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王都

翌日朝食を取りながら、今日も情報収集を行っていくと言うと、ソフィが思い出したようにスノークの道場の事を話しだした。


「そういえば、うちの道場の門下生がここの王都で道場を開いたと聞いたことがあるわ。私はマリーとそっちにあたってみるよ」

「分かりました。それじゃ僕はマルティーナと魔石店で治療石を売った後に、別に聞き込みしてみます」


アレク達は2手に分かれて魔物と街の情報集めに出かけた。マルティーナとアレクは最初に魔石店に行き、マルティーナに治療石を売ってきてもらうと、1個あたり金貨1枚に銀貨90枚という条件で売却できた。たぶんすぐに売れてしまうので利幅が少なめでも良いと思ったのだろう。


かなりの金貨が手に入った。するとマルティーナが金貨の使いみちについて提案してきた。


「アレク、もしかしてこの街を逃げ出した人の中には、店を売りに出している人がいるんじゃない?普段なら王都の店なんて買えないと思うけど、今なら買えるかもしれない」


確かにそうかもしれない、アレクとマルティーナは一度商業組合に行ってみることにした。組合に到着し建物の中に入ると、昨日と同じで人が全く見当たらず受付に1人座っているだけだ。


「あの、なんでこんなに人がいないんですか?」

「あれ?お前昨日も来てたな?」

「はい」

「みんな逃げちまったのさ。もうかれこれ数ヶ月間も魔物達と戦っている。壁で抑えてると言っても戦況は悪くなる一方さ。旅商も減って物が王都に入ってこなくなったし、全く、みんな商人のくせに根性がないんだよ。こういうときこそ稼ぎ時だってのに」


「勝てそうにないんですか?」

「さあ、私らにはわからんよ。ただの組合員だしね」

「もしかして店を売りに出している人もいるんですか?」

「いるいる!沢山いるよ。物が王都に入らない、店をやっても売るものがない、そもそも王都が無くなっちまうかもしれないんだ。見切りをつけて違う街にいったやつは沢山いるよ」


「それらの店はどこで買えるんですか?」

「はあ?お前さん店を買う気なのか?旅商じゃないんだ、土地を持っては逃げれねえぞ?確かに買うには良い時だが、王都が壊滅したら無駄金になるんだぞ?」

「国軍の強さに掛けてみます」

「また酔狂なやつもいたもんだな。どうせここも開店休業だ、売りに出ている物件の案内でもしてやるよ」


組合の受付の人はエミーネと自己紹介したので、アレク達も簡単に自己紹介をした。エミーネはすぐにアレク達を街の中心通りのある場所に連れてきた。エミーネは売りに出ている建物を指さしてくれたが、なんと見えているお店の1割近くが売りにでている。しかし通りには人の流れも少なく、営業している店の中をみても人がいない。


「魔石店にはお客さんがいたのに、普通の店には人がいない」

「そりゃそうさ、怪我をした兵士の家族が治療石を買いにきてるんだろう。かなりの兵士が怪我をしたらしいからな。前線が近いから、怪我人は自宅に送り返してるのさ。まあ安上がりだよな」


エミーネは王国の兵士に対する扱いが気に入らないのか、言葉に棘があった。少し歩くと大きな店が見えてきた。ただ扉はしまっており、営業していないようだ。


「私としてはここがお勧めだね。こんな立地でこの大きさは、こんな事件がなきゃ絶対に手に入らない。下手な貴族でも難しいだろう」

「高そうですが・・」

「まあそれなりだが、こんな時期じゃ売れないので値はかなり下がってる」

「お幾らですか?」

「金貨75枚だ」


お店の大きさは城塞都市の店ぐらいある。たしか城塞都市のお店が金貨95枚だったので、かなりお買い得な気がする。アレクは購入の意思を伝えると、エミーネに驚かれたがすぐに商業組合に戻り証書を準備してもらった。


「支払いは現金か?それとも商業組合手形か?」

「手形とはなんですか?」

「え?アレクは組合会員のくせに手形を知らないのか?手形は商業組合が発行する預り証のようなものだ。現金を持ち歩いて旅をするのは危険だろ?現金をその手形に変えておけば、どの街の商業組合でも手数料を払って手形を現金に出来るのさ」

「それは便利ですね!今後はそれを使うようにします」


アレクは良い情報を教えてもらい喜んだ。そして証書を確認し署名をしてから、金貨75枚を出した。エミーネとアレク達はそのまま、王家が運営する都市管理局に一緒に行って登記権利書の発行をしてもらった。


「さあ、店は高い金で買った。あとは国軍が魔物を倒せるか、この王都が蹂躙されるかの賭けだな」

「エミーネさん、いろいろありがとうございました」

「これも組合の仕事だからな。気にするな」


アレクはエミーネから店の鍵を貰い、早速店に入ってみた。エミーネは組合に帰っていった。やはり城塞都市のお店と同じぐらいの広さだ。建物自身は2階建てのため、部屋数は少ないが問題ないだろう。建物は少し古いが、据え置きの店舗什器も普通のものだ。


「アレク、いい店が手に入ったな」

「でも、物の流れが回復しなければ、店は開けられませんね・・」

「手元の魔石でも売ってみてはどうだ?在庫は多いんだろ?」

「そうですが、店舗運営は経験がなく・・。マルティーナは出来ますか?」

「すまん、あたいも無理だ」


やはり店舗については商売に詳しい誰かに頼むしか無い。そもそも知り合いが誰もいない。さっき出会ったエミーネさんだけなのだ。


「マルティーナ、エミーネさんの印象はどうだった?信頼できる人かな?」

「うーん、あの年で受付というのが気にかかるぐらいで、印象はいいな。ただあたいと同じで口が悪いのが客商売に向いている気はしない」

「もう一度、話しを聞いてみようか」


アレクとマルティーナは、また商業組合に戻った。エミーネさんは一人で退屈そうにしていた。


「あれ?アレクどうした?お店に問題があったか?」

「いえ、実は相談がありまして・・」


アレクはエミーネに、購入したお店の店長をお願いしたいと言ってみた。エミーネは暫く考えると、夕方組合が終わったらもう一度来てくれとアレクに言った。アレクは一度組合を出て後で戻ってくることにした。


アレク達は宿に戻って、皆を待った。その間アレクだけは馬車に戻って治療石の作成を行っていた。30個ぐらいできたところで、皆が帰ってきたとマルティーナが呼びに来てくれた。


アレクは王都でも店を手に入れたことを報告した。するとソフィが最もな質問をする。


「アレク、私はよくわからないけど、店ってそんなに簡単に買えるものなの?」

「いいえ難しいものです。ただ皆魔物を恐れて、街を出ていってしまったので」

「ああ、なるほどね」


アレクはこれから組合の受付の人に会いにいくので、皆も付いて来てほしいというと、皆は喜んでついていくと言ってくれた。前回ジェマルの時に帰りが遅くなって怒られたので、今回はみんな一緒だ。


アレク達は早速4人で、商業組合に向かった。組合の建物の前にエミーネさんと20歳前後の若い女性もいた。エミーネは夕飯時だから酒場で飯でもどうだというので、6人で酒場に向かった。


酒場には人が少なかった。ポツポツと席に座っているのは、兵士の様な格好をしている。しかしまるで葬式のような雰囲気だ。アレク達は酒場のちょっと奥の方の円卓に座った。


「エミーネさん、ここの勘定は持ちますので、お勧めの料理を頼んでもらえますか?」

「いいねー!期待しておけ。この店一番の料理を頼んでやる」


エミーネは次々と料理を頼み、酒もミードやエールや葡萄酒など、ここぞとばかりに頼んでいた。エミーネが一緒に連れてきていた女性は、目をキラキラさせながら出てきた料理を見ている。普段貧しい食事なのだろうか。


料理が運ばれ、エミーネの連れてきた女性が自己紹介した。


「娘のセレンです。今年で21になります。普段は服飾店で針子をしています」

「はじめまして、僕はアレクです。こちらは手前からマリー、マルティーナ、ソフィです」

「「「よろしく」」」

「始めまして皆様」


自己紹介が終わった所で、アレクがなぜ受付をしているのかを聞いてみると、エミーネは食べながら身の上話を話してくれた。旦那は兵士だったらしいが、大森林の調査に行って帰ってこず、それから10年間組合の受付で細々と生活していて、セレンも15歳から針子をして家計を支えてくれているらしい。


「逃げ出した商人を、私は馬鹿にしたが。なんてことは無い、私達には逃げ出す金も無いのさ」


アレクは驚いた、商業組合では今日の様に大金を扱うことも多いはずだ。しかし10年もの間、安い給料で真面目に働いており解雇されていない。受付などで1度でも魔が差せば、即解雇になるだろう。もちろん、解雇されれば次の就職はかなり厳しいものになる。中年女性を好んで雇う人はいない。皆、若くて元気な子を選ぶのだ。


「アレクからの提案は私達からすれば、ものすごくありがたい。が、正直に言おう、私は商業組合での受付の経験しかない。お店を経験した事は無いのだ。もちろん娘のセレンも同じだ」

「なるほど、僕はますますエミーネさんに頼みたくなりました。娘さんも一緒にぜひお願いします。給与は今の給与の最低でも倍額に、さらに売上に応じた形で報酬を出します」

「・・・店の運営経験が無いんだぞ?」

「暫くは、魔石を売って勉強してください。あとは店の経験がある子を雇って下さい。経理はエミーネさんとセレンさんが勉強してがんばってください。挑戦する気はありませんか?」


アレクの問いかけに、エミーネとセレンもやる気を出していた。貧しい生活から一気に脱出できる可能性があるのだ。エミーネ達は覚悟を決めたのだろう。しかしアレクのような子供の力にすがるほど、エミーネの生活は厳しかったのだろうか。


「エミーネさんも、セレンちゃんも、これから私達の仲間だねー!」

「よろしく」

「よろしくね。商売は分からないけど武術ならまかせて!」

「それとエミーネさん、もし借家なら明日からお店の2階をお使い下さい。僕らも滞在するときは2階に泊まるつもりなので」

「アレク・・・、ありがたい。言葉に甘えるよ」


アレクは複数ある鍵の1本を、エミーネに渡した。


「まあ国軍が負けたらみんな死んじゃうんだけどね・・」


エミーネが胡乱な言葉を吐くと、マリーがまたとんでもないことを言い出した。


「大丈夫だよー!アレクちゃんは化物退治の専門家だから!」


その大きな声は、ソフィ、エミーネ、セレン、そして近くにいた兵士にまで聞こえ、全員を驚かせていた。アレクは皆の驚いた顔を見て、大きなため息をついていた。


「ちょっとマリー。大森林の魔物は化物でなく魔法を使う魔物と聞いています。僕には荷が重いです」

「でも商業都市の化物程は固くないんじゃないのー?」

「いえ問題は個体の強さより数です」

「マリーだってドミニク5人に囲まれたら勝てないでしょう?」

「むぅ・・・」


マリーとアレクが話していると、1人の男がアレク達の円卓に来てアレクに話しかけようとすると、エミーネの言葉によって遮られた。


「あれ?スレイマンかい?」

「・・・エミーネか?」

「なんだって、酒場にいるんだい?あんた前線だろ?」

「いや、怪我人を前線から王都につれてくる役目でな、まあ爺にできるのはそのくらいだが・・」

「爺ってほどじゃないだろ、まだ40台の働き盛りだろうに」

「もちろん、怪我人を引き渡したらまた前線に戻るさ。一応百人長だしな」

「ほう、出世したもんさね・・」

「ところで、さっき商業都市の魔物の話しをしていたのか?」

「あ、ああ。それとこっちのアレクが私のこれからの雇い主さ」

「雇い主?こんな子供が?」

「そうさ、元ピヤーレの店を買い取ってこれから一緒に店を始めるのさ」

「おいおい、みんな逃げ出しているっていうのに酔狂なこったな」


アレクは自己紹介と女の子3人の紹介をすると、スレイマンも簡単に自己紹介をして、商業都市の化物の話しを聞いてきた。アレクは自分とマリーで化物を退治したことを話すと、マリーとマルティーナ以外は皆驚愕した目でアレクを見た。


「アレクだったの?商業都市の化物を倒したのは?」


ソフィが驚いた大きな目でアレクに聞いてきたので、アレクは剣では倒せなくて魔法だったと答えると、さらに驚きの声があがった。どうやら商業都市の化物の話は、アルデバランの街にも伝わっているらしい。ここにエカテリーナがいなくて良かった。彼女がいたらすべてを英雄譚にして話し出しそうだ。


スレイマンはアレクに詳しい話しをしてくれと頼み込み、アレクはしぶしぶ化物との戦闘について話しをした。もちろん魔法はあくまで石を使ってと話しをしている。スレイマンは話しを信じられないのか、何度もアレクの体を見直しては、唸り声を上げている。


「・・こんな子供にお願いすることではないが、一度、魔物を見て弱点などに気がついたら教えてもらえないだろうか?すでに我々は数ヶ月以上魔物と戦っているが、魔物は崩れても時間が経つと体が再生してしまため、際限無く戦い続けているのだ」

「「再生!?」」


アレクとソフィはその魔物の特性を聞いて驚愕した。そんな敵をどうやって倒すというのだ。スレイマンの話では大砲や投石機でも、巨人を破壊することはできるらしい。但し再生してしまうのだと。但し破壊すると再生には時間がかかると話した。


アレクは協力するには少し時間がほしいと、スレイマンに伝えた。それと大砲の弾を50発ほど貰たいと話しをする。スレイマンは大砲の弾については、数が多いので上の者に確認しなければならないらしい。スレイマンは明日の夕方、新しい店の方に伺うと行って席に戻ると、供の兵士と酒場を出ていった。


「なんだか大変なことになっちまったね・・・、すまない」

「いえ、エミーネさんのせいではありません。きっと遅かれ早かれ巻き込まれていたのでしょう」

「そうだよ!アレクちゃんは英雄なんだから!」

「それよりも戦うには準備が必要です。そのため店の手伝いができません」

「店は私とセレンでなんとかするよ」


アレクは明日から魔石の販売を開始してほしいとエミーネに頼んだ。それと早急に信頼できる店舗経験者の採用だ。アレクは明日朝に店にいくとエミーネに伝えると、酒場を出て宿に戻った。アレクは皆が寝た後、12種類の魔石3つづつと、治療石30個を作ってから寝た。



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