんだ?不足か?」
「いえ、僕のような子供では領地管理は難しく、大公国のお力にはなれないと考えております」
「なるほど、ロマノフ辺境伯の話にあった通りだの。欲の無いことよ。それでは名誉子爵ならば問題なかろう」
「はっ、ありがたき幸せ、謹んで拝命させて頂きます」
アレクはあまり断り続けるのも失礼と考え、名誉爵位だったので素直に受けることにした。それでも周りの人達からは驚きの声が上がっていた。
「ところでアレク。今世界に異変が起きていると余は考えておる。お主はこの大陸で化物や魔物と戦ってきており、身に感じることもあると思うが、忌憚のない意見を聞かせてもらえんか?」
「はい。僕も陛下の意見と同じでございます。原因はわかりませんが、世界が大きく変わろうとしている気が致します。しかしその変化は人にとっては悪い方向であり予断を許さぬ事態かと」
「やはりそう思うか。困ったことよ・・。我が大公国の東にある未開の大渓谷にも化物がでているらしい。まるで大陸中で化物が発生しているようだ」
「・・・」
「話はここまでだ。大儀であった」
アレク達は部屋を退出すると、近くの近衛兵が控えの間に案内してくれた。しばらくすると、辺境伯が執事と共に控えの間に入ってきた。
「名誉子爵を受けてくれて助かった。これは大公都の貴族街の館と褒美の白金貨だ」
辺境伯は執事が持っていた盆の上から、書類と鍵、そして白金貨の袋をアレクに渡した。やはり名誉子爵は受けておいて正解だったらしい。辺境伯には大変な世話になっているので、困らせたくない。
辺境伯はこのまま元老院に参加するため、馬車だけ手配してもらってアレク達は館に戻ることになった。アレク達がその馬車に乗ろうとすると、一人の女性が話しかけてきた。
20歳後半ぐらいだろうか、緑髪にタレ目で眼鏡を掛け、分厚い本も持っていた。学者が着るようなゆったりとした服にも関わらず、胸のあたりの自己主張が激しい。
「どちら様でしょうか?」
「はじめましてアレク様。私はリディア・ヴァレンティーニといいます。魔法研究をしているものです。できれば、少しお話をしたいのですが、時間をもらえませんか?」
アレクは魔法研究と聞いて驚いた。アレクの知識では魔石を使うことを魔法を使うとは普通の人はあまり言わない。しかしおとぎ話には、魔法使いや魔法などの単語が溢れている。最近はアレクも魔法という言葉を使うようになったが、魔法研究という言葉は始めて聞いたのだ。
「魔法を研究されている人がいるのですね。驚きました」
「私もノルデン大陸に来たら、魔法を研究されている人がいないことに驚きました」
「違う大陸から来られたんですか?」
「アルカディア大陸のユリウス帝政国から来ました」
アレクは立ち話も失礼ですのでと言って、自分の店の近くにある飲食店に馬車で移動した。円卓にリディア合わせて6人が座り、改めて質問を聞いてみた。
「研究の為にノルデン大陸に来て色々な国を回ったのですが、残念ながらほとんど得るものが無く帰国しようかと思っていた時に、アレク様が魔法で魔物を倒したと聞きまして」
「魔物は魔石の力で倒しています」
「あ、それはもちろんだと思うのですが、どのような魔石を利用されたのかお聞きできませんか?」
アレクは今の会話で、魔法研究と言っても魔石を使った魔法を指していることが分かり、落胆したものの、新しい概念の魔法が聞けるかもしれないと思い直し話しを続けた。
「火石と水石と砂石です。荷物石を使ったこともあります」
「なるほど・・。普通の魔石だけですか・・・・」
リディアはアレクの話を聞いて落胆してしまったようだ。アレクは粘土石など、アレクが考えた魔法をどこまで話してよいか悩んでしまった。これを話すとアレクは魔石を原石から作れることが発覚してしまう。アレクは心配になり、もう少しリディアという人物を見極めてから話すことにした。
「僕からも聞いて宜しいですか?」
「あ、どうぞ」
「何のために魔法の研究をなさってるんですか?」
「もちろん、魔法が非常に興味深いものだからです。夜空研究家になぜ星や月を研究するのですかと聞いても、同じ様な答えかと・・」
「それでは戦争に活用したり、他人を害するためでは無いと?」
「それはわかりません。私達は研究し結果を世間に発表するだけですので。確かにその内容によっては、国や個人からの援助などもありますが、私は純粋に魔法の研究がしたいのです」
どうやら研究結果の発表によって、悪用されることも致し方無いと考えているようだ。そうなると豆大砲弾などの複合魔法は、戦争にも大きく活用できてしまう。
「それでは発表することが目的ではないと?」
「私は魔法の真理を知りたいのです。もちろん魔法によって世間が便利になることも嬉しいことですが、世の中は魔法が無くても別に不自由ではないかと」
アレクは聖王国のビアンカを思い出していた。彼女も数字の確率の研究のために、賭博店で働くほどなのだ。きっと彼女たちにとって、利益や権力といったものは全く興味が無いのだろう。
「あの、僕からの提案なのですが、僕の専属研究者になりませんか?」
「専属?」
「リディアさんの活動資金を僕が全面的に協力する代わりに、リディアさんの研究結果は僕だけに報告してもらうというのは、都合のいい話ですか?」
「面白いですね!そうなると私は活動資金の調達の為の、面倒な事を行わなくて良いわけですね」
「はい。1年中研究に明け暮れます。ただ定期的に得た情報や研究成果の報告だけ行ってもらえれば」
「わかりました!専属になりましょう!一生ついていきます!」
リディアは研究資金集めに辟易としていたようで、やる気いっぱいに専属契約を受けた。アレクは本当に研究者というのは変わっている人が多いと痛感した。そしてアレクの持つ情報は付き合いの中で、信頼度に応じて開示していこうと考えた。
アレクは早速、どのような研究を勧めていくのかを聞いてみた。
「私が進めている研究はこの4つです」
1、世の中のすべての魔石の種類と効果について
2、魔石と魔法の仕組み
3、魔石を使わない魔法についての研究(スノーク建国王の研究含む)
4、新しい魔石または魔法の開発
アレクは3番目の研究に衝撃を受けた。なぜ魔法の研究にスノークの名前が出てくるのか。リディアに聞くと、スノークを建国した騎士王は魔法使いだったという伝承が、ユリウス帝政国の歴史書に記載されていたらしく、そのうえ騎士王の魔法は魔石を使わなかったと記述されていると教えてくれた。
リディアが何気なく言った言葉は、アレクにとっては途轍もない衝撃だった。しかしスノークの王族が魔石がなくても魔法が使えるという話は聞いたことがない。アレクも体に石が埋まっているからで、埋まる前は使えなかった。なので血脈は関係なく、建国した騎士王だけが特別なのだろう。
意外な所で、元自分の国のことを聞いたアレクはまだ興奮が収まらないが、とりあえずリディアに大公都の自分の館を自由に使って下さいと伝え、とりあえずの研究資金として金貨2枚と館の鍵を1本渡しておいた。
アレクは、やはり一度スノーク城の地下神殿に訪れなければと思っていた。
白金貨1枚(=金貨100枚)=約1億円相当