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奴隷

アレクが気がつくと、すでに朝日が昇っていた。

ゆっくりと回りと見渡すと、どうやら例の檻の中に投げ込まれていたようだ。アレクとクロエだけが横になっている。首の痛みを感じながら体を起こすと、周りには膝を抱えて座っている子どもたちが、じっとこちらをみている。

クロエはまだ起きていない。


すでに馬車は出発しており、周りには騎乗した男達が3人ほど並走していた。

自分たちが乗っている2頭引きの馬車の御者台には、がっちりした体躯の赤いターバンの男と、その横に2人の男が座っている。真ん中に座っている細い骸骨のような顔をした男が、後ろの檻を見ながら赤いターバンの男に早口で話しかけていた。


「しかし今回は儲かったなー。兄貴の判断力はすばらしいぜ!」

「傭兵で参加するより、騒ぎに便乗して奴隷狩った方が儲かるさ。誰も取り締まるやつがいなくなるんだからな」

「なるほどねえ!」

「とりあえず予定通り港に向かえ、そこで奴隷共を引き渡す」

「あいよ!」


骸骨顔の早口の男は、兄貴と言っていた赤いターバンの男の指示を受け、馬にムチを入れた。


2時間ほど馬車に揺られているとクロエが起きた。


「ここ・・・どこ・・?」


クロエは寝ぼけながらゆっくりと回りを見渡す。アレクを見つけると近くによってきた。アレクはクロエの肩を抱きしめ一緒に座る。そしてゆっくりと話しを始めた。


「クロエ・・、よく聞いて。どうやら僕たちは奴隷として捕まってしまったみたいだ。」

「・・奴隷?・・ってなに?」

「奴隷は主人の命令に絶対に逆らえず、気分で殺されても文句が言えない人達のことだよ」

「ええ!?そんなのやだ・・」

「僕もいやだけど・・、今は逃げられそうにない・・」


周りの子供たちの様な激しい暴力をまだ2人は受けていないことから、少しだけ心に余裕があるのかもしれない。しかし自分達が奴隷になってしまい、逃げられない状況であることを強く理解すると、次第に会話も無くなっていった。



◇◇◇◇◇◆◆◆◆◆◇◇◇◇◇



5日後、馬車は港町近くの草原に到着する。そこからはすでに海がみえる。すぐ近くには港町を囲う壁も見えた。

その草原にはすでに2つの天幕の他に大小多くの馬車があった。まわりには傭兵らしき男達が10人。

どうやらここで奴隷の値付けが行われ、奴隷商人に引き渡されるようだ。


「ほらガキども、さっさと動け!」


骸骨顔の男が怒鳴りながら檻を開ける。


「早く出ろってんだよ!男は緑の天幕、女は赤の天幕に入れ!そこで体を拭いて化粧するからな!」


化粧?アレクは男にも化粧するのかと不思議に思ったが、すぐに余計なことは頭の片隅に追いやられ、クロエと逃げ出せるチャンスが無いか周りを警戒する。手には木でできた手錠がかかっているが足には無い。しかしまわりには10名以上の警備と、自分達の馬車の男達6人がいる。今走り出してもすぐに捕まるだろう。馬まで使われたら1分も逃げられない。


「(クロエ、とりあえずは今は我慢してくれ、必ず逃げるチャンスを作るから)」

「(わかった。でも危ないことはしないでね・・)」

「(もちろん、しっかりと計画するよ。あと本当の名前は言っちゃ駄目だよ)」

「(うん・・)」


クロエは年のわりにはしっかりした子だ。小さい時の兄弟喧嘩の時、理不尽な僕の罵声にも黙って耐えるような忍耐力もある。2人は小声でいろいろ話をしながら天幕へと向かった。天幕の入口辺りに着くと、アレクは横目でクロエを見ながら緑の天幕に入る。クロエも弱々しい表情ながらもアレクを見ながら赤い天幕に入っていった。


緑の天幕に入るとまずは水で体を拭いてもらった。しかし水桶の水も綺麗に見えない。体を拭く人も足に木の錠がされている。体を拭き終わった順から医者のような人が口の中や目、足の裏、陰部、肌の様子、筋肉の付きかたなどの体の検査をして、それぞれ点数が付けられる。


『は、恥ずかしい・・』


アレクにとってはかなりの衝撃だった。人前で裸になることも体の部位や健康によって、人間に点数がつけられる事もだ。クロエの事が心配でならない。天幕の中に傭兵はいないものの女の子には厳しい状況だ。その後、簡単な化粧をされた後、最後に番号が書かれた首輪をかけられる。


『犬や馬よりもひどい、まるで牛や豚だ・・』


アレクは心の中で愚痴を吐く。ただ売買されるだけでない、自分が人間で無くなったような感覚に陥る。ふと奥にいた高価な服装をした小太りの男が近寄ってきた。


「おや?どこかで見た気がしますな・・、小僧名前は?」

「スピカ村のマティアスです。父はラウルです。」

「ふーむ・・、まあ良いですか」


アレクは下を向きながら大嘘を付いた。すでに昨日から周りには敵しかいない。身分がバレれば奴隷どころか即殺される可能性もあると考えたのだ。すでにクロエにも偽名を使うように言ってある。また偽名はなるべく本名を連想させないものにした。スノーク騎士王国では《ア》で始まる男の名前は王族のみが許されている。一般人が《ア》で始まる名を付けると厳しい罰の上、改名させられることになる。


しかしこの男がスピカ村に詳しかったら大変な事になっていた。

突然、天幕の裏口がめくられ傭兵が入ってきた。


「フズル・アルカンさんはここにいるか?客人だ、ハシム・チャクマフと名乗っている」

「おお!ハシム殿か!すぐにいく!」


フズルと呼ばれた小太りの男はすぐに天幕を出ると、外にいたハシム・チャクマフと立ち話を始めた。


「これはこれはハシム殿。どのようなご用件でございますかな?」

「ご無沙汰しておりますフズル殿。特に用事はありませんが、今回の仕入れは随分多いと聞きまして」

「ああ、ハシム殿のこの港町には関係はありませんが、隣国であるスノーク騎士王国の滅亡にかこつけた火事場泥棒が多かったからですよ。まあ私にとってはありがたい話ですがね。どうも王都が落ちる日を盗賊たちには知っていたようで、かなりの村が略奪されたようですな」

「ほるほど、それは不憫な・・。まあ王家の危機感が足りなかったのでしょうなあ。ところでフズル殿は、どの国がスノークを滅ぼしたのか聞いてらっしゃいますか?」

「いや私も知らんのです。朝からいろいろな情報は入ってくるのですが、どうも傭兵部隊のようで・・」

「傭兵ですか・・」


ハシムはフズルの言葉に違和感を持った。戦争を仕掛けそうな国といえば自分の国であるアルデバラン王国だが、そのような話は中央から全く聞こえて来なかった。ましてやアルデバランは軍事国家であり、深夜の暗殺などは好まず、大軍を用いて戦争を始めるような国だからである。


その時、検査が終わり赤い天幕から出てきたクロエをハシムが見た。


「おおお!なんと美しい!奴隷とは思えない!フズル殿、この奴隷頂けないだろうか!?」


ハシムは一緒に出てきた他の子供には目もくれず、驚きの表情と共に一心にクロエを見つめていた。クロエも視線に気が付き立ち止まってハシムを見た。


「フフフ、もちろんですよ。ハシム殿にはいつもお世話になっておりますからな。代金は必要ありませんので、どうぞお持ちください。おい!?誰かこの奴隷の鍵を持ってこい」


ハシムは満開の笑顔でフズルと握手する。間もなく鍵を持った傭兵が鍵をフズルに渡しフズルは改めてハシムに奴隷の鍵を渡した。


「感謝しますぞフズル殿!この借りはいずれお返し致します!」


奴隷商人のフズル・アルカンは、港町の大商人ハシム・チャクマフに借りを作れたことを喜びながら、ハシムの邪魔にならないように、天幕の中に戻っていった。


「娘。名はなんという?」

「・・ルイーズです。あの、あなたが私の主人になるの?」

「そうだとも。今日からルイーズの主人は私だ」


クロエは、兄アレクに言われたとおり、天幕内でも自分で考えたルイーズという偽名を使っていた。そして今、たった一言で自分が売られた事に衝撃を受けながらも、兄と一緒になれる方法を考えた。


「あの・・、兄がいるのですが、一緒に買ってもらえませんか?」

「兄?名は何という?」


クロエは自分が失敗したことに気がついた。兄も偽名を使っていたら分かる訳がない。しばらく沈黙した後、怪しまれてはまずいと思い、辛い顔を作りながら答えた。


「すみません、思い出しました・・、兄はもう死んでいたのを。昨日の晩、盗賊に・・」

「そうか、まだ混乱しているようだな、とりあえず屋敷に帰って食事でもすれば落ち着くかもしれん。心配しなくてもよい、暴力を振るったりせんよ」


ハシムはクロエが盗賊の襲撃のショックで気が動転していると思ってくれたようだった。そこでクロエは悩んでしまった。どうやってアレクに自分の移動先を伝えるか。だがクロエが悩んでいる間にハシムは馬車にクロエを連れていき移動を始めてしまった。


『どうしよう・・・』


クロエが豪華な馬車の中で揺られている頃、アレクは天幕から出て大型の馬車に乗り込んだところだった。しかし馬車の中にはクロエの姿が見当たらない。それどころか女の子が一人もいないのだ。


「傭兵さん!なんでこの場所には男しかいないんですか?」

「はあ!?当たり前だろうが。女は娼館、男は肉体労働だよ。点数が高ければ愛玩用として競売もあるが、まあお前は肉体労働だな」


傭兵は疲れ切ったアレクの顔を見てニヤニヤしながら答えていた。少年の顔は決して不細工ではない。しかし洗った水が汚かったせいか、顔の汚れは落ちておらず、そこに下手な化粧がされている。その上昨日の夜からの恐怖と疲労が顔に出ているせいか、ひどく不気味に見える。


アレクはこれからの行き先について考える、性別に合わせた仕事ということだろう。考えてみれば当たり前だ。しかしこのままではクロエと別々になってしまう。アレクは焦っていた。


「娼館というのはそこの港町にあるんですか?」

「そうだ。かなり大きい店構えらしい。俺は行ったこと無いがな。なんだ小僧、子供のくせにそんな場所に興味があるのか?お前みたいな奴隷が行けるところじゃないぞ?」


傭兵は何が面白いのか、クックックと笑い出す。しかしこれでアレクの方針は決まった。クロエはまだ6歳だ、最初は下働きからだろう。自分が早くに逃げ出し、スキを見てクロエを救出する。計画でも何でもないがアレクはこの計画はきっと成功すると思い込んでいた。


しばらくすると馬車の檻が閉められ出発した。馬車は街には入らずに、船が係留する桟橋に直接向かっている。どうやら自分の売却先は船で行く場所のようだ。桟橋に到着し傭兵から船に乗り換えろという指示が出る。馬車から降りた子供たちは次々と船に乗り込む。


「おら!さっさと船倉に移動しろ!チンタラしてんじゃねえぞ!」


船に乗り込むと今度は船乗りが指示を出してきた。何が不満なのか声を出している船乗りは最初から怒っているようだ。子供たちが全員船倉に入ると、いかりが引き上げられ、桟橋の作業員が係留縄を解き、ゆっくりと船は動き出す。


そしてアレクは薄暗く生臭い船倉の中で膝を抱えながら、心の中で決心を言葉にしていた。


『必ずこの港町に戻ってくる!クロエ、少しの間の辛抱だ・・』


アレクの乗る奴隷船が港町オルドゥクを出発すると、子供達の木の手錠は外された。船での食事はひどく1日1食の上、パン半切れに少し豆の入った水のようなスープのみ。2・3日もすると栄養不足と船の揺れで子供たちの体力は削ぎ落とされていた。


そして出発から2ヶ月ほどのある日、船は猛烈な嵐に遭遇していた。海は生き物のように大きな波を作り、容赦なく船に覆いかぶさってくる。そして同時に何人かが海へと吸い込まれて行く。子供たちがいる船倉では、激しい揺れによって多くの子供達が少ない腹の中のものを吐き出し、言葉にならない声を発していた。船倉中がひどい匂いと阿鼻叫喚の坩堝るつぼと化していた。


アレクも吐き気を我慢しながら近くの柱にしがみつき、このまま死んでしまうのではと考えていた。気づくと足元に海水が来ている。必死にしがみついている柱に登ろうとするがすでに濡れた柱にはよじ登ることもできない。


突然世界が割れるような轟音が聞こえると、船が横倒しになった。それと同時にドアや壁の木が割れ海水が流れ込んでくる。


『まずい!とりあえず外にでないと!!』


すでに壊れかけている船倉の扉を力ずくでこじ開け廊下に出る。何人かの子供もそれに気が付き、アレクの後に付いてきた。今のアレクには他の子供に声を掛ける余裕すらない。正しい方向はわからないが、ともかく水面の反対側に向かおうとアレクは通路をよじ登っていく。まだ完全には横倒しになっていないため、廊下の手すりを使い水面とは反対に反対にと進んでいく。


船は今にもすべて壊れてしまいそうな鳴き声を上げている。廊下を何回か曲がった後、船外に出れる頑丈そうな木の扉が見えてきた。しかしその扉はすでに開いており、外の暴風雨にもてあそばれていた。すぐにでももぎ取られ飛んでいってしまいそうだった。


アレクはその扉に近づき、手すり部分を掴んで外の様子を見ようとしたその時。


大きな波が船に襲いかかった。扉はその衝撃に耐えられず蝶番をねじ切り、アレクと共に海へと放り出される。アレクは大量の海水に飲み込まれながら、扉の手すりを両手でしっかりと握り締めていた。

木で出来た扉は、波によって何度か海中に引き釣りこまれるが、その浮力によってアレクを海面まで押し戻す。


『どうしよう!船から離れてしまう!1人で海に放り出されれば死んじゃうよ!』


しかし荒れ狂う海に対してアレクができることは何もない。ただ木の扉が壊れない事を祈るだけだ。

船の方を見るとすでにかなりの距離が離れている。アレクは必死に扉の手すりにしがみつきながら船を眺めている。と、後ろから地鳴りのような音が聞こえてきた。


後ろを振り返ると、もう目の前に巨大な山のようなものが近づいてきている。山の上の方を見ると、何か光ったように見えた。


『目だ!』


アレクが光ったものを目を認識した瞬間。山は巨大な口を開けてアレクと扉を飲み込んだ。



ああ!読んでくれている人がいる!うれしいな~。

ペースはこのまま行けるとこまでがんばってみます。

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