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叙爵

アレク達が王の天幕に訪れると、ものすごい拍手によって迎え入れられた。


「おお!英雄の帰還じゃ!我々が何ヶ月間も戦い、負けも覚悟した戦を、たった数時間で解決した英雄よ。そなたは王都の救世主であり、我々アルデバラン王国の救世主である!」

「過大なご評価汗顔の至りです。どうか平にお許しを」

「何を申す!事実であろう。まあ言葉よりも実といったところかの?」

「?」

「さて英雄アレクよ。そなたは何を望む?爵位か領地か?」


領地!アレクの心にアルデバランが併合したスノークがよぎる。しかしスノークの領地を得ても、アルデバラン王国という檻からは逃れられない。それよりも下手にバレると、反逆罪になってしまうかもしれない。前にも考えたように、スノークはすでに千年前に滅んだともいえるのだ。


アレクは断腸の思いでスノークの事は諦めた。


「王様、それではお金と、領地を持たない名誉貴族位を賜りたくお願い申し上げます」

「なに?名誉爵位だと?領地は欲しくないのか?」

「私はまだ子供ゆえ、とても領地の管理運営を行えません」

「なるほどのう。まあ考えた末じゃろう。よかろう、それでは名誉伯爵位を授けよう」

「「「なんと!!」」」

「手続きは、この大臣に相談いたせ。それではの英雄アレク。楽しかったぞ!」


臣下の者たちは名誉でも伯爵位だったことにかなり驚いたようだった。アレク達は深く感謝を伝えると天幕を退出した。さきほどの大臣がお金の袋と書類を持ってきた。大臣はとなりの天幕にアレク達を迎え入れ、名誉伯爵としての家名を記入するようにと言われた。アレクは家名としてエトワールを記入した。


アレクは家名を記入している時に、これで《アレクシス・スノーク》の名は消え、自分が《アレク・エトワール》という人間になったと理解していた。もう《アレクシス・スノーク》の名が使われることは無いのだろう。


その後、大臣はアルデバランの貴族の責務と権利を簡単に説明してくれた。ようするに名誉爵位には権利も無いが義務も無いということだった。国の役職と爵位は別のものということなので、まさに名誉職らしい。説明の後、下賜された王都の貴族街の館の住所と、お金の袋をアレクにわたした。


それから後日で良いので、紋章を提出しろとのこと。アレクは了解した旨を大臣に伝えると、大臣は天幕を出ていったので、アレク達も天幕を出ると、スレイマンが待っていた。


「おお、名誉伯爵様!」

「やめてくださいスレイマンさん。商売に使えそうだったのでお願いしただけです」

「たしかにな。どこと取引するにも大きな信頼になるだろう」

「ところでお店まで送ってもらえますか?」

「おおよ!」



馬車に乗って王都に到着までの数日間。アレクは今回の岩の巨人がいろいろな幸運に恵まれていたことを皆に説明した。しかしソフィもマルティーナも、生まれて始めての魔物との戦闘がよほど衝撃的だったのか、ふたりで楽しそうに盛り上がっていた。逆にマリーには魔物が物足りなかったようで、あまり2人の会話には入っていかなかった。


王都に到着すると、スレイマンはお店までアレク達を送って感謝しながら帰っていった。お店に戻ると、お店の店員が増えていた。エミーネが笑顔でアレクの側にやってきた。


「よかった!アレクが無事で!いきなり仕事がなくなるかと思ったよ」

「エミーネさんも元気そうでよかったです。ところで店員増えました?」

「ああ、こんな時期だから良い人集められたよ。店舗経験者もいる。あ、頼まれていた元教師も入れておいたよ。教育熱心な良い先生だったみたいだ。出産したら学校に戻れなかったらしい」

「ありがとうございます。早速、先生を呼んでもらえますか?」

「あいよ。元先生だけどね」


エミーネが元先生を連れてきた。


「はじめまして。エスラです」

「はじめましてアレクです。それじゃ早速、最初は勉強してもらえますか?マリー、ソフィ、マルティーナ。3人でこのエスラさんに治療石の使い方を教えてあげて貰えるかな?」

「ええ!?私達が先生?」

「そうです。よろしくおねがいします。先生達!」


3人は意外と抵抗なく先生を引き受け、会議部屋を使って勉強会を始めた。きっと3人も、人に教えることで、魔石操作の習熟度が大きく上がるだろう。特に3人とも性格が違うので、エスラさんの今後の教育にも役に立つはずだ。アレクはエミーネを呼ぶと、元先生の仕事の内容を説明した。


「元先生ですが、無料の魔石講習の先生を行ってもらってください」

「講習?」

「魔石を購入した人には、1個購入すると1回2時間の講習を無料で受けられるようにですね」

「なんでまた?」

「折角、高い魔石を買ってもらったのに上手に使ってもらえないのは悲しいです。なので上手に使ってもらうための施策です。もちろん、うち以外で買った魔石のお客様までは気にしません」

「なるほどね!いいじゃないか、早速セレンと段取りを組んでみよう」

「ところで、新しい商品は決まりましたか?前線の魔物が全滅したので、そろそろ人が戻ってくるはずです。それも考慮して下さい」

「なんだって!!?戦争は終わったのかい!?それじゃ商品選択をやり直さないと!」


エミーネは急いでセレンを探しにいった。アレクは近くにいた男の子の店員に、治療石の在庫を聞いたらありませんと帰ってきたので、他の魔石の販売分と合わせて、数を確認すると馬車に入って魔石作りを行った。エミーネが戻ってきたら渡そう。


2階のアレク達の部屋にいくと、寝台とふかふかの寝具が揃っていた。2階には個室が20部屋ほどあるがアレクの部屋は一番大きく、寝台だけでなく机や服入れなど立派な家具が揃っている。エミーネが気を効かせて購入してくれたのだろう。


アレクはその机に座って考えていた。岩の巨人の黒い魔石が100個近くある。このままだと、いつ再生して問題を引き起こすか分からない。聖泉に浸すしかないが、可能性があるのは、スノークの奥、アークツルス聖王国の山の森だ。さすがに海の中の聖泉は探せない。


アレクは魔物の魔石の雰囲気を感じているのか、不安になっており早めにこの問題を解決したかった。明日出発することを、夕食時に皆に話すことにした。



翌日アレク達は出発することになった。すでに昨日作っておいたお店の売切れの魔石は渡してあるが、人も増えたし早めに独自商品でも回るようになるだろう。クロエの情報収集もお願いしてある。また王都に来るのが楽しみだ。道はオルドゥクに一度寄ってからスノークに入って、その後、アークツルス付近の森に行く予定だ。


ソフィもドミニクに会えるのを楽しみにしているようだ。オルドゥク到着までは1ヶ月ほどかかる。アレクはこの1ヶ月でなんとか、瞬間回避を身に着けたかった。砦での戦闘では相手の攻撃が火の魔法だったので、盾で済んだが、商業都市のような化物の場合、盾と一緒に飛ばされて内臓が潰れてしまう。


しかし、瞬間回避は怪物に殴られ飛ばされた時のように、内臓が潰れてしまう。


「ん?結局同じことが起きているのかな?」


アレクは何かを閃いた気がするが、いくら考えても解決策が見つからなかった。アレクはまた諦めて違う案を考えることにした。


アレクが色々悩んでる間に、オルドゥクに到着した。早速、ジェマルの店の裏手に馬車を留め店に入ると店はお客さんに溢れていた。アレクはジェマルを見つけ声を掛ける。


「ジェマルさんお久しぶりです」

「おお!アレク!おかえり!王都はどうだった?」

「魔物は全滅して王都は落ち着きを取り戻しつつあります。僕も王都に支店が作れました」

「さすがアレクだな。これで交易も情報も更にやりやすくなる」

「それと、アルデバラン王から名誉伯爵位を頂きました」

「え?」

「きっとエトワール商会の助けになると思いますので活用してください」

「伯爵?」

「なので店の旗には、紋章の他にも伯爵を示すバラの意匠を四隅に追加しておいて下さい」

「・・・アレク・・貴族になったのか?」

「名誉貴族ですから名前だけです」


ジェマルはアレクが貴族になった事に、かなり驚愕していた様子だったが、暫くすると落ち着きを取り戻し店の報告を行った。この数ヶ月で問屋としての実績も信頼も得つつあり、チャクマフの問屋の代わりとして、街の物流に貢献しながら利益を出しているということだった。


アレクは、王都の店長エミーネから仕入れ商品の要望が来るため、対応をお願いしておいた。ジェマルは了解したらしく、王都にも伝書鳩の設置をしてもらうように手配してくれるらしい。すでに城塞都市とは伝書鳩を使った商品情報を色々やりとりしているそうだ。


クロエの情報を聞いてみたが、そちらの進展は無いらしい。ジェマルはアレクにお願いがあると切り出してきた。どうやら店舗を増やしたいらしい。


「チャクマフの店舗がまた売りに出されている。できればこの機会に買って置きたいんだがいいかな?」

「了解しました。早速手続きをしましょう」


ジェマルとアレクは前回と同じ手順で、なんと店を5つも購入することになった。


「え?ジェマルさん5つもですか?」

「店の権利は早いもの勝ちだ、この機会を逃したくない」


アレクはジェマルが予想以上にやり手だったことを改めて確認した。代金は5つでも金貨60枚程度だった。小さい店が多いのだろう。ジェマルの話では店員は基本的にそのまま雇用する予定らしい。運転資金の方を確認すると、特に問題は無いようだ。


またお店に戻ってくると、アレクは音楽都市で仕入れた品物を、ジェマルに見せた。


「おお!なんとも珍しい商品だ!これは城塞都市や王都でかなり売れるぞ!」

「ここオルドゥクも港町です。僕たちでもサラディア首長国と交易できませんか?」

「なるほど・・・、問題は2つだ。1つは外国との交易は伯爵以上の特権で、平民の商会には許可されない。しかしこれはアレクのお陰で解決だ。もう1つは交易船と水夫が必要になる。これは専属契約でも問題はないが定期航路として確保するのであれば、商会で所有したいところだ」

「アレク、その定期航路の件。母ちゃんに聞いてみようか?」


マルティーナはカルメンに一度頼んで見てくれるらしい。アレクはマルティーナに感謝すると、早速手紙を出してくれるそうだ。


「アレク、商会で船が持てたらすげえぞ!商いが一気に大きくなる!」


なにやらジェマルが興奮してきている。たしかジェマルの夢はチャクマフのような大商人になることだった。きっと頭の中はそんな夢で一杯になっているのだろう。奥さんがお茶を注ぎながら苦笑いをしている。


アレクはジェマルとの打ち合わせが終わると、ジェマルにこのオルドゥクの領主であるヘラクレア子爵に面会をしたいと伝えると、先触れを出してくれた。ジェマルとその後も店の話で色々話し込んでいると、子爵からの返事が来た。丁度、この港町の館にいるらしい。


早速アレクは徒歩で向かった。一応、マリーだけを従者として一緒に行くことにした。子爵の館はあまり大きくなく、まるで子爵のこの街への興味の無さが滲んでいるようだった。アレクは応接室に通されると、すぐに小太りな男が入ってきた。


「ようこそ、英雄アレク殿!いや今はエトワール名誉伯爵の方が宜しいですかな?」

「はじめましてヘラクレア子爵様。お会いできて恐縮です」

「本来は格下の私がお伺いせねばならぬ所、足をお運び頂き誠に申し訳ございませぬ」


「滅相もございません。僕は名誉爵位ですので、格も貫禄も子爵様には足元にも及びません」

「まあ、アレク名誉伯爵のお店が我が領地にあることは事実。今後共よしなにお願いしたい所ですな」

「寛大なご配慮深く感謝しております。早速ですが、近い内に貿易船も動かそうと思っております。何卒子爵様にはご協力を賜りたくお願いにやってまいりました」

「もちろん!お任せくだされ。円滑な事務をするように指示しておきましょう」

「ありがとうございます。沢山稼いで沢山子爵様に税金が収められるように致します」

「そうですか!それは楽しみですな!」


すでに王都から様々なアレクの情報が早馬で届いているのだろう、アレクが説明しなくても子爵の方が詳しかった。子爵は英雄であり伯爵位のアレクが自分に気を使っているのが楽しいらしく、新米の伯爵が相手にも関わらず終始楽しそうであった。


しばらくすると、チャクマフの悪口が始まった。


「大体、平民あがりの商人が貴族になろうとするのが、烏滸おこがましいのです。王都で晩餐会を開いては諸侯を呼んでいるのですが、大して集まりません。それでも懲りずに続け、終いにはオルドゥクの店を売りに出してまで続けるのですから困ったものです。税収は減りますし・・・」


最後に本音が出ていた。ようするにチャクマフの息子のせいで、オルドゥクの税収が減ったことが気に食わないのだろう。これであれば、エトワール商会を応援してくれそうだ。アレクは十分な情報と顔つなぎが終わったので、子爵に感謝しながら館を出た。


「さてこれでジェマルへの援護は終わりました。明日はスノークに出発です」


帰り道、なぜかマリーが甘えてくるので、理由を聞いてみるとお腹空いたらしい。アレクは店に戻って、ジェマルさんや奥さんも呼んで酒場で夕食を一緒に取った。



翌日朝食の後にアレク達はオルドゥクを出発した。旅はいつも通り観光に魔法剣と魔石の練習をしながらの楽しい旅だったが、今回は3人に新しい魔石を覚えてもらっていた。荷物石である。アレクが野盗戦の時に活躍した荷物石は、複数人相手の時に相手の数を減らし各個撃破ができるすぐれものだ。


しかし3人とも、どうやっても1度に1人しか浮かすことが出来なかった。何度訓練しても3人とも同じだったために、どうやら魔石では1度に1人、又は1つだけしか浮かせられないのかもしれない。しかし、この浮かべるというのが感覚的に面白いらしく3人は訓練関係なく物や人を浮かべては遊んでいた。


そうやって遊んでいるとスノークに到着し、ドミニクの道場にやってきた。


「父さんー!ただいまー!」

「おお、ソフィおかえり!アレクシス様もおかえりなさいませ」


アレク達はドミニクの道場の教練が終わるまで待ってから、一緒に夕食をドミニクの家で取ることにした。なぜかドミニクの家に中年の女性がいて、料理を作っていた。


「この人は誰?父さん?」


ソフィが怪訝な顔でドミニクを見ると、ドミニクは笑いながら1人は生活が大変なのでメイドを雇ったらしい。ドミニクやメイドの様子を見れば、別におかしい所はないが、ソフィはかなり気になっているようだ。


「それでドミニクに聞きたいのですが、アークツルス聖王国との国境あたりに、原石が取れる滝があるときいたのですが、聞いたことはありますか?」

「ああ、それなら聞いたことがあります。確かアークツルス聖王国への山脈街道の脇道に入った所に、ソーマの滝という大きな滝があり、その滝はファティス教の神殿がある山の裏手にあたるとか。地元の猟師の話ですと、神殿から流れ出た水が流れ込んでいる。との事です」

「化物が出るとも聞きましたが?」

「そうです、よくご存知ですな。最近は木の化物がでるらしく、地元の人でも近寄らないそうです」

「詳しい場所を教えてもらえますか?」


アレクはドミニクに詳しい場所を教えてもらうと、感謝を伝え明日出発する事を伝えると、ドミニクは話しを続けだした。


「最近は聖王国にも魔物が出現していると噂されています。アルデバランの王都の北の森にも魔物が出たと聞きますし、何か世界がおかしくなって来ているのかもしれません」

「僕もよく化物や魔物が出た話を聞きます。何か原因があるのかもしれませんね」


「アレク様は教わっていなかったかもしれませんが、スノークの建国は2千年前で、その時の世界異変から世界を救うために作られたという伝承があります。今となっては何も形には残っていませんが、王族のみが入れる地下神殿にその証拠があるとも」

「そんな事が・・、始めて聞きました」


「地下神殿の話は王になると詳しく先代王から教えてもらえるらしいのですが、すでにアレク様の父上は亡くなられているので、詳細は永遠に失われました」

「もう誰も知らないのですか?」

「もしかしたら、聖王がその伝承を継承しているかもしれません」

「なぜ聖王が?」


「聖王国も元を辿ればスノークの臣下で、宮廷神官長だった男が千年前に独立した国です。可能性はかなり低いですが無いとは言い切れません」

「しかし会っても教えてはくれなそうですね」

「難しいでしょう・・」


食事の後の長話だったためか、女の子達は寝てしまったようだ。メイドは掛布を皆に掛けると、退出していった。ドミニクは続きは明日にしましょうといって、寝室に戻っていったので、アレクは長椅子で眠りについた。


この世界のスノーク由来の国では、貴族は旗の四隅に花をあしらうことができます。逆に貴族でない人は旗にこれらの花を使うことはできません。

公爵:ユリ(白)

伯爵:バラ(赤)

子爵:ガーベラ(黃)

男爵:すずらん(青)


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