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音楽都市

アレク達は翌日の朝食後、すぐに宿を出た。しかし馬車はジェマルの店に一度向かった。


「ジェマル、急遽王都に行くことになりました。途中カルカヴァン音楽都市にも寄るつもりですが、何か役に立つ情報などがあったら教えてもらえますか?」

「おいおい、魔物の話は聞いてないのか?」

「さすがに王都は大丈夫かと」

「まあ、砦と長い城壁があるか。昔もあの壁が化物を防いだと言われてるしな。しかし油断はするなよ?エトワール商会はこれからだからな」

「ありがとうございます。お店の方宜しくおねがいします」

「まかせとけ!」


結局、役に立つ情報は特に無く、逆にいろいろ情報を仕入れてきてくれと頼まれてしまった。アレク達はジェマルの店を出ると、すぐに音楽都市に向かう。およそ10日ぐらいで到着の予定だ。アレクはこの10日で万が一に備え、遠距離で攻撃できる魔法を考えることにした。


大砲や投石機のように、大質量を飛ばして攻撃するようなものを考えている。しかし重たいものを魔石からは出せない。そうなるとすでにある重たいものを飛ばすことになるが、砲弾や岩を準備するのも大変だ。アレクは大きさについては、圧縮で解決できる気はしている。問題は重さだ。


圧縮して小さくなったものでも、重さは変わらない。どうにか荷物石の魔法を使って、持ち歩くときだけ軽くできないだろうか。


『そういえば、占い師の魔石は大きかった。ということは小さいものあるのか?』


試しに原石を圧縮してみた。直径2cmぐらいの玉が、豆ぐらいの大きさになったが、光の強さは変わらないようだ。今度はその豆原石を荷物石の魔石に成長させてみる。違和感なく機能する。どうやら、石の大きさは作用に影響しないようだ。ふと石の中の輝きの強さが作用力に影響するのではと考え、より輝きの強い石を同じように豆原石に圧縮し、同じ回数で荷物石に成長させてみる。


『おお!やっぱり光の輝きが石の能力に影響している!』


アレクは新しい発見には喜んだが、問題は荷物石では常に使う人が必要になる。アレクは豆荷物石が他のものを持ち上げる想像を、石自身が浮かぶするように、そしてずっと浮かぶするように想像して念じてみた。何度も想像し念じてを繰り返すと、石が浮かんできた。


「浮かんだ!」

「あれ?アレクちゃん、何か豆みたいなのが浮いてる?手品?」


アレクは暫く浮かんでいる豆を見ていると、魔石の事が少しわかってきた。情景を想像する時に強さと効果時間のなども意識することで、細かい制御も可能になるらしい。今までは念じる強さが威力に繋がっていると思っていたが、どうやら想像も念じる力もすべてが結果に影響している。


考えてみれば当たり前の事だ、発現させるには両方が必要なのだから。次に銀貨の入った腰袋に豆荷物石を取り付け、腰袋ごと浮かぶように念じてみる。すると銀貨が入った腰袋ごと浮いている!アレクは思わず叫んでしまう!


「やったー!!これで重いのもある程度解決だ!」

「アレク?それは唯の荷物石の効果では?」


ソフィには解っていないようだ。いや3人ともこの意味は解っていないのかもしれない。この袋は今、アレクが念じて浮かせていないのだ。袋自体がいや袋についている豆荷物石が、石自身で浮いているのだ。アレクはどのくらい継続効果があるのかを調べるため、棚に紐で縛ってそのまま浮かべておいた。


アレクは豆荷物石の実験をしている間に、小さな物を水糸のように高圧な、いやそれよりも高速で小さいものを飛ばす事の訓練を始めた。今回は原石を使わずに自分の体の石を使ってみる。


早速、銅貨を親指で弾くように飛ばしてみる。本当は手のひらの上からでも良いのだか、女の子たちに言い訳しやすいように、親指で弾いてみた。弾いた瞬間に銅貨が飛んでいく想像を念じながら指を弾くと、銅貨は馬車の木製の壁に刺さった。指で弾いただけでは絶対に出ない威力だ。


アレクは、すでにこの作用が水なのか風なのかはよくわからないが、想像したとおりの効果が出た。今は、これらの組み合わせで新しい武器が手に入ったことに安堵する。後は威力を出来るだけ高めていくだけだ。


『・・・・もしかして、これって空を飛べるんじゃ・・』


浮く力と飛ばす力で、突飛もない考えを思いつくがさすがに頭を振った。失敗したら落ちて死ぬのは確実だ。アレクはあまりに恐ろしい結末を想像し、違うことを考えることにした。


アレクは商業都市での戦いで、化物の持つ火にも剣の攻撃をも耐える黒い毛のようなものに苦労した。ようするに、絶対的な防御力は戦いを有利にする。騎士が剣と盾を持つのは攻守が共に重要だからだ。しかし盾を持っていても、体ごと弾き飛ばされてしまえば意味がない。


なにか盾の代わりになる防御方法はないだろうか?


『ん?物を高速に飛ばす事ができるのであれば、高速回避するのが出来るかもしれない』


アレクは自分の案が素晴らしいと思えていたが、どれだけ危険な事なのか理解できていない。その日の野営のときに、ひとり草原で試してみることにした。練習の為、速度と移動距離を抑えて想像してみたが、結果は体の中の内臓の位置がとんでもないことになり、肺からは空気が抜け死にかける。


「駄目だ・・・、体がついていかない・・・・」


アレクは急いで治療石を使ったが、そのまま草原で倒れてしまった。



翌日皆に起こされた。


「アレクちゃん?なんでこんな所で寝てるの?」

「「どうしたアレク?」」


アレクは昨夜の魔石の練習で気を失ったと説明をした。死にかけたとは流石に恥ずかしくて言えなかった。馬車の移動も10日が経ち、音楽都市に到着した。この街はこのノルデン大陸で唯一、アルカディア大陸のサラディア首長国との貿易を行っており、ノルデン大陸の国とは全く違う文化が入ってきている。


街に到着し、未だに馬車の中に浮いている銀貨の入った腰袋を腰につけ、宿を借りた後すぐに魔石店に向かおうとするが、どうやら女の子3人は街の観光をしてみたいらしい。アレクは1人で魔石店に行くことになった。宿の受付に聞いた魔石店に向かうと、そこは不思議な文様が建物に刻まれたお店だった。


店の中の商品は、火石や水石など普通のものだったが銀貨35枚という過去最高値がついている。アレクは治療石を探してみると、なんと金貨1枚に銀貨40枚という値段だった。これはぜひ治療石を売っておきたい。原石も探してみると見当たらない。


「すみません」

「いらっしゃいませ!何かお探しですか?」

「原石を探しているのですが?」

「え?原石ですか?場所を取るので飾っていないんですが、お買い求めですか?」

「はい。1個いくらですか?」

「えーと、たしか大銅貨5枚だったかと」


アレクはびっくりした。どこでも銀貨1枚で売っていたものが、ここでは半額なのだ。どうやら沢山持ち込まれるために値段を下げたらしい。


「そしたら全部頂けますか?」

「・・・お客様正気ですか?」

「はい。何個ありますか?」

「全部で400個以上ありますが・・・」

「そしたら全部で金貨2枚ではどうですか?」


店員は店長らしき人と話しをすると、その金額で良いと言って、全部で418個を持ってきた。アレクは金貨2枚を渡して原石を受け取る。全部で3袋になっていたが袋も無料にしてくれた。その後、店員さんが定期的に漁師が持ってくるので、ぜひまた来店をお願いしますと懇願された。


アレクは3袋もあると意外に嵩張るので、宿に停めてある馬車の貴重品入れに入れてから、また街に戻った。ちなみにこの貴重品入れにも鍵がかかる。


アレクが街を見て回ると、今まで見たことのない建物や、商品が売っている。アレクはこのような珍しい商品などを、大公都などで売ればかなり人気が出るのでは無いかと感じていた。そこで珍しい食器や道具などを1つづつ見本として購入することにした。


あまりにも色々あるので、購入したものは一部だが、見た目の印象が強い物を厳選してみた。また荷物が増えてしまったので、馬車に置きにいくと3人も馬車の所にいた。


「あれ?3人共なにしてるんですか?」

「なんかー、買い物してたら荷物が増えちゃってー」

「商品見本に良いかと思ってな」


ペンダントの金貨とは別に、小遣いとして渡してあるお金で買ったらしい。本当は自分の為に使って良いお金なのだが、たぶん自分でも気に入ったのだろう。


「それじゃ、この後は一緒に街を回りましょうか?」

「「「おおー!」」」


アレク達は荷物をすべて馬車に入れると、4人で街に繰り出した。街の中心ではいろいろな舞台が並んでおり、屋台も出ている。まるでお祭りのようだった。舞台では音楽に合わせた歌劇のようなものを行っていて途中からでもそれなりに楽しめた。最後まで見てると、小さい子が銅貨を集めに来たので、4人分の4枚を入れておいた。


アレクはこの街を活気を見て、オルドゥクもサラディア首長国との交易を始めれば活気がでるのだろうかと思っていた。もちろん人口もこの音楽都市の方が3倍以上も多い。しかしそれ以上にオルドゥクは何か暗い印象なのだ。


この街の屋台も面白い。布が屋根になっているのは、同じなのだが絨毯を地面に引き、その上に商品が並べてある。いわゆる売り台がないのだ。店の人もその絨毯の上に座って煙草を吹かしている。


アレク達はどれもこれも始めてみたものばかりで、皆興奮しているようだ。マリーが突然あれが食べたいと指をさした。その屋台に売っているのは、薄いパンの中に肉や野菜にたっぷりのソースが掛かったもので、何か強い香辛料が入っているのか食欲がそそられる。


アレクは4つ頼んで皆で食べた。かなり美味しい。これもぜひ調理法を教わってエトワール商会で販売したい。4人は食べながら街を歩いていると、マルティーナが誰かとぶつかって、ソースを相手の服に付けてしまったようだ。


「あら、悪いね。すまない」

「・・おい、嬢ちゃん。ごめんなさいだけで済むわけねえよな。どうしてくれんだ?あ?」

「それじゃ洗うから脱ぎなよ」

「てめー、ここで脱げってか?宿屋で2人なら脱いでやるぜ!」


絡んできた男と一緒にいた2人の男もゲラゲラ笑っている。周りにいた人が徐々に離れていき、アレク達と絡んできた男達3人だけが、その人気のなくなった円の中にいた。アレクは周りの人の動きがあまりにも手際が良いため、この3人が普段から同じ様な問題を起こしていることを悟った。


「それで、結局どうされたいのですか?」

「ああ?なんだ小僧、この女どもの連れか?」

「私の家族です」

「そうかい、それじゃおめえが代わりに銀貨10枚払いな!」

「洗濯にそのような金額はかかりませんし、あなたの服は大銅貨1枚程度に見えますが?」

「なんだと!このクソ餓鬼!」


アレクは腰袋から見せ石用に2つほど取り出すと、3人を荷物石で空に50cmほど浮かせた。続けてソースのついた部分に水石を圧力は低めで量を出して洗い流すと男達に話しかけた。


「無事に汚れは取れました。これ以上因縁を付けるなら喧嘩を売っていると考えますよ」

「な!なに言ってやがる!それより降ろせ!このクソ餓鬼!」

「もう一度聞きます。まだ因縁を付ける気ですか?」

「なんなんだ!これは!はやく降ろせ!」


アレクはこの男達がまた因縁を付けてくると予想した。そこでどうやって恐怖を覚えさせようか悩んでいると、ひとりの男がやってきた。浮かんでいる男達はその男を見ると青ざめだした。


「少年、そのくらいで下ろしてあげてもらえないか?」


アレクはその青年を見ると、質素ながら仕立ても素材も良い服をきており、言葉使いも男達とは違う。アレクはその青年を信じて、3人を卸すと3人は走って逃げていった。


「ありがとう少年。私の名前はマフムト。君の名前を聞いても良いかな?」

「はじめましてマフムトさん。僕の名前はアレクです」

「あの3人はいつも観光客などをああやって強請る不届きものなんだが、知り合いでね」

「なるほど。親しいのですか?」

「いや。やつらは同じ道場の弟弟子でね。私も手を焼いているのさ」


その後、色々聞いてみるとマフムトさんの仕事はこの街の市長の助手をしている。ただ活気がある街には、どうしても問題が起こるので、仕事の合間にこうやって見回りをしているらしい。とりあえずアレクは面倒な男達から開放されたのでマフムトさんに感謝して立ち去ろうとすると。


「何か困ったことがあったら相談してください。今回のお詫びです」


と言ってくれたので、次にまた問題があったら相談しよう。アレクは帰ろうと3人の方に向くと、なぜか3人はもう一つづつ同じものを食べていた。


「あれ?僕のは?」



翌日マルティーナに頼んで治療石を10個ほど魔石店で売ってもらった後、音楽都市を出発した。


『そういえば、なぜ音楽都市と言われているのか分からなかったな・・』


アレク達は途中2つの街に寄りながら原石を集めてまわった。ただこの2つの都市では合わせて20個ぐらいしか買えなかった。そして音楽都市出発から1ヶ月が過ぎた頃、ついにアルデバラン王国の王都アルタークに到着した。


アレク達は通常門から入ろうと並んでいると、逆に門から逃げるように出てくる馬車が多かった。やはり不安なのだろう。無事に王都に入ると一番最初に見つけた宿屋に入る。夕食までには時間があるので、また3人に情報収集を頼んだ。アレクはいつものように魔石店だ。


アレクが魔石店に行くと、店の大きさも驚いたが、たくさんのお客がいた。どうも皆治療石を求めて来たようだ。アレクは治療石を見るとすでに在庫が無いらしい。価格は金貨2枚となっていた。この様子だとまだ値は上がりそうだ。原石は1個銀貨1枚で、とりあえず全在庫の32個を購入した。


アレクは早めに治療石を売りに来ようと思っていた。魔石店を出たアレクは次に商業組合に来た。しかし客は誰もいなかった。まるで火が消えているようだ。ここで魔物の情報を得られないか聞いてみることにした。


「魔物はどうなっているのでしょうか?」

「壁で抑えられているようだ。ただ被害は酷いらしい」

「何か値が上がっている商品はありますか?」

「そうだな・・、医療品や治療石か。武具も上がってる。これらを運べれば利益は取れるだろう」


相当の怪我人がでているのだろう。不足商品は怪我人向けのものばかりのようだ。


「どのような魔物か知っていますか?」

「岩の巨人らしいぞ。火を吹くみたいだ」

「い、岩の巨人ですか・・なるほど、ありがとうございました」


どうやら魔物の体は岩でできているらしい。先日考えた圧縮大砲が効果があるかもしれない。ただ威力を出すために、相当重量のあるものを弾にしないと厳しいだろう。戦わないとは思うが念には念をいれておきたい。


アレクは宿に戻って、3人が帰ってくるまでに治療石作りを行った。治療石は全部で60個ほど作成すると、ちょうど3人も帰ってきた。アレク達は1階の食堂に移動し、王都らしい食事をと給仕の人に頼むと、適当に見繕って持ってきてくれた。食事の後はみんなで情報交換会だ。


「どうやら魔物は石の巨人らしい。火も吹くそうだ。治療石は金貨2枚だった」

「物流に支障がでているらしい。旅商が減っているのが原因だときいた」

「兵士用の食べ物がすくないから、周りの貴族領から借りるらしいよー」

「兵隊の怪我人はもう2000人超えてるんだって」


何やら情報を集めてみると、かなり危険な状態の気がする。後少しで解決するのであれば、良いのだろうが、もし万が一に1匹も倒せていないとすると、このまま蹂躙されかねない。アレクは危機的状況にあることを理解し、明日はさらなる情報を集めることにした。



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