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魔法剣

──アレクは夢をみていた。人の形の光が小さな穴から溢れ出し世界に広がっていく。やがてその光にはいろいろな色がつき始め、違う穴へと吸い込まれていく。自分の意識が穴に吸い込まれていくと、段々と自分が消えていく。──


結局アレクが目を覚ましたのは、化物撃退の翌日の夜だった。アレクが目を覚ますと、3人ともアレクを抱きしめ泣いて喜んでいた。まだ寝起きの為か頭はボーとしているが、なぜか体の調子はものすごく良い気がする。自分の手を見ると包帯がしてあるので、火傷の治療だろう。


アレクは自分で火傷の治療を行い、包帯を取った。3人はその様子を見て呆れ返ったような顔をしていたが、アレクはなぜ皆に渡してある治療石を、皆が使わなかったのか不思議だった。


「マリー、体は大丈夫ですか?」

「アレクちゃんのお陰でバッチリよ!」


どうやらマリーの治療はしっかり終わっていたようだ。今がいつか聞いてみると、戦闘の翌日の夕方らしい。どうやら1日半ほど寝ていたようだ。


「エカテリーナ。その後の状況を教えてもらえますか?」


エカテリーナは、戦闘の後は沢山の人が集まってきて大変だったこと。化物の炎は今日の朝まで燃えていたこと。昨日の夕方、宿にシロチェンコ伯爵がお供と一緒に来て、化物撃退の感謝と起きたら城まで来て欲しいと伝えに来たこと。などをアレクに報告した。


「シロチェンコ伯爵が来たんですか?」

「はい。たぶん報酬などの件ではないかと」

「そういえば、僕の小刀はどうなってました?」

「あー、アレクちゃん。あれ、なんか溶けて良くわからない物になってたよ。新しいの買ったら?」

「そうですか。気に入っていたのですが残念です」


グー・・


アレクのお腹が鳴った。3人は大笑いをすると、丁度夕食の時間だからとご飯を食べに下に降りた。1階の食堂に着くと、なぜか普段は暇な店が、ものすごい人が入っている。何があったんだろうと思いながら階段を降りていると、客の1人がアレクを指差し叫びだした。


「あ!英雄アレクが起きた!」

「「「「おおーーーーー!!」」」」


その瞬間、この人達がここにいる理由が分かってしまった。みんな話しを聞きたいのだろう。確かに大変な戦いだったし、騎士の人たちも生き延びていた人は見ていたはずだ。自分が使った魔石の力についても、いろいろ聞きたい事は多いだろう。


『困ったな・・・』


アレク達が座る席が見当たらないと、何人かのお客さんが席を開けてくれた。食堂の給仕が席に来ると、今日は何でも無料にしますので、沢山食べてくださいと言われてしまった。アレク達はいつも通りの食事を頼むと周りの人達が、待っていたと言わんばかりに話しかけてきた。


「英雄アレクは何歳なんだ?」

「大賢者の弟子というのは本当なのか?」

「化物とは前にも戦ったことがあるのか?」


などなど、答える前に次から次へと質問が投げかけられる。なるべく丁寧に答えていると、食事が運ばれてきた。なぜか注文以上の料理が運ばれてきている。さすがに食べながらは答えられないので、話は食事のあとでも良いですかと言うと、周りの人達は席に戻っていった。


「なにやら、大変なことになっていますね・・」

「いや、大海蛇以上の凄い戦いだったからな。皆感動したのだろう」

「またアレク様の伝説に新たな物語が追加されましたね」

「私の戦いも凄かったでしょー」

「本当です。マリーがいなかったら勝てませんでした」


4人が色々話しをしていると、周りの人達が更に盛り上がってきていた。アレク達は食事がおわると、また質問攻めにされていたが、魔石に関することは秘密にしておいた。その中で、1人が気になることを言っていた。


「魔石も使わないで魔法を使えるなんて、おとぎ話の大魔法使いみたい」


アレクはおとぎ話を読んだときにも思った疑問がまた湧き上がってきていた。あの物語では魔法使いはアレクのように魔石を使っていなかった。子供用の本ということで、その辺は割愛されているのかもしれないが、アレクの心に棘のように刺さっていた。


この世に、魔石を使わずに魔法を使える人がいるという話は、アレクのまだ短い人生の中で聞いたことがない。疑問に思ったアレクは3人にも後で聞いてみることにした。流石にアレクも質問だらけに疲れてきたので、今日は眠らせて頂きますといって、4人で部屋に戻った。


「これから暫くは、アレク様の話題でこの街は盛り上がりそうですね」

「しかし私達は、予定通りに馬車を受け取って明日この街を出ましょう」

「わかりました」「わかった」「了解!」


4人は明日の出発の為に、しっかりと睡眠をとっておくことにした。ただアレクだけは今日ずっと寝ていたので眠くならず、治療石作成と魔石の訓練を行ってから寝ることにした。


翌日、食堂で食事を取っているとシロチェンコ伯爵の使いが来た。城で待っているのですぐにきてほしいということだった。4人は着替えをしたあと、伯爵が準備した豪華な馬車で城に向かった。


伯爵の城は思ったよりも小さな城だった。アレクはスノークの城と同じぐらいかな?と心の中で比較しながら、城の応接間に通された。すぐにメイドがお茶の準備を始めだすと、それが終わらない間に伯爵が入ってきた。


「はじめまして。英雄アレク。私はシロチェンコ伯爵と申すもの。この度は、我が商業都市を救って頂き感謝している」

「はじめまして、シロチェンコ伯爵様。アレクと申します。こちらがマリーとマルティーナ。そしてこの方は・・」

「ああ。エカテリーナ令嬢はよく存じておる」

「お久しぶりです。シロチェンコ伯爵、ご機嫌麗しゅう」

「お父上はお元気か?」

「はい。今は領地に戻っております」


どうやら、シロチェンコ伯爵はエカテリーナと面識があるようだ。辺境伯と伯爵は爵位の位としては同じだから、いろいろ交流もあるのだろう。


「早速だが要件は2つだ。まずは褒美から始めたいと思う。アレク殿は褒美として何を希望される?」

「ありがとうございます。しかし特にありません」

「・・ない?褒美がいらないと申すのか?」

「はい。特に欲しいものはありませんので・・」

「それではこちらが褒美を出さない懐の小さなものと思われてしまうので、とりあえず金銭を渡すとしよう。それで2つ目だがアレクは我の下で騎士として仕えてみぬか?」

「身に余るご評価ではございますが、私の旅には目的があり、ご希望には添いかねます」

「そうか、残念だが仕方あるまい」


シロチェンコ伯爵はあっさりと引き下がり手元の鐘を鳴らすと、執事がお盆の上に袋を置いて入ってきた。シロチェンコ伯爵は褒美としてこれを受け取って欲しいということなので、素直に受け取った。お金は沢山あっても困らないし、溶けてしまった小刀を買えるぐらいは入っているだろう。


シロチェンコ伯爵は他に特に質問もせず、話はこれで終わりだと言って、退出していった。

アレク達は宿に戻り、受付で今日街を出ると伝えると残念そうな顔をしていたが、すぐに手続きを行い、部屋の荷物の積み込みも手伝ってくれた上、馬車も宿の前まで回してくれた。アレクは購入した馬車を受け取りに向かう。


「アレクちゃん、新しい馬車の事が心配みたいね」

「そ、そんなことないとおもうけど」

「いや、あんたの顔見りゃわかるって」


確かにアレクは馬車の事が楽しみで仕方ない。男だったらみんなそうじゃないだろうかと、アレクは勝手に思っていた。お店につくと、なぜか従業員全員が迎えに出てきた。


「「「「アレク様、街をお救いありがとうございました!!」」」」


どうやら噂はここまで届いているらしい。店の人が総出で対応してくれるのはありがたいが、他のお客様の迷惑ではないだろうかと思っていたら、他の客も一緒になって手伝っているようだ・・。なにやら自分が幸運の置物のような気分になってきた。


沢山の人手によって、古い馬車から新しい馬車へと、馬も中の荷物の移動も終わった。帰る時にはまた従業員どころかお客さんや通行人までもが並んですごい数の人が、手を振っている。


「・・増えてる・・」


マルティーナが調査したお店で、次の街までの食料等必要なものを買い揃え、魔石店にも向かった。またマルティーナに治療石10個の販売をお願いすると、今回はすぐに帰ってきた。恐ろしい事に1個あたり銀貨90枚で売ってきたらしい。販売価格が金貨1枚だったので、お店の利益が無くなってしまうのではと心配してしまった。アレクは金貨9枚をマルティーナから受け取ると、首の袋に入れた。


アレク達はすべての準備がおわったので、次の街に向かうことにした。


「アレクちゃん!この馬車凄いよ!お尻痛くない!」

「そのとおりです!野盗対策の他にも、振動が吸収されてお尻が痛くない仕組みが搭載されているんです!」

「アレク様が楽しそうです。でもこの馬車はいいですね。野盗に襲われた時の私の馬車と同じぐらいの乗りやすさです。私のためにアレク様がこんなに気を使ってくださるとは・・」

「特に広いのがいいよな。荷物沢山詰めるし屋根の上にも荷物台がある。アレク、いい買い物だよ」

「みなさんありがとう。みんなの言葉で元気がでてきました!」


アレクはやはり、口で機能を説明するより、乗ってもらえばすぐに分かるものなんだと、少し女性の扱い方を勉強できた気がしていた。


「そういえばアレク様、褒美の袋にはいくら入っていましたか?」

「まだ見ていないけど。見てみようか?」


今は御者をマリーが担当している。手の空いていたアレクはシロチェンコ伯爵から貰った袋を開けてみると、金貨がなんと50枚も入っていた。


「金貨が!50枚も入っていました!」

「本当ですか・・、15万人も住む街を救った褒美がそれだけとは・・・」

「え?」


アレクは思った以上の大変な金額だと思っていたが、エカテリーナの意見として少ないようだ。その後もエカテリーナは「アレク様の活躍にこれだけとは・・」など、なにやらブツブツ言っていたが、アレクとしては十分な金額だと思っているので、これ以上は特に何も言わなかった。


旅の途中、なぜ皆は治療石を使わなかったのか聞いてみた。すると、皆アレクの為に使ったらしい。ただ完治まではできず、仕方なく包帯を巻いていたということだ。


「そうだったのですか、すみません頑張っていただいたのに・・」

「いえ、それは良いのですが、なぜアレク様が治療すると効果が高いのでしょうか?」

「いろいろ理由はありますが、まず皆さんの訓練不足があると思います。せっかくですので、この旅の途中、魔石の訓練もおこなっていきましょう」

「「「了解!」」」


今回の訓練でわかったことは、アレクの様に石が体に入っていなくとも、体全体から力を集めるように想像して石を使うと、効果が劇的に向上していた。まさか石を使うという本来の使い方なのに、体から力を借りるという想像が石の効果を高めるという発想は、誰にも無かったらしく驚いていた。


実際、アレクも以前はそう思っていたが、石が体に埋め込まれてしまったので、それを使おうと考えた結果、体から力を集めるという形になり、結果、力が大きくなることに偶然気がついただけなのだ。


3人はそのコツを覚えると、通常の石の効果よりも3倍ぐらいの効果を引き出せるようになっていた。アレクは今なら剣と魔石に融合によって、剣の攻撃力が飛躍的に上がりそうな気がしていた。アレクは野営の寝る前にマリーの剣を借りて早速試してみることにした。


マリーの剣の刃先の根本あたりを圧縮して魔石がはめられる穴を開けて、そこに馬車の修理で使っているにかわを使いしっかりと固定する。そして剣を握りながら、魔石から刀身に火がまとわりつく想像をすると、剣はまるで炎の剣のように炎を上げるようになった。


試しに近くの木の枝を切ってみると、ものすごい切れ味になっている。まるで水を切るように、木の枝が切れてしまうのだ。アレクは翌日にマリーにその炎の剣を見せると、驚いたような顔をしたあと、自分でもやってみたいと言い出したので、暫く普通の魔石の訓練を控えて炎の剣の練習を繰り返していた。


数日練習すると、マリーは自由に炎の剣が出せるようになった。マリーが発見したことだが、炎は燃え上げさせるよりも、刀身に薄く高温になるように想像したほうが切れ味は上がるようだった。せっかくなのでマルティーナの小刀にも火石を付け、マリーと一緒に練習してもらうことにした。


そうやって楽しく観光もしながら魔石の訓練を続けていると、馬車はプラトーノフ子爵領のテムニコフ港町に到着した。


「アレク様、プラトーノフ子爵はロマノフ辺境伯の門閥貴族ですので、いろいろと融通を効かせてくれるはずです。街に到着したら最初に挨拶にいかれませんか?」


アレクはエカテリーナの案に賛同すると、貴族門から街に入った。ロマノフ辺境伯の館はこの街には無いが、門閥貴族なので問題はないらしい。アレク達は街に入ってすぐに、プラトーノフ子爵の館にむかった。どうやらツァーリ大公国では、伯爵以上の爵位がないと城の建設は認められていないらしい。


館に到着するとアレク達は応接間に通され、メイド達にお茶を出してもらっていた。暫くするとプラトーノフ子爵が部屋に入ってくる。


「エカテリーナお嬢様!お久しぶりでございます!」

「ご無沙汰しております。プラトーノフ子爵。ご壮健でなによりですわ」

「それにしてもこのような時期に、供の数も少なく旅をなされるなど、お父上もご心配されますよ」

「父上からは許可を頂いております。ご心配には及びません」

「それに、大公都とこの街の間にある商業都市では、化物が出て騎士100人が返り討ちにあったとか」


アレクはそれを聞いて驚いた、なんと情報が早いのだろう。でも100人は間違っている気がする。確かに化物撃退から2日後に出発だったので、早馬ならかなり早い時期に情報が届いていたのかもしれない。アレクはこのプラトーノフ子爵がやり手であると思っていた。


「たまたま英雄が街に訪れていたらしく、化物は討伐されたようですが、本当に旅は危険ですのでお控えいただきたくお願いしたいものです」

「あら、その英雄ならば、このアレク様ですよ」

「は?・・・・、あ、お嬢様もご冗談を言われるようになったのですね」

「いえ本当のことです」

「お嬢様お戯れもほどほどにお願い致します。どうみても10歳にも満たない子供ではないですか?」

「彼がいるので、父上も許可してくれたのです」

「・・・・本当なのですか?」

「私が嘘を言う理由がございまして?」

「・・にわかには信じられませんが・・」


プラトーノフ子爵はエカテリーナの言葉が未だに信じられないようだ。アレクは別に信じてもらう必要もないので、特に説明をしなかった。


「それでは、英雄アレク様と共に戦う、剣士マリーの魔法剣をお見せしましょう。マリー、炎は抑えず大きく出してもらえますか?」

「ふふふ、アレクちゃんと一緒に戦う剣士かー、いいね!」


マリーの琴線に触れたエカテリーナの言葉によって、やる気が増したマリーは、立ち上がって少し離れると剣を抜き炎を念じ始める。マリーはエカテリーナに言われたとおりに、炎を大きくだした。


「な!なんと!これほどの魔法剣、見たことも聞いたこともありません!」


マリーの剣は、刀身の3倍以上はあるかという炎を吹き出している。あまりの熱量によって、まわりの木製品から焦げ臭い匂いが漂ってきた。マリーは匂いに気が付き、剣をしまう。


「失礼いたしました。エカテリーナ様、これほどの剣士が共にいるアレク様ならば、英雄と言われても疑うことありません」


プラトーノフ子爵もアレクを「アレク様」と呼ぶようになっていた。エカテリーナは理解されたことに笑顔で答えると、早速今の海の状況について聞くことにした。


「早速ですが、今の海や航路の状況を教えて頂けますか?」

「どうやらエカテリーナ様も、お耳がお早いようで。おっしゃる通り現在、航路は大変なことになっています。かなりの大海賊がこのツァーリ大公国沿岸の航路に入り込んでおり、西はロマノフ辺境伯領内のトリヤッチ港湾都市から、東はレスコフ男爵領のユジノ灯台都市にまで被害は及んでおり、すでに航路を使った貿易や運搬が全く機能していない状況です」

「ひどい状況ですね・・・」

「本来、大海賊は組織的に動いたり、同じ海域に留まることはしないのですが、なぜか今回は統制が取れているように感じているのです」

「そうですね。気ままに略奪するような連中ですから」


どうやら、航路の状況は良くなっていないようだ。やはり航路でオルドゥクに戻るのは選べそうにない。そうなるとカルメンもまだ灯台都市にいるのだろうか。


「ところでエカテリーナ様、もう宿の手配はお済みですか?よろしかったらこの館をお使い下さい。ロマノフ辺境伯様の館とは比べるべくもありませんが、部屋は余っておりますので」

「ありがとうございます。プラトーノフ子爵、お言葉に甘えさせて頂きますわ」


プラトーノフ子爵は、エカテリーナが快く受けてくれたので、とても喜んでメイドを呼ぶと、案内を申し伝え「それではごゆるりとおくつろぎ下さい」と言って部屋を出ていった。メイドは他のメイドを何人か呼ぶと、テキパキと指示を出し、4人それぞれの客室に案内された。馬車の荷物は後で取りに行けばいいだろう。大きな荷物はエカテリーナの分しかないし。


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